毎度のことになって来たが、また時は流れて今は八月上旬……今私は海に来ている。いきなり何を言っているんだと思うだろうが、まずは私の話を聞いて欲しい。
事の起こりは一週間程前になる。いつも通り翠屋でアルバイトに励んでいた私に高町夫妻が、前回温泉街に行った集まりで海に行かないかと聞いてきたのだ。
今回は断るつもりだったのだが、紫耀が勝手に私を参加すると高町夫妻に既に言っていて、もうホテルまで手配してしまっているとの事。
流石にそこまでお膳立てされていては断るのも失礼な為、やむなく参加を決めた。…………後日紫耀には痛い目にあってもらうとしよう。
で、結局前回と同様にサイドバッシャーでここまで来た訳なのだが………敢えて言おう。場違い感が半端ではない。なのは嬢達、小学生組は無邪気に海を楽しんでおり、高町夫妻、恭弥と忍、そして灰群蒼児となのは嬢の姉である高町美由希は桃色空間を展開している。………前2組はまだ分かるが、灰群蒼児と高町美由希がそういう関係だとは正直意外だった。高町美由希はまだしも、灰群蒼児はそういったことに興味が無いと思っていたのだが………まあ見る限り高町美由希が一方的に甘えているだけの様だがな。
残りの紫耀とローザ・シャルラハロートはというと………
「紫耀………好い加減覚悟を決めて貰いますわよ?」
「だ・か・ら!断るって言ってんだろうがああ!!」
あっちの砂浜でラブコメを繰り広げている。
ローザ・シャルラハロートの手にはサンオイルらしきものを手に持って紫耀を追い回している。
つまり今、この場で独り身なのは私のみという事になる。…………帰っていいだろうか?
「しかし………こういった空気も偶には悪くはない、か」
ついこの間まで闘っていた者達が、こうして日常に違和感無く戻れるというのは感心する。……まあ命を奪われる心配が無かったからかもしれないがな。
「……………なのは嬢達が危険なことをしないように見張っておくとしようかね」
高町夫妻や恭弥達がそういったものを見逃すことは無いとは思うが、念のためだ。
そんなこんなで時は過ぎ、時刻は夕刻。既に皆ホテルへと戻って来ている。子供組は女性陣に任せ、男性陣は私に宛てがわれた部屋に集まっている。しかもこっそり持ってきていたのか、紫耀は酒まで持って来た。
まさかこいつここで飲む気か……?
「しかしあれだな。私は灰群蒼児が美由希嬢と親しい間柄だとは知らなかったな」
「「何だと!!!?」」
「…………うっさい、高町親子。別にそんな関係じゃない……高校の後輩だし、偶に相談に乗ったり、勉強教えたりしてただけだよ。他意はないっての」
「…美由希の嬢ちゃんはお前のこと気にしてたぜぇ?ありゃ脈アリだと俺は見たね」
紫耀がニヤニヤしながら灰群蒼児に絡んでいる。……ほんのり顔が赤くなっているところを見るに、既に酔っているなこいつ。そして高町親子よ、親馬鹿、妹馬鹿も程々にしたまえよ………
「蒼児君………美由希と付き合う男の最低条件は僕を倒すことなのであしからず」
「そして父さんに挑むには俺を倒してからだ」
「いい加減にしろよ家族馬鹿どもが……!僕にその気は無いって言ってんだろ!!!?」
「「うちの娘(妹)に魅力が無いというのか貴様!!!」」
「そんなこと一言も言ってねぇええええ!!!!!???」
………よくよく見れば、士郎殿と恭弥も顔が赤くなっているし、手に持っているのはビール缶だ。
「……………話を振った私が言うのもなんだが、頑張りたまえ」
「あんたが原因何だから助けろよ!!!?」
「私が自分に課している信念の一つに『質の悪い酔い方をする者に関わらない』というものがある。よって、それに従い私は彼等に関わらない。何、これも社会勉強だと思えばそこまで苦にはならんさ」
「巫山戯んなてめぇぇえええええ!!!!!!!」
灰群蒼児の腹の底からの絶叫には耳を貸さずに、何時の間にか少し離れたところに移動していた紫耀の横へ移動する。
「………貴様も質が悪いな、紫耀。こういう事態になるのが分かっていて私の話に乗ったな?」
「まっさかー、そんな訳ねぇだろー」
「ニヤニヤ笑いながら棒読みで言われても、説得力皆無なんだが」
私の視線の先では、灰群蒼児がじりじりと近付いてくる高町親子から距離を取ろうとしているが、高町親子は無駄に巧妙に距離を詰めていっている。この様子だとあと1、2分で捕まるだろう。
「………ああ、そうだ紫耀。貴様はどうなんだ?」
「はぁ?なんだよ急に」
「惚けるなよ。ローザ・シャルラハロートと随分といい雰囲気だったではないか」
「んな訳ねぇだろバーカ」
「いやいや、僕たちから見てもカップルみたいだったよ?」
「お前とシャルラハロートを見ていると、付き合い始めた当初の俺と忍を思い出したな」
「うおっ!!?あんたらいつの間に!!?」
さらっと会話に混ざってきたな、この二人。灰群蒼児の方を見てみると、顔を青くして倒れていた。横にビール缶が転がっているのを見るに無理矢理飲まされたな。可哀想だが、まあ放っておいても問題はない………と言うか、寝かせておいてやろう。その方が彼にとっても幸せだろうな。
「なんだ紫耀、貴様ローザ・シャルラハロートと付き合っているのでは無いのかね?」
「付き合ってなんかねぇっての!!………大体、あいつあれでもドイツの貴族の生まれだぜ?絶対婚約者とか居るって」
そう言う紫耀の顔に僅かながら翳りが見える。
…………おやおや?これはもしや?
すかさず高町親子にアイコンタクトをとる。
私の意図はきちんと通じたようで、頷いてくれた。
「………そんな訳無いだろ?結構前にローザに聞いたんだけど、あいつ日本に来るときに父親と揉めて、ほぼ勘当状態らしい。仮にそうじゃなかったとしてもあいつ末っ子らしいからその辺は甘いって言ってたよ」
まさかの横で死んでいた蒼児が大きな援護となる言葉を放った。ゆらりとまるで亡霊のように立ち上がった彼の目には、同じ目にあわせてやろうという暗い感情が見え隠れしている。
「え、いやいやいやいや。あいつとは付き合い長ぇけどそんな話初耳なんだけど」
「僕くらいにしか話してないらしいからね。取り敢えずもう一回よく考えてみることを僕は勧めるよ」
「お、おう…………」
気付いたら灰群蒼児の一人舞台となっていた。もう少し紫耀で遊びたかったが………まあいいだろう。それはまたの機会にするとしよう。
「……………それじゃ、本題に入ろうか」
「ん?本題とは一体何のことだね?」
少なくともこの場で話すような話題に心当たりは無いのだが………
「は?この流れで話すことなんて一つしか無いだろ?…………緋峰蓮夜。アンタのこれまでの女性関係、洗いざらい喋って貰うよ」
「………本気かね?」
「当然」
「ああ、それは俺も興味あるな。蓮夜は結構整った容姿だし、彼女の一人や二人はいた事あるだろう?」
「そうだな、後学のためにいっちょ頼むわ」
恭弥と紫耀も灰群蒼児に同調して、私に話させようとしてくる。………士郎殿も場の空気を壊さない為か、口を挟む気は無いらしい。
「………………別に私の恋愛経験なんぞ面白くもなんとも無いぞ?」
「それはこっちで判断する。アンタはただ、語ればいい」
「やれやれ………強情なことだな」
もう私には話さない、という選択肢はないようだし、素直に話すとしようか。
「まあ確かに私も幾度か女性とそういった関係になったことはあるさ」
「どんな人物だったか一人一人詳しく話してもらおうか……!」
「外見と性格だけだ。それ以上はプライバシーの侵害になる為、話さないぞ?」
「………………チッ。まあ仕方ないか、それで良いからとっとと話せ」
「灰群蒼児………貴様どんどん遠慮なくなってきていないか?まあ別に構わんが」
………さて、語るにしても誰について語ろうか。幾度かと言ってしまっているから少なくとも3人は語らなければならないが………なるようになるだろう。
「ではまず一人目だが………容姿は金髪蒼眼、髪型はツインテールを巻き髪のような形ににしていた。誇り高く、自分にも他人にも厳格で、私も何度も彼女に叱られたものだ」
まだ私が放浪を始めたばかりの頃で、精神的に不安定になっていた時期に、私は彼女に支えられていたのだ。…………まったく、改めて思い起こすと彼女には頭が上がらんな。カールの術が成功したら、彼女に会いにいかねばならぬな。あの時はなし崩し的に別れてしまったのだ。殴られる覚悟をしておかねばな。
「…………へぇ、アンタでもそんな顔するんだ?」
「ん?そんな変な顔をしていたかね?」
「いやいや、スッゲェ良い顔してるぜ?そうだな……心底誇ってる感じがするぜ?」
紫耀が軽く笑いながら、語りかけてくる。………そんな顔をしていたのか、私は。
「ま、私にとって彼女はそれほどの存在というわけだ」
少々強引に話を切る。これ以上彼女について話していたら余計なことまで話してしまいそうだ。
「彼女の他には………そうだな。容姿は銀髪金眼、西洋人形の如き美貌を持ち合わせていながらも、常識が欠如していた。彼女は純粋ではあるが、子供のような好奇心も持ち合わせていた。そして何より、強かった。………ああ、強かったとも」
「お、おい大丈夫か?蓮夜。目が死んでいるぞ…?」
「気にするな………少々苦い記憶が想起されただけだ」
思わずあの時の悪夢を思い出してしまった。忘れることが出来ない我が身だが、『思い出せなく』することは一応可能なのだ。でなければ幾度となくトラウマに苛まれることになるのでな。
「ま、私の女性関係はこのあたりでいいだろう。これ以上語ることはない」
「………ま、珍しいものも見れたからこれで勘弁して上げるよ。………でも最後にひとつだけ聞かせてよ」
「なんだね?答えられることなら答えよう」
「………その
「―――――」
その質問に一瞬、意識に空白が生まれる。まさか、そんな質問をされるとは思っていなかった。だが、それに関して私が言えることは唯一つ。
「それぞれ、自分の道を歩んでいるさ。………私は、そう信じている」
「…………そ。ならいいや」
私の返事で納得したのか、灰群蒼児は興味なさげな返事を返しただけだった。
「さて、恋愛話はこのあたりで良いだろう。確かそろそろ夕食の時間ではないかね?」
「本当だね、じゃあ女性陣と合流しようか」
士郎殿の声により、全員が一斉に立ち上がる。
これより後は、特に面白い出来事も無かったので割愛させてもらうとしよう。
こうして、私の夏季休暇は消費されていくのであった。