貧乏神が!の紅葉×市子。お弁当のお話。

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吉日厄日。

吉日厄日。

 

天候は晴れ。気温も高くもなく低くもなく。

とても過ごしやすい平穏な一日を見事に壊してくれたのは日常クラッシャー1号の紅葉ではなく、意外にも嵐丸だった。

 

「お前らって本当に仲良いよなあ」

「……え?」

 

それは屋上でお弁当を食べている時だった。

唐突すぎる嵐丸の一言に、一瞬私は思考回路が停止してしまった。手の力が思わず緩んで摘んでいたおかずを落としてしまった。

 

「そうですわよねえ。学校にいる間は一緒に行動していない時がありませんもの。ねえ忍?」

「はい。桜様と貧保田様が離れてお過ごしになっているところは見たことがありませんね。お手洗いならともかく」

「おい何処見てんだ変態執事」

「ご安心を!桜様や貧保田様は私の範囲外ですので!」

「「失礼だなお前!!」」

 

あ、紅葉とハモった。

 

「とにかく!何で私とコイツが仲良いって言えるのよ!」

 

隣でお弁当を食べている紅葉を指さして言う。一体どこをどう見てそう言えるのか!コイツの普段の行動をよく考えてみろ!

 

「何でって…その弁当紅葉の手作りだろ?」

「ぼっは?!っ、な、何で分かるのよ!?」

「……何でと聞かれましても、それしか答えがありませんわよ?」

「おい飯粒飛んだんだけど」

 

汚いな!と言いながら私のスカートの裾で手に着いた私が吹き出してしまったご飯を拭う紅葉。

いや流石にこれは私が悪かったけど、何で他人のスカートで拭ってんだよ。

執拗に擦りつけてくる紅葉の手に一緒に持ってきていたハンカチを押し付けてやると、手やら顔に着いていたご飯を丁寧に拭いだす。

 

「あとは、うん、そういうのかな」

「えっどういうのよ」

 

そう返すと嵐丸はまるで奇妙な生き物を見るような目で眉を潜め、隣に座っている撫子に目配せをした。

撫子も撫子で同じように怪訝な顔をしてこちらを見やった。

もしや、と思い撫子の隣に立っている忍を見ても同じような視線を返された。

何なんだ。何であんたらはUMAを見るような目でこちらを見るんだ。

 

「ふむ、チュパカブラ市子ですか。悪くないですね」

「お前はさらっと人の考え読んでんじゃねーよ。つーかチュパカブラ選択するとか悪意しか感じないんだけど」

 

言っておくが、こんな貧乏神と仲良しだなんて勘弁してほしい。

隙あらば人の幸福エナジーを狙い、風呂に突っ込んできたり、夜中にベッドに潜り込んできたりとやりたい放題だ。

洗濯物は出すし、出したとしてもコスプレの服ばかりで肝心なオーバーオールは一度も洗っているのを見たことがない。(自分で干せよ。その前に汚い服で私のベッドに入ってくるんじゃない)

何が悲しくてこいつのモコモコ毛糸パンツ(季節を考えろ、季節を)を私が畳まなければならないのか、全くの謎である。

 

「あのねぇ、嵐丸。こういうのは仲良いって言うんじゃなくて、悪いっていうのよ」

「いやでもよぉ、一緒に市子の家に住んでるんだろ?」

「いやその前に許可した覚えもないし!」

「貧保田は市子さんの通い妻か何かですの?」

「すみませんうちのがご迷惑をおかけして」

「いえいえとんでもない、ご立派な方ですよ」

「ぅおおぃ!そこ何ノッてんの?!」

 

嫌がらせか!嫌がらせなんだな?!何なんだコレ。今日はびっくりどっきり嫌がらせバーゲンセールなの?

紅葉ならともかく、嵐丸たちまで一緒くたってどういうことなの…

 

「もう今日ホント厄日なんじゃないの…」

 

私のMP(メンタルポイント)が尋常じゃなくごっそり奪われていく。ふっと手を口元に寄せて、違和感。

ああそうだ、嵐丸が変なことを言うから吹き出してしまったんだ。紅葉の手からハンカチを取って口の周りを拭く。おし、綺麗になった。

 

「…ここまでくるとワザと見せているのではないかと思いますわ」

「私も同意したいですが、何分桜様は少々疎いところがおありですのでそれは無いかと…」

「疎いというかあそこまでくるともう天然だろ」

 

何なら私を見て3人がヒソヒソと話をしているが、無視だ無視。それを聞いてしまったらきっと私のMPは空になってしまうだろう。ただでさえ精神的ダメージを食らっているというのに、

 

「なー、市子」

「何よ嵐丸」

 

そう、嵐丸が爆弾発言をかますまでは。

 

「それ、紅葉と間接チューになってんぞ」

「はぁ?」

 

それ、とは、何のことを指しているのだろう?嵐丸の視線は私の手元に向けられていた。

左手。何もなし。

右手。口を拭いたハンカチ。

 

あれ、これさっき紅葉に渡したような…?というか、あれ?

このハンカチで紅葉が口元やら手やら拭いていたような。口元、を、

 

「ほああああああああああああ?!」

「うおおおおおおおおおおどうした市子ぉぉぉぉぉ?!」

「どうしたもこうしたもないいいいいいいいい!」

 

嵐丸の馬鹿あああああ!何で貧乏神と、か、か、間接キ、スなんてもんをしなき

 

「うるさいですよ市子。今更間接チューくらいであたふたしなさんな」

 

チラリとこちらに視線を向けた紅葉が放った一言は、この場を凍りつかせるのには十分だった。

 

「やはりお二人はそういう関係だったんですのね!」

「いやあなんともめでたい!おめでとうございます桜様、貧保田様!」

「そこの二人ノッてんじゃないいいいいい!もっ、紅葉も何言ってんのよ?!」

 

私の怒号を涼しい顔で受け流して、ちゃっかり人の膝の上から弁当箱を奪い取り咀嚼している紅葉。あんたそれ食べたら今日弁当2個目でしょうが!ていうか私のなんだけど!

 

「何って…事実じゃないですか」

「何の事実だ何のおおおおお!そんな事実がどこにあったああああああ!」

 

何なんだコイツ!そうまでして私を陥れたいのか!

右手をふりあげて紅葉の頭をぶっ叩こうとした瞬間。

 

 

 

びゅおおおおおっ!

 

 

 

「え、ちょっ、きゃっ!」

 

いきなり横殴りに突風が襲いかかってきた。反射的に目をつぶってその上から手で隠す。が。

ハンカチを握っていた右手に、感覚がない。

なんとか薄目で開いて右手を見ると、ハンカチが私の手の中から逃げて校庭に落下しようとしているところだった。

 

「嘘っ?!」

 

即座に追いかけるも虚しく、ハンカチは見事校庭上空ににエスケープを果たしてしまった。

 

「えぇぇ…うっそお…」

 

ちょっと前に可愛いなーと思って買ったお気に入りのハンカチだったのに…すぐに拾いに行かないとあっという間に砂まみれになるんだろう。

ここ最近晴れ続きで校庭が乾いているのがちょっとラッキーかな、と思ったけれどもそもそも校庭に落ちている時点で不幸じゃないか!どうした超絶幸福少女!

 

「あっちゃー…マジかよ」

「す、すみません市子さん、まさか飛んでいくなんて思わなくて…」

「俺取ってくるわ!ちょっと待っててくれ!」

「お待ちなさいな嵐丸さん!元々私が…!」

 

「あ、ちょっと別に二人が取りに行かなくても……ってもういないし」

 

私が二人に言い終わる前にバタバタと足音を立てて去っていった嵐丸と撫子。

そんな慌てて行かなくても、そもそも私が不注意で落としてしまったのだから二人が行かなくてもよかったのに。

 

「申し訳ありません、桜様。ハンカチについては後日改めて弁償を…」

「いやいやいやそんなのいいって!ていうか撫子達のせいじゃ……「重ね重ね申し訳ありませんが、撫子様のお手を煩わせてはいけませんので席を外させて頂きます!では」

 

 

「……おーい君等、人の話はちゃんと聞くっていうことを習わんかったのかね」

 

撫子を追いかけていった忍にそう投げかけてみたが、既に背中を見せて駆けていった忍相手には言葉のキャッチボールは案の定続いてはくれなかった。

こんな状況を作り出した張本人の紅葉はのほほんと食後のお茶なんかを楽しんでいた。今日一日の不幸な目に遭った恨み辛みをこめて睨みつけてやったが、チラリとこちらを一瞥しただけで毛ほども効いていないようだった。

というか今日こんな状況にあったのってこいつのせいなんじゃなかろうか。ていうか絶対そうだ!

 

「あっ、のっ、ねぇ!」

 

紅葉の前に移動して、上から睨みつけてやるがいつもと変わらずのやる気の無さそうな顔でこちらを見上げているだけだった。

 

「何ですか市子?そーんな目くじら立ててると歳食った時に後悔しますよ」

「うるっさいわこの貧乏神が!あんたあたしに何かしたでしょ?!」

「はて、何かとは?」

「とぼけんじゃないわよ!あんな悪乗りして終いにはお気に入りのハンカチふっ飛ばして!不幸エナジーを使って何がしたいのよ!」

「私がいつ不幸エナジーを使ったっていうんです?そもそもコレは外していませんよ?」

 

プラプラ、と目の前で振られたのは右手を覆うギプス。そういえば確かにコイツは外していなかった、ハズ。うん。

ということは今回の事態について紅葉は無関係ということで……

 

 

……いやいやいやいやいや!まだだ、まだコイツには問いたださないといけないことがある!

 

「てゆーかさっきのアレは何なのよ?!」

「市子、アレとかソレとか言われても分かりませんよ?熟年夫婦じゃあるまいし」

「ソレだよソレェェェェ!何だその『熟年夫婦』って!」

「円熟した夫婦のことです。」

「そんなボケ求めてねえよ!誰と誰が夫婦だ!」

 

そこまで一息に言い放って、私は膝に手をついて一度だけ深呼吸をした。大声で捲したてたせいか何だか視界がグラグラする。

ふっと足元に影が掛かって、紅葉が立ったのが分かった。まだまだ言い足りない文句を浴びせてやろうと顔をあげると、すぐ目の目の前に紅葉の顔があった。

それこそ、息がかかりそうなくらいに近くに。

 

「ふほげえぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

思わず叫んで後ろにバランスを崩して尻もちをついてしまった。それを見てニヤニヤといやらしい笑みでこちらを見ている紅葉。

心臓がバクバクと動いて思考回路が現状について行かない。

 

「ねえ、市子」

 

紅葉が私の名前を呼んだ。それだけなのに、何故か肩が跳ね上がる。

ずいっと四つん這いで近づかれて、ニヤニヤ顔が更に口角を上げて笑った。

 

「アレってなんですかねえ」

「あ、えと、それは……」

「あらら、そんな口ごもるようなことなんですかね?ん?」

「別にそんなんじゃ」

「じゃあ早く言ってご覧なさいな」

 

ジリジリと私との距離を縮めていく紅葉。口元はわらっているのに、その視線はまるで獲物を狙っている猛禽類のようで。

それがとても怖くて、なるべく視線を合わせないようにして、絞り出すように私は言った。

 

「かっ『間接チューくらいであたふたしなさんな』って言ったことっ……」

「……ほう、ほう。それで市子ちゃんはなーにを想像しったのっかなー?」

「そんな、の、どうだっていいじゃないの!」

「まうすとぅーまうちゅー?」

「あ、ああああああんたホントにいい加減にしなさいよぉぉぉぉぉぉ!」

 

ああもう最悪。今絶対顔が真っ赤になっている。それを目の前の貧乏神に見られているなんて。

 

「あーはっはっはっは!ホント初心ですねえ市子!」

 

紅葉は、というと。まるでさっきの目付きが嘘のように、カラカラと笑っていた。

さっきまでの様子とは打って変わっていつもの、紅葉だった。

 

「これだと手を握るだけでも一苦労なんじゃないですかー?ねー市子ちゃーん?」

 

紅葉は空いている左手を目の前でひらひらと踊らせて、人を馬鹿にしたような声音で笑う。

 

「ほーら、練習で私の手でも握ってみなさいな」

「は、はぁ……?」

 

いつもの紅葉だ、と安心すると同時にイライラが急速に積み上がっていくのが分かった。何で私はコイツに馬鹿にされてるんだ?!

そんなことを考えているとも知らずに、紅葉は続けて言った。

 

「やーだ市子ってば何をそんなにビビってるんです?胸にばっか神経がいってそんな小さい事気にするようなスペースあったんですか?」

「うっせーよてめえ!今更あんたの手握るくらいどうってことないわよ!」

 

まさに売り言葉に買い言葉。紅葉の言葉に一瞬で頭に血が昇った私は目の前でプラプラと振られている紅葉の左手を握った。

指を絡ませてグニグニと握ったり開いたりを繰り返してみる。…こいつホントに肉ないな。骨が当たって触り心地が硬い。

 

「…あなた、何してるんです?」

「何って、あんたの手握ってる」

 

ちらり、というよりジロリと紅葉へ視線を向けると何故か驚いたような、放心したような表情をしてこちらをまじまじと見ていた。

てっきり私は馬鹿にしたような表情で見ているものだと思っていたのだけれど。

それも私の発言を機に段々と崩れていき、終いには顔を背けて小刻みに肩を震わせ始めた。え、何これ爆笑されてんの?

 

「ちょっと!自分から煽っといて何爆笑してんのよ!つーか今の何処に笑うところがあった?!」

「ぅえ、ええええええっとですね、あ今顔向けないでくださいちょっといろいろヤバイんで」

「そんなに?!」

 

顔は右手のギプスで完全に覆われているし、こちらから見える耳は普段とは違って真っ赤になっている。

 

いつも飄々としていて、自分のペースで突き進んでまわりと私を振り回している紅葉が、目の前で笑っている。

何の打算も計算もなしに、ただ純粋に笑っている。

そのことが何故かたまらなく可笑しくて面白くて、嬉しくて。

 

気が付いたら、つられて笑っていた。

 

「あはははははははっ!ふっ、へ、ふははははははは!」

「ちょっ、何であなたが笑っているんです?!」

「だって……あんたがそんなに笑ってるの見たことないから…!あははははははは!」

「それはあなたがあんな…あんな…あっちょっと待ってぶり返して……っふぐっ、ぶふぅぇはははははは駄目だ腹筋はち切れそう!」

「腹筋はち切れるって、ふぐっ、ふっ、ど、どんだけ笑ってるのよ!」

「市子お願いです喋らないで下さいマジ腹筋崩壊の危機」

「ほっほーかい、ほーかいって…!」

「ほっふ、ぼっははははははは!あーもう、ホント、ホント頼むから黙って下さいってぇ!」

「変なのー!あはは…」

 

ガタン。

 

小さい、けれどもこの空間の空気の流れを断つには十分な音が後ろのほうで響いた。

 

そちらの方に顔を向けてみれば、トーテムポールの如く扉の向こう側から顔を出している嵐丸、撫子、忍の3人。

その視線は私と紅葉と、つながれた手に順繰りに巡っていて。ああ、何だか嫌な予感がする。

 

「あのさ、撫子、こういう時なんて言えばいいんだ?」

「それは、やはり、まあ…『ごゆっくり』?」

 

あの、ちょっと。

 

 

ふたりは顔を見合わせてちいさく頷き合うと。

 

「あー!そういえば俺達職員室呼ばれてたんだったわ!なー撫子?」

「ええ、ええ!そうでしたわね!待たせてもいけませんし、ここいらでお暇しましょう!」

「ご一緒いたしますお二方!」

 

「じゃあ、」

「「では、」」

 

「「「ごゆっくり」」」

 

先ほどと似たような状況で。しかし全く違う意味を含めて。

なんともなんとも大げさな三文芝居を演じて、友人たちは階下へと消えていってしまった。

とんでもない誤解を引っさげて。

 

「ちょっとおおおおおおおお!」

 

もう、何なんだ今日は!本当に厄日だ!

 

**********

 

オマケ

 

 

『紅葉、お前不幸エナジー使っただろ?』

「あ、バレました?ちょっとギプスずらしただけなんですけど」

『あのタイミングで風が吹くのは桜市子の幸福エナジーの量からしておかしいだろう』

「ちょっとは面白くなるかなー、と思いまして。私もまさか通用するとは…ハンカチを吹っ飛ばせたのはいいんですけど、まさかスカートまでがっつりめくれるとは思いませんでしたね」

 

相変わらず白でしたねぇ。白以外も履けよ、などど桜市子に取り付いている貧乏神はのたまう。

 

『…お前、そんな奴だったか?』

「元からこんなんですよ。ふっはー手もやわっこかったし今日は吉日だーい……つーか喧嘩腰で手を握りにくるとか…ぶくくっそ、そりゃないでしょうよ、ぷっふふふふふはははいけねまたぶり返しそう」

『お前な、もうちょっと…いや野暮だなこれは。うん』

 

相棒のテディベアは笑い出した貧乏神を諦めたような遠い目で見て、誰にも聞こえないため息をついた。

 

**********

 

お粗末さまでした。


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