4月に入り、過ごしやすい気候となってきた。他の隊員達が鍛練を積む中、浅見隊は例のごとく作戦室でだらだらと過ごしている。
「おい阿部、また見てるのか」
ひとりでランク戦のログを見ていると浅見隊のスナイパー、関口葉に声をかけられる。
「やっぱランク戦のログ見るのは大切でしょ。相手がどんな手を使ってくるのか見れるし、学べることもたくさんあるし」
「でも阿部はいつもA級ランク戦見てるよねー。またA-RISEじゃん」
と話に入ってきたのは隊長でアタッカーの浅見博人だ。俺が今見ているA-RISEというのはボーダーのA級チーム綺羅隊として活動をしながらもスクールアイドルA-RISEとしても活動する3人のことだ。
ここ最近スクールアイドルというのが熱を帯び始めているらしい。それに便乗してボーダーが広報に利用し、今では嵐山隊と二枚看板でボーダーの顔となっている。3人ともそれぞれ違った魅力があり、とてもかわいい。
「スクールアイドルとして活動しているとはいえ、実力は相当だから勉強になるし。何よりかわいいし。かわいい子見ながら勉強とか一石二鳥だし」
ふたりはちょっとあきれ顔になった
「でもその勉強結果に結びついてないじゃん」
関口に厳しい言葉を投げつけられ、少し返答につまる。
「……まあ見ないより見た方が絶対いいって!一緒に見よう!」
そう言って3人で見ることになる。実際ふたりもA-RISEが好きではあるからこれがいつものパターンとなっている。
ランク戦の話をすると俺たち浅見隊は前回18位、全19チームだったので下から2番目だ。これが3回目のランク戦であるが、ずっと最下層を固めている。B級に上がるまではみんな優秀な隊員で通ってたんだけどな…
ログを見ていると浅見くんに話しかけられる。
「なんか俺のトリガーの調子悪いんだけど」
「どう調子悪いの?」
「なんかやばい」
何もわからない。でもそこで関口が補足してくれる。
「俺もさっき見てたんだけど武器が勝手に出たり、逆に出なかったりしてた」
「あ、それやばい。下手すると生身をトリオン体に換装する時に生身が消滅する」
「「えっ⁉︎まじで⁉︎」」
「いや、予想」
「予想ってなんだよ、それウソってことだよね⁉︎怖いこと言うなよ!」
「まあ、俺たちトリガーの仕組み詳しく知ってるわけじゃないし、そういう可能性もないことはないでしょ。だからウソじゃなくて予想」
浅見くんは納得したようなしていないような微妙な表情だ。
「とりあえず鬼怒田さんのところへ行ってきなよ」
そう関口が言ったところ1人で行くのが嫌だと言うので俺が付き添い、2人で開発室に向かった。
ーーボーダー本部開発室ーー
「「こんにちはー!」」
「………あれ?」
あいさつをして入ったが誰もいなかった。てか無人なのに入れちゃうとかセキュリティ甘すぎだろ。いや、逆にボーダーの隊員にそれだけ信頼を置いているってことなのかも。
そんなことを考えていると作戦室の予定表を見ながら浅見くんが話し出した
「なんか新入署員の歓迎会で帰ったっぽいよー」
「どうしようか…」
ふたりとも黙ってしまう
「ねぇ、阿部って少しトリガーいじることはできるよね?」
「まあ、少しくらいなら」
「この前鬼怒田さんに『お前は開発室の一員だー』みたいなこと言われたから少しくらい道具借りても大丈夫だと思う。それでちょっといじってくれない?」
鬼怒田さんが機嫌良く言う姿が浮かぶ。でもそれ絶対一時の考えで言っただけで本気ではないよね。
まあでもすぐ返せば大丈夫か。
「少し不安だけどすぐ直してすぐ返そう」
「じゃあこの工具箱持って行こう!」
ーー浅見隊作戦室ーー
「「ただいまー」」
「おかえりー、って何それ?」
関口が迎えてくれる
「開発室に誰もいなかったから工具だけ借りてきた!」
「まあ少し見るだけだから大丈夫だとは思う」
そう言ってすぐに作業を始める。何度も分解はしたことがあるのでスムーズに作業を進められる。しかしなかなか原因がわからない。結局小一時間やったところで諦めてしまった。
「やっぱりちゃんと見てもらった方がいいと思う。俺じゃ分からなかった」
「そっか、ありがとね」
「ちょっと疲れたから休むねー」
と言ったままいつの間にか睡眠に入っていた
ーーーーーーーー
『開発室から連絡です、開発室から工具箱ひとつが無くなりました。心当たりのある職員、または隊員は至急開発室まで来てください。繰り返しますーーー』
その放送を聞いた浅見の顔は豹変し、すぐに作戦室を飛び出した。一方で阿部は安らかに眠っていた。
「おい、阿部!起きろ!」
そう言われると阿部は飛び起きた
「どうした⁉︎敵襲か⁉︎」
「違うけど、工具箱が開発室から無くなったって騒ぎになってる」
そこで記憶を辿る。工具箱を見て昨日の出来事を思い出す。そして自分が工具箱を返さないまま寝たことに気がつく。
「浅見くんは逃げてなければ開発室に行ったと思う。工具箱を持って開発室まで行こう」
焦りで目がすっかり覚めたのでどう弁解しようか考えながら少し時間をかけて開発室に向かった。
ーーボーダー本部 開発室ーー
開発室に着いた。浅見くんがまくしたてられてひたすら謝っている。怒られている声は廊下にも響いていたから来るのをすごくためらった。
人だかりができていて俺が来たことに何人かが気づき、またお前らかとも言いたげな視線を送ってくる。そしてその奥からの視線に気づき、見ると鬼怒田さんと目が合う。その瞬間自分が標的になったことをすぐに理解した。
「ぬぁにやってんだ!!!!」
その後考えていた言い訳をする暇もないまま鬼怒田さんに2時間ほど説教された。そして会議に呼び出されることが決定した。そこで処罰が下される。こんなことになるとは思ってなかった…ただ少し工具箱借りただけじゃん…
「なんで俺まで…」
「「ごめん…」」
関口にふたりで謝る。くたくたになりながらも作戦室に向かっていると声をかけられる。
「よお、お疲れだね。ぼんち揚げ食う?」
声をかけてきたのは玉狛のS級隊員の迅悠一だった。
「あ、迅さん…!こんにちは」
いつもと比べると元気のない声で答える。それに続き俺と関口もお辞儀を返す。
「いやぁー、それにしても鬼怒田さん相当怒ってたね」
笑いながら話してるけどこっちとしては笑い事じゃないんだよな…
「君たちに少し話があるんだ」
「なんですか?」
浅見くんが聞き返した
「いきなりだけど君たち秋葉原支部にいってみないか?」
どういうこと?いきなりすぎて全く意味がわからない。
秋葉原支部はこの春から設置される新しい支部だ。A-RISEが本拠として活動している秋葉原に支部を置き、そこを広報の拠点とするらしい。
3人とも言葉を発さずにいると迅さんは話を続けた
「たぶん君たちは今回の件で処分を受けるだろう。決して軽くない処分と思う」
まあそうだよな。悪気はなかったとはいえやったことは盗み、犯罪行為ともとれる。厳しい罰は逃れられない。
「最悪の場合除隊にもなる。…だけど俺ならなんとかそうならないように仕向けられる」
迅さんはドヤ顔で言い切った
それで秋葉原支部にいくかそのまま除隊するかを迫られてるってことなのか。
そんなことを考えていたのを表情から読み取ったのか迅さんが少し慌てたように話し直す
「秋葉原支部にいく代わりに助けるとかそういうことを言っているわけじゃないんだ。別にいかなくても俺は君たちを助けるよ。でも秋葉原支部に行くことは俺個人としての提案。でもこのことは君たちの未来にとって、そしてボーダーの未来にとってすごくいいことなんだ」
真面目な顔でそう言ってくる
でも正直メリットは見つからない。本部から遠いし、設備も本部より劣るだろうし。ってか俺たちの未来?ボーダーの未来?
「俺たちの未来、ボーダーの未来ってどういうことなんですか?」
「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
またドヤ顔で言い切った。浅見くんだけおぉ…とか感嘆の声を漏らしている。迅さんは予知のサイドエフェクトを持っているっていう噂は聞いたことがある。それはあくまでも噂だし定かではないけれど。
また3人とも黙ってしまう
「浅見くん君はどうしたい?」
「もちろんいきます!!!」
「「はぁーーー!?」」
全く何を考えているかわからない。即決だし元気になってるし。
「おい!ちゃんと考えたのかよ!」
関口が言う。本当だよ!ちゃんと考えろ!
「ふたりとも!秋葉原支部ってことはだよ?」
神妙な顔つきだな。浅見くんはきっと迅さんの話している間隊長としていろいろと考えていたのだろう。
「A-RISEに憧れて入ってくる子が来るんだよ!かわいい子いっぱいだよ!これは逆にチャンスだよ!答えは考えなくても出てくるでしょ!」
「うん!行こう!」
即答した。関口も納得したように頭を上下に振っている。
そうだった!全く頭になかった!かわいい子たくさんだよ、そんなのいかないわけにはいかない!
「ハハハ!君たちは愉快だな!じゃあ会議には俺も参加するからまた後で」
そう言ってぼんち揚げの袋を置いて去っていった
1話読んで頂きありがとうございました。
補足などは活動報告の方でさせていただきます。
興味がありましたら見に来てください。