十一月上旬。私は想定外………というよりは、想定したく無かった事態になってしまった事に自室で頭を抱えていた。
「まさかと言うべきか、やはりと言うべきか………やっぱり奴はかませ犬だったのだなぁ………」
いきなり何だと思われるかも知れんが、多目に見てもらいたい。何せ、守護騎士達の偵察に使っていた聖槍十三騎士団第十位【紅蜘蛛】ロート・シュピーネの模倣体が消滅したのだ。それだけならまだマシだったのだが、よりによって模倣体を形成していた魔力を守護騎士達に蒐集されてしまったのだ。
どのような事態が起きても対処出来るように、結構な量の魔力を込めていたにも関わらず、だ。その量はこの世界での基準に照らし合せると、大凡魔力ランクAA+位にはなるはずだったのだが………やはり、シュピーネを使うべきではなかったのだろうか?
………まぁ過ぎた事をいつまでも引きずるわけにもいかんし、それよりもこれから起こりうる問題へと目を向けるとしよう。
まず直近の問題としては、魔力を蒐集されたことにより、闇の書の完成が近付いたのが1つ。これ自体はまぁ、いつかは守護騎士達が完成させるだろうから、その時期が早まっただけとも言える。
………問題は、
「……こうなると、BB達がより詳細なデータを持ち帰ってから対策を立てた方が良さそうだな」
今私の手元にあるデータは闇の書が起こした事件を纏めた物が主であり、私が闇の書について知っている事はその中で触れられていた闇の書の機能についてだけなのだ。より綿密な対策を練るには、もっと詳しい情報が必要になるだろう。
『呼ばれて飛び出でジャジャジャジャーン!!!何時もニコニコ、貴方の傍に擦り寄る乙女!!BBちゃんで〜す!!』
「………………BBよ。偶には普通に出て来れんのかね?」
『だって〜蓮夜さんの驚く顔が見たかったんですよ〜?そりゃインパクト重視で行くに決まってるじゃ無いですか〜!!………もっとも、全然驚いてくれなかったみたいですけど〜』
コートのポケットに入れていた端末から、大音量でBBの声が聞こえてくる。端末を取り出し、画面を見ると不機嫌そうな表情を浮かべるBBがいた。
………相も変わらず人を弄ることになると、何処からでも現れるなこいつは。
「それで?呼んでもないのに出て来たという事は、何かしら進展があったのか?」
『そんなとこですね〜。管理局が保有する【無限書庫】と呼ばれている場所で、闇の書……もとい夜天の書についての詳細なデータを見つけました。夜天の書の特性から、闇の書への改造データまで根こそぎ調べ上げてきましたよ〜!!』
「何…だと!?」
…………BBのこの手腕は流石と言うべきだな。殺生院キアラに狂わされていたとはいえ、たった1人を救う為にムーンセルを掌握しようとしただけはある。
『ふっふ〜ん♪どうですどうです?見直しました〜?この超・絶・美少女であるBBちゃんに掛かれば、この程度楽・勝なんですよ!!』
「お前がそのすぐにつけ上がる悪癖を直したら見直してやろう」
『ええー………頑張ったんだから褒めてくださいよぉ〜』
「また今度な。……で?纏めたデータは何処に?」
『ちゃんと持ってきてますよ〜♪私達がメインで使ってる端末に保存しました♪』
「そうか、助かる。……ギル・グレアムの方は?」
『彼の使い魔が守護騎士の動向を調査しているくらいで、それ以外は特に変化はないですね〜』
「そうか……」
BBからの報告に一言だけ返事をして、思考に入る。現状でもっとも知りたかった情報である、闇の書の詳細データはBB達により私の手元に。ギル・グレアムは未だ大きな動きは見せていない。こうなると、BB達を管理局へ潜入させておく意味が無いが……さて、どうするのが最善だろうな?
『あ、そうだそうだ。緋峰さ〜ん、1つ報告するの忘れてた事があるんですけど〜?』
「ん……?報告すること?管理局関連以外でか?」
『ハイ♪実はですね〜無限書庫を調べる際、いくらムーンセルの上級AIだった私と、アルターエゴのメルトとリップの三人だと、色々人手が足りなくてですね……』
「………それで?」
『……………アルターエゴを三人程、新たに創り出したんですよね〜』
「…………………普通のAIとしてだろうな?」
『当然、ハイ・サーヴァントとしてです♪』
「…………………………………」
BBがカミングアウトした内容の酷さに絶句する。確かに彼女を月の裏側からサルベージした際、ムーンセル中枢へ干渉していた時の記憶は消していない。加えて、ムーンセルに匹敵する情報量を持つスーパーコンピュータが私のラボには鎮座している。
これらの事から、確かにアルターエゴを生み出す事は不可能では無い。だが、いくら人手が足りないとはいえ、神霊の集合体であるハイ・サーヴァントを三体も
生み出すなど可笑しいだろう?やはりこの女、馬鹿なのでは無いだろうか。
「…………まあ生み出してしまったのならしょうがないか。今、彼女達をここに呼べるか?」
『そりゃそうですよね〜。じゃ、呼んでくるんで待ってて下さいね〜』
そう言うなり、画面からその姿を消すBB。これから対面するアルターエゴがどういった奴等かは分からんが、アルターエゴというBBの感情から生み出された存在である以上、一癖も二癖もある連中に違いない。
『おっ待たせしました〜♪それじゃ貴女達、ちゃっちゃと自己紹介しちゃって下さい』
再びBBが画面に現れる。その後ろにはBBに似た容姿を持つ少女達が佇んでいる。………見たところ、和装幼女にクールビューティー、そして身体の各部に包帯を巻き付けただけと三種三様である。非常に個性的な姿ではあるが、まだメルトリリス、パッションリップの様な痴女じみた格好では無いだけマシと言うものだ。
『初めましてですね。創造主たる我が母、BBより与えられた名をヴァイオレットと申します。宜しくお願いします。緋峰蓮夜』
『私はカズラドロップです。BBから創り出されたのですが……ぶっちゃけるとBB含めたアルターエゴ全員嫌いです。そんな訳で、私に仕事をさせるなら、彼女達と関わらないような仕事をお願いします。緋峰蓮夜さん』
『きんぐ、ぷろてあです。よろしく、おねがいします。れんやさん』
「恐らくBBから聞いてるとは思うが、緋峰蓮夜だ。立場的にはお前達の
クールビューティーがヴァイオレット、和装幼女がカズラドロップ、全身包帯がキングプロテアか。ヴァイオレットは見た目通り、硬い性格の様だが、問題はカズラドロップだ。アルターエゴ達に対して、偉い毒舌が飛び出してきた。……気持ちは分からんでもないが、本人達を前にしてあそこまで堂々と言える辺りが彼女もアルターエゴであると言えるのかも知れないな。そしてキングプロテア、彼女は他のアルターエゴに比べると、少々内面が幼いように見えるがBBも意味が無いアルターエゴを創り出した訳でもないだろうし、何か別の分野で優れているのだろう。
『自己紹介終わりましたか〜?緋峰さ〜ん』
「ああ。随分とまた、個性的な連中を生み出したものだな。BB」
『それほどでも無いですよ〜』
「褒めてない」
………とはいえ、人手が増えたのは私としてもありがたい。もう管理局に対しても、ギル・グレアムの動向を探る程度で問題は無いだろうし、守護騎士達は
「………まぁいいさ。BB、お前とメルトリリス、パッションリップはこっちに戻ってこい。ヴァイオレット、キングプロテア、カズラドロップも同様だ。」
『それは構いませんが……ギル・グレアムの監視についてはどうなさるのですか?少なくとも一人は監視についていた方が良いのでは?』
私の指示にヴァイオレットが疑問を挟む。確かにこのまま野放しにするには少々危険だが………
「心配いらん。私自ら、奴に釘を刺しに行く。一応穏便に済ませるつもりではあるが、それもあちら側の出方次第……と言ったところだな」
そう言いながら、軽く笑う。どうせこちらの忠告に対しても聞く耳は持たんだろう。というより、そうでなくては困る。なにせこちとら一度襲われているのだ。その分の貸しは徴収せねばならん。
『………成程、得心しました。確かにそれならば監視は必要無いですね』
『あまりやり過ぎない様にしてくださいね〜』
「言われるまでも無い。酷くても心神喪失程度で済ませるさ」
『………心神喪失を
「何京年と人間の醜さを見続けているのだ。少なからず影響はあるに決まっているだろう」
どんな世界でも、必ずと言っていい程に屑はいた。そういった奴等の魂を優先的に喰らって来た以上、何かしらの影響を受けているのかも知れんが、それも微々たるものだろう。
「………では、早速話し合いに行ってくる。好きに過ごしているといい」
『じゃあ私達の義体出して下さい!!』
「それは私が戻ってきてからだ。心配せんでも数分で戻ってくるさ」
『むー。仕方無いですねぇ……さっさと済ませて下さいよ〜』
「言われんでもそうするさ」
BB達との会話を済ませ、端末を懐に仕舞いつつ空間移動を始める。
では、O・SHI・O・KIの時間といこうではないか。