「どうした?ギル・グレアム。闇の書を封印するなどとほざいているくせに、この程度の戦力しか持ち合わせていないとは……笑わせてくれる」
「き、貴様……!!」
今、私の目の前にはギル・グレアムが座っているが、その顔は憤怒と困惑に彩られている。まあ自分の使い魔がなすすべもなく蹂躙されてしまえばそんな顔になるのもわからなくは無いがな。
こうなった背景は至極単純である。数分程前にギル・グレアムの元へ辿りついた私を察知してかリーゼ姉妹が襲い掛かってきたのだが、それをビズリー直伝の【絶拳】を一発ずつぶち込み、沈めたところである。
「き、貴様……!!?その黒い軍服、もしやリンディから報告のあった聖槍十三騎士団か?!!」
ギル・グレアムが驚いた通り、今の私は黒円卓の軍服に身を包んでいる。一度管理局を脅している以上、これほど視覚的な脅しとして効果的なものは無いだろう。
「私が何者であろうと貴様には関係無いだろう?だがまぁ一応名乗ってやろう。聖槍十三騎士団黒円卓第十三位代理、ロートス・ライヒハート。黒円卓内では
無論嘘だが。とはいえ、カールとラインハルトから自由に名乗っていいと許可を得ているので問題は無い。
ついでに偽名はツァラトゥストラの元となった魂の名を借りている。
「………聖槍十三騎士団は地球でしか活動しないのでは無かったのかね?」
「普通の団員は、だがね。だが私はあくまで
「……成程。それで?私の目の前に現れたのは何故だ?先程闇の書の封印がどうとか言っていたが、それだけではあるまい?」
漸く状況を飲み込めてきたのか、ギル・グレアムは此方に質問を投げ掛けてくる。
「話しが早くて助かるよ。こちらの要求はたった一つのシンプルな要望だ。貴様に連なる人間が闇の書に関わるなという事だけだ」
「何だと!!!?貴様は、闇の書の恐ろしさを理解していないからそんな事を言えるのだ!!闇の書の所有者が無力なこの時を逃せば、どれだけの被害が出ると………」
「お前達のような自惚れに浸っているような者共と我々を一緒にするな。
「……正常化、だと?貴様、何を……」
間抜けな顔を晒すギル・グレアム。こいつ、闇の書を封印するつもりだったのにそんな事も調べて………いや、そういえばBB達でも時間が掛かったことから考えれば、知らなくても当然と言えるのかね?
「何だ、知らんのか?なら教えてやろう。闇の書は元々、夜天の書と呼ばれる古代ベルカ式のデバイスだった物だ。それを、当時のとある管理局の高官の手により改悪されたものが、現在貴様らが忌み嫌っている闇の書と呼ばれるデバイスになる。それまではただのストレージデバイス程度の能力しか無かった物だったのが守護騎士システム、転生機能、無限再生機能といった今の闇の書を形成している機能を加えたのだよ」
「…………は?」
「まぁ簡潔に纏めてしまうとだ、貴様が怨んでいる代物を生み出したのが貴様が所属している管理局だったというのだから滑稽というものだな」
相手を嘲笑っているかのような表情を作りながら、ギル・グレアムに闇の書の真実を伝える。
「それでは……私の復讐は、無意味だと……?」
「無意味とまでは言わんがね。今闇の書を封印した所で、数十年もすればまた闇の書の力に目が眩んだ阿呆が封印を解いて、元通りだろうな」
「そう……か」
そう一言呟いたきり、ギル・グレアムは黙り込んでしまった。………さて、これだけ心が折れてしまえばもう直接的には関わって来ないだろう。
「………分かった。貴様の要望を呑む。私と私の使い魔はもう闇の書には関わらん」
「賢明な判断を感謝するよ、ギル・グレアム。出来れば、他の管理局の連中にも手を出さない様にしてもらいたい所だが……まあそこまでは要求しないさ」
「ふん……所で、先程言っていた闇の書の正常化。本当に出来るんだろうな?」
ギル・グレアムが此方に念を押すかのように尋ねてくる。こちらをそう簡単に信用しようとしない辺にこの男の有能さが見て取れるな。復讐に囚われていない状態であれば、これほど頼りになる男も珍しいと言うのに………惜しいことだ。
「その為のデータは既に揃えてある。貴様如きに心配される謂れはない」
「そうか………用件が済んだのなら帰ってくれないか?」
「ふむ、それもそうか。ではな、ギル・グレアム。貴様のこれからに幸多からんことを………なんてな」
そう言い残し、空間移動を用いてその場を去る。
移動する直前に改めて見たギル・グレアムはずいぶんと老け込んだ様に見えた。
ギル・グレアムの元からラボの方へと直接帰還する。別にホテルの方に戻っても良かったのだが、BB達の義体の件もある為、直接ラボに向かったという訳だ。
『あ、お帰りなさい、蓮夜さん。随分早かったですね〜』
「……まあな。奴の使い魔に一発ずつ絶拳をぶち込んで、ギル・グレアムの心をへし折ってやっただけだからな」
『それはそれは。随分とお楽しみだったみたいですね〜』
戻って来るなりラボ備え付けの大型スクリーンいっぱいにBBがニヤニヤ笑っている姿が映し出される。
………何故かあの顔、無性に腹が立つな。
「別に面白くも何とも無かったよ。幾ら世界の為だなんだとほざこうが、ギル・グレアムも所詮は復讐に囚われた一人の人間に過ぎなかったということだろう」
『そんなものですかね〜?私はAIだからそのへんはよく分かんないですけど〜』
「………少なくとも愛した者の為にムーンセルを支配しようとした奴が言えるセリフでは無いな」
『………それを言われちゃうと反論出来ないんですけどね〜』
BBとそんな軽口を交わしつつ、BBが映っているモニター備え付けのキーボードにコードを入力し、BB、メルトリリス、パッションリップの義体を保管庫から呼び出す。この義体は、完全に人間と同じ状態になっているので、メルトリリス、パッションリップの凶悪ともいえる装具が存在せずに人間の手足となっている。一応義体使用時に戦闘状態になる事も考慮して、装具を展開出来る様に義体そのものに量子化して格納しているので問題は無い。ついでに服の方も、現代風のものを用意済みなので、何処かのラブコメみたいにラッキースケベなどは起こらん。
「BB。今そこにパッションリップとメルトリリスは居るか?」
『もちろん!!後はヴァイオレットちゃんが居ますよ〜カズラドロップとキングプロテアはどっか行っちゃいましたけど』
「そうか。……まああの二人なら放って置いても問題は無かろう。では、お前達専用の義体の起動確認をする。スマンがアルターエゴの後発組はもう暫く待っていてくれ」
『別に構いません。我々はまだ生まれて間もないので、そこまで外への欲求が強くは無いので』
私の言葉にヴァイオレットが答える。まあどちらにせよ、アルターエゴのid_esに合わせて義体を造っている以上、後発組アルターエゴのid_esを私が把握出来ていないので造れないのだがな。
「そうか……少なくとも外の時間で年が明けるまでには用意できると思う。それまでに知識の収集なり何なり好きに動けばいいさ」
『………それもそうですね。では私は早速知識を蓄えて来るので、これで』
そう言うなり、ヴァイオレットがモニターから消える。………流石はアルターエゴ、自分の意志に忠実だな。
『蓮夜さ〜ん?メルトもリップもさっきからずーっと待ってるんですけど〜?』
「ああ、すまんな……ではこれよりアルターエゴ専用義体、タイプ【ムーンキャンサー】【メルトリリス】【パッションリップ】の起動を開始する。各々、心の準備はいいかね?」
『大丈夫ですよ〜♪』
『わ、私も……大丈夫、です』
『愚問ね。いつでも大丈夫よ?』
「よろしい。ではそれぞれの義体へのアクセスパスを渡す。それを使って義体へアクセスしてくれ」
『は〜い♪』
3人を代表してBBが返事を返すとともにモニターから消える。その数秒後、目の前の義体がそれぞれ動き出す。
「あー、あー。コレちゃんと聞こえてます?」
「すごい、です………!!」
「……………指先の感覚っていうのは、こんな感じなのね」
……取り敢えず、成功と見て大丈夫そうだな。細かい問題点があるかも知れんが、それは後で直接聞くとしよう。
「三人とも、動作に支障がある箇所はあるかね?」
「私は問題無しで〜す♪」
「わ、わたしも、大丈夫です……!」
「………そうね。ただ一点を除いて、問題は無いわ」
「ん?それはなんだね、メルトリリス」
…………まあ何となく言いたい事はわかるのだが、敢えて言わせよう。その方が面白そうだ。
「……どうして私だけ他の二人より身長低いのよ!!!」
そう、メルトリリスの義体は、BB、パッションリップのものより5cm程低くなっているのだ。BB、パッションリップが大凡156cmに対し、メルトリリスは151cmとなっている。
「仕方あるまい、外で過ごすにはあの脚甲は物騒過ぎる。脚甲を除けば、お前が一番身体年齢が低いのだ。我慢したまえ」
「別にリップと大して変わらないでしょ私!!」
「パッションリップは体格的にこれ以上身長を低くするとアンバランス過ぎる。BBはお前達の基準になるから論外だ。だからお前になったのだメルトリリス」
「納得いかないわ………!!!どうして私が………!!?」
メルトリリスはそのままブツブツと文句を垂れる。
………このまま放って置いても面倒くさくなりそうだな。
「…………わかったわかった。代わりと言ってはなんだが、お前専用の人形収集用の空間を用意してやる。それで妥協しろ」
そう提案するなり、メルトリリスが黙り込む。やはり人形には弱いな、こいつ。
「……………それと、人形集め用の資金も要求するわ」
「貴様…………はぁ、仕方あるまい。それで手を打とう」
「交渉成立。なら我慢してあげるわ♪」
メルトリリスめ、人の足元を見よってからに。まあ拗ねられてメルトウィルスを撒き散らされるよりはマシだろう。
「ちょっと蓮夜さ〜ん?なんかメルトに対して甘くないですか〜?あ!もしかして、
「め、メルトだけずるい…!!わたしも、お小遣い欲しい、です!!」
そして、そのような弱みを彼女達が見過ごす訳がなく、他の二人もこちらに詰め寄ってくる。
「わかっている。ちゃんとお前達にもそれなりの資金は渡すさ。…………BBは減額だがな」
「えぇ――――っ!!?な、何で私だけ!!?」
私の言葉に驚くBBであるが、私から言わせてもらえば当然である。
「………人を
「そ、それは場の空気を和ませるジョークですよ!!BBちゃんジョーク!!だからお小遣い減らすのだけはご勘弁を〜!!」
「さて、それでは外へ向かうぞ。小遣いは外へ出た時に揃って渡す」
BBが私にしがみついて来るが、敢えて無視して空間移動を行う。
元々三人に渡す小遣いは同じ額にするつもりだったので、BBの行動は無意味なのだが、言わぬが花というものだ。
何はともあれ、私の模倣体以外の戦力が確保出来たのはそれなりに有意義である。ギル・グレアムの方はもう動きたくても動けぬだろうが、まだ守護騎士達の暴走は収まることを知らない。そろそろ切羽詰って来る頃だろうし、なのね嬢や灰群蒼児にも守護騎士の手が伸びるやもしれん。
………守護騎士達の地球での行動が判明し次第、三騎士を投入するとしよう。
闇の書が有ると分かれば、必ず管理局も動く。その時こそ聖槍十三騎士団の真の恐ろしさを教えてやるとしよう。