はやて嬢と買い物を終えて、現在ははやて嬢と共に調理中だ。今宵の献立はカレーらしく、私は材料の下拵えを担当している。
本来なら、はやて嬢が全て一人で作るつもりだったようだが、流石にそれは許容出来なかった為、多少の口論を繰り広げた結果こういう形になった。
「もう……緋峰さんは頑固やなぁ。わたしがお礼に晩御飯ご馳走する言うてるのに手伝おうとすんねんもん」
「その気持ちだけ有り難く受け取っておくとするよ。私は身体が不自由な少女に全て任せられる様な人間ではないのだよ」
台所に隣り合った状態で作業を進めていく。
……とはいえ、私の割り振られた役割はあっという間に終わりを迎え、はやて嬢にリビングの方に追いやられてしまった。………………データを纏めておくとしようかね。
リビングに追いやられて数十分後、リビングにまで、良い匂いが漂って来た。
「緋峰さーん、カレー出来たで〜」
「む?了承した。はやて嬢」
二人分のカレーをよそい、テーブルへと運ぶ。他にはサラダ程度の簡素なものだが、充分だろう。
二人、向かい合ってテーブルにつく。
「「いただきます」」
二人揃って食事前の挨拶をし、食べ始める。ちょうど安売りしていた鶏肉を使ったカレーは程よい辛さで舌を刺激しつつも、口の中には凝縮された旨みが広がっていく。まあ端的に言えばかなりの味だ。何処ぞのカレー狂いの代行者が作ったものに匹敵しうる程だ。
「ほう………素晴らしいな、このカレーは。とても小学生が作ったものとは思えない出来だ」
「ホンマに!!?そう言ってもらえると嬉しいわ〜」
そのような、たわいない事を話す。
そしてそれから一時間程後、私はホテルへと帰る準備をしていた。はやて嬢もわざわざ玄関先まで来てくれた。………律儀な娘だな。
「ごめんな〜緋峰さん、長い事引き止めてしもて…」
「だから気にするなと言っているだろう。私が望んではやて嬢の手助けをしたのだ。君が気に病む必要は無い」
「で、でも………」
「…………ハァ。先程から何度も言っているが、改めて言おう。子供が遠慮するな……もっと周りを頼りたまえ」
「うわっ!!?緋峰さん!!やーめーてー!!?」
そう言いながらはやて嬢の頭を少々乱暴に撫でる。はやて嬢も悲鳴をあげながらも顔が少し綻んでいる。
「ではな、はやて嬢。何か困ったことが有ったら、この番号に電話したまえ。私が地球の裏側にいようとも通じる」
そう言って、携帯の番号をメモした紙を渡す。
「ありがとうな、緋峰さん」
「無論、困ったことが無くても気軽に電話してくれても構わんがね。ま、こんな面倒臭い大人と話す気があるのなら、だがね」
「あ、あはは………自分でそういう事言うってどうなん?」
「自己の認識を正しくしているだけ、マシだと私は思うがね」
何処ぞの阿呆のように与えられた力で調子に乗るような屑よりは絶対にまともであるはずだ。
「さて、名残惜しいが私はもう行くとしよう。またな、はやて嬢」
「う、うん。またね、緋峰さん」
はやて嬢に見送られ、八神家を出てサイドバッシャーに跨り、ホテルへ………ではなく、以前に紫耀達と戦った場所へ向かう。その理由としては、八神家を出ようとした直前から、視線を感じた為だ。大方、八神家に張られていた認識阻害の結界の行使者だろう。わざわざこちらに触れてこようとしているのだ。盛大に出迎えてやるとしよう。
10分程で、紫耀達と闘った場所につき、バイクを異空間へしまう。放置しておいて、万が一壊されでもしたらショックで三日は寝込む自信がある。あれも永い放浪の中で譲り受けた物なのだ。修理出来るだけの技術を持ち合わせていても、壊されるのは勘弁願いたいのだ。
「………態々人気の無い所まで来てやったのだ。何時までも隠れていないで、出て来たらどうかね?」
そんなことを考えつつ、背後から感じる気配の主へと声を掛ける。………出て来るかは正直半々だと思うが、まあ出て来なければこのまま帰るだけだが、さてどう出て来るやら……
「………………」
と思考したのもつかの間、目の前に仮面を付けた人物が現れる。
「漸く姿を見せたか………で?わざわざ後をつけて来たのだ、何か私に言いたいことが有るのではないかね?」
何時もよりも威圧的な態度で相手へと話し掛ける。年端もいかぬ少女を人知れず見張っているような輩に、親切に接する気は無い。
「私が貴様に言う事は唯1つ。………八神はやてに近付くな。これに従わない以上、こちらは武力行使も厭わない」
………成程。これではやて嬢が何かしら、厄介なモノを抱え込んでるということは確定。しかも彼女自身はそれに気付いていない………こうなると彼女の父親の友人を名乗る人物がきな臭いな。……後の対処が面倒なことになりそうだが、
「………何時まで黙りこくっている。返事を聞かせて貰おうか」
「無論、断る。貴様の様な年端もいかぬ少女を影から監視している奴の言う事なぞ誰が聞くというのかね?」
仮面の男の要求をあっさりと跳ね除ける。恐らくこいつは管理局……というより彼等の技術を使っている者、即ち【魔導師】と見た。………紫耀から情報が伝わっている可能性がある以上、エイヴィヒカイトを使うのは少々リスクがあるか……?
「そうか……なら、此処で始末させてもらう……!!」
その言葉と共に男は青い魔力弾を飛ばしてくる。………やはり魔導師か!!
「さて、どうするかな………?」
連続して飛んでくる魔力弾を避けつつ、思考を続ける。別にこのまま無力化してもいいのだが、生身の人間が魔導師を無力化するというのは黒円卓の連中と関わりがあると思われる可能性がある為、なるべく避けたい。ここで息の根を止めてしまえばそんな心配をしなくてもいいのかも知れないが、大方こいつの背後にも支援者のような人物が居るはず。
そうだとすれば情報が漏れるのも時間の問題になるだろうし、そのようなリスクを許容する訳にもいかんしな。
………折角の機会だ、ドライバーの実戦テストと行くか。
思考を止め、思い切り後ろへと飛び退く。仮面の男がこちらの動きに戸惑っているうちに懐からロストドライバーを取り出し、腰に装着する。
「………何の真似だ?」
「何、別に大したものではない………貴様を倒す為のちょっとした武装だよ」
「何……?」
仮面の男が訝しげな雰囲気を無視し、懐から白い掌ほどの大きさのUSBメモリ……【ガイアメモリ】を取り出す。
「私にとって、貴様の存在などはどうでもいい。………だが、貴様のせいではやて嬢から笑顔が失われているのだとしたら……私はそれを見過ごす訳にはいかんのでな」
【Eternal!!】
ガイアメモリについているボタンを押すと、メモリから音声、【ガイアウィスパー】が響く。そこから響いたのは永遠を象徴する言葉。それをベルトへと差し込み、倒す。そして、異形の者の力を用いて悪を倒す戦士達……【仮面ライダー】が言い続けてきた言葉を紡ぐ。
「変…身」
その言葉と共に私の体はガイアメモリにより、変質していく。全身は白く、頭部はEを横にしたような角、目の部分は黄色の複眼、全身にマキシマムスロットを装備し、【エターナルローブ】を纏った姿、
【仮面ライダーエターナル】へと変身する。
「な、何だ!?その姿は!!」
「だから言っているだろう?貴様を倒す為の武装だとな」
仮面の男の驚愕を受け流しつつ、新たなガイアメモリを2本と大型の銃、【エターナルブラスター】を取り出す。
「性能実験は済ませてある……威力は折り紙つきだぞ?」
【Heat!!】【Luna!!】
熱きの記憶を宿すヒートメモリ、幻想の記憶を宿すルナメモリをエターナルブラスターへと差し込み、仮面の男に狙いを付け、引き金を引く。
ルナメモリの力でエターナルブラスターから放たれる砲弾はこちらの意思で自在に操る事ができる。そうやすやすと避けられる代物ではない。
「チィ………!!」
仮面の男はこの弾丸の危険性をを直感的に感じ取ったのか、空へと逃げる。………確かにいい判断だが、その程度では幻想が宿ったこの砲弾を避けられんよ。
砲弾は仮面の男を追いかける。その速度は男が空を飛ぶ速度よりも速く、後少しで男に当たる。男も避け切れないと悟ったのか、魔法で防御するつもりらしいが………ヒートメモリで増幅されたこの砲弾を防げるとでも思っているのかね?
「さぁ……弾けろ」
「グァアアア!!?」
砲弾が仮面の男が張った魔法による防壁に触れた瞬間、炸裂する。その威力は容易く男の防壁を破壊し、爆風が男を飲み込む。
「………ふむ、対魔導師戦ではメモリによる威力増幅は必要無い……というよりは威力過剰になってしまうか」
「ぐっ………きさ、ま……!」
「おや、死んではいないとは思ってはいたが、まだ話せる程余力があるのか。予想以上に頑丈だな、貴様」
確か魔導師は戦闘時に【バリアジャケット】とか言う防護服を装備しているとか紫耀が言っていたが、恐らくそれでダメージを軽減したのだろう。
「………で?私に対して偉そうに指図していた貴様は、不様にも私の前で這いつくばっているのだが……何か言うことはあるかね?」
「…………あの娘に関わると、後悔することになるぞ……!」
「………そうか、ではさらばだ。名も知らぬ愚物よ」
【Eternal Maximum Drive!!】
【Heat Maximum Drive!!】
【Luna Maximum Drive!!】
エターナルメモリもエターナルブラスターに差し込み、銃身部分についているスライドを引き、メモリの力を増幅させる、【マキシマムドライブ】を発動させる。後は仮面の男に狙いを付け、引き金を引くだけだ。
「させないよ……っ!!」
「っ!!?煙幕とはこしゃくな真似を……!!」
だが、第三者の介入により引き金を引くことは出来なかった。声から察するに女のようだったが、そいつが放った煙幕のせいで一瞬だけ仮面の男から意識を逸らした隙に男は何処かへと転移していき、第三者の気配もこの場から消え失せていた。
「………まさか目先の相手に気を取られて他者の気配を見逃すとは……紫耀達に知られると笑われてしまいそうだな」
自嘲しながら変身を解除する。仮面の男から情報すら引き出す事すら忘れるとは、年甲斐も無く熱くなっていたようだ。
紫耀の情報に寄れば、次に事件が起こるのは12月。そして少女を監視する管理局に連なっていると思わしき人物………か。
「こうなってしまった以上、容易には介入して来ないだろうし……警戒を密にするしかないか」
ある程度今後の方針を固め終えたので、異空間からディアブロッサ・カスタムを取り出し、跨る。
これはもう最初に考えた通り、彼女達を起こすしか無いか………
「……なるべく起こしたくは無いのだがな」
そう呟き、ホテルへと向かう。………今から憂鬱だ。