欧州激戦録   作:瑞穂国

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お待たせしました、続きです

まだ終わってないですけど・・・


ドーバー海峡海戦 2

立ち上った三本の水柱を、リシュリューはまじまじと確認した。精度はあまり高くない。敵艦と“ダンケルク”の距離はいまだに三万離れており、砲戦を行うには些か遠いのだ。それでも、いずれ距離が縮まれば、より正確な射弾が送られてくるのは明白だった。

 

『砲撃を受けた!回避運動をしつつ、もっと接近してみる!』

 

「おう、頼む」

 

マッセナの答えも、平然としたものだ。特に心配はしていないらしい。まあ、あっちの方が小回りは利くし、当分―――“リシュリュー”の主砲射撃圏内に入るまでは、十分粘ってくれるはずだ。

 

「面舵一○。奴らの頭を抑えろ」

 

マッセナの指示に頷いて、舵を動かす。とはいえ、四万トンを軽く超える艦体がすぐに曲がり始めるわけもなく、しばらくは惰性で前進を続けていた。やがて舵が利き始め、“リシュリュー”の艦首がわずかに右に振られる。

 

「舵戻せ中央」

 

曲がり始めたのを確認して、リシュリューは舵を元のように戻した。これにより、敵艦隊に対してT字を描こうとしていた“リシュリュー”は、完全にその頭を抑えることができた。砲撃にはもってこいのポジションだ。

 

「セオリー通りに、ニ万五千からでいいわよね」

 

砲戦開始距離の確認を取ると、マッセナは力強く頷いた。リシュリューもまた頷き返し、次なる指示を下す。

 

艦橋前方、“リシュリュー”の前甲板に据えられた二基の巨大な主砲塔が、低い機械の駆動音と共に右舷側へと指向していく。特徴的な四連装主砲だ。“ダンケルク”級と、その拡大型である“リシュリュー”以外には、イギリス海軍の“キング・ジョージ五世”級のみが採用している。

 

そこに収められているのは、四五口径三八センチ砲。大西洋では、かなりオーソドックスな主砲だ。

 

フランス的合理性で、その全てを前甲板へと配置された全八門の主砲は、その先にいる敵に自らの牙を突き立てる瞬間を、今か今かと待ち望んでいた。

 

敵一番艦の観測射撃は続く。“ダンケルク”以下の五隻は巧みな操艦でこれを躱しつつ、敵艦隊へのさらなる接近を狙っていた。

 

五度目の着弾。まだ距離は離れているが、確実に精度は向上している。命中までは時間の問題だ。

 

現在距離二万七千。後少し、後少しの辛抱だ。リシュリューは祈るような心持ちで、“ダンケルク”を見つめる。主砲の諸元入力は終わった。後は砲戦距離になり次第、その引き金を引くだけだ。三八センチとはいえ、その威力は一六インチに比肩しうる。例えeliteだろうと、十分に対抗可能なはずだ。

 

―――二万六千・・・!

 

各砲塔の一、二番砲が鎌首をもたげ、先頭艦へと狙いをつけている。黒光りする砲身が、リシュリューに自らの仕事を急かす。それを必死に押さえつけて、リシュリューは時を待った。

 

そして、その時は来た。

 

「二万五千!」

 

「砲戦始め!」

 

「フーッ!」

 

三つの言葉は、ほとんど同時だ。そしてリシュリューの叫びと同時に、各砲塔二門、計四門の主砲が火を噴いた。巨大な爆炎が砲口から生じ、轟音と共に広がった衝撃波が砲身内の砲弾に運動エネルギーを与える。刻まれたライフリングによって飛翔時に必要な安定性を獲得したおよそ八百キロの三八センチ砲弾は、火薬の炸裂する化学エネルギーが熱を経て与えた運動エネルギーを位置エネルギーへと変換しながら、物理法則に定められた放物線の頂点へと急速に上っていった。そのエネルギーが全て位置エネルギーに変換された時、上方向への速度を失った砲弾は、地球の重力に従って、再び放物線をたどり、急降下していく。その先には、狙い澄ましたように敵一番艦がいた。

 

射撃から三十数秒後、敵艦を覆い隠すようにして、“リシュリュー”の放った四発の砲弾が、海水製の摩天楼を築き上げた。高さは敵戦艦のマストを凌ぐ。その様子を、上空のロワールと射撃管制レーダーは正確に捉えていた。

 

「全弾近」

 

近弾―――つまり、砲弾は全て、敵艦の手前側に落ちているということだ。これをもとに諸元に修正が加えられ、今度は各砲塔の三、四番砲が発砲する。

 

“ダンケルク”への砲撃は止んでいる。敵戦艦は、“リシュリュー”が発砲したことで、こちらへと目標を変更しているのだろう。

 

―――先手は取った!

 

自らの提督の癖がうつったのか、リシュリューはイタズラっぽくほくそ笑んだ。敵艦が慌てて照準を変更する様子は、随分と滑稽に映った。

 

第二射が落下する。再び全弾近。敵艦との距離は縮まったが、夾叉とはいかなかった。

 

「どうしたリシュリュー!しっかり狙え!」

 

「言われなくてもやってますうー!」

 

―――こんのクソ親父!

 

内心で毒づきながらも、しっかりと諸元修正を行って、第三射を放つ。ほとんど同時に、敵先頭艦も第一射を撃ってきた。二番艦以降は、まだ発砲していない。

 

―――今度こそ・・・!!

 

思いを込めて、飛翔していった砲弾の行く先を見つめる。その間に、上空を圧するような風切り音が鳴り響いて“リシュリュー”を包み込んだ。沸騰した海水が白い巨塔となって天を衝き、一六インチ砲弾の威力を誇示する。精度も悪くない。お互いに決戦距離で砲撃を始めれば、必然的に命中率も向上するのだから。

 

敵戦艦の水柱に隠れて見えなかったが、“リシュリュー”側の砲弾も正確に落下したことは、ロワールとレーダーでわかった。もっとも、その必要はなかったとも言える。お互いの水柱が崩れて視界が開けたとき、狙いをつけていた敵一番艦の艦上に炎が踊るさまが、はっきりと見て取れたからだ。

 

「一番艦に命中弾!次より斉射!」

 

リシュリューが叫ぶ。命中弾が出たということは、射撃諸元が正しいということだ。後は全力斉射を繰り返し、数の暴力に任せるだけとなる。

 

“リシュリュー”の斉射能力は、一分間に二回。約三十秒に一回の斉射を放てることになる。一度に八発を撃って、命中弾は一、二発、多くても三発といったところだ。

 

三八センチ砲が、K級にどの程度有効か、いまだに未知数だった。それでも、祖国が大西洋最強と謳う三八センチ砲と自身の性能を、リシュリューは信じて疑わなかった。

 

―――目にものを見せてやる。

 

その想いと共に、今日最初の全力斉射の引き金を引いた。

 

瞬間、それまでに倍する衝撃と轟音が、リシュリューたちのいる艦橋までも震わせた。高速航行を続ける“リシュリュー”が一瞬止まったような感覚と、反動で横揺れが生じる。重心設計がもたらす復元力によって横揺れを吸収している最中、敵艦の第二射が落下した。先ほどよりも近い。eliteだけあって、いい腕をしている。

 

「奴さん、なかなかの腕じゃねえか」

 

マッセナも唸る。ただし、その声音はどこか嬉しそうで、この状況を楽しんでいるようだった。その胆力に感嘆するような、呆れるような、リシュリューは苦笑するしかなかった。

 

「・・・私だって、負けてないわ」

 

なんとなく面白くない気持ちをほんの少し込めて呟き、次の斉射を放つ。ほとんど同じタイミングで、第一斉射が落下した。海水の塊が林立し、その合間に三八センチ砲弾が甲板にキスをした火焔が見える。

 

命中弾は二発。悪くない。

 

が、そう簡単に一六インチ砲艦の装甲を抜けるはずもなく、敵艦は平然と次の射弾を放った。負けじと、“リシュリュー”も斉射を放つ。次の瞬間には、第二斉射が着弾して水柱を噴き上げた。こちらの命中弾は一発だ。

 

『ダンケルク、砲撃始めます!』

 

直進する敵艦隊の側面へと回り込んだ“ダンケルク”が、二、三番艦への牽制射撃を始める。“リシュリュー”の原形となった前面配置の主砲がきらめくのが見え、四本の火矢が飛び出した。

 

―――大丈夫、押さえてくれる。

 

その間に、リシュリューはeliteと決着を着ける。“リシュリュー”の主砲が四度目の砲声を上げ、爆発的な咆哮と共に鋼鉄の火矢を上空へと投げつけた。敵艦との距離が近づいた分、幾分か低い弾道になった三八センチ砲弾が、敵戦艦の分厚い装甲に一太刀を浴びせようと風切り音を響かせる。

 

もっとも、海域を飛び交うのは、彼女たちの砲弾だけではない。

 

ドップラー効果を突破して衝撃波を振りまきながら迫ってきたのは、敵艦の第五射だった。頭上を覆う甲高い音に、違和感と嫌な予感をひしひしと感じたリシュリューは、その行方を固唾を呑んで見守った。次の瞬間、三発の一六インチ砲弾が海面に突入して、盛大に海水を巻き上げた。

 

息を呑む。改めて確認するまでもない。崩れ出した水柱は、“リシュリュー”の右舷に二本、左舷に一本が見えた。“リシュリュー”が有効打を与えられたか、よくわからないうちに、今度は敵艦が“リシュリュー”を散布界に捉えたのだ。言うまでもなく、次からは一度に九発の一六インチ砲弾が“リシュリュー”へ降り注ぐことになる。

 

敵艦の主砲がしばらく沈黙する。斉射を行うため、全砲の装填を待っているのだ。

 

「大丈夫だ。一度に九発は飛んでこない」

 

マッセナがほくそ笑む。リシュリューもその意味を理解しており、平然と第五斉射を放った。ちなみに、第三、四斉射の結果は、命中弾一発ずつだ。

 

リシュリューが第六斉射の装填を待っている間、敵戦艦に動きがあった。次発装填のため下がっていた砲身がゆっくりと持ち上がり、いくらか上がったところで固定された。

 

「来る・・・!」

 

果たして、マッセナの読みは当たるのか。

 

敵一番艦が、斉射に移行した。巨大な砲炎が主砲から噴き上がり、衝撃波で海面の波が打ち消される。ただし、その光景は艦の前部だけで起きていた。

 

「三番砲の射角から外れました!」

 

「よし」

 

K級が前部に二基、後部に一基備える三連装砲塔のうち、後部の一基の射角から“リシュリュー”が外れたのだ。それもそのはず、そもそも“リシュリュー”は、敵艦隊の頭を抑えようと舵を切っていたのだから。今まではぎりぎり射角に収まっていたが、砲戦中に移動するうち、ついにその射角を逃れることとなった。これで、敵艦は一度に六門の斉射しかできない。

 

―――位置取りを変えるか、それともこのままにするか。

 

深海棲艦が前者を選ぶことはないと、リシュリューは思っている。大西洋において勝ち続けてきた深海棲艦は、この海域を突破する最短距離は、“リシュリュー”を砲戦で倒すことだと思っているはずだ。それだけの結果を、奴らは残してきたのだから。

 

その決意を示すかのように、轟音を引き連れて敵弾が高空より降ってきた。六発とはいえ、こちらが夾叉されている状況に変わりはない。命中弾炸裂の衝撃に、リシュリューは身構えた。

 

次の瞬間、それまで感じたことのない強烈な衝撃が艦尾方向から襲い、艦橋を上下に激しく揺さぶった。

 

立ち上った水柱は五本。つまり一発が、“リシュリュー”に命中したのだ。

 

「被弾一、戦闘航行に支障なし」

 

“リシュリュー”の装甲は、一六インチ砲艦と比べても大差ない強靭さを持っている。艦橋に近かったので衝撃は大きかったが、バイタルパートへの命中弾なら、一発や二発どうということはない。

 

「お返しよ!」

 

報復はきっちり返す。それがフランスの流儀だ。即座に一、二番砲塔が咆哮し、褐色に湧き上がる砲炎を海上に振りまく。七度目の斉射は、八発の砲弾を超音速で敵艦に投げつけた。

 

数瞬の後、先の第六斉射が敵艦に向かって突入した。今度は二つの火焔が見える。と同時に、長く細い何かが、小枝のように宙を舞うのも見て取れた。

 

「観測機!」

 

上空の目に確認を求める。その間に、敵の第二斉射が落下して、新たな命中弾が生じる。今度は二発。右舷側の高角砲が一基、破壊された。弾薬への誘爆はなかったが、対空の要として上空を睨むべき高角砲は、一六インチ砲弾の爆風の前に跡形もなく消え去り、砲座上がただのスクラップ置き場と化していた。

 

砲弾の応酬は続く。“リシュリュー”の第七斉射、敵一番艦の第三斉射がそれぞれ落下して、巨大な水柱と命中弾炸裂の閃光を産み出した。“リシュリュー”の被弾箇所はニ箇所。前甲板に着弾した敵弾が甲板をめくり上げ、黒煙を噴き上げた。今のところ射撃に支障はない。

 

―――でも、このままじゃ。

 

さすがのリシュリューも焦りの色を見せる。何とか凌いでいるが、冷や汗ものだ。いつ有効打が生じるかわかったものじゃない。

 

第八斉射の落下とほぼ時を同じくして、“リシュリュー”が九度目の斉射を放つ。敵艦はまだ耐えているが、各所から火災炎が生じており、それなりの被害を与えてはいるはずだった。

 

が、そんな想いを打ち砕くように、敵艦が再び斉射を行った。砲撃の間隔は全く落ちていない。爆風で煙が消し飛び、健在な姿を覗かせる。

 

―――しぶとい!

 

リシュリューは、敵艦の耐久性に唸った。深海棲艦の戦艦は、こんなにも堅いのか。eliteでこれなら、その上―――flagshipは一体どれほどの堅さなのか。

 

身震いを感じずにはいられなかったリシュリューは、自らの十度目の斉射に交じる異様な飛翔音に、はっと我に返った。

 

それまでとは比べ物にならない衝撃が、“リシュリュー”の艦橋を襲った。




リシュリューさんめっさスペック高いですよね

折角なので、こちらでは大活躍してもらいたいです。てゆうかさせます

続きも、できるだけ早く書き終えて、近日中に投稿します
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