弟とオラオラ無駄無駄しとりました。
少女は困惑していた。
それもそのはず、ありのまま起こった事を説明すれば、『動物などの人間以外の生物』を召喚する魔法で、『人間の男』を召喚したのだから。人間以外を召喚出来る魔法なのに人間を召喚するとは、何を言っているのか分からないとは思うだろう。つまり、そう言う事なのだ。
「……………………」
「あんた誰?」と、彼女の問い掛けに丸っきり無視をする青年。いや、完全に無視を決めている訳ではなく、黙ったままジィッと、少女を見つめていた。
「ちょっと!? 質問に答えなさいよ!!」
ともあれ、問い掛けに答えない所は『無視』と捉えたので、少女は歓喜から一転、怒りが込み上げて来た。つい、彼女は怒鳴り付けてしまう。
「……………………」
青年はダンマリを決め込む。
珍しいものを見るような好奇の目でも、鬱陶し気な冷めた目でも、下心のある色目でもない。この通り、『目は口ほどに物を言う』とのことわざを表すが如く、目に関係した言葉は色々とある。
しかし、少女を見る、やや下がり目な瞳には、何の感情を抱かせていないのだ。もちろん、彼女を見つめているのだが、彼女を透かして後ろの空でも見ているような、焦点の合わない目をしていた。
怒りに燃え尽きるほどヒートした彼女だが、この何とも言えない目で見つめる彼に対して、不気味に思う感情が顔を出している事に気が付いた。
「な、何なのよあんた…………わ、私の顔になんか付いてるの?」
不気味と言う感情は、別に言えば恐怖している事にもなる。プライドの高い性格なのだろうか、その感情を悟らせたくないが為に、反動形勢的に強気な態度で話す。
だが、お陰で頭も慎重な思考になり、幾分かクールになった。怒鳴り散らして喉を痛めるなんて事にはならなかった。
とは言え、彼女の一方的な語りかけのみで、何も言わない男にまた腹立ちが出てくるのだが、次の瞬間それは別の方へと矛先が変わる事になる。
「…………ぷふっ」
誰かが吹き出したのを発破に、ドドドっと笑い声があがった。
「ぷははははははは!! 何あれ、平民じゃん!? はははは!!」
「みんな見ろよー!『ゼロのルイズ』が平民を召喚したぞー!」
「ぎゃははは! 流石は『ゼロのルイズ』だ、は、は、は!!」
「ナアナアナアナアナアナアナアナア…………どうやったら平民を召喚出来るんだい? 寧ろ尊敬したいよ……ダサいねぇ!」
彼女を囲う少年少女が皆、口々に彼女と青年を笑い飛ばし、指さしで揶揄し、馬鹿にし始めた。渦中にある少女は、恥ずかしさからか顔を真っ赤にさせて、ワナワナと震えていた。
「こ、こんなのが私の使い魔な訳がないじゃない!? し、し、失敗したのよ! ちょっとだけ!!」
前に言った通り、怒りの矛先は周りを囲むギャラリーたちに向けられたのだった。相当、侮辱された事に腹が立ったのか、声を荒げて怒号を飛ばす。
「失敗失敗って、いつもルイズはこうじゃないかしら?」
「うっさい、色狂い!」
サラマンダーを召喚した紅い髪の少女に対して、かなり激しく食い付く。ガルルッと狼が如く睨み付け、恐らく今日一番の大声で怒鳴っただろう。
本人はもちろん、手をヒラヒラとさせて簡単に受け流すばかり。それがまた、逆鱗に触れるような事になるのだが、それよりも彼女は『コルベール』と呼ばれる監督役の男性に向き合い、申し立てを行った。
「ミスタ・コルベール! これは何かの間違いです! もう一度召喚をやらせて下さい!!」
「お前の間違いはいったい、何回すれば気が済むんだよ!」
「うるさいわね!? 外野は黙ってて!!」
止まらない笑い声と揶揄にまた怒鳴る彼女だが、この状況に痺れを切らしたのか監督役は、手を大きく叩いて静粛させる。
「みんな静かに! 静かにしなさい!…………ミス・ヴァリエール」
「は、はい」
少女は一縷の望みを、監督役へと向けるのだが、彼は口元をピッチリ閉めたまま、無慈悲に首を横に振った。
「気持ちは分かりますが、この召喚の儀式は神聖なもの。やり直しとは言語両断であり、認められない」
「そ、そんなぁ……!」
「呼び出した以上は、彼が君の使い魔だ」
冷酷、残忍。
監督役の言葉は、彼女にとってその二言葉に感じられた。この宣告に、だいぶ堪えたのか目に見えて落ち込んでしまったようだ。
しかし、彼も彼でこの言葉を言うには辛い節があるのだ。この馬鹿にされている所を見れば分かる通り、少女は
だが彼は、少女がめげずに勉学に励み、努力し、座学ではトップの成績である事を知っており、彼女には大いなる期待を寄せているのだ。
それだけに、『成功後の儀式のやり直し』は認めないつもりだ。人間を召喚したとは言え、『召喚に成功した事』には変わりない訳だ。
重ねて言えば、この召喚の儀式は、学年の昇格試験も兼ねている、安易にやり直しを認められるものではないのである。ここまで失敗続きで何度もチャンスを与えられた彼女は寧ろ、恵まれていた方だ。
成功した今、心を鬼にする。
「さあ、諦めてコントラクト・サーヴァントに移りなさい」
「うぅ…………」
腑に落ちない様子の少女だが、こうもピシャリと言い放されてしまっては反論は出来ようもない。相手は自分の先生である、真面目な性格の彼女は頭が上げられない。
渋々と言った具合に、次の段階へ移るべく、再び視線を青年へと戻す。
見つめ合いの睨み合いから、怒鳴って申し立てて却下されるまでの数分間が経過しているが、青年だけが時を止めているようだ。最初の時と変わらない、上半身だけを上げて座っている状態のままボンヤリと見つめているのだ。
忘れていた、この男に対する不気味な気持ちが、再び振り返した。
(何で私が、こんな変な服着た平民なんかと…………それにジーッとしたまんまで何考えているか分からないし…………ほんと、何なのよコイツぅ!)
男への不平不満をブツブツ言いながら、一歩、また一歩と男の方へ足を進めるのだった。その行程が、首吊り台までの階段を登る気分になる。
近付いてみれば、顔は端正である事が伺える。
しかし、その顔にさえ、何故だか少女は、気味の悪さを感じていた。何と言うか、合致しない違和感が男の顔にはあるのだ。それがまた、不気味に感じる。
「……あぁ、オレは…………」
ここで初めて、男が声を出した。鼻に抜けるような、フワフワとした声だ。
いきなりの事なので、少女は少し面食らう。
「あんた、喋れるじゃない…………」
「喋れる……喋れるんだが…………」
「まぁいいわ平民…………じっとしてなさい」
「何をするんだ? ここは何処だ?」
「喋り出したら
少女は、広げられた男の足の間へ跪くと、顔をぐいっと男へ近付けた。
そして深く長い、深呼吸の後に、覚悟を決めたのか一気に真面目な表情になる。
「…………五つの力を司るペンタゴン」
杖を構え、男の額に先っぽを当てる。ここでとうとう、形容出来ないあの無我な目に、好奇の光が宿った。男は訝しげに杖と成り行きを見ていた。
「この者に祝福を与え…………」
額から杖が離されると、近かった少女の顔は、更に近付けられた。その顔は何を恥ずかしがっているのか、真っ赤に染まっていた。
青年はただ黙って、成り行きを見ているだけ。
「…………我が、使い魔となせ…………」
次に感じた触感は、唇に当たる柔らかく、温かいものであった。
少女は静かに、男の唇に己の唇を軽く短く重ね…………つまりはキスをしたのだ。
「…………ハァ、何で平民とキスしなきゃいけないのよ…………!」
本人はぽかーんと、軽く驚いたような目で、彼女を見つめていたのだが、予想に反しての反応の薄さに少しだけ少女はショックを感じたのも事実。
色んな感情が混ざる中で、服を叩きながら彼女は再び立ち上がった。
…………と、次の瞬間。
「いったい何をし…………うおおッ!?」
左手に炸裂した激しい痛み。まるで熱した鉄板を押し付けられたような火傷の痛みがドジュゥゥッと、いきなり現れた。
これには、ここまで表情の乏しかった青年も流石に苦痛で顔を歪めたのだった。
「あつっ…………イッタ!?」
左手をブンブンと振り回し、痛みを軽減しようと努めたが、痛むものは痛む。なかなか引かない。
「おー!『ゼロのルイズ』が契約したぞー!」
「これくらい、私にも出来るわよ! 馬鹿にしないで!!」
そんな彼を差し置いて彼女は、また自分を揶揄する者に怒鳴り声を上げていたのだった。
「うむ、コントラクト・サーヴァントは無事に成功したようだね」
後ろから様子を見ていた監督役の先生が、嬉しそうな声で話しかける。しかし、成功したのはしたのだが、少女はやっぱり腑に落ちないと言わんばかりに、眉間に皺を寄せて苦しむ男を見ていた。
「な、何なんだよこれは…………お前、オレに何をしたんだ…………!?」
「コントラクト・サーヴァントよ、使い魔との契約の儀式。ほら、もう終わるわよ」
すると、左手から脳を支配していた焼ける痛みは引き始め、一目見れるほどの余裕が出来るほどまで来ていた。
左手の甲に、煙がプスプスと上っていたが、その左手甲に妙なマークが烙印されていたのだ。それに気付いた青年は、じっとそのマークを凝視する。
「……文字か? 何て書いてある?」
「使い魔のルーン文字だけど、私にも読めないわ」
その会話を聞きつけ、「どれどれ」と先生が眼鏡を持ち上げつつ、手の甲に現れた『ルーン文字』を見始めた。
何人もの使い魔の儀式に立ち会っただけあって、どんなルーン文字かは分かるようだが、今回は眉をハの字にしながら物珍しげに「ほう」と声をあげた。
「随分と珍しいルーンだな……いやはや、見た事がないよ。どれ、失礼ですが少し、スケッチを取らせて貰えませんか?」
「……………………」
聞いた青年は、黙って左手を差し出した。それを許可されたと認識した彼は一礼の後、懐に入れていたメモ用紙を取り出してパッパッと写し始めた。スケッチは、ものの一分少しで終わる。
「有り難う。少し、どんな物かをこっちで調べてみるよ」
そう言うと彼は、手を大きく叩いて、終了の号令を出した。
「では、儀式はこれで終了とする。各自、寮に戻って使い魔との親睦を深めるように。では、解散!」
それを合図に、先生を含めた少年少女らがフワリと、宙に浮き始めたのだった。
「じゃあな!『ゼロのルイズ』!」
「お前はフライトもレビテーションも使えないから、平民と一緒に仲良く歩いて来いよ!」
「ナアナアナアナアナアナアナアナア……飛べないってのは、どんな感じなんだ?」
二人に対して囃し立てながら、黒マントをはためかせて次々に皆は空へ飛んで行ってしまった。
全員が向かっている場所は、奥の方に見える大きな建物。あそこが、この場にいる全員の学舎なのだろうか。
「すげー、空飛べるのかー」
感心したように声をあげたのは、ずっと黙っていたクセにいきなり饒舌になり出したこの、白い服の青年であった。飛んで行った者に対して褒めた事を言ったのが癪に触ったのか、キッと睨み付けられる。
「さ、私たちも帰るわよ。ほら、いつまで座ってんのよ、立ちなさい」
少女に催促され、青年は黙ってゆっくりと立ち上がった。
立ってみれば、かなりの高身長に驚かされた。恐らく、あの場にいた誰よりも背が高いのではと、思ってしまう。それに、細身だが立った姿を見てみればそれなりに逞しい体をしており、スタイルは良い方だろうか。
それにしてもやはり目に行くのは服装だろう。ハッキリ言って、斬新過ぎる。
上着の丈は短く、ベルトもヘソも丸見えになっているし、両胸には右に船の錨を、左に太陽をあしらったワッペンが付いていた。ただ、全体的にキッチリとした、清潔な見た目になっているので、さしずめ何処かの軍服のような印象を、少女は受けた。
「まぁ、服は兎も角、私の護衛係には丁度良いかもね」
「護衛?」
「そのまんまの意味よ…………あとその帽子、あんたのじゃないの? 拾わないの?」
少女が指差した先の自身の足元に、白い海兵帽を見つけた彼は、腰を折り曲げて帽子を拾う。二、三度払って砂を落とした後、やっと頭に被ったのだった。
「妙な着こなしね…………ある意味で個性なのかしら?…………ハァ、変な奴召喚したなぁ…………」
こめかみを押さえて、溜め息を吐く。
一方で男は、脚部や尻を叩いて、服に付着した土を払っている。服が白いだけに、汚れが目立ちそうだ。
ある程度、男が出発の準備に立った所で、少女は思い出したかのように「あ、そうだ」と呟いた。
「そう言えばあんた、名前は?」
「名前? オレの?」
「あんたしかいないでしょうが…………不本意だけど、私の使い魔なんだし、名前の把握ぐらいしとかないと」
「使い魔? なんだそれ?」
「まずはあんたの名前からッ!!」
質問ばかりの青年に、とうとう怒鳴りつけた。
気圧されたように彼は上半身を少しだけ反らした後、男は口元を押さえて考え込んだ。
「…………何で自分の名前で考えるのよ……」
何から何までを不可解なこの青年に、苛立ちが込み上げてばかりだ。
(それに『使い魔』を知らないなんて、とんだ田舎者ね…………ハァー……)
そう考え、もう色々と憂鬱になってくる。目の前にいるこの男に、不気味だとかの感情がまた出てきたが、それよりも自分とリズムにテンポも合わない感じに虫酸が走る。
「…………『ジョースケ』」
「ん?」
物思いにふけていた上に、またいきなり話されたので、聞き逃してしまった。
しかし、こちらから言う前に、男はもう一度自分を名乗った。
「……『
「何で疑問形なのよ…………と言うか、『ヒガシカタ・ジョースケ』ぇ? 変な名前ね、言いにくいし…………特にヒガシカタって所…………」
少女が呆れた声で聞けば、青年…………『定助』は何だか、真剣な顔付きになっている事に気が付いた。
「どうしたのよ? そんな深刻そうな顔して」
「いや、そう言う名前なんだが……合っていて、違うような…………奇妙だ」
その含みのある言い回しに、「そりゃ、こっちの方が奇妙だと言いたいわよ!」と、少女は心で突っ込んだ。あまりにおかしいので、声にするのを忘れてしまったりする。自分の名前が合っていて違うとは、何言っているのか? この状況で気が狂ったのか?……と、正気を疑われても仕方ないほどおかしな事を言っているのだから。
適当に流しておしまいにしようかとも思ったが、ついつい質問してしまうのは、白黒つけたい彼女の性格から出てきたものだろうか。
「どういう意味よ? まさか偽名使っているの?」
「いや、偽名じゃなしに…………その、何と言うか…………オレの名前だが、そうでもないような…………オレの名前だって、実感はあるんだ。だけど、心の奥では違うような…………」
もう何言っても無駄無駄だと思ったのか、返答の代わりに溜め息ついて、黙って定助に背を向けて歩き出した。相手にするのも面倒だと感じ、このまま何も言わず道を行くつもりである。
「…………教えてくれ、オレはいったい…………『何者なんだ?』」
その言葉に、思わず彼女は振り返った。
定助の見た目は、良く単行本の表紙で見る、白いセーラー服の、超像可動シリーズの色彩で行きます。セーラー服つったら白だろ(極論)
また、ボイスはASB・Eohの担当声優の真殿さんボイスでイメージお願いします。
宜しくどうも。