巻き込まれた放浪者   作:北河静

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第23話

守護騎士達と一戦交えた翌日、私は八神家へと向かっていた。

普通に考えれば、シャマル嬢にあれだけ私の存在を匂わせておきながら向かうのもどうかとは思ったのだが、前々からはやて嬢と約束していた為に向かわざるを得なかった。

 

そうしてサイドバッシャーを走らせる事十数分、はやて嬢の家へとやって来た私は、インターホンを押し応答を待つ。

 

『はいはーい、どなたですか〜』

「おや、今日はヴィータ嬢かね?珍しいこともあるものだな。緋峰だ、先日の約束通りはやて嬢を迎えに来たのだが」

『……………ちょっと待ってろ。はやて呼んで来るから』

 

そう言ってヴィータ嬢はインターホンを切る。

あからさまに私に対して警戒していたな。まあ昨日の内に守護騎士間で情報交換をしているだろうし、私を警戒するのも当然か。

なにせ自分達が拠点としている魔法文化がない世界で魔法文化についての知識を持った科学者を名乗る人物が短期間に二人も現れていて、しかも片方は顔を隠していたときたものだ。関連性を疑わない方がおかしいというものだろう。

 

そうして玄関先で待つこと数分、シャマル嬢に車椅子を押して貰いながらはやて嬢が出てくる。

 

「おはようございます、蓮夜さん」

「おはよう、はやて嬢。シャマル嬢も元気そうで何よりだ」

「……ええ、おはようございます。緋峰さん」

 

はやて嬢に挨拶を返しつつ、その後ろにいるシャマル嬢に目を向ける。いつもと変わらない人当たりの良さそうな笑みを浮かべてはいるが、その視線はこちらを見極めようとしているのが感じ取れる。

 

「なぁなぁ蓮夜さん。今日はシャマルも一緒に行きたい言うてんねんけど大丈夫?」

「ふむ………」

 

シャマル嬢がそんなことを言い出したのは、どう考えても昨日の件を踏まえてだろう。自分達の正体と、大切な物の詳細を知っていると思わしき人物達と繋がりがあるかも知れないのだ。あまり自分達の主を得体の知れない人物と二人きりにしたくないのだろう。

 

「別に構わんが、サイドカーにははやて嬢を乗せなければならんから、シャマル嬢は私と二人乗り(タンデム)になるがそれでも構わんかね?」

「…………ふぇ!!?」

 

シャマル嬢驚愕。どうも私を警戒することに意識を割きすぎて、私の主な移動手段がバイクであったのをすっかり忘れていたようだ。

 

「ふぅーん?シャマル、もしかして蓮夜さんのこと好きなん〜?」

「は、はやてちゃん!!?え、ええと、その、あのですね?別に私はそういった意図があるわけではなくてその単純にはやてちゃんが心配なだけで他意は無いですからね!!??」

「…………分かっているから少し落ち着きたまえ。気付いているかどうかは知らんが、顔が真っ赤になっているぞ?ほら深呼吸でもするといい。はやて嬢もあまりシャマル嬢をからかってやるな」

「ふひひ、まあええやん。コミュニケーションの一環やって」

「まったく………出会った当初と違って、とんだお転婆になったものだ」

 

元々こういう性格なのだろうが、今までの抑圧された環境下では出ることは無かっただろう。

 

「……それで?決心はついたのかね、シャマル嬢?」

「ええ、やっぱり私も一緒に行きます」

「二人乗りだが?」

「問題無いです。………ええそうです別に私は蓮夜さんに対して特別な感情がある訳じゃ無いんだしバイクの二人乗り位気になんてしてませんし――」

「「…………」」

 

そう呟くシャマルの目は、焦点が合っておらず、濁っていた。

どう見ても未だに迷っているようにしか見えんのだが………一応は決心したようだし、とっとと行くとするか。

 

「………では、出発するとしようかはやて嬢」

「………せやね。シャマルの為にも、はよ行くとしよか」

 

はやて嬢をサイドカー部分に乗せた後、何処か虚ろな表情を浮かべるシャマル嬢を強引にバイクの後ろに乗せバイクを図書館へと走らせる。

 

 

 

 

 

 

数十分後、図書館に到着した私はシャマル嬢を椅子に座らせ、その向かいでパソコンで昨日の小競り合いで得られたファントムの起動データの整理をしていた。

はやて嬢は偶然図書館に来ていたすずか嬢と共に、私達から少し離れた所で会話に花を咲かせている。

 

シャマル嬢は未だに虚ろな表情のままである。

………どうも異性に対しての免疫が弱過ぎるのでは無いか?大方殺し合いばかりで碌に異性と接していなかったのが原因だろうが。

「ハッ!!?わ、私は今まで何を……!!?」

「おや、ようやくお目覚めかね?シャマル嬢。混乱するのも分からなくはないが、図書館では静かにしたまえ」

「え……?あっ……!!?す、すいません………」

 

ようやく目が覚めたシャマル嬢に話し掛けると、慌てふためきかけたので、現状を把握させる。

シャマル嬢も周りからの責めるような視線を感じたのか、身体を縮こまらせる。

 

「さて、状況把握は済んだかね?シャマル嬢」

「え、ええ。何とか」

「それは重畳。で?私に話したい事が有るのでは無いかね?」

 

パソコンから視線を離さずにシャマル嬢へと問い掛ける。

 

「………………」

「話しづらいかね?ならばこちらから話題を振ってやろうではないか………闇の書の蒐集において、何かしら問題があったのでは無いかね?そう、例えば………魔導師とも思えないような連中に蒐集を邪魔された、とか?」

「…………ッ!!やっぱり、知ってたんですね?私達がはやてちゃんに黙って蒐集をしていたのを」

「無論だ。守護騎士全員にナノサイズの発信機を付着させてある。それによって君達の動向は総て把握させてもらっていた」

 

私の例え話に露骨な反応を示すシャマル嬢。一応魔導関連にも精通しているという経歴(詐称)を話していた以上、そこまで動揺するような事でも無いと思うのだが……まあどうでもいいか。

 

「………つまり、私達の行動はすべて貴方には筒抜けだったと?」

「そういう事になるな。まぁそんなものはこの場においては些事に過ぎないだろう?本題に入ろうではないか」

「………そうですね。私達の動向を把握していたのなら、昨日の夜についての説明は必要ないですよね?」

「ああ、君達が黒軍服の連中と管理局と小競り合いを繰り広げたのだろう?」

「それともう1人、全身を機械鎧に身を包んだ自称科学者がいました。その人物曰く、魔法を研究している科学者と名乗っていました………緋峰さん、貴方と同じように」

「ほう……それで?」

「………おかしいとは思いませんか?ここには魔法文化が全く存在しない。せいぜい委託魔導師が数人程度存在するくらいです。そんな世界で、魔法を研究している科学者を名乗る人物が2人もいるなんて」

「別段不思議な事でも無いだろう。第三者に知られたくない研究をどう隠すかなぞ限られている。徹底的な情報封鎖、例え見られたとしても周りが理解出来ない場所で研究をする。………もしくは何も無い場所で活動するか、この程度しかないのだ。偶然同じ世界に辿り着く可能性が無いわけでもないだろうに」

「…………それが天文学的な数字の可能性だって理解していて、言ってるんですよね?」

「愚問だな」

「そう、ですか…………」

 

その言葉を最後にシャマル嬢は黙り込む。もっともその瞳は雄弁にこちらへ語り掛けて来ているのだが。

……信じたい、信じてはいけない、彼は味方のはずだ、いや、彼も結局は闇の書を狙っている者のうちの1人に過ぎない………等等、いい感じに疑心暗鬼に陥っている。まったくもって素晴らしく、そして……愚かしい。大方、例え敵対する可能性があるとしても、不意さえ突かれなければ自分一人でどうにか出来るとでも思っているのだろうが、考えが甘過ぎやしないだろうか?

「……………やれやれ。所詮は家族ごっこ( ・ ・ ・ ・ ・ )に興じる人形風情でしかないか。少しは君達に期待していたのだが……期待するだけ無駄だったようだな」

「家族……ごっこ?緋峰さん。急に、何を……」

 

シャマル嬢の驚きを無視して言葉を続ける。………この先を口にすれば、これから先、はやて嬢に構ってやることは難しくなるだろうが、問題は無い。何せ彼女の側にはもう、本物の家族( ・ ・ ・ ・ ・ )がいるのだ。人を外れた存在である私が側にいるよりは彼女の為になるだろう。

 

「違うのかね?君達守護騎士は主の願いに応じて呼び出される存在なのだろう?君達が呼び出された時、はやて嬢はきっとこう思っていたはずだ………『自分にももう一度、家族が欲しい』とな。何せはやて嬢が久しぶりに他人とのコミュニケーションを取ったのだ。そう願っても何ら不思議はあるまい。どれだけ気丈に振る舞っていようともまだ9歳の少女なのだから」

「それ、は………」

「そして君達はその願いに応え、姿を顕した。守護騎士として、主の願いを叶える為に……ああ、別にその事を悪く言うつもりは無い。君達の御陰ではやて嬢は年頃の少女のようによく笑うようになったのだからな。そこのところは感謝しているよ。ただ………」

 

そこで一度言葉を区切り、シャマル嬢の心に絡みつくように呪詛(言葉)を投げ掛ける。

 

「自分達の本来の在り方すら忘れ去っている()達が、どうやって主を幸せにするというのかね?」

「………なんですって?」

「おや、自覚が無いのか?自分達の記憶が闇の書にとって都合の良いように書き換えられているというのに?……それとも、はやて嬢に自分達の手が血に塗れているのを知られたくないが故に忘れた振りをしているのかね?」

「何を勝手な事を……!!?」

 

シャマル嬢の目に憤怒の色が現れる。………得体も知れない奴に自分達の記憶が贋物と言われれば憤るのも無理は無いだろうがな。

 

「ならば答えてみろ。闇の書の蒐集によって手に入る、強大な力とやらの詳細をな」

「そ、それは………」

「答えられないのだろう?それこそが、お前達が弄ばれているという真実を示す事実に他ならんのでは無いかね?」

「………………」

「沈黙は肯定と取らせてもらうぞ。まぁお前達が人形だろうが、人間だろうが私にとっては至極どうでもいい話だ。はやて嬢を見守っているのもただの気まぐれに過ぎんのでな」

 

 

そう言い放ち、シャマル嬢との会話を終わらせる。

これから先、この世界(地球)で蒐集活動を継続するかは彼女達の判断次第になる。

………まぁこちらに向かってくるというのならば、盛大に持て成すだけだがな。

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