巻き込まれた放浪者   作:北河静

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第14話

先日の海水浴から1週間。現在私は海鳴市の外れにある山に佇んでいる。私の眼前にはデバイスをこちらへと向けている紫耀達三人の姿がある。私も、まだ武器を具現化してはいないものの、既に形成位階にまでエイヴィヒカイトの位階を上げている。

 

…………何故こんな事をしているのかというと、海水浴の時のストレス発散だ。紫耀を呼んだ時に他の二人も一緒にいた為、強制連行させてもらった。

 

「どうした?貴様等の決意とやらはこの程度の障害で諦められる陳腐なものなのかね?そうではないと言うのならさっさと掛かってきたまえ」

「…………て、めぇぇええ!!!!!!」

 

そう叫ぶなり紫耀がこちらに突っ込んでくる。その勢いは、常人には出せない領域ではあるが、エイヴィヒカイトを習得している者にとっては少し速い程度でしかない。

 

「遅い」

「がっ……はッ!!?」

 

紫耀が居合刀を引き抜こうとした瞬間、彼の懐に入り込み、腹部に掌底をぶつける。紫耀の出せる全力に近い速度で突っ込んで来たところにカウンター気味に放たれたそれは、痛みに慣れているであろう紫耀を悶絶させるほどの威力となって彼を襲った。

 

「紫耀!!?くっ、このッ!!」

「…………ッ!!」

 

紫耀は後方へと吹き飛ぶ。ローザ・シャルラハロートはそれを追いつつも、牽制の為の魔力弾を放ってくる。そしてそれに乗じる形で灰群蒼児が背後から双剣を振るってくる。

 

「奇襲時に声を出さない点は評価出来るが、太刀筋が甘い。そんなものが私に通じるとでも?」

「………別に構わない。あくまで時間稼ぎが目的だから…ねっ!!!」

 

脅威に成り得ない魔力弾は無視して、灰群蒼児の対処にのみ意識を向ける。右手は順手、左手は逆手に持ってこちらに剣を振るう彼には、紫耀とはまた違った強さが垣間見える。そしてもう一つ、彼の体裁きには何処か恭弥に通じる物がある。………もしや。

 

「灰群蒼児……貴様、御神の技を修得したのか?」

「まさか。見様見真似で動いてるだけだ…よッ!!」

「…………本来それすら不可能な筈なのではないかな?」

 

縦横無尽、変幻自在に繰り出される剣戟。私でなければ、あっという間に倒してしまいそうな勢いではある、だがそれでも私には脅威に成り得ない。

………だが、時間稼ぎという点では非常に有効だ。

 

「蒼児!!離れなさい!!!」

「オッ…ケー!!」

「何っ!!?」

 

灰群蒼児が目の前から消えた瞬間に現れる、光の塊。

これはローザ・シャルラハロートの技……!!流石にこれを素手で凌ぐのは不味い!!

 

「チィ……!!」

 

舌打ちを1つ打ちながら聖遺物を形成する。

 

―――Yetzirah―――

 

一族の悲願宿りし時計(エンスタフター・クルスニク)

 

その言葉によって生み出されるのは漆黒の槍。それにより魔力剣を打ち消す。

 

「それが、貴方の聖遺物ですか?」

「まあ間違ってはおらんが………違うよ。これは友の所有物だった(・・・)ものだ」

 

そう言いつつ、手にある槍を見る。触れたもの全てを滅ぼしてしまいかねない雰囲気を放ちながらも何処か生物的な造形のそれは、この聖遺物の元になった時計を操っていた男たちの魂を宿しているといっても過言ではない。

 

「しかし、私に武器を形成させるとは……少々君達を舐めていたかもしれんな」

「ケッ……随分とはっきり言ってくれるなぁオイ」

「仕方あるまい。本来エイヴィヒカイトを修得した者に対して、聖遺物を持たない者が傷を負わせることすら不可能なのだぞ?」

「じゃあ何でさっきのローザの攻撃は防いだんだよ」

「私も十全に理解しているとは言えないのだが、エイヴィヒカイトは世界によって効力が上下してしまうのだ。この世界でいえば、ある一定以上の魔力が込められた攻撃なら一応通る仕様になっている。………例を出すなら、なのは嬢の砲撃魔法クラスなら多少だが、ダメージは入る筈だ」

「成程ねぇ………いいこと聞いたぜ。村正!!カードリッジロード!!豪勢に全発持ってけ!!」

『椋解!!!』

 

そう言うなり、紫耀は居合の構えを取る。そしてその鞘から薬莢が六発排出されると同時に、凄まじい魔力を紫耀から感じる。

 

「ワルキューレ、私達も行きますわよ!!」

『畏まりました、お嬢様!!』

「………シェルティス、カードリッジ」

 

ローザ・シャルラハロートと灰群蒼児も同様に魔力が跳ね上がる。

 

「ほう………それが奥の手かね?」

「ま、切り札の一つだ。とくと味わいな……七曜流が奥義…絶空!!!」

「滅ぼせ閃光!!!シュテルリヒト・ブレイザー!!!」

「……………零閃!!」

 

三者三様の魔力刃がこちらに迫ってくる。それに対し、こちらは槍の穂先を迫り来る魔力刃へと向ける。

 

「………破壊しろ、クルスニクの槍よ!!」

 

手に持つ槍から放たれる閃光。それに触れた魔力刃は全て跡形も無く消え去る。聖遺物、一族の悲願宿りし時計。数多の世界を破壊してきたそれに宿った力は当然の如く破壊の力。何もかもを破壊する槍の前では、例え魔力という非物質の前でも、容赦無くその効果を発揮する。

 

「なっ……!!?」

「嘘でしょう……!!?」

「…………わお」

 

紫耀達は自分の切り札の一つが容易く無効化された事に驚きを隠せないようだ。

 

「ふむ。これ以上やっても進展は無さそうだ、ここまでにするとしよう」

「はっ!!まだ行けるっての!!」

「貴様はそうかもしれんが、後ろの二人がもうグロッキーなのでな。貴様一人でも相手になると言うのなら別に構わんが………創造まで使って瞬殺するぞ?」

「……………………チッ!!わーったよ」

 

ようやく紫耀も納得したようで形成を解き、彼らへと近づく。

 

「しかし最後の技はなかなかに面白いかったな。凝縮した魔力を薬莢に詰め、それを使うことによる一時的なブーストか。多少博打の要素はあるものの、効果的ではある」

「それを軽々と無力化したテメェに言われても嬉しかねーよ!!」

「まあそう言うな。黒円卓の連中も私と同じように一撃で総てを終わらせるような奴が現れるかもしれんのだ。そう考えれば、良い経験になっただろう?」

「……ま、そりゃそうだけどよ。なんか釈然としねーんだよ」

 

そう言いつつ、むくれる紫耀。餓鬼か貴様は。

 

「ま、これから定期的に鍛えてやろうと思うが……都合は合うかね?」

「僕は無理。そろそろ受験のスパートかけないといけないし」

「………せっかくの申し出を無下にする様で悪ぃんだが、俺とローザも無理だ。長期の護衛の仕事が入ってな、少なくとも冬になるまで海鳴を離れることになってるんだ」

「そうか、まあ私の暇潰しになるかと思っての提案だから気にすることはない」

 

チッ、手頃な弄り相手が居なくなるのは勿体無い。

 

「そうかよ。俺とローザは明日にも出発する予定だから今のうちに伝えとくけど、次の事件が起こるのは恐らく十二月頃になると思う。俺らもなるべく早く戻れるようにするつもりだが……いざという時は頼む。なのは嬢ちゃん達を守ってやってくれ」

 

そう言いつつ紫耀が頭を下げる。………こいつ、彼女を思いやる気持ちの十分の一でもローザ・シャルラハロートに向けてやればいいものを……

 

「心配せんでも出来る限りのことはするさ。貴様は仕事に集中していろ」

「……ああ、助かるぜ」

 

言葉を交わし、そのままこの場で解散する。

 

………次は冬か。後半年程になる。それまでは、ドライバー等の調整と、管理局から抜き出した隠匿データでも整理するとするか。

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