巻き込まれた放浪者   作:北河静

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第22話

BB達に義体を渡してから時間は経ち、今は十二月。

本格的に寒さが厳しくなってきた今日この頃だが、この三週間程はそんなことに考えを回す余裕も無かった。

 

なにせ一週間毎にBB、メルトリリス、パッションリップに色んな場所を連れ回されていたからである。

おかげで退屈するといったことはなかったものの、精神的疲労は増加する一方だった。

そんな彼女達も今は三人で出掛けており、私は久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしていた。

 

「ふむ、バイクで風を切る感覚も悪くは無いのだが、やはり疲れた時には気ままに散歩するのが一番だな」

 

少々爺くさいと思われるかもしれんが、見た目こそ二十代かそこらだが、こちとら数える気が失せる程永いこと生きているのだ。年寄りという点は間違っていない。

時刻は既に夕刻を過ぎている為、寒さも厳しくなって来ているが私の身体には関係が無い為、のんびりと歩みを進めていく。

 

………カールとの約束の日が十二月二十五日、クリスマス当日。それまでに闇の書もとい、夜天の書にまつわる事件を終わらせておきたいのだが………微妙な所だな。私が直接相手をしてやってもいいのだが、はやて嬢のことを考えるとそれは避けたい。模倣体を使うにしても、魔力を奪われる可能性が万が一、いや億が一でもある以上使う気にはなれない。

 

「まぁ転生組が首を突っ込んでいくだろうが、闇の書の復活に多少なりとも関わってしまっている以上、傍観する訳にも行かんしな」

 

俺の魔力を奪われてしまっている以上、この世界の物とは違う魔法や魔術が使われる可能性もある。法則が違う以上、使えない可能性もあるが物事は常に最悪を想定して動いた方がいい。

 

これからについて考えを巡らせていると、突如周りの空間が一変する。人の気配が消え去り、何処か別位相に連れていかれたような雰囲気………と言うか、魔導師が使う結界に巻き込まれた。

 

「これは………なのは嬢達が使っていたものとは少々術式が違うな……チッ、あの馬鹿共め、とうとう地球(この世界)でも動き始めたか」

 

この結界、ほぼ間違いなく守護騎士達の仕業だろう。

確かに魔力を蒐集している彼女達にとってこの街にいるなのは嬢や灰群蒼児は絶好の獲物である。そしてこの結界に巻き込まれてしまっている以上、私とて蒐集対象になっているだろう。

一度私自身の魔力を蒐集されて入るが、私の魔力をシュピーネという模倣体に合わせて変質させている為、別人として見なされる可能性がある。これ以上魔力を通して異世界の情報を与える訳にも行かん。

そう判断し、魔力を隠蔽しつつ、辺りを探る。

 

「………結界の半径が大凡5km、そしてここから1.5km程先で魔力の激突している反応が2つ。………なのは嬢とヴィータ嬢、灰群蒼児とシグナム嬢か。こちらには……ザフィーラが向かっている、か」

 

紫耀達がまだ戻っていない以上、数の不利は覆せないな。だとすれば、第三勢力( ・ ・ ・ ・ )を使い、状況を滅茶苦茶にしてしまえばいい。

 

「彼等はあまり使いたくないのだが、仕方あるまい…………我が記憶より顕現せよ、不死の軍勢(エインフェリア)を統べる大隊長。来たれ白騎士(アルベド)悪名高き狼(フローズヴィトニル)

来たれ黒騎士(ニグレド)鋼 鉄 の 腕(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)。来たれ赤騎士(ルベド)魔操砲兵(ザミエル・ツェンタウァ)。偉大なる愛すべからざる光(メフィストフェレス)の元に仕えし三騎士よ、我が呼び掛けに答えよ……」

 

本来、模倣体を創るのにこのような詠唱じみたものは必要ない。だが、聖槍十三騎士団大隊長である彼等を創り出す時は別だ。彼等への尊敬の念を込めて、言葉を紡ぐ。かつて敵対し、嫌になるほど味わった強大さをそのままに創り出す。

 

…………そうして現れるのは三人の黒円卓の軍服を纏う人物達。一人は銀の長髪を持ち、右目にトーテンコープが描かれた眼帯を着けた少年風の人物。

彼の名は【ヴォルフガング・シュライバー】。仲間内からも【暴嵐】、【凶獣】と呼ばれる、黒円卓内で最も多くの人間を殺した人物。

 

一人は無精髭を生やした、全身が巌のような雰囲気を醸し出す男。彼の名は【ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン】。黒円卓内での通称は【マキナ】。寡黙で殆ど言葉を発さぬ、ヴェヴェルスブルグ城に囚われ、己の名を失った人物。

 

一人は真紅の髪を一つに結わえた、顔の左半分に大きな火傷のある葉巻を加えた女性。彼女の名は【エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ】。黄金に永遠の忠誠を誓い、自分にも他人にも厳格な、軍人を象徴したような人物。

 

彼等こそが、嘗て私達を苦しめた黒円卓、聖槍十三騎士団の大隊長。その気配は衰えを知らず、凄まじい威圧感を感じる。

 

「さて、三騎士諸君。創り出した時に今回やるべき事について埋め込んである為、詳しくは語らぬが一つだけ注意して欲しい点がある。………決して敵対対象を殺さない様に頼む」

「えー……僕らに殺すなって言うのは呼吸するなって言ってるのと同義だよ?」

 

そう文句を垂らすのはシュライバー。根っからの殺人狂である彼にとっては厳しい制約だろうが、模倣体である以上、本来の力を発揮し切ることは出来ない為、問題は無いが、モチベーションを上げる為に言葉を弄すとしよう。

 

「なら言い方を変えよう。死なない様にいたぶってやれ。………得意分野だろう?」

「ああ、確かにそれなら得意分野だ。それじゃ、僕は先に行ってるよッ!!」

 

そう言うなり、シュライバーは両手に愛用している【ルガーP08】と【モーゼルC96】を顕現させ、凶暴な笑みを浮かべながら、こちらに近付いて来ているザフィーラの方へと駆けて行った。

 

「………相変わらずの戦闘狂だな、シュライバーの奴は。では、我々も成すべきことを成しに行くとするか。マキナよ」

「……………………ああ」

 

残るエレオノーレ、マキナ両名もそれぞれの担当へと向かう。エレオノーレにはシグナム嬢、灰群蒼児組を、マキナにはなのは嬢とヴィータ嬢を担当して貰う予定である。この指示にエレオノーレは大して気にしている様子は無かったが、マキナは目的地へと向かう直前、こちらを睨みつけてきていた。………終焉こそが美しいものと考えている彼からすれば、この場にいる事自体が許し難いのだろうが、我慢してもらうとしよう。………まあ、結局の所、模倣体は私の別人格を紡ぎ出した様な存在のため、どれだけ自意識を持たせていようと、深層意識下で繋がっているので私に攻撃を加えてくる様な事は無いのだがね。

 

「………さて、私だけ傍観する訳にも行かんし、私も行動を起こすとしようか」

 

そう呟きつつ、懐から【ファントムガンナー】を取り出す。ロイミュードの死神と呼ばれていた存在が持っている【ブレイクガンナー】のデータを元にクリム・スタインベルトが開発し、私へと贈られた物ではあるが、暇を見つけてはラボに篭って手を加え続けた結果、凄まじい性能を発揮する代物になってしまった。

右手に持った緋色と黒を基調とした配色であるファントムガンナーを胸の前で、銃口型のスイッチが上を向くように掲げ、左手でスイッチを押し込み、それを離す。

 

《Change Phantom》

 

左手をスイッチから離すのとほぼ同時に低く禍々しい電子音声が鳴り響き、紅い光とともに、私の身体を装甲が包んでいく。光が収まった時には、私の身体は全身機械じみた装甲に覆い尽くされていた。

頭部はイクサシステム・セーブモードと同じデザインの物、それより下はG3-Xと同じデザインとなっている。細かい変更点としては腰のベルト部分がマッハドライバー炎を模した【ファントムドライバー】に、左手首部分にシフトブレスを模した【ファントムブレス】を装備し、全体の配色が黒を基調とし、紅いラインが入っているデザインとなっている。

この形態の名は【機進ファントム】。バイラルコアだけでなく、シグナルバイク、シフトカーにも対応した、私の技術の粋を集めた代物である。

 

その状態から、シフトカー・シフトスピードを取り出し、ファントムブレスに差し込み、ファントムブレスについている能力発動用のボタンを押し、加速能力を発動させる。

 

《Boost SPEED!!!》

 

ファントムブレスから能力発動を知らせる電子音声が鳴り響く。

 

そうして加速した状態で向かうのは守護騎士達の中で一人だけ離れた場所にいる、シャマル嬢の元。

 

「………お前達にも譲れぬものが有るのは分かっている。だがな、この世界で暴れさせる訳にも行かんのだよ」

 

そのような言葉を残し、その場を離れる。

 

 

No Side

 

 

闇の書の守護騎士、【ヴォルケンリッター】が張ったリンカーコア、及びそれに準じた資質を持つ者のみが動くことの出来る結界。ヴォルケンリッターにとっては魔力を蒐集する為の檻。

高町なのはにとっては未知の敵。

灰群蒼児にとっては【闇の書事件】の本格始動を知らせる号砲。

その中で行われる魔導師同士の激しい戦闘に、災厄とも表現出来る者達、聖槍十三騎士団が彼女達を蹂躙していく。

 

「ディバイン……バスターッ!!!!」

「ぶち抜けッ!!」

 

「………くだらん」

 

高町なのはとヴィータの前に現れるのは、黒騎士、マキナ。

彼はパワー重視の魔法を使う彼女達の攻撃を受けても、全く揺らがず、高町なのはから放たれる桃色の閃光、ヴィータによる鉄球、そのすべてを両の拳で粉砕していく。

 

「何なんだよテメェは……!!?わざわざあたしらの前に出て来て、なにが目的だ!!」

 

自分の攻撃を悉く打ち砕きながらも、攻撃をしてくる様子の無いマキナに思わずといった様子で問い掛けるヴィータ。

高町なのはもヴィータと同じように、油断せずにマキナの方を見つめている。

それもそのはず、ヴィータとは違い彼女はマキナが纏う黒軍服の集団、聖槍十三騎士団と相対している。雷を操る女性と大剣を使いこなす青年、両方共自分とはかけ離れた実力の持ち主だった為、同じ軍服を纏っている目の前の男もそれと同等、若しくはそれ以上の力を持ち合わせていると判断し、攻撃を全て全力で放っていたが、結果はご覧の有様である。

 

「………目的、か。俺達を呼び出したあいつにはそれなりの理由があるようだが、俺にはそんなものは無い。俺は俺に課されたものを全うするのみだ」

「へっ!!なんだよ、まるで人形みてぇな奴だな!!」

「人形……か、言い得て妙だな。確かに、俺はラインハルトの奴隷に過ぎん。終焉(おわり)を奪われた俺にとって、この場にいる事自体が気に入らんのだ」

 

マキナは表情を一切変えず、鉄面皮のままヴィータヘと返答を返す。人形と言われてもそれは揺るがない。

 

「じゃあ、何で私達の前に立ち塞がっているんですか!!貴方にはここで闘う理由が無いんでしょう!!!」

 

高町なのははマキナへと問い掛ける。つい数ヶ月前まで闘いとは無縁だった少女だからこそ出てくるその質問に、マキナは失笑する。

 

 

「フッ………愚問だな。そもそも軍人とはそういうものだ。自分の意志と相反していようが、上の命令には従わなければならない」

「そんな……」

「俺からすれば、お前達の方が理解出来ん。赤髪の方は戦場の何たるかを弁えているようだが、なにか迷いを抱えている様に見える。そちらの白いのに至っては戦場(いくさば)にいる事そのものが間違いだ。…………まあ、相手を理解しようとするその気概こそは認めてやってもいいがな」

 

「さっきから偉そうにしやがって………調子のんなぁあああ!!!!」

「あっ!!!?ま、待ってよ!!!」

 

マキナの言葉を聞いて、堪忍袋の緒が切れたのか、ヴィータが叫びながら、マキナへと突っ込み、高町なのはもそれに追随する。

 

「…………………」

 

それを眺めながらも、マキナは表情を変えずに、その場に佇む。魔導師が魔人に敵う通りがない。だが、それでも彼女達は自分達の信じるもののために一歩も引かずに立ち向かって行く。しかし、魔人を相手にしてのその姿は蛮勇という言葉以外に表す言葉は無いだろう。そんな事をマキナは頭の片隅で考えつつ、自分に挑んでくる少女達を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

Side 緋峰

 

……………………三騎士を使ったのはやはりやり過ぎだったな。シュピーネが不意を突かれたとはいえ、守護騎士に倒されているのだから念をいれたが、結果としては正しく蹂躙と言う言葉が相応しいだろう。なのは嬢とヴィータ嬢はマキナに対して、ろくな攻撃を加える事すら出来ず、灰群蒼児、シグナム嬢もエレオノーレの猛攻に逃げ惑うばかり。ザフィーラに至っては成すすべなく、シュライバーから放たれる弾丸の嵐に呑まれている。

 

「ああ、不用意に動かないで貰えるかね?あまり女性を傷付けたくないのでな」

「くっ…………」

 

ところで、私が今何をしているかと言うと、ファントムガンナーをシャマル嬢の後頭部に突き付けた状態で三騎士の蹂躙劇を観賞している。

彼女は守護騎士の中でも、後方支援に特化した魔導師だったようで、簡単に間合いを詰める事が出来た。

大方魔力反応だけで索敵していた為に、魔力の隠蔽工作をしていた私の接近に気付かなかったのだろう。

 

因みに機進ファントムには変声機も仕込んであるので、声で私だとシャマル嬢にバレる事もない筈だ。

 

「………貴方は一体何者なんですか?この結界内では魔力が無いと動けない筈なのに……」

「私からは魔力が感じ取れないと言うのかね?」

「………ええ」

「成程……確かに君の疑問も最もだ、守護騎士。別に答えてやる義務は無いのだが、折角だから教えてやろう」

「…………!!!」

 

そうシャマル嬢に告げると、シャマル嬢の雰囲気がほんの少しではあるが、冷たいものとなった。

………大方こちらが説明している隙を突くつもりなのだろうが、気付いていない振りでもしておいてやるとしよう。

 

「さて、まず大前提として私には魔力――君達風に言えばリンカーコアだったか?が備わっている。それゆえにこの結界の中でも自由に動ける訳だ」

「……………」

「そして、私から魔力を感じ取れない理由だが、それは私が纏っているこの鎧によるものだ。対魔導師用に開発したパワードスーツなのだが、まだ実戦テストが済んでいなくてね。丁度いい機会だから君達相手にテストを行う為にここまで出向いてやったのだよ」

 

まあ魔力を隠蔽しているのはまた別の方法なのだが、そこまで教えてやる必要も無いだろう。

 

「…………魔力を感じ取れない理由は分かりました。それで結局、貴方は何者なんですか?向こうで暴れている人達の仲間である事は何となく分かりますけど」

「いやいや、彼等はただの協力者に過ぎないよ。彼等の上の人間とそれなりのコネがあるのでね。不確定要素の排除を頼んだところ、あの三人を送り込んでくれたという訳だ。私自身は、魔導師という存在を知っているだけの科学者に過ぎんよ」

「……………ッ!!」

 

私の『科学者』と言う言葉に露骨な反応を見せるシャマル嬢。………そう言えば、初対面の時に科学者と名乗ったな。魔法、及び守護騎士について知っている科学者となれば、疑わない方が可笑しいな。

 

「………?」

 

シャマル嬢が考え込んでいる姿を眺めていると、結界の外側からそれなりに大きな魔力反応が三つ近付いてくるのを感じ取った。この魔力は……紫耀にローザ・シャルラハロート、それにテスタロッサ嬢か。………あの3人まで出てくるとなると、これ以上は収拾がつかなくなって来るな。

 

「………さて、君のような美人との会話を切り上げるのは非常に勿体無いのだが、我々はここで失礼するとしよう。君達も今回はこの辺りで切り上げる事を勧めよう」

「なっ………!?き、急に何を……!!?」

「いや何、結界の外側から管理局の連中が近付いて来ているのでね。今彼等に目を付けられるのは御免被るのだよ。では、またいつか会える事を祈っているよ」

 

シャマル嬢に声をかけながら、ファントムブレスに

シフトカー・ディメンジョンキャブをを差し込み、能力を発動させる。

 

《Boost DIMENSION!!!》

 

電子音声と共に、三騎士と私の足元に円状のワープホールが現れ、私達を包み込む。

 

「ま、待ちなさい!!」

Auf Wiederseh'n(さようなら)守護騎士殿。君達の主に宜しく伝えて置いてくれたまえ」

 

私がその場を去る直前に巨大な光の柱が空から振り下ろされていた。あれは確かローザ・シャルラハロートの技だった筈だ。彼等が介入するのならば、守護騎士の直接的な対処は彼等に任せて、私は闇の書を元に戻す準備を進めるとするかね。

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