欧州激戦録   作:瑞穂国

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三話目!

まだ終わらない

フランス救国海軍は世界最強ーーーーっ!!


ドーバー海峡海戦 3

 

同じ頃―――

 

 

 

フランス艦隊とは反対側、ドーバー海峡の東から接近する艦影があった。全部で六つ。大型艦が三隻と、中型艦一、小型艦ニだ。全艦が三○ノットの快速を発揮して、静かな海面を鋭い艦首で割りながら、一時間ほど前に自分たちの母港の前を通り過ぎていった仇敵を討たんと、その闘志を燃やしていた。

 

先頭を行くのは、特に巨大な戦艦だ。がっしりとした上部構造物、直線的な箱形の主砲塔、太い煙突、そして何より、工学的な美しさを余すところなくまとった艦型。白波を蹴立てて海を進む姿を見たものが、どのような感想を抱くかは容易に想像できた。

 

勇壮な雰囲気を率いる戦艦“ビスマルク”の艦橋には、二人の人物と多数の妖精がいた。戦闘配置についた妖精たちは、普段のはっちゃけ具合とは裏腹に、自らの持ち場を忠実に守ってこの艦の主から指示が下るのを待っている。

 

さて、当の主はというと、すでに同調率の高まっている艤装を身に付け、腰に手を当てて艦橋中央に立っていた。一見傲慢にも取れるこの立ち姿も、彼女がやると随分様になる。ある種、努力だけでは身に付かない、持ち前の威厳のようなものだ。

 

そんな艦娘、ビスマルクの横には、彼女とは違った意味で存在感を示す、若い男が立っていた。

 

エルンスト・リンデマン大佐。不自然なほどにキッチリと軍服を着こなす彼が、ビスマルク以下六隻、否、ドイツ本国艦隊を率いる提督だ。終始仏頂面の、弱冠ニ十六歳で艦隊を預かることになった逸材である。

 

「結局、こうして加勢に行くんだから。あなたもお人好しね」

 

隣に立つ彼に、ビスマルクは挑戦的に言葉を掛けた。受けた彼は、何かしら表情を変えるでもなく、ただ淡々と、いつも通りに受け答えた。

 

「ガイスラー閣下には、理解していただけると判断しました」

 

「命令違反なんて、あなたらしくないわね」

 

「そもそも、出撃しなければキングストン弁を開いて自沈すると脅迫したのは誰ですか?」

 

「さあ?誰だったかしら」

 

多少どころではない荒療治でリンデマンを動かした本国艦隊旗艦は、何事もなかったかのようにとぼけた。しばらく黙ってこちらを見ていたリンデマンは、追求をやめて前を向き、呟く。

 

「なんにせよ、我々は出撃した以上、それなりの戦果を要求されます」

 

「なるほど。具体的には?」

 

リンデマンが目を細める。鋭い眼差しは、水平線と、そこに立ち上る黒い煙の塊を見つめていた。

 

「丁度いい獲物がいるようです」

 

「ええ。狼たちの目の前を、間抜けにも横切った羊たちが」

 

「生け贄にはうってつけでしょう」

 

「いいの?哀れな子羊かも」

 

「生憎、獲物にかける情は持ち合わせてませんので」

 

「冷たいのねえ」

 

そう呟いたのが最後、ビスマルクは水平線を睨み付け、そこにいる羊の皮を被った悪魔たちに、審判を下すことを決めた。もちろん、自らの力をもって。

 

 

 

「合戦準備!全艦、打ち合わせ通りに。フランスばかりいい格好させるんじゃないわよ!」

 

敵艦隊を有効射程圏内に捉えたドイツ艦隊に、ビスマルクの檄が飛ぶ。フランス艦隊とは反対側に位置取る彼女たちは、出撃時に打ち合わせた通り、三つの小隊に別れた。

 

「本艦目標二番艦。“シャルンホルスト”、“グナイゼナウ”目標三番艦。“プリンツ・オイゲン”以下は駆逐艦」

 

小隊それぞれに目標が指示され、測敵が始まる。“ビスマルク”が狙っているのはフランス戦艦が苦戦している、格上の戦艦だ。当の二番艦は新たな敵艦の出現に戸惑っているのか、その射撃を一時止めている。

 

彼我の距離、一万五千。砲戦距離としては近い部類に入る。この“ビスマルク”の性能を最大限に発揮するにはうってつけの距離だ。

 

「諸元入力。アントン(A砲塔)からドーラ(D砲塔)まで、全門開け」

 

艦の軸線に前後二基ずつ配置された連装砲塔が左舷を指向する。砲身が上げられるが、その角度は浅い。搭載された四七口径三八センチ砲が、久々の獲物に牙をむかんと、その砲口を黒光りさせていた。

 

「初弾から斉射。フェイエルッ!!」

 

掲げられた八門の砲身から、一斉に炎が沸き起こる。斉射の衝撃が五万トン超の艦体を揺すり、一トン近い砲弾に初速度を与えた。弓なりの弾道を描いた高初速の三八センチ砲弾八発は、狙い違わず敵艦の甲板にキスをする。

 

「初弾命中!」

 

ビスマルクが興奮気味の声を上げた。さすがは、ドイツの誇る新鋭戦艦だ。ことに、搭載されている光学観測機器の精度は世界一を自負している。その性能は、たった今の第一射で遺憾なく発揮された。

 

“ビスマルク”の主砲が再び咆哮する。同じタイミングで、敵二番艦も第一射を放ってきた。間違いなく、その目標は“ビスマルク”だ。

 

―――やれるものならやってみなさい。

 

両艦の距離は、決戦距離を割っている。これだけ接近すれば、対一六インチ防御だろうが、関係ない。“ビスマルク”の三八センチ砲でも十分に貫通可能だ。

 

その意志を示すように、“ビスマルク”の砲弾が落下し、水柱と命中弾炸裂の閃光を産み出した。命中弾は三発。三八センチ砲弾は与えられた能力を存分に発揮して、敵二番艦の装甲に食い込み、盛大に弾けた。高角砲に命中したのか、小さな箱形の物体と、細い小枝のような砲身が宙を舞う。穿たれた破孔からはどす黒い煙が噴き出し、三八センチ砲弾の威力を物語っていた。

 

“ビスマルク”の斉射は続く。第三斉射は二発の命中弾を与え、マストをねじ切った。入れ替わりに飛来した敵弾は、“ビスマルク”を通り越した位置に落ちる。

 

「当たらないわよっ!」

 

四度目の咆哮。今一度、八門の主砲口に百雷にも似た閃光が迸り、敵艦へと死神の大鎌を振り下ろす。三八センチ砲弾は敵艦の装甲を打ち破るには十分すぎる威力を持ち、今度は上部構造物、そして第二砲塔の根元に深く食い込んで、その信管を作動させた。火薬が連続的な化学反応を引き起こし、その爆発エネルギーが砲弾の外へと放出されると、周囲を巻き込んで弾けとんだ。二番砲塔がふわりと持ち上がるのが、ビスマルクにもはっきりと見えた。

 

砲座から強制的に持ち上げられた三連装砲塔が甲板に戻ってくると、自らの重さに耐えかねて、大きくひしゃげる。金属同士がこすれ、あるいは押し潰される様子をまざまざと見せつけて、二番砲塔は完全に沈黙した。

 

と、二番艦がもう一度水柱に包まれた。“ビスマルク”のものではない。それよりも一回りほど小さな水柱だ。

 

もう一隻。二番艦の隙を虎視眈々と伺っていた存在を思い出して、ビスマルクはニヤリとする。フランス戦艦も、やられっぱなしではないということだ。

 

―――なかなか骨のあるやつね。

 

一六インチ砲弾数発を被弾しながらも、最後の力を振り絞って三三センチ砲弾を放った“ダンケルク”級戦艦を見据える。その気概、無駄にはすまい。

 

敵の第三射は、“ビスマルク”を夾叉していた。だがビスマルクには、敵艦にこれ以上猶予を与えるつもりも、情もなかった。

 

「これで終わりよ」

 

砲戦に終止符を打たんとする第五斉射は、厳かに放たれた。再び轟音が艦上を走り抜け、艦橋の窓を割れんばかりに震わせる。その余韻が収まったころ、フランス戦艦が再び斉射を放ったことは、水平線近くで上がった発砲炎で確認できた。

 

弾着の水柱が上がる。それまでで最も多くの火柱が上がり、敵艦をその衝撃波で押し潰さんとする。そしてそこへ、追い打ちをかけるように二発の三三センチ砲弾が突入した。敢闘精神そのままに、弱くなった敵戦艦の装甲へと決死の突撃を敢行したフランスの砲弾は、“ビスマルク”の開けた天蓋の大穴から、第二砲塔の弾火薬庫へと至り、そこで祖国への熱い想いをぶちまけた。

 

例え三三センチ砲弾であったとしても、その破壊力は二番艦の弾火薬庫を灼熱の密室に変えるには十分すぎた。

 

次の瞬間、二番砲塔から特大の火柱が噴き上がった。二番艦のマストを遥かに凌ぐ巨大な火の塊は、爆風と業火を伴って艦上をのたうち、頑丈な戦艦のキールを真っ二つに叩き割った。二番砲塔の辺りで分離した敵戦艦の前部と後部は、しばらく漂流していたものの、やがて浸水を生じてずぶずぶと沈み込み始めた。

 

撃沈確実だ。

 

「・・・さて、獲物は残っているかしら?」

 

ビスマルクはのん気に呟く。それからしばらくして、他の二小隊からも報告が届いた。

 

『敵三番艦大火災。沈黙』

 

『駆逐艦部隊掃討完了』

 

報告を聞いたビスマルクは力強く頷く。リンデマンに向き合うと、彼は目だけで首肯してきた。

 

―――私たちの出番はここまでね。

 

二番艦よりもさらに前方の一番艦を思う。上空の観測機からは、eliteと見られる一番艦が、フランスの“リシュリュー”級戦艦と砲戦を行っているのが確認できた。元々“ダンケルク”級二隻は、一番艦同士の砲戦から残りの敵艦を引き剥がすために、粘っていたのだろう。その目論見は成功したが、今度は逆に、こちらが“リシュリュー”級の救援に向かうことができなくなった。

 

―――こんなところで、くたばるんじゃないわよ。

 

水平線の向こう―――すでに海峡を抜けようかという位置で砲戦を行う、ビスマルクがライバルと目するフランス戦艦を、彼女は無言で見つめていた。

 

 

「電路復旧!主砲、いつでも行けます!」

 

「砲撃を再開しろ!」

 

ガラスが数枚割れて、強い風の吹きこんでくる“リシュリュー”の艦橋、所々破けてしまった服も気にせず、リシュリューはさらなる斉射を命じた。

 

先ほど艦橋基部に命中した敵弾は、装甲に突き刺さって爆散し、“リシュリュー”の艦橋を激しく揺さぶった。と、同時に、爆風が主砲の管制砲撃を司る電路を遮断し、“リシュリュー”はニ分間、主砲を撃つことができなかった。妖精が早急に復旧作業を行い、これが修復後最初の斉射だ。

 

入れ替わりに飛来した敵弾は、今度も“リシュリュー”の甲板にぶち当たり、その装甲を深く抉る。いくら“リシュリュー”が堅牢な造りといえど、そろそろ限界が近かった。

 

―――だからって、負けてらんないじゃない!!

 

鮮やかに自らのスコアを横取りしていった援軍の旗艦を思い出し、歯を食い縛る。被弾損傷しながらも、敵二番艦を仕留めたストラスブールが知らせてきたのは、リシュリューがライバルと定めた、欧州最大の戦艦のスコア更新だった。

 

これで、“ビスマルク”の戦艦撃沈スコアは三。欧州トップタイだ。いや、“ストラスブール”との共同戦果とすると、二隻半だろうか。うち一隻は、今まさにリシュリューが戦っている、K級eliteだ。欧州でeliteを撃沈できたのは、“ビスマルク”と、戦艦撃沈スコアトップだけだった。

 

―――でも、あれはどっちも夜戦だった。

 

敵味方入り乱れての接近戦なら、対一六インチだろうと関係ない。

 

だからこそリシュリューは、自らの初戦果が、欧州で初めての『昼戦におけるelite撃沈』にしたかった。アメリカや日本にできて、ヨーロッパにできないはずがないことを証明したかった。そしてその偉業が、自らと、自らの祖国によって成されたことだと、知らしめたかった。だから、

 

「こんなところで・・・負けるわけにいかないのよっ!!」

 

被弾の衝撃に耐え、自らの誇る三八センチ砲に、再び砲弾と装薬が詰め込まれるのを待つ。

 

装填が完了し、妖精が臨時に組み立てた電路が、全門斉射に必要な回路を接続する。

 

復讐の準備は整った。リシュリューは、声を限りに叫ぶ。

 

復旧後二度目、通算十二回目の斉射が放たれ、リシュリューの叫びに呼応するかのようにして、八門の三八センチ砲が咆哮した。艦体を打ち震わせる衝撃に、彼女は心地よく身を任せていた。




一話からフラグ立ちまくりだったとか言ってはいけない

戦艦撃沈スコアトップは・・・次回説明ということで

次で終わりますから、はい
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