巻き込まれた放浪者   作:北河静

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第4話

Side 緋峰

 

さて、現在私は月村邸にいる。時刻は既に夕刻。高町恭弥が運転する車について来たところ、豪邸に辿りついたのには流石に驚愕した。何でも少女たちはどちらもそれなりの富豪らしい。

………もっとも知り合いに桐条の御令嬢や南条の御曹司、果てには魔王までいるのでスケールの点では彼らの方が数段上だと気づいた時には、もう来客室に通されていた。そこで小物をどう対処したかだけ話して、今に至る。

 

「……改めて、この度は私の妹のすずか、そしてすずかの友達のアリサちゃんを助けてくれてありがとうございます」

「俺からも礼を言う。あの子達は家の妹の友達なんだ」

 

そう言って頭を下げるのが、高町恭弥と一人の女性。

名を『月村 忍』何でもあの小物と親類に当たるのだとか。正直、ご愁傷様としか言いようがない。あと、高町恭弥とは婚約を結んでいるそうだ。

 

「別に構わんよ。偶然、今横に座っている青年が強引に車に乗せようとしたところを見かけたのでね、見捨てるのも目覚めが悪くなると思って行動に起こしたに過ぎんよ」

「そうだ。黒岸、貴様なぜすずかちゃんたちを誘拐なんて企んだんだ?きっちり説明してもらうぞ……?」

「あーそれね。恥ずかしい話、うちの新入りが金に目がくらんで俺含む上役に相談せずに嬢ちゃん達誘拐してくれって依頼引き受けちまったのよ」

 

そうして話始めたのは先程剣を振るっていた青年。『黒岸 紫耀(くろぎし しよう)』というらしい。

……しかし彼はどうも月で出会った森の英雄を思い起こさせる顔立ちをしている。弓兵だった彼が剣を振るっていると考えると中々に面白い。

 

「ならどうして、すずかの携帯を使って私に連絡してきたりしたのかしら?」

「一度受けた依頼は断らねぇのが信条だからな、取り敢えず誘拐だけしろって依頼だったから攫ってその後はあのクソ野郎殴ってお終い………って感じでこなそうと思ってたんだけどな。あのイレインだったか?あれにおもっくそぶん殴られて、そんときにこっちの兄さんが颯爽と登場してくれてな。いやーあれはかっこよかったぜ〜!!」

「私からして見れば誘拐犯がメイドの横で蹲っているのだから思わず目を疑ったよ」

 

想像して欲しい。誘拐犯を打ちのめすつもりで突入。そして目にしたのはメイドを引き連れた三下臭全開のスーツ姿の小物。その前にメイド、さらにその前に蹲っている黒服。………シュールだろう?

 

「………そうだ、小物で思い出した。月村忍」

「はい…?何でしょうか、緋峰さん」

「あの小物が自分の事を『夜の一族』やら吸血鬼などと言っていたが……それは君達姉妹もなのかね?」

「………ッ!!」

 

そう私が問いかけた瞬間、月村忍は息を呑んだ。それに伴い、高町恭弥は懐から何かを取り出そうとしている。………あれは小太刀か、渋い武器を持っているものだ。

 

「ああ、答えなくて構わない。その反応で充分だ」

「………何も思われないのですか?」

「私は何処ぞの俗物とは違うのでね。『たかが』吸血鬼程度ならば、私にとって人間とさほど変わらんよ」

「そ、そうですか……」

 

何やら戸惑っているようだが、さして気にするほどでもあるまい。

 

「それよりもだ、アリサ・バニングスといったかね?彼女もその言葉を聞いている。最低限、説明とフォローはしておくべきだろう……君の妹も含めてな」

「…………そうですね、申し訳ありませんが少し席を離れます」

「構わんよ、しっかりと姉の務めを果たすといい」

「俺達は俺達で話をしておく」

「俺としては改めて嬢ちゃんたちに謝っておきてぇんだが……時間置いてからじゃねぇと逆効果だな」

「では、失礼します」

 

そうして月村忍が部屋を出るのを見届けると、高町恭弥が口を開く。

 

「………しかし自動人形を相手に余裕とは、一度貴方とも手合わせ願いたいですね、緋峰さん」

「蓮夜で構わんよ、敬語もいらぬしもっとフランクに接してくれたまえ」

「じゃあそうさせてもらうけどよ、あんたが使ってた『アレ』一体何なんだ?随分と強力な代物だったけど」

 

黒岸紫耀が口を挟む。……そう言えば、後で教えると言ってしまっていたな、仕方あるまい。

 

「ん?………ああ、エイヴィヒカイトのことか。あれは特殊な術式……まあ有り体に言ってしまえば魔術によるものだ。何分特殊なものなので、扱いには注意が必要だがね」

 

なにせ活動位階でさえ、超人と呼ばれるレベルになるのだ。今回の件では思わず創造位階まで解放してしまった。なるべく自重せねばいかん。

 

「魔術、だと……?にわかには信じられんが」

「テメーが言うなよ、御神の。お前んとこの奥義だって大概だろうが。自らの意志で体のリミッター外して知覚できない速度で動けるとか訳わかんねぇ代物使いやがるくせに」

「なっ……!?そういう貴様こそ、剣に氣を宿らせて衝撃波を放つなぞ人間離れしている技を使っているだろうが!!」

「………ように我々はそれぞれ互いに理解出来ないナニカを平然と使いこなしている。というわけだな」

 

それより、少し気になることが出来た。

「それはそうと……黒岸紫耀、なぜ貴様は高町恭弥のことを『御神』などと呼んでいる?」

「態々フルネームで呼ぶなよ、紫耀でいいっての。………で何で此奴を御神って呼ぶかだっけ?此奴の流派が御神流とか言う流派なんだよ。その印象が強いからかねぇ?」

「正確には『永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術』だがな。……まあ裏に精通している者は大体御神流で通っているがな。それと、俺も恭弥で構わんぞ?」

「承知したよ。紫耀、恭弥。しかし、中々に面白いなこの町は。退屈する事は無いだろうよ」

「ん?もしかして、お前この街に住んでるわけじゃねぇのか?」

「ああ、そうだよ。実は今日この町に着いてね、泊まるところを探していたときに紫耀と彼女達を見つけたのでそのまま追いかけたのだよ」

 

真実を全て話したわけではないが、嘘は言っていない。

 

「あら、でしたら今日は家に泊まっていったら如何ですか?」

「忍か、すずかちゃんたちはもういいのか?」

「ええ、心配してくれてありがと。恭弥」

「………愛を育むのは構わんが、せめて周りに人がいない時にするのがマナーだと思うのだがね」

 

いつの間に戻って来たのやら。

 

「ご、ごめんなさい、緋峰さん。……それでどうかしら?」

「いいのかね?素性もはっきりしていない輩を簡単に泊めたりして」

「ええ、すずか達を助けてくれた人が悪人とは思えませんから」

 

……全く呆れ果てるな、月村忍には。私が暗に何か企んでいると言っているようなものなのに月村忍は笑顔で答えてきた。………これではこちらの毒気が抜けるというものだ。

 

「それに………」

「ん?何かね?」

「いざという時には恭弥が守ってくれますから」

「「…………」」

 

正に恋する乙女といった表情で恭弥への信頼を伺わせる言葉を月村忍は零す。その表情に紫耀と揃って絶句する。

恭弥?照れて顔を真っ赤にしているよ。

 

「………わかった、では今日はその好意に甘えさせてもらうとしよう。宜しく頼むよ、月村忍」

「ええ、どうぞごゆっくり過ごしてください」

「さーて、俺もそろそろ帰るとするかぁ。じゃな蓮夜、御神の。また集まって話そうや」

 

そう言うと、紫耀が席を立つ。

 

「ああ、勿論。また邂逅する日を楽しみにしているよ、紫耀」

「だからその名で呼ぶなと言っているだろうが。………まあいい、またな紫耀」

 

そうして黒岸紫耀は月村邸を去った。まあ直ぐに会うことになるだろう。

 

「緋峰さん………少し宜しいかしら?」

「……自分たちが吸血鬼であることを口外しないで欲しいのだろう?その程度口に出さぬともわかるよ」

「ええっ!?…………緋峰さん、貴方人の心でも読めるんですか?」

「統計だよ、こう見えてそれなりに永い時を過ごしているのでね。そういった顔をする者の言いたいことは何となくわかるのだよ」

 

実のところそういった異能も持ち合わせているが、使うまでもなくわかる。

 

「………失礼ですが、おいくつですか?わたし達と同い歳くらいにしか見えないのですが……」

「少なくとも君たちより遥かに年上だよ、とある出来事に巻き込まれた際に不老になってしまってね。外見が一切変わらんのだよ」

「吸血鬼が実在するくらいだからなまじ有り得んと言いきれないな……」

 

恭弥が驚愕しているが、まあ若い内に色々な経験は積んでおくに越したことは無いだろうよ。

 

「他に何か言っておきたいことはあるかね?月村忍」

「え?……いえ、わたし達一族のことだけですね」

「そうかね?ならば親睦を深めるために雑談でもするかね?」

「賛成です!!恭弥もいいわよね?」

「ああ、蓮夜の話はためになることが多そうだ」

「………まあ永年の教訓くらいなら教えてやってもいいがね」

 

………こうして、この世界初の夜が過ぎていった。

 

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