何も言い訳できん・・・
イベント真っ最中、今回は海外艦も多いですね。リシュリューやフッドが実装される日も近い・・・?
自らの艦が上げる十度目の砲声を聞き届けた時、フッドはすでに勝利を確信していた。敵戦艦から噴き出す黒煙の量は尋常ではなく、すでに艦の大半の部分が確認できない。“ホワイト”三番艦が放った第七斉射は後方から炎が見えず、弾着したのも六発だ。後部の三連装砲塔一基を潰したと判断できた。
これなら押し切れる。そんな余裕の微笑みが、彼女の表情に浮かんでいた。
と同時に、苛立ちを募らせてもいる。
―――・・・遅いわ。
フッドたちブラボー隊も、フランス艦隊であるアルファ隊も、互角以上に敵艦隊と戦っている。追いついたチャーリー隊も巡洋艦以下の敵艦をよく牽制しており、働きとしては上々である。
しかしながら、本来であればここに、さらにもう一個艦隊が加わるはずだったのだ。
デルタ隊と呼称するその艦隊は、いまだに戦場に姿を見せていない。時宜を図っているのか、単純にかっこつけているのか、あるいは何らかの問題が発生したのか。いずれにしろ遅い。
女王を待たせるとは何事か。
第十一斉射の準備を急がせつつ、フッドはたった今放った第十斉射の戦果を見守る。六本の水柱が観測され、二発が命中弾となる。爆炎が踊り、砕けた艦上構造物の破片と思しきおびただしい数の小さな影が飛び散る。
仕留めたか。一瞬期待するが、そう甘くはなく、“ホワイト”三番艦は前部砲塔六門だけでさらなる射弾を放ってくる。速力も衰えた様子はなく、elite戦艦の堅牢さを物語っていた。
―――前みたいにうまくはいかないわね。
以前elite戦艦を相手取った時を思い出した。あの時は、運よく、距離六千で放った主砲弾が敵艦の弾火薬庫に命中し、誘爆を引き起こした。
そんな都合のいい奇跡は、二回も起きない。
実力をもって仕留めるのが、やはり私にふさわしいやり方だ。
敵艦からの第八斉射が届けられる。轟音を引きずる一六インチ砲弾は、一発が前部甲板に食い込んで、板材を吹き飛ばし、盛大な火柱を上げる。艤装を通して痛みがフッドを襲うが、致命傷になり得ないことは、本能的にわかっていた。
「ファイア」
“フッド”がお返しとばかりに、第十一斉射を放つ。咆哮が艦体を奮わせ、フッドはその揺れに心地よく身を任せる。
戦場でしか聞くことのできない旋律。体の奥底に染み入るようなハーモニー。
血塗られた私には、やはりここが相応しい。
茨を刈りながら進む私には、やはりここが相応しい。
場違いな感慨に苦笑を浮かべる。次の瞬間、第十一斉射が命中した。今度の命中弾は一発。やはり決定打とはならず、“ホワイト”三番艦は入れ替わりに新たな斉射の炎を吐き出した。
その時。待望の報せが、観測機と射撃指揮所から上げられた。
『接近する艦影を捕捉』
『“ホワイト”三番艦に砲撃』
艦橋からも見える“ホワイト”三番艦の様子を確認して、フッドはほくそ笑む。立ち上っている三本の水柱は、“フッド”搭載の一五インチ砲と同程度であるが、“フッド”のものではない。
もう一つの艦隊。デルタ隊と呼称される、高速別働艦隊。地中海に閉じ込められていた、欧州艦隊最後の参加者。
「相変わらず、時間にルーズね、イタリア人」
敵弾落下に伴う衝撃を歯牙にもかけず、フッドは水平線の向こうの遅刻者に呟いた。
◇
正確に言うと、イタリア艦隊―――デルタ隊は一つではなく、二個の部隊から形成されている。一つは、“イタリア”、“ローマ”の二戦艦に駆逐艦四隻、もう一つは戦艦“ヴィットリオ・ヴェネト”と重巡“ザラ”、“ポーラ”、駆逐艦三隻の部隊だ。イタリア艦隊内では、前者をピッツァ、後者をパスタと呼称していた。
ピッツァ隊二番艦に位置する“ローマ”の艦橋で、ローマは第三射の準備を急いでいた。その額には、焦りの汗が伝う。
目標としているのは、アルファ隊が相手取る“ホワイト”の二番艦だ。距離一万八千メートルから砲撃を開始し、二回の観測射を終えているが、精度は芳しくない。
ここにきて、やはり日頃の訓練不足が祟っている。それを、ローマは痛感していた。
駆逐艦や巡洋艦ならまだしも、戦艦が砲撃訓練を行うには、ある程度の広さを持った演習海域が必要になる。それに、艦隊運動の訓練まで含めれば、最低限の制海権しか確保していなかったイタリア艦隊がこれらを一通り行うのは厳しい。
イタリア艦隊の訓練不足、特に戦艦部隊の練度不足は否めなかった。
それでも、教本通り、確実に精度を高めていくしかない。
―――だから、お願い。
もう少しだけ辛抱して。
今も“ホワイト”二番艦と激しく撃ち合っている“レナウン”級巡洋戦艦に願って、ローマは第三射を命じた。
“ローマ”含めた“ヴィットリオ・ヴェネト”級戦艦の主砲は、五〇口径三八・一センチ砲を三連装砲塔に収めて三基、計九門。それらのうち、各砲塔の右砲を用いた三度目の観測射が実施された。
ふと、ピッツァ隊一番艦の位置につける姉を見遣る。“イタリア”の発砲は“ローマ”よりもタイミングが早く、沸き起こった褐色の煙はすでに艦の後方へと流れていた。目標とするのは、“フッド”が相手取る“ホワイト”三番艦―――elite戦艦だ。こちらはすでに相当数を被弾しているらしく、朦々と噴き上がる黒煙は天に届かんばかりだ。
その“ホワイト”一番艦に対して、“イタリア”の砲撃が降り注いだ。ローマは目を見張る。“イタリア”の第三射は、二発が近、一発が遠。夾叉だ。ローマの姉は、たった三射で“ホワイト”三番艦を散布界に捉えたのだ。
ローマは意識を“ホワイト”二番艦に戻す。もしかすると、自分もこの砲撃で、夾叉を得ることができるかもしれない。
淡い願いは、叶うことがなかった。“ローマ”の第三射は、その全てが敵艦の手前に落下して、盛大な水柱を上げる。夾叉も、命中もない。“ローマ”の砲撃は、空振りを繰り返したのだ。
「フォーコ!」
修正を終えて放たれた第四射は、各砲塔左砲から放たれる。一方、“イタリア”は沈黙したままだ。斉射の準備を進めているのだろうか。
“ローマ”の砲声が収まった頃、“イタリア”の艦上に真昼の太陽が現れた。地中海を照らす光に似た爆炎が艦右舷に向けて沸き起こる。“イタリア”が最初の斉射を行ったのだ。
この時点で、“ホワイト”三番艦の運命は決したようなものだ。いかにelite戦艦といえども、二隻の戦艦に挟み撃たれては、なす術がない。
問題は、やはり“ホワイト”一、二番艦になるだろうか。
―――“ホワイト”三番艦よりも、一、二番艦に狙いをつけた方がよかったのではないかしら。
そんなことを思っても今更だ。
“ホワイト”一、二番艦と砲撃戦を繰り広げる“レナウン”級の二隻は、一五インチ砲連装三基六門と、今回の作戦に参加している戦艦の中でももっとも貧弱だ。装甲にしても心許ない。通常型とはいえ、一六インチ砲を搭載する深海棲艦の戦艦との撃ち合いは、長引けば長引くほど不利になる。
“ローマ”の第四射が落下する。地中海の海水が硝薬をたっぷりと含んで沸き立ち、丈高い三本の水柱となる。しかし、命中弾はない。三八・一センチ砲弾三発は、またも空しく、海面を叩いただけだった。
「修正急いで!」
急かす声には、自然と力がこもる。それが無駄な力みであるとわかっていても、ローマは言わずにいられなかった。
“イタリア”の第一斉射が“ホワイト”三番艦に到達し、すでに黒煙で覆いつくされている艦上に、ダメ押しとも言える命中弾の炎が踊った。両用砲を破壊したのか、細い砲身のようなものが宙を舞って、海面に突き刺さる。
炎も煙も、もはや収まる気配だない。それでも浮いているところに、eliteたる所以を見た気がした。
何と堅牢な艦なのか。
だが、さすがのeliteも、多数の一五インチ級砲弾を撃ち込まれて、無事ではなかった。
“ローマ”が第五射、“イタリア”が第二斉射を放つ頃、“ホワイト”三番艦の速力がガクリと落ち始めた。被害の蓄積が機関部にも到達し、その動きの自由を奪ったらしかった。
追い打ちをかけるように、“フッド”の一五インチ砲弾が“ホワイト”三番艦を捉える。速力が落ちた分、落下位置は幾分か前になり、艦首甲板に集中して命中した。確認できるだけで二発。
さらに、“イタリア”の砲撃も飛翔を終えて、“ホワイト”三番艦に襲いかかる。命中弾は一発。これも艦首に命中していた。水柱が晴れた時、“ホワイト”三番艦の艦首はずたずたに引き裂かれ、ささくれ立った木のようになっている。行き足は完全に失われ、艦首には波の代わりにブクブクと泡がまとわりついていた。
その戦闘能力が完全に失われたことは、明らかだった。“イタリア”は、共同戦果とはいえ、早速一隻の戦艦を撃破したのだ。
一方、“ローマ”は相変わらず空振りを繰り返していた。第五射は手前に水柱を三本上げただけに終わっている。
なぜ当たらない。そんな焦りが、ローマの額に冷たく流れる。
そんなローマをあざ笑うかのように、“ホワイト”二番艦は依然として“レナウン”級に砲火を放ち続ける。一方の“レナウン”級は、端から見てもわかるほどに満身創痍だ。砲戦を続けているのが不思議なほどだった。
“ローマ”が第六射に踏み切る。各砲塔右砲からめくるめく閃光が生まれ、艦上に轟音が響く。
“イタリア”は再び沈黙していた。“ホワイト”三番艦を撃破したと判断し、新たな敵艦に照準を変更しているのだろうか。果たして、その次なる目標は、どの敵艦になるのか。
そんなことを気にしている間に、“ローマ”の第六射が“ホワイト”二番艦に到達した。立ち上る水柱を、固唾を呑んで見守る。
「・・・ダメかっ!」
悔しさが滲む。精度は間違いなく高くなっているが、それでも命中や夾叉には至らない。
悔やんでも致し方のないこととはいえ、自らの練度不足をまざまざと見せつけられるのは、忸怩たる思いがあった。
状況はさらに悪くなる。“ローマ”が第七射の準備を進めている間に、“レナウン”級の速力が大きく落ち始めたのだ。度重なる被弾に耐えきれず、自慢の足を奪われたらしかった。
―――私のせいで。
私が早期に命中弾を出せなかったせいで、“レナウン”級が大損害を被った。そんな思いが、さらにローマの焦りを加速させる。
七度目の砲声が、“ローマ”艦上に響いた。果たして、その砲撃が当たるのか。ローマは全く自信が持てなかった。
まだ終わらない・・・
連載の方が一段落したら、今年中に地中海解放戦を終わらせ・・・たい、です
山風出たけどE-2辛い