巻き込まれた放浪者   作:北河静

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続き投稿。

大分久々に書いたからちょっと変かも


第24話

シャマル嬢に闇の書の異常を匂わせてから数日たつが、私はずっとラボに篭もりっきりになっていた。

とはいえ、闇の書組や、管理局組、転生者組にはBB達を監視につけている為、近況は常に把握出来ている。はやて嬢は症状が悪化した為、入院。見舞いに行こうかとも思いはしたのだが、守護騎士達にあの様な啖呵を吐いた為に、私への警戒を怠っているはずが無い。それに加えて、接触すれば余計に拗れそうな為、やめておいた。

 

管理局組は、三騎士に抵抗出来なかったのが堪えているのか、戦力の強化に勤しんでいるようだ。

なのは嬢はエレオノーレの戦闘方法に光明を見出したのか、魔法陣による砲口を幾つも生成し、そこから絨毯爆撃の如く魔砲を放つ訓練を行っているし、フェイト嬢はベアトリスを遥かに上回る速度を持ったシュライバーと相対した故かは定かでは無いが、より速さに対する渇望を高め、それを追求していっている。

彼女達のデバイスもまた、自分達の主の願いに応えるために【カードリッジシステム】と呼ばれる瞬間魔力増幅機構の搭載を決意していた。このシステムは本来はベルカ式……つまりは守護騎士達が主に使っていた機構の為、何処かしら異常が起こる可能性があったらしいが、転生者組のデバイスデータを流用して、安全性を確保した上での性能向上を果たしたようだ。

クロノ・ハラウオンもまた、修練を重ねている。今まで使用していた黒い杖ではなく、青と銀を基調とした色合いのデバイスへと持ち替え、その習熟に勤しんでいるようだ。

 

転生者組もまた、管理局と同様に訓練に勤しんでいる。主になのは嬢、フェイト嬢、クロノ・ハラウオンとの模擬戦が主な様だが、それだけでは飽き足らず、私にまで模擬戦を申し込んで来るのだから困りものだ。面倒だったから、ムーンセルから拝借してきたサーヴァントデータをインストールした義体を送り付けてやった途端、ブッツリと連絡が途絶えてしまった。………流石に、【無銘】とスカサハはやり過ぎだっただろうか……?まぁ純粋な戦闘データと基本武装しか積んでいないから、死にはしないだろうが。

 

さて、上で述べたように、今私は他者との接触を完全に遮断して、ある物の作成に勤しんでいる。

まぁ大体予想がつくとは思うが、私が作成しているのは【夜天の書】と同型のストレージデバイスだ。

もっとも、中身はまっさらな物の為、さほど手間取ってはいないのだが並行して、ミッド式、ベルカ式の魔法についての分析を行っている為どうしても時間が掛かってしまっている。

 

「………とはいえ、このデバイスも飽くまで管制人格を一時的に避難させる為に作っているだけだから、あまり本腰を入れなくてもいいのだがなぁ……」

 

等と独り言を呟きつつも、本物と同レベルに仕上げようとしている辺り、私は職人気質なのかもしれん。

 

とはいえ、外との時間に差異があるこの空間では、本物同然に造ったとはいえ、外の時間で1日もあれば十分すぎる。後の時間はファントムガンナー及び、機進ファントムのアップデートに費やしている。

 

先日シャマル嬢と対峙した時は、クリムから渡された物にシフトカー関連の技術しか導入していなかったが、今回の改修で今まで蓄積してきた技術を総て組み込んでいる。

 

主な改良点としては、ガイアメモリ発動用のマキシマムスロットの増設、ミラーワールドへの適応、フォトンブラッド関連機構の搭載、ミッド・ベルカ複合式の魔法式のインストール等を盛り込んでおいた。

 

………1通り作業を終えてから改めて見直して見ると、少々やり過ぎた感が否めないがまぁ良いだろう。

この世界の魔法技術を加えた事でより万能性が高まった上、なのは嬢達と相対する時に余計な怪我をさせる心配が無くなったのだ。これで思う存分、力を振るうことが出来る。

 

「………闇の書、もとい夜天の書の魔力蒐集は残り2割程度。管理局も大まかにではあるが、闇の書の正体について調べを付けてきている。そろそろ、結末が近付いているのだろうな……」

 

改めて各々の戦力を分析してみる。

 

先ずは管理局。前線戦力としては、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、クロノ・ハラウオンの三人に指揮官としてリンディ・ハラウオン。後はアルフとユーノ・スクライア位だろう。懸念材料があるとすれば、管理局が真っ黒な組織である事と、主戦力が年端もいかない子供である事だろう。

 

次に闇の書……もとい夜天の書の守護騎士、ヴォルケンリッター。シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。この4人にははやて嬢を必ず救ってみせるという意志がある。ましてや、徐々に症状が重くなってきている以上、生半可な言葉では止まらないだろう。………とはいえ、彼女達は『闇の書の闇』についての記憶が無い。それが、裏目に出ないことを祈るしかあるまい。

 

続いて転生者組。

黒岸紫耀、ローザ・シャルラハロート、灰群蒼児の3人。現状において、もっとも闇の書事件について把握していると言っても良いだろう。これからどういった事態になっていくかも大まかではあるが把握しているらしいしな。……だがそれによって行動の選択肢を狭めているとも言える。それが悪い方向に影響しなければいいのだがな。

 

最後に私自身。

管理局、守護騎士、転生者組それぞれとある程度の関わりがある上、それぞれの事情についても把握している。戦力としては、BB、メルトリリス、パッションリップ、ヴァイオレット、カズラドロップ、キングプロテアのアルターエゴ達と、ムーンセル・オートマトンと同等の性能を発揮する演算装置と、カルデアとかいう組織から拝借した英霊召喚術式によって呼び出される英霊(サーヴァント)、そして私が行使する模倣体……等々、世界を片手間で相手に出来る程の戦力を保有している。

……………改めて確認してみると酷いな、これは。

 

「……まあ英霊達は余程の事が無ければ召喚する必要は無い。模倣体もこれ以上は余計な介入にしかならん………実質的な戦力は私自身とアルターエゴ達だけになるか」

 

それでも充分戦力過多になっているがな。そうなると、現実世界でも活動できるように後発組のアルターエゴの義体の調整に取り掛かるとしようか。

 

クリスマスまであとひと月程度。それまでにはケリをつけたいところだが………そういう訳にもいかんのだろうな。

 

 

 

 

 

Out Side

 

ここは時空管理局所属艦『アースラ』内の訓練場。そこでは、管理局の協力者が集い、模擬戦を繰り広げていた。

 

「ディバインバスター・ファランクスシフト!!てぇーッ!!」

 

高町なのはによって作られた14の砲口から放たれる超極太のディバインバスター。それだけならまだしも、その砲口とはまた別に18個の魔法陣が展開しており、そこからアクセルシューターがさながら光のシャワーの様に放たれる。

その先にいるのはフェイト・テスタロッサ、ローザ・シャルラハロート、灰群蒼児の3人。

 

「いくよ、バルデッシュ!!」

《Yes Sir. lightning move》

「薙ぎ払いますわよ、ワルキューレ!!」

《了解です、お嬢様!!》

「………御神流の体捌きと、アイツから教わった双剣術。試すには持ってこい……!!」

 

フェイトは魔法を発動し、大小入り乱れる魔法の雨の中を超高速で駆け抜け、ローザは刃先に己の魔力を収束させた5m近くにまで巨大化した魔力刃を振るい、魔砲を切り裂き、蒼児が御神流の体術を駆使し、右手の剣を順手、左手の剣を逆手に持ち、魔力弾を切り裂いて消滅させていく。

 

そこから離れた所では、黒峰紫耀とクロノ・ハラウオンが相対している。紫耀は村正を納刀した状態で身体を半身にして構え、クロノはグレアム提督の使い魔でもあり、嘗ての父の使い魔でもあったリーゼ姉妹から託されたインテリジェンスデバイス、『デュランダル』を構え、魔法を展開する。

 

「くらえ……っ!!ブレイズキャノン!!」

 

ジュエルシード事件の時とは比べものにならないほどの速さで魔法が発動する。それもその筈、つい先日までクロノが使っていたデバイス『S2U』は幾度と無く改良が加えられてはいたが、それでも数世代前の型落ち品。それに比べて現在クロノが使用しているデュランダルは元々ギル・グレアムが闇の書の完全封印を目指して、管理局の最新技術を導入したものである。そのスペック差は歴然と言っていい。

………だが、それでもなお、紫耀にとっては脅威になり得なかった。

 

「その程度の砲撃で、俺を倒せると思ってんのかよ!!?七曜流・守型……流水烈花ァ!!」

 

居合いの構えから放たれる幾重もの剣閃。それがクロノの放つ砲撃と衝突し、切り裂き、彼岸花の様な軌跡を残して、砲撃を消滅させた。

 

「くっ……っ!流石と言うべきか。だが、この程度と思われるのは心外だな!!」

「上等ォ!!かかってこいよ!!クロノの坊主!!」

 

そうした見ようによっては阿鼻叫喚の地獄にも見えかねない訓練をモニターから眺めるリンディ・ハラウオン、エイミィ・リミエッタの2人。

 

「………なのはちゃんもフェイトちゃんも、凄まじい進歩ねぇ……」

「フェイトちゃんはまだしも、なのはちゃんなんかあれ、戦艦の爆撃並ですよ?」

「………よっぽどあの聖槍十三騎士団という組織に対して思うことがあったのかしらね」

 

「何、心が折れて戦えなくなるよりはああやって無茶苦茶ではあるが訓練に励んでくれていた方が君達にとっては有難いのではないかね?」

 

そう言いながらリンディ達に近づく影。その声に反応した2人が振り向くとそこには、赤い外套を身にまとい、ボディーアーマーを身に付けた、どう見ても管理局の人間には見えない、浅黒い肌と白髪の青年であった。

 

「えーっと、アーチャーさん?でしたっけ。どうしたんですか?こんな所まで来て」

「どうしたも何も、食事の用意が出来たから呼びに来たのだよ。まったく、本来私は彼等の訓練相手だった筈なのに何故料理人の真似事をしているのだ……」

 

そう呟くアーチャーと呼ばれた青年。しかし何処か満更でも無さそうな声色である。

 

「それはありがとうございます……ですが、見ての通り今白熱し始めて来たところですから、暫くは放っておくしかできないと思いますよ?」

「どうやらそのようだ。………しかし、年端もいかない子供を戦場に立たせることを黙認しているとは、伝え聞いていた通りの組織の様だな。管理局というのは」

 

そう言葉を零すアーチャー。その顔は険しく、どう見ても現状に不満を持っているのがありありと浮き出ていた。

 

「………返す言葉もありません。しかし、現状を解決するにはどうしても彼女達の力を借りるしか……」

「そんなものは自分達が正しいと思い込む為の詭弁に過ぎん。私の知り合いには、どれだけ力が及ばなくても、どれだけの苦難が待ち受けていようとも、『自分には才能が、力が無いから』などという弱音を一言も吐かずに戦い続けた者がいた。傍から見れば、まさしく一般人にしか見えないような奴だったよ」

 

そう言いつつ、アーチャーは過去に思いを馳せるように苦笑する。『今』の彼には実際に『彼/彼女』と戦った記憶は無い。『彼/彼女』と共に戦った『自分』は既に消滅してしまった。しかし、『記録』としては残っている。

 

「……少し話が逸れたな。ともかく、そんな奴でさえ誰かを救うことが出来るというのに、貴様らは子供に頼り切りとは……随分と情けないことだ」

「な、何もそんな言い方しなくても!!リンディさんにだって、立場が……」

「立場を気にするなら人助けなぞ考えるな。どうしても助けたい命があるのなら自分の全てをかけろ。そうでないならば、それはただの自己満足に過ぎん」

「あ……う……」

 

途中で口を挟んだエイミィだったが、アーチャーの容赦ない言葉に縮こまってしまう。リンディも先程からずっと、苦い表情を浮かべている。

 

「その点では、彼女達は無意識ながらもそれを理解していると見える。もっとも幼さからくる無鉄砲な正義感での行動とも取れるが、貴様等管理局の大人に比べれば、純粋な分彼女達の方がまだマシだろう」

 

そう考えると、クロノは素直に称賛に値するとアーチャーは考える。管理局の闇を未だ知らないのだろうが、それでも出来ることをしようと努力しているのが見て取れる。若干堅物気味だが、それも経験を積むことで何とかなるだろう。

 

「「…………………」」

「おっと、すまない。つい出過ぎた真似をしてしまったな。まぁ私の言葉は心の片隅にでも置いておいてくれたまえ」

 

すっかり黙ってしまった2人に言葉を残し、アーチャーはその場を去っていく。彼はあくまで、蓮夜によって召喚されたサーヴァントであり、管理局の協力者では無い。苦言を呈す事はあっても、彼女達を慰める必要は無いのである。

 

闇の書の発動を止めることが出来るのかどうかは年端もいかない子供達と、現地の青年達に掛かっている。

そう考えると、管理局という組織の先は長くなさそうだ。

 

そのような考えを巡らせながら、アーチャーは歩みを進めた。

 

 


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