巻き込まれた放浪者   作:北河静

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第5話

Side 緋峰

 

 

時は流れ、月村すずか、アリサ・バニングス誘拐事件からもう一週間がたつ。月村邸に泊めてもらった翌日にはそれなりのホテルを見つけたのでそこに滞在している。そして今私が何をしているかというと………

 

「ありがとうございました、またの御来店をお待ちしています」

 

恭弥の実家でもある、喫茶店『翠屋』で働いている。

なぜこんなことになっているかは、至極単純。することがなかったのだ。これも最早慣れたものなのだが、

私が訪れた世界で事件が起こるとはいっても、直ぐに起こるわけではないのだ。長い時など、一年ほどすることが無かったこともある。

ゆえ、今回も何時になるか分かったものではない為、恭弥という伝手を使わせて貰って翠屋で働いているのだ。

 

「お疲れ様、蓮夜君。もう人も捌けてきたし、上がって入って貰って大丈夫だよ」

「お気遣い感謝するよ、士郎殿。だが、まだまだ忙しい時間帯だ。もう少し手伝わせていただくよ」

 

声をかけてきたのは高町士郎、翠屋のオーナーで恭弥の父親だ。何でも翠屋を開く前は用心棒をしていたそうなんだが、とある一件で重傷を負い、引退せざるを得なくなったそうだ。

 

「あらあら、そんな遠慮なんかしなくても大丈夫よ?恭弥の数少ない男友達なんだし」

「桃子殿、そういう訳にもいかんよ。私はあなた方のご厚意で働かせてもらっている身だ、不躾な真似は私自身が許せないのだよ」

 

士郎殿の横で、私を労わってくれたのが高町桃子。

恭弥から聞いたが、高町家は三人兄妹らしい。

だが、桃子殿はとても3児の母とは思えない美しい美貌を保っている。

世界を巡る中で何度かこういった人物を見たことがあるが、未だに謎だ。

 

たわいのない内容の雑談を高町夫妻と話していると、店の扉が開かれる音がする。

 

「いらっしゃい………何だ、お前か」

「おいおい、客に対してその態度はねぇんじゃねぇか?」

「しっかり接客して欲しいのならその人を馬鹿にしている様なうすら笑いをやめるのだな、紫耀。…………士郎殿、桃子殿、先程あのような物言いをしたばかりなのに申し訳ないが……」

「ああ、構わないよ。友達は大切にするものだ」

「感謝するよ、士郎殿……紫耀、そこで座って待っていろ。着替えてくる」

「おうよ、士郎さん。いつものよろしく〜」

「わかった。コーヒーとシュークリームが二つだったね、直ぐに用意するよ」

「………毎度毎度申し訳ない、士郎殿」

「なに、売り上げに貢献してくれるのなら大歓迎さ。紫耀君も時々手伝いに来てくれているからね、このくらいは構わないさ」

 

………この二人には頭が上がらないな。私の方が遥かに歳を食っているはずなのだが、大人の余裕というものをしみじみと感じる。恐らくだが、その余裕は親となることによって生まれるものなのだろう。

 

「……さっさと着替えてしまうとするか。余り待たせるのも良くない」

 

 

 

 

「スマン、待たせた………何をしている?」

「蓮夜!?ちょうどいい!!手伝え!」

「離してくださいまし!!あの男には一言ビシッと言ってやらなければならないのです!!」

「何?いい歳したババアの癖してキーキー騒がないでよ、メンドクさいなぁ……」

「……貴方という人はぁぁあああ!!」

「だから落ち着け!!テメェも挑発してんじゃねぇよ!!」

 

私が着替える為に裏にいた数分で何があったというのだ……!?漫画などで良く見るお嬢様の様な髪型をしている金髪の女性が紫耀に羽交い締めにされていて、それをコーヒーを飲みながら挑発している藍色の髪の青年。……紫耀の知り合いのようだが、このままではマズイな。

 

「………士郎殿、すまないが少し道場を借りても良いかね?このままだと店に被害が出るかもしれん」

「ああ、構わないよ……というより、僕も協力しようか?」

「流石にそこまでしてもらう訳にはいかぬよ………」

 

さて、どうやって今にも暴れ出しそうな彼女の動きを止めるか……余り人目につくものは使えないしな。

 

「これが最も適しているか。……エーテライト、彼女を縛れ」

 

とある錬金術師に扱いを習ったものだが、こういう人目につく場所で使うには役立つな、相変わらず。

ミクロン単位の細さのフィラメント、視認することすら不可能な代物だ。

 

「キャアッ!?か、身体が……動かない!?」

「そら紫耀、今のうちに裏の道場までその女性を連れていくがいい」

「サンキュー!!オラ行くぞ!……てか店の中で暴れんなよな!」

「は、離しなさい紫耀!!今日こそはあのウスラトンカチに一発ぶち込まなければ………!」

 

紫耀に引き摺られて、女性が連れて行かれる。

 

「済まないが、君も来てくれないか?どうもこの騒動の原因の一端を担っているようなのでね」

「……誰、アンタ」

「私かね?紫耀の友だよ。名は緋峰という」

「……!そう、アンタが紫耀の馬鹿が言ってた蓮夜って奴か。………いいよ、ついていってあげる」

「助かるよ、こっちだ」

 

そうして、毒舌青年を連れ、店の出口に向かい、店を出る直前で士郎殿の方に向き直る。

 

「士郎殿、迷惑をかけて済まないね」

「店に被害は出て無いから問題ないよ」

「そう言ってもらえるとありがたいよ。彼らの飲食代は、私のバイト代から引いておいてくれ」

 

そう言い残し、店を出る。………どうしてこうも厄介事が私の元へと来るのだ、まったく。

 

 

高町家には恭弥が修めている御神流の鍛練のための道場がある。この一週間で恭弥と幾度か組み手をする際に利用していたので、ある程度の勝手はわかる。

 

「さて、どういう事か説明したまえ紫耀。回答次第で貴様への罰を決めるとしよう」

「ちょ!?俺が悪ぃの!?騒いだのコイツらだろ!!」

「店で騒ぐ原因になったのは貴様だろう?違うのかね、んん?」

「ぐっ……そりゃあそうなんだけどよ〜」

「理解したのならばさっさと説明したまえ。どうしてこのようになったのかをな」

 

その一言で観念したのか、ようやく紫耀が話し始める。

 

「………まあ極々単純な話しだけどよ、あの二人は俺のちょっとした知り合いなんだが……犬猿の仲でな。それがバッタリ翠屋で出会っちまってあの有様だ」

 

そうして紫耀が示す先には件の二人が立ち合っている。しかも何処からともなく女性の方がレイピアを、青年の方が双剣を持って打ち合っているだから驚きだ。

 

「今日こそはその憎たらしい顔を穴だらけにしてあげますわ!!」

「無駄無駄、アンタじゃ僕には傷一つ付けられないって」

 

立ち合いの最中ですら互いに罵倒しあうくらいなのだから本当に仲が悪いようだな。どことなく、互いへの信頼が垣間見えるが………言わぬが花、というものだろう。

 

「紫耀、この際だからハッキリさせておこう。お前……いや、お前達だな。一般人が持ちえないナニカを持っているな?」

「………やっぱ分かるか、流石って言うべきかね?」

「いいからとっとと説明したまえ」

「へいへい………おい、蒼児!ローザ!その辺にしとけって!!」

 

紫耀があちらで立ち合い……というか殺し合いにまで発展しかけている二人に声をかける。………が、

 

「うるさいですわよ!!マヌケ面!」

「突撃馬鹿が僕に指図するな」

「テメェら……!上等だゴラァ!!」

 

ご覧のありさまである。

なぜ諌める側の貴様まで簡単に挑発に乗るのだ……!

 

「はぁ……貴様等、いい加減にしたまえ」

「「「ッ!!?」」」

 

ほんの少し殺気を放つだけでここまで反応出来るのであれば素晴らしいといえるな。

 

「わかってもらえて何より。………取り敢えず、貴様等そこに正座だ。」

「なっ……!なぜ(わたくし)がそのような……!」

「異論は認めん、断じて認めん、この場においては私が法だ、黙して従え」

「………わかりました」

 

お嬢様風のローザと呼ばれていた女性が噛み付いて来たが、先程より強めの殺気をあてたら大人しく言う事を聞いた。やはり人間素直なのが一番だ。ちなみに私は人間のカテゴリーを超越しているため素直である必要など無い。

………男共は命じた瞬間には正座になった。顔が青ざめているがどうしたというのだろうか?

 

「さて……紫耀達の話を聞きたいところだが、まずは説教だ。そこの二人、公共の場で暴れかけたことに対して、何か申し開きはあるかね?」

「「コイツが喧嘩売ってきた(のですわ!)」」

「いい大人が子供の様な言い訳をするな。………まったく何処ぞの馬鹿共そっくりだな貴様等」

 

ヴィルヘルムとシュライバーは事ある毎に殺し合いをしていたからこの二人はまだマシと言えるのかもしれんが。

 

「まあ貴様等へ言うことはもう少し我慢を覚えることだな。…………で、次。貴様だ紫耀……!」

「うぇい!?俺もかよ!」

「当たり前だろう、そこの二人を止めようとしたくせに暴言一つでキレて醜い小競り合いに参加。まあそれだけならばまだそこの精神年齢が子供と変わらん二人と同じだと呆れ果てる程度で済ましてやったのだが……」

 

「精神年齢子供………」「な、なんですのこの方は……?」などと呟いているが知ったことではない。

 

「話しをする為に小競り合いを止めようとしたのでは無いのかね?違うというのならば言ってみたまえよ」

「…………蓮夜の言う通りです」

「だろう?………であるならば、だ。何か言うことがあるだろう?」

「……暴走しかけて申し訳ありませんでしたッ!!」

 

紫耀が選択した答えは土下座からの謝罪。

惚れ惚れするほど見事な土下座だな。これで多少溜飲が下がったので、良しとしてやるとしよう。

 

「よし、もう正座を崩していいぞ。説教終了だ」

 

ほんの数分だというのにローザとやらが百面相をしている。……嗜虐心が擽られるが、まあまたの機会で良いだろう。

 

「取り敢えず先ほどの説明を再開したまえ、紫耀」

「あいあい……まあ簡潔に言うと、俺らは俗に言う『転生者』って言われる存在なんだよ」

「紫耀!?貴方何を勝手に……!」

「問題ないよローザ。この人がこないだ紫耀が言ってた緋峰って人だから」

「この方がですか!?」

 

………ローザと呼ばれる人物は気位が高いのか、所々見下したような発言があるが、このような物言いはまだ可愛いほうだ。

 

「で?それがどうしたのかね」

「………やっぱり、驚かねぇのな」

「転生者自体には何度か出会っている。私も人から化外になったという点では私も転生した者と言えるかもしれんがね」

「………まじで?」

「本当だよ、まあその話はまた今度でいいだろう。続きを話したまえ」

「ああ、うん。それでだな……俺達に協力してくれないか?」

「そういう交渉をするならまず何に協力して欲しいかを言いたまえよ、紫耀」

「悪ぃ悪ぃ……少なくとも一週間以内に、地球が崩壊しかける事件が起こる。それの解決に協力して欲しいんだ」

 

………今回私がこの世界に来たのはそれに関係していそうだな。

 

「………協力するのはやぶさかではないが、何故それがわかるのだ?」

「「「……………」」」

 

だんまり、か……ならばそういうことなのだろうな。

 

「この世界が漫画、もしくはアニメなどの世界だと言うのだろう?」

「…………ああ、そうだよ」

 

ふむ、やはりか。

 

「………なんでわかったの?」

「今までそういった世界を見てきたからだ。こう見えて貴様等が前世を足した年月よりも遥かに長生きしているのでな」

「………どう見ても同年代にしか見えないのですが?」

「先程言っただろう?化外になったと。その時に不老になってね、それ以降外見が変化していないのだよ」

 

蒼児、ローザと呼ばれた者達が交互に尋ねてくるが、それに対して律儀に答えてやる。

 

「………やっぱすげぇな、あんたは」

「ただの年の功だよ。まあ協力はしよう、詳しい話は……また今度にするべきだな。何時までも道場に居座るわけにも行かんだろう」

 

紫耀が感心したように頷いているが、軽く流す。

 

「……それもそうだな。じゃあ明日、あんたの泊まってるホテルに行くわ」

「了承したよ、紫耀。…………もし、明日も同じようなことをすれば……わかるな?」

「お、おう!わかってるって!な?蒼児、ローザ!」

「え、ええもちろんですわ!!」

「大丈夫だよ…………多分」

 

軽く脅すと、面白いくらいに怯えているがそんなに怖がらせるようなことをした覚えがないんだがな。

 

 

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