仮面の男に襲撃されてから三日程後、私は異空間内のラボで端末を操作している。
内容としては、とあるシステムの解凍作業だ。これはとある世界で拾ったプログラムを改良したものなのだが、非常に面倒な奴等だったので、反省の意味も込めて凍結していた物。そんなものを解凍しているのには、当然のように訳がある。
「これで良いか………サポートAI【アルターエゴ】起動。起きろ、馬鹿娘ども」
『………久し振りに顔を合わせるなり馬鹿呼ばわりとは、相変わらずの傍若無人っぷりですね〜』
「五月蝿いぞBB。本来ならあと30年は凍結したままのつもりだったのだぞ?感謝されるならまだしも、文句を言われる筋合いはないと思うのだがな」
『それを本気で言っているなら、大至急、精神科の受診を勧めるわ、レンヤ』
「………貴様も相変わらずの様だな、メルトリリス」
『お、お久し振りです……蓮夜さん』
「うむ、久しいな。パッションリップ………ほかの二人もこれくらい慎ましければ楽なのだがな」
約一名を覗いて、モニターの中から私に対して文句を言ってきている殆ど同じ顔の三人娘。とはいえ服装の方は全くといっていいほど統一感が無い。そもそも体格が違うから当然と言えるのかもしれんが。
一番最初に喋り出したのが、【BB】
補足として、彼女は下着が丸見えになっているのに気付いていなかったりする。
BBの後に話し掛けて来たのが【メルトリリス】
最後にこちら気遣った発言をしたのが、
【パッションリップ】
この三人こそがサポートAIである【アルターエゴ】の中核を為している存在である。彼女たちがある事件で消滅しかけていたところをサルベージし、再構成したのはいいが、口を開けば不平不満のオンパレード。
あらゆる未知を体験してきた私でも面倒になったので、この空間で約15000年程凍結していたのだが今回彼女たちの力が必要と判断し、解凍する事にしたのだ。
『………で?緋峰さん?何で私たちを起こしたんですか?言っちゃ何ですけど、貴方私たちのサポート必要無いでしょう?』
「そうでもないさ。分析程度なら私一人でもどうとでもなるが、出来ぬ事もあるのだ………例えば、電子領域に潜伏するとか、な?」
『………………成程。私たちの得意分野と言う訳ですか。別にお願いを聞いてあげても良いですが……………その見返りはあるんですかぁ?』
……………相変わらず人の弱みに付け込むのが得意な奴だな、BBは。まあ此方としても、そう出てくるのは織り込み済みだ。
「ハァ……お前達に合わせて調整を施した義体をそれぞれくれてやる。……これで充分だろう?」
『義体ってことは……自由に外を出歩いていいって事ですよね……?』
「細かいな貴様も……ああそうだ。流石に戦闘行為迄は許可せんが、普通に過ごす分には私が関与する事は無いだろう」
『なるほどなるほどぉ……私としてはそれでOKですが……リップ、メルト。貴女達はどうします?』
『私はそれで構わないわよ?外を自由に動けるようになれば、人形集めにも精が出るしね』
『わ、私もそれで大丈夫、です……』
「そうか……感謝するよ」
彼女達に礼を言う。幾ら彼女たちが電子上の存在とはいえ、紛れもなくヒトとしての自己を確立している以上、私は彼女達を
『商談成立、ということで依頼内容についての詳しい説明をお願いしますね〜』
「ああ。まず、潜り込んで貰うのは、時空管理局とか言う下らん組織のネットワーク。時空管理局についての詳細は後で渡すファイルを参照してくれ」
『なに?その頭の悪そうな組織………それで?そこでする事は?』
「闇の書、もしくは夜天の書……そして八神はやて。これらの単語が出た会話記録やその他諸々。一言一句残さず記録してくれ。期間は、外の時間でクリスマス迄の約四ヶ月だ」
『うっわ〜それ大分大変じゃ無いですか〜?ファイヤーウォールとかも、全部私たちが処理しなきゃいけないんでしょう?』
「………何の為にお前達を起こしたと思っているんだ。お前らにはid_esやシェイプシフターと言う類稀なる力があるだろう?」
『あの、id_esも使っていいんですか……?メルトのウィルスはまだしも、私の力は盗み聞きとかには役に立たないですよ……?』
そこでパッションリップが口を挟んでくる。……確かに彼女のid_esは破壊に特化されている代物だ。だが、私がそれについて何も考えていないとでも思っているのかね?
「それに関しても考えてある。パッションリップは主にカウンタープログラムを相手してくれ。………殴ったり、握り潰したりするのは得意分野だろう?」
『は、はい……!!それなら、得意です……!!』
「情報収集が終わった後にもひと仕事あるので、留意しておくように。………次はメルトリリスだ」
『あら、私にも指示があるの?リップと違って何をするべきかは分かっているつもりよ?』
そう言いながらメルトリリスは妖艶な笑みを浮かべる。他の二人より、身体年齢が低いのだが、二人にも劣らない色気を醸し出している。………下半身部分が痴女状態なのは触れてはいけない。
「お前の場合は逆に枷だよ。ウィルスは防壁の類を無力化する時のみ、使用を許可する。それ以外では決して使わせんぞ?」
『………流石、と言うべきかしら?私の事を理解してくれて嬉しいわ』
「直接剣を交えた事もあるのだ。それくらい分からいでか。で、最後にBBだが……」
『……まあこの流れなら私にも指示があるとは思っていましたよ。で〜私は何すればいいんですか〜?』
「別に大した事は無い。お前には収集した情報を纏めてこちらへ送ってもらうだけだ」
『え゛……?ど、どう考えたって私が一番大変じゃ無いですか!!!?』
「そうかもしれんが、ほかの二人に任せる訳にもいかんのでな。お前を信頼しているからこそ任せるのだ………やってくれるか?」
『し、仕方ないですね〜!!そこまで言うなら、このBBちゃんがやってあげましょう!!!』
………提案した私が言うのも何なのだが、チョロ過ぎ無いだろうか?月の裏側で相対した時はもう少し、理知的だったと思うのだが………気にしたら負け、と言うやつだな。
「取り敢えず、役割分担も終わらせたし早速頼むぞ。今資料と、管理局のネットワークに繋がるアクセスコードを送る」
キーボードを操作し、別のファイルに保存していた物をBB達に送る。これがあれば、彼女達は充分仕事をしてくれるだろう。
『………はい、確かに。それじゃ早速行ってきますね〜』
『暫しのお別れね。またね、レンヤ。戻って来たら一緒に人形集めをしに行きましょう?』
『め、メルトずるい……!!私も頑張りますから!!一緒にお出掛けしてくれますか………?』
「わかったわかった。無事戻って来たら、付き合ってやろう」
約束ですよー!!と言うBBの言葉と共に、ディスプレイ上から三人の姿が消える。…………こんな素直だったか?あいつら。まあ従順なのはこちらが楽なので文句は無いがな。
そんなことを考えながら異空間から出て、ホテルの部屋へと戻るのと同時に、電話が掛かってきた。通知画面を見ると、登録していない番号なのだが………時期的に考えると、はやて嬢かね?
そう思いながらも電話に出る。
「もしもし?」
『あ!!緋峰さん!!?八神はやてですけど、今大丈夫!!?』
「どうしたのだ?随分切羽詰まっているようだが……」
電話先の相手はやはりはやて嬢だった……が、何故かえらく慌てている。………一体何があったというのだ。
『詳しい説明したいねんけど、私もよお分かって無いねん!!?何か急に本棚に入ってた本が光りだして、それが収まったおもたら知らん人達が私の事【主】とか読んでくるし!!?』
「一先ず落ち着き給え、はやて嬢。事情は理解した、直ぐにそちらへ向かう。はやて嬢は出来ればでいいのだがその人物達から事情を説明してもらっておいてくれ」
『う、うん!!わかった!!ほなまた後で!!』
そのはやて嬢の言葉と共に通話が切れる。
………現時点で判明している重要そうなファクターは
【突如光りだした本】【はやて嬢の事を主と呼ぶ存在】の二つか。………正直、嫌な予感しかしないのだが、まずは自らの目で見極めてからだな。
内心にほんの少し焦燥が宿っているのを自覚しながらも、私ははやて嬢の家へと急ぐのであった。