ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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書こうと思ったら神父の陰謀で独房に入れられ、何とか脱獄しましたので初投降です。


殿下行幸。その3

 一方のアンリエッタ。

 彼女は塔の上層部、つまりはオスマン学院長の部屋にいた。バレバレのカツラを被るコルベールを付け、三者による談話だ。

 

 

「遠路遥々、お疲れの事とは思います。アンリエッタ姫殿下」

 

「お久しぶりです、オールド・オスマン。突然の訪問、申し訳ございません」

 

「いえいえ、滅相もない! 皆が喜び、心から歓迎いたしております」

 

 微笑むアンリエッタだが、オスマンは憂いがある事に薄々気が付いてはいた。

 

 

「お気分が優れないようですかな?」

 

「それは大変です! か、換気でもいたしましょうか!?」

 

「いえ、それには及びません。やっと枢機卿から離れられて、寧ろホッとしておりますわ」

 

 

 彼は今、学院内の視察に回っている。アンリエッタはオスマンと談話し、準備が整い次第に晴天の下でマザリーニと共に、茶話会を行う予定だ。

 余興と言えば妙だろうから、メイジとして日々精進する生徒らの技量を把握する名目で、使い魔品評会も催される。今、広場ではその準備に教師も召使い達も、身を粉にして動いているようだ。

 

 

「私としましては、本当はもっと早くに来るべきとも思っておりましたわ」

 

「学院の視察は、定期的になされております。姫殿下がわざわざするほどでもないでしょうに」

 

「いえ……『土くれのフーケ』を捕らえたメイジへの、爵位授与についてです」

 

 

 ルイズ、キュルケ、タバサの事だ。オスマンも高く評価し、その申請を直々に書いたのだから忘れるハズがないだろう。

 しかし彼女の浮かない顔の理由は、それとも関係しているのだろうか。

 

 

「『シュヴァリエ』の授与ですな。しかし今朝届いた文書には……」

 

「……えぇ。シュヴァリエの授与条件が変わりまして、要請は取り消しになったのです」

 

「王都を騒がせ、数多の貴族を出し抜いたフーケ。そのフーケを捕らえたのですから……非難をしているつもりではないですが、爵位授与には打ってつけかと思いますぞ?」

 

 

 アンリエッタは溜め息を吐きかけたが、マザリーニの言葉を思い出して寸前で飲み込んだ。だが表情にある鬱々しさはより、顕著となる。

 

 

「……国内の盗賊を捕まえた程度では与えられなくなったようですね。知らない内に、色々な事が変わっておりますわ」

 

「『国内の』……さも、国内の事に爵位は与えられないような言い方ですな」

 

「実際そうですよ……これから、『アルビオン』の事もありますし、軍務での働きを重視するようになっております」

 

「……つまる所、軍に属さなければ爵位は与えられないと」

 

 

 トリステインならびに諸外国は、決して良好な関係を築いている訳ではない。隙があればすぐに侵攻せんばかりに、均衡は不安定な情勢にある。

 先のゲルマニアとの同盟もそう言った事情によるものだ。最近のアルビオンにおけるクーデターが、均衡を打ち破りかねない状況を作り出し、トリステインは急遽として同盟による軍事力強化を迫られたのだ。

 

 

 アンリエッタの言う『国内の』とは、そこに収束される。

 軍務は戦争、戦争は国外との関連。自国内だけでの活動は度外視している所を皮肉ったのだろう。従軍者に限定して特権を集中させれば自ずと、志望者や士気も上がるだろうと。

 

 

 

(由緒正しき騎士の認定にも軍事軍事……よほど戦争がしたいようじゃな)

 

 オスマンは心の中で皮肉った。

 隣のコルベールは、冷蔵庫に隠れる為に中身を外に出す殺し屋のような、バレバレのカツラを揺らしながら首を振る。

 

 

 

 

「折角、ミス・ヴァリエールらやその使い魔君が、命を懸けて捕らえたと言うのに……さぞ、残念がるでしょう」

 

 

 コルベールのボヤキに、アンリエッタが反応をする。

 懐かしい、『ヴァリエール』の名前。

 

 

「ミス・ヴァリエールと言えば……末娘のルイズでしょうか?」

 

「彼女をご存知で……あぁ、ヴァリエール家と言えば公爵家。公爵ともなれば、何度か出会ってらっしゃいますか」

 

「ルイズ……懐かしいですわ……そう。あの娘がフーケを……」

 

 

 ずっと浮かない顔だった彼女の表情に、やっと光が差し込んだようだ。

 アンリエッタにとってルイズは、何か特別な思い入れのある人物なのだろう。

 

 

「……あの、オールド・オスマン」

 

「なんですかな、姫?」

 

 

 アンリエッタが何か言おうとした時に、学院室の扉がノックされた。

 入って来たのは、近衛騎士の一人。スラリとし、髭は整えられた、まさに騎士であり貴族の鑑と言った風貌だ。

 グリフォンをあしらった紋章が、気高く輝く。

 

 

「茶話会ならびに、品評会の準備が整いました。移動の準備を」

 

「……分かりました、『ワルド』」

 

 

 ワルドと呼ばれる騎士に促され、アンリエッタらは立ち上がる。

 コルベールが先に行った所で、オスマンはボソッと話しかけた。

 

 

「……旧友と会われたいのですかな?」

 

「っ!……はい」

 

 

 振り向き、目を合わせたオスマンは、チャーミングにウィンクしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使い魔の品評会が始まった。

 綺麗に刈られ整えられた芝生の上に、豪奢なテーブルと椅子が並べられる。そこにアンリエッタ、マザリーニ、オスマン並びに教師陣が座る。勿論、アンリエッタの周りには魔法騎士隊が守護していた。

 

 わざわざ外にしたのは、使い魔の技量を遺憾無く発揮してもらう為に。円形に刈られた、広場の即席ステージの上で生徒たちは己の使い魔の力を引き出させる。使い魔の技量は、メイジの技量だからだ。

 

 

 これを王族直々に拝見するのだから、控える生徒らはゲロでも吐きそうな顔で出番を待たされている。

 

 

「お、オレ、これが終わったら故郷に帰って、実家行くよ……身の程知らずって他のヤツに馬鹿にされるのも結構いいかもな……」

 

「あのステージに乗るんだ……思い出して来た、そうだ……! もう、行かなくては……オレは姫殿下の所へ行かなくては……!!」

 

「そうなるべきだった所に……戻るだけなんだ……元に戻るだけ……ただ元に……」

 

 

 

 生徒間では緊張のあまり、臨死体験まで催す人間が続出していた。

 勿論、生徒一人一人の使い魔を品評しては夜を迎えかねないので、学校側からの指名と十人限定の志願制だ。

 指名は、目に見えて素晴らしい使い魔を持つ者を選び、志願制は、一般的ながらも素晴らしい芸のある『意外性』を期待しての措置。

 

 再三に渡って言うが、これは王族の御前。場合によっては目にかけられるなんて名誉もやって来る一大行事。臨死体験しない方がおかしいのだ。

 

 

 

「諸君たち。落ち着きたまえ」

 

 

 慌てふためく彼らの前に立ったのは、ギーシュとその使い魔、ジャイアントモールの『ヴェルダンデ』。巨大なモグラであり、使い魔のレートでは中堅くらいの生物だ。

 故に指名はされなかったが、彼は意気揚々と志願した。

 

 

「これはチャンスだ諸君! 麗しきトリステインの白百合、アンリエッタ姫殿下に自分を表現出来る、最高の機会だ!」

 

「モゲっ!」

 

 

 キザに決めるギーシュと、ヴェルダンデ。自信のあり様から、何か隠し芸があるのだと期待される。

 

 

「ギーシュ……そのジャイアントモール、何か出来るのか……!?」

 

「あぁ、出来る……僕の可愛いヴェルダンデなら出来る……!!」

 

「い、一体、何が出来るってんだ!?」

 

「諸君、覚悟だよ……覚悟が道を切り拓くッ!!」

 

 

 控え室の暗い影からギーシュとヴェルダンデは、輝く黄金の陽の下へ出て行った。

 薔薇を咥えて。

 

 

 

 

 

 ステージに立った彼は、ひたすらキザポーズを取り続けた。

 それを真似する形で、ヴェルダンデもひたすらポーズを取り続けた。

 

 

 

 

 それだけである。

 

 

「なぜだ……正気じゃあないぜッ! どういう物の考え方してるんだ!?」

 

「や……やばいィッ! シラけるとか言うよりもこのままだと……は、恥で死んじまうウウッ!」

 

 

 当の本人は真面目なのだろう。周りにいた人間が恥ずかしくなるほどの状況。思わず目を逸らさずにいられない。

 

 

 しかしギーシュは違っていた。

 

 

「……ふふふ!」

 

 奇怪な生物でも見るかのようなマザリーニだが……やけに楽しげなアンリエッタに、彼だけは救われていた。

 図らずも彼の余興は、廃れ気味の彼女の心を救っていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 出番を待つ者ら以外にも、ゲドゲド状態の者はいる。

 五人のシェフたち、『チーム・シエスタ』である。彼らは光栄にも、完成したお菓子を運ぶ使命を仰せつかったのである。

 

 

「ジョ、ジョースケ考案のこのスイーツだが……い、いけるか!?」

 

 

『完成品』を持つマルトー。豪胆な彼とは言え、一国の王族を前にして普段通りに出来る彼ではない。

 帽子や服にシミはないかと、気になって仕方がない。

 

 

 

 

「僕の人生を賭けた……一品……です……受け取って……ください……」

 

「たかが菓子作んのもよぉぉ……楽じゃあなかっただろ? え?……これからもっとしんどくなるぜ……俺らは……」

 

「ヤッダーバァァァァァアァア!!」

 

 

 いや、マルトーはやはり豪胆な人物だ。三人は緊張で臨死体験に入っている。

 彼の後ろに立ち、ガチガチに震えながらその時を待っていた。

 

 

「お前たち、落ち着きやがれってんだ!! これが駄目でも、晩餐で挽回するだけだろ!!」

 

「そ、そうなんですが……あの姫殿下を前にすると悶え震えるのだ……恐怖でなッ!!」

 

 

 お気に召されない以前に、この状態で果たして出来るのかと不安になる。

 だが豪胆なシェフはもう一人いた。

 

 

「ハッハッハッ!! 笑え! 給仕は笑いながらするのが作法だぞ!!」

 

 

 彼だけはやけに、お菓子に自信があった。

 

 

「やけに落ち着いてんな……」

 

「なかなか、『食の黎明』とも見える作り方! 変わっていながらも王道! これが良いんですよこれが!! ただの黒ごまが、メインとなって王族に振舞われる所まで来たのですよ!」

 

 

 すっかり忘れていた。このお菓子は、あの『黒ごま』から作った代物。何とか脚色したが、大丈夫だろうか。

 

 

 

 

「……ジョースケを……いいや。俺たちで作ったんだ! 信じるしかねぇだろ、『コレ』をッ!!」

 

 

 品評会がひと段落ついた。

 マルトーら、チーム・シエスタは姫殿下との謁見に馳せ参じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の品評会はタバサのシルフィードと、上等な使い魔が起用された。これにはアンリエッタならびに、マザリーニも騎士隊も賞賛する。本当はキュルケのフレイムも挙げられる所だが、ゲルマニア出身の彼女は声をかけられなかったようだ。

 こうして場が盛り上がった所で、オスマンとの茶話会に移った。

 

 

「マザリーニ枢機卿殿。ゲルマニアは如何でしたかな?」

 

「……実に杜撰な国ですな。都なら、トリステインの方がまだ壮麗でしたぞ」

 

 

 老人と言うのは、つい情勢の話に向かってしまう。

 さんざん馬車の中で聞かされたそれを、アンリエッタは鬱陶しがった。

 

 

「折角の茶話会なんですから、今はその話題はよしませんか?」

 

「では、どのような話にいたしましょう? 品評会でしたなら、先程のウィンドドラゴンは見事で。使い手のメイジもさぞ、良き血族でしょうな」

 

 

 タバサのシルフィードを賞賛するマザリーニ。

 その彼女がフーケを捕まえた一人だぞと、オスマンは冷ややかに思う。

 

 

「左様でしたか。姫は、どの使い魔が気に入られましたかな?」

 

 

 オスマンが尋ねると、アンリエッタは少し考えた後、答えた。

 

 

「あの、ジャイアントモールですわ」

 

「ほお! ギーシュ・ド・グラモンの?」

 

「グラモン家の子息ですか……まぁ、らしいとは思いましたが」

 

「でも人間の仕草を模倣するなんて、よほど彼と相性が良いのでしょうね。見ていてとても、和みましたわ」

 

 

 これをギーシュが聞けば、絶頂モノだろう。今の彼は裏で、冷静になってヴェルダンデを抱き締めながら震えていた。

 

 三者に紅茶が振舞われた後に、お菓子が届けられる。ガチガチのチーム・シエスタがアンリエッタの後ろに並び立つ。

 

 

「お、お菓子を作りました。我々の創作です。お口に合えばと」

 

 

 意気揚々と出て来たマルトーも、アンリエッタの眼前に立つならば人生最大級の緊張に見舞われる。

 早鐘を打つ心臓と、どもりそうな舌を何とか落ち着けさせ、ゆっくりと品物を置く。

 

 

 

 

 

 目の前に置かれたそれを見て、まず一行は驚かされた。

 

 

「……黒いのう」

 

「黒いですな……」

 

「黒いですね……」

 

 

 小さなシュークリーム……『プロフィトロール』。一口で食べられるサイズ。

 しかしながら問題はその生地の色。黒いのだ。実質は灰色だが、普通の一般的なプロフィトロールよりも遥かに黒い。

 

 

「シェフ。これは……何でしょうか?」

 

 

 アンリエッタの質問に、パティシエの赤毛シェフが、名前を言った。

 

 

 

 

 

 

「『メモリー・オブ・ジェット』……です」

 

「『黒玉の記憶』……?」

 

 

 時間は創作過程まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 定助が提案した『ゴマみつ団子』であったが、まず彼の言った構想時点で問題が発生した。

 

 

「その、『モチ』ってのは無理だな!」

 

 

 団子にはモチ(海外ではライスケーキ)が必要不可欠。

 しかし米より小麦のこの世界に於いて、もち米なるものは無い。

 

 

「なら、別の物で包まないですか? ほら、パンとか何とか……」

 

「それならば、『プロフィトロール』はどうだい、ベイビー?」

 

 

 赤毛シェフの提案により、モチの代わりにシュークリームの生地を起用する事となった。

 サイズは王族の狭い口に入るくらい、小さなもの。麗しき姫殿下に、あまり口は開けさせなくない。

 

 

 次に、彼の言うゴマみつ団子の根本を担う要素だが、これの発想に一同は驚いた。

 

 

「ゴマの……ねりゴマ蜜ぅ!?」

 

 

 黒ごまを油を加えながら、磨り潰す。するとゴマの粒子はペースト状に蕩け、言うように蜜となった。この活用方法には、エキゾチックなシェフが黎明黎明と賞賛していた。腱鞘炎間近なほど、ゴマを擦ったものだ。

 

 

 そのねり蜜を加えながらシュークリームの生地を作ると、黒に着色された物が出来上がる。

 中の空洞へねりゴマを流し込もうとするが、その味に難色が示された。

 

 

「……ちと、渋くねぇか?」

 

「しょぉがねぇぇなぁあ〜……生クリームと混ぜて甘くするぜ」

 

「出来るだけトロ〜ってさせたいんですよ」

 

「よ〜しよしよし……粘りっけのある、『カスタードクリーム』としよう!」

 

 

 卵黄と牛乳、砂糖とねりゴマを混ぜ、固まり過ぎないよう気をつけながら小麦粉(軟質な小麦が、定助の言う『薄力粉』の役目を果たす)を加え、火を通す。

 この際、砂糖の分量はカットさせ、黒ごまの素朴な味が伝わり易いよう工夫した。

 

 

 

 黒ごまカスタードを生地内部に流し込めば、完成。

 出来上がった物は、黒いプロフィトロール。

 定助の言う通りに、名前は『ゴマ・ミ・トゥ・タンゴ』になりかけたが、見た目を何とか昇華出来ないものかと思案され、『メモリー・オブ・ジェット』となった。ジェット石は貴族に人気の黒石だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに発案者の定助はいない……シェフではない彼は同行出来なかった。

 

 

「これはオレじゃなく、皆さんのアイディアもあって出来た物です。オレの事は気にしないでください」

 

 

 流石は我らが泡、謙虚で素晴らしい。

 

 

 

 

 

「変わった色の、プロフィトロールですな……」

 

「これは何を使われたのですか?」

 

「それは食べての、お楽しみで御座います」

 

 

 好奇心を煽るように言ったが、マルトーの心臓は破裂寸前だ。何よりあの、アンリエッタ姫に話しかけられた自分が信じられない。

 味に関してはチーム・シエスタも納得だが、彼らの口と姫の口は違う。果たして合うか否か。

 

 

 

 メモリー・オブ・ジョットが彼女の口へと持ち上げられる。

 

 

 

(あぁ……伝わってください……!)

 

(ヘイルトゥーユーッ!)

 

(アンリエッタ姫の質問……今のはマジにヤバかったぜ……)

 

(キィィイコエェェエエエエ!!)

 

 

 

 チーム・シエスタ、緊張の一瞬。固唾を飲んで、その時を覚悟した。

 厨房でアイディアを出し合っていた方が幸せか。祭りは準備が楽しいと言うが、祭り本番が修羅とは。

 

 

 

 

 

 

 アンリエッタの柔く、薄紅色の唇が、ジェットを咥える。

 押し込まれ、口の中。生地は破れ、クリームが舌を包む頃。

 味覚の良し悪しがそろそろ、表情に現れるだろう。シェフらはおずおずと、彼女の声を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、美味しい!」

 

 

 チーム・シエスタ、勝利の瞬間である。




一年ちょい、お待たせして申し訳ありません!
今後とも、是非によろしくお願いいたします!
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