突然だが、パラレルワールドという言葉は御存知だろうか?
似たような意味を持つ言葉として、並行世界、並行宇宙、並行時空などもあるが、まあ簡単に言ってしまえば『IFの世界』を指し示す言葉になる。
分かり易い例を挙げるとするならば、創作物を思い浮かべて欲しい。例えば特撮、これに登場するものはフィクション、つまりは虚構のものとされている。だがもし、本当にそんな世界が存在したら?
大半の方は夢の見すぎだと失笑するかもしれない。しかし、それを確かめる術など、今の人類は持ち得ていない。
少々前置きが長くなってしまったが、何故こんなことを述べたかというと、私自身が、その並行世界を巡っているからに過ぎない。何を馬鹿なことをと思われるかも知れないが、私にとっては自らが体験したことである為、この言葉に虚偽はない。
ある時は一族に課された試練を背負い、世界を破壊し続けた青年と、その仲間たちと旅をした。
平凡な日常を愛する少年と、その仲間たちと共に、総てを破壊しようとする不死の軍勢と対決した。
聖杯と呼ばれる願望器を奪い合う戦争に巻き込まれもした。
現実で幻想となったものが流れ着く郷に迷い込みもした。
科学と魔術が交差する街で、右手に異能を打ち消す力を宿した不幸を嘆く少年と共闘したりもした。
その他にも、那由多の数の世界を巡った。それこそ、気が狂いそうになるほどの年月をかけて。
何故こんな事をする羽目になったのかは今でも定かではない。世界を巡り始めた頃は、少々腕が立つ程度の学生だったと思う。だが、世界を1つ、また1つと巡るうちに摩訶不思議なチカラが宿っていき、自分が人間という種族から乖離していくという実感があった。
今では最早、出来ない事の方が少なくなってさえいる。与えられたとも、押し付けられたとも言えるチカラの中には不老の効果を及ぼすものもあったようで、自分の外見は20代後半の姿を保ったままだ。
と、此処まで散々愚痴に近い物言いをしてきたが、無論悪い事ばかりではない。世界を巡るたび、新たなチカラ、新たな情景、新たな技術、そして新たな友を得ることが出来た。もしそれすら得ることが出来ていなかったのならば、とうの昔に自ら命を絶っていただろう(死ねるかどうかは別にしてだが)
那由多の世界を超えてもなお、こうして当てのない旅を続けているのはひとえに友となった彼等から託されたモノがあるからだろう。
自らの命を賭してまで、一族の悲願を果たそうとした男からは、自分の総べてを代償にしてでも為し遂げようとする覚悟を学んだ。
私と同じ果てのない繰り返し(永劫回帰と言っていた)をしていた男は、とある術式と、それに必要な物を用意してくれ、互いに友と呼び合うようになった。
怪人と戦う男達からは、彼らの魂とも言ってもいい物を託された。
………結局、那由多の時を体験したところで私自身が変わったわけではないと思う。いくら力を得たとはいえ、それは与えられた物。自らが磨きあげた物ではないのだ。
故に、託された想いを無下にしないように、自己の研鑽だけは忘れなかった。
それさえも怠ってしまえば、私は恐らく『ワタシ』ではなくなってしまうだろう。もしかしたら、私を崩壊させることが、私をこのような道に引き込んだ者の目的かもしれないが、今更どうでもいいことだ。
「今度はどのような世界なのだろうか?辺りを見渡した限りでは、此処は私が旅を始めた頃の日本と同じような風景なのだが……」
毎度のことながら、自分がどのような世界に来たのか、調べなければ行けないというのは非常に面倒だ。
「精神的には既に老害を通り越している筈なのに、ちっとも歳をとったと感じないのは何故なのだろうか……?」
数少ない、旅の始まりからの所持品であるスマートフォンを懐から取り出す。これも本来ならとうの昔に壊れている筈なのに、いつの間にか、電波が届かない場所でさえ、あらゆる機能が使用可能、更には充電不要の魔改造品になっていた。
何度か中世のような世界でも機能した為、それ以降は必ず世界を訪れた際には現在地を調べる為に使うことにしている。
「なにせ、大概はその世界特有の土地に流れ着くからなぁ………」
GPS機能により、スマートフォンの画面に現在地の住所が判明する。
「海鳴市藤見町、ね。来たことも、聞いたこともない地名……新たな世界、か」
並行世界といえど、殆どの世界が細かな差異に留まる。極たまにだが、ロボットが存在する世界や、完璧なファンタジー感が漂う世界、果てには別の惑星なんてこともあるにはあるが。
「取り敢えず、この世界での拠点を探すとしますかね」
流石に文明がある世界で野宿は辛いものがある。
「果たして、この世界では一体何が起こるというのかねぇ?」
私が訪れる世界に共通する条件として、必ずその世界が崩壊する危機が訪れる。場合によっては全並行宇宙を滅ぼしかねない事態に発展することもあった。
俺をこのような役目につけた某は世界を守らせる為にチカラを与えるのか?または世界を壊させる為なのか?それとも、こうやって俺が足掻くのを楽しんでいるのだろうか?
「まあこのような事を考えても詮無きことではあるが……」
「…………離……さいよっ!!この…態っ!」
相も変わらず、無駄な事に思考を割いていると、遠くの方から少女の悲鳴らしき声が聞こえてきた。
「………いきなりトラブルに巻き込まれそうな予感がしてきたな」
声の聞こえてきた方に急ぎ目で向かうと、年端もいかない少女二人が黒服の集団に車の中に担ぎこまれていくところだった。
「………何となくわかってはいたが誘拐か」
そんなことを呟いているうちに車は走り出してしまった。
「……このまま見捨てるのも目覚めが悪い、か」
呟きつつ、チカラの一つである異空間に存在する収納空間の入口を開き、愛用しているバイクである
『ディアブロッサ・カスタム』を取り出し、跨る。
「さて、人助けの時間と洒落こもうか……!」
漆黒のフルフェイスのヘルメットを被り、バイクを走らせる。これが私、『