紫耀の愚痴兼事件についての報告を受けた帰り、ディアブロッサ・カスタムに跨り、ホテルへと帰る途中、奇妙な感覚に襲われる。何処かで感じたことがあるのだが………それが何時のものだったか、いまいち確証が持てない。
私はバイクを道の脇に止めて、辺りを警戒する。そこで始めて街の異常さに気付く。まだ16時頃の大通りだというのに人の気配を感じないのだ。『まるで私の周りの空間だけ別の位相にずらされた』としか形容出来そうに無い現象にようやく私の記憶が照合を終わらせる。………成程、直ぐにはわからないはずだ。
「相変わらず、回りくどい手段が好きだなカール?」
「仕方あるまい。生憎私はこういった手法しか知らんのだから」
暗がりから現れたのは、ぼろ布を身に纏った浮世離れした雰囲気を漂わせている人物。彼は様々な名を持っているが、一番私に馴染みのある名を挙げるなら、
【カール・クラフト】という名になる。
私にエイヴィヒカイトを与え、かつ友となった、一番付き合いの長い人物でもある。
「それを止めればもう少し彼女にも受け入れられるだろうに………まあ何にせよ、直接会うのは久しぶりだな、カール」
「ああ 、久しぶりだな友よ。最後に会ったのは、数万年程前だったかな?お前から知らされた我が女神の治世を脅かす因子を根こそぎ撲滅した時以来だったと思うが」
「ああ、あれは面倒だったな……」
第六天、天狗道の因子を一欠片すら残さぬ勢いで殲滅していくカールに付き合うのは骨が折れた。因子を持つモノ全て超新星爆発で対処しようとするのだから、後始末が本当に面倒だった。
「それで?態々私を訪ねてくるとはどういう心境の変化だ?今までは『女神を追い掛けるのに忙しい』等とほざいていただろうに」
「何、そうたいした事では無いよ。何時もの様に愛しの女神を見守っていたら、我が愚息の怒りに触れてしまってね。本気で首を落とされそうになったので、ほとぼりが冷めるまでの間、座を離れることにしたのだよ。そこでお前のことを思い出してね、顔を見に来たというわけだ」
「…………………いつも通りで、ある意味安心したよ」
「まあそれは本当のことだが、もう一つお前に関する用事があるのだよ」
「私に………?一体なんだというんだ?」
「そこまで深刻な話ではない………お前の抱える問題を解決する
「何だと……!?」
この永劫の放浪を終わらせることが出来るというのか!!………いやいや、落ち着け。興奮していてもいいことなどひとつもない。
「そうか………感謝するよ、カール」
「別に礼は要らんよ、一応現段階ではあくまで方法を見つけたに過ぎん。それを実行するにはまだ準備が必要なのでな………おそらくこの世界のクリスマス辺りには準備が整うだろう」
「わかった…………しかし、まさかお前が私の抱える問題について考えていたとは、まさに驚天動地という物だな」
「そうかね?これでも色々大変なのだぞ?私も」
「その大半は自業自得だろうに」
本当に裏で動き過ぎるから、周りに厄介者扱いされるというのに………まあそれこそがこいつを象徴すると言ってもいいがな。
「では、私はこれで失礼するよ。あまり長い間こうして位相をずらすのも手間なのでな」
「そうか………ああ、そうだ。これをラインハルトに渡しておいてくれ。この世界で起こった魂のぶつかり合いを記録したものだ。あいつもきっと目を惹かれるだろう」
そう言って渡すのは、先日編集し終えたなのは嬢と、フェイト嬢の決闘を収めたディスク。元々渡すつもりだったので、丁度良かった。
「ふむ、確かに………ではこれにて失礼するよ、我が友」
「ああ、また会おう。我が友よ」
別れの言葉を交わすと同時、カールが現れた時と同じように音も立てずに消える。それと時を同じくして空間のズレも無くなり、一気に騒がしくなった。
「やれやれ、予想だにしていなかったが、良い話が聞けた。クリスマス………あと半年程か。紫耀が言っていた二回目の危機とやらがそれまでに起これば、憂いなくその時を迎えられるのだがな」
そう呟き、改めてバイクに跨りエンジンを掛ける。
そうして考えるのは万が一、カールの言っていた準備とその危機が重なってしまった場合だ。
そうなった場合、カールには申し訳ないが少し待ってもらうしかないだろう。今回の一件を見る限り、私は必要無さそうだが、私が不用意に介入した事による歪みが現れないとも限らない。
「どちらにしろ、最後になるかもしれんのだ。放置する気にもなれんしな」
呟きつつ、ホテルへとバイクを走らせる。未来のことを考えていても拉致が明かない。いつも通りの日々を過ごしていくとしよう。