俺の名前は比企谷八幡。泣く子もドン引くベテランぼっち決闘者である。
ちなみに遊戯王専門だ。
思い返す事十数年。
小学生の頃からやる相手がおらず、ただひたすらに遊戯王を一人でやり続け、詰めデュエルを極め、壁打ちはテニスの比ではない程こなし、とうとう俺のプレイングは高校生の中でもトップクラスのレベルまで上昇した。
……すみません嘘です。高校生とデュエルなんてやった事が無いので他の奴の強さなんて分かりません。適当こきました。
今日も今日とてする相手もいないデッキをスクールバッグに入れて自転車で登校する俺。
横断歩道の信号が青になり、はぁ〜とため息をつきながら自転車を漕ぐ。
……そして、激しいクラクションの音が俺の鼓膜を貫いた。
どうして。
確かに信号は、青だった筈なのに。
× × ×
「……ってうわぁ!?…………あれ、夢?」
目覚めると、俺は自室のベッドの上にいた。
どうやら先程の映像は全て幻想だったようである。
良かった……車に潰された僕のデッキはいなかったんだね……。
安堵して部屋を見渡すと、妹である小町が俺のベッドの脇に立っていたのに気づいた。
なに、どしたの?まさか夜這い?ブラコン通り越してヨスガりに来ちゃったの?
……なんて、言ってる暇は無いようだ。
何故なら、小町が俺を見るその眼が、今にも溢れ出しそうに潤んでいたからだ。
何故なら、小町のその唇が、今にも血を噴き出しそうに引き締められていたのだから。
「……どうした、小町」
俺は優しく小町にそう問いかける。なんだか知らんが、妹が泣いてたらそっと愛してると告げるのが兄の役目だと小町自身に教わったのだ。
さあ来い、妹よ。そっと兄の胸へ飛び込んでおい「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」「げぼぁぁ!!?」
「ざっけんなてめえ!全力で飛び込んで来る奴が……!?」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃぁぁぁん……!」
「……はぁ、……ほら、よしよし」
俺は泣きじゃくる小町の頭に手を置き、そっと撫でる。
小町の嗚咽が逆に大きくなった気がしたが、それでも撫で続ける。
俺は小町が落ち着くまで、いつまでもそうしていた。
× × ×
「実は小町、タイムリープしてました」
小町が落ち着いてから数分。
どうやら俺の妹はおかしくなってしまったらしい。
「ち、違うよ!嘘じゃ無いよ!!ついさっきまで小町は何度やり直しても死んじゃうお兄ちゃんの為に何度も繰り返して、未来からきた葉山さんの息子さんとも協力して、比企谷だけが覚醒する可能性を持つリーディングシュタイナーで世界線を変え続けて、やっとこさお兄ちゃんが死なない世界線へと流れつくことができたんだよ!?」
「あーはいはいワロスワロス。チラシの裏にでも書いててくれ。後で読んで感想やるよ」
どうやら小町は材木座辺りに悪い影響を受けてしまったようだ。あいついっぺんシメる必要があるな……。
「だから、さっきから本当だって言ってるじゃん!」
「本当なら証拠見せろ、証拠。タイムマシンでも電話レンジでもゲルバナ何でも持ってこいよ。そしたら信じてやる」
「……む〜!この世界線では全部のはるるんガジェットは消滅してるのにぃ……!でも良いよ、分かったよ!そんなに言うんだったら証拠見せてあげるっ!お兄ちゃん、リビングに来て!」
そう吐き捨てると小町はバタバタとリビングへ走っていく。
まあ、妹の中二病に付き合ってやるのも兄の勤めなのかねえ……。
俺は欠伸をしながらリビングへ移動する。
そこにはテレビの前でソファーに座る小町の姿があった。
「……で?証拠はどうした証拠は。お兄ちゃんは学校に行かなきゃいけないんだから、早く見せなさいな」「ここに証拠があるよ、お兄ちゃん」
言いながら小町が指差したのは明るく光るテレビ画面。
「……は?」
なにやってだこいつ。と呆れていると、良いから早く見ろと小町がガチ目のメンチを切ってくる。
ちょっと怖かったのですぐに小町の隣に座ってテレビを見た。
……そこには、眼を疑う光景が広がっていた……。
『今、星因士風ファッションが熱い!!光輝く鎧に身を纏いオーラを振りまくその魅力の秘密に迫るーーーー』
「……は?」
「……お兄ちゃん。小町ね、実はお兄ちゃんを助けるのに、トゥルーエンドは使ってないんだ。SG世界線へなんて到達してないの。探しても無かったしね……」
「…………」
「だからね、小町が使ったのは、シュ○ゲで言うとフェイ○スエンドなんだ。世界線を根元からぶっ壊して、何もかも変更させて、お兄ちゃんの死の運命を回避する。それは成功したんだけどね?」
「…………………」
「代わりにこの世界線、遊戯王が国民的スポーツになってます……」
「……はあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
× × ×
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……!
『車に轢かれたと思ったら、世界が遊戯王世界になっていた』
な、なにを言ってるか分からねーと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。
なーんて悩みに悩んで三日。
俺はこの世界に適応していた。と思う。多分。
いつだっていろんな物の爪弾き者の俺が適応とは変な物言いだが、早い話が自分の一番得意な分野が世界の中心になっているのだ。
嬉しくない筈がない。
ちょっと前まで文系がエリートなだけのぼっちの俺が、この世界ではまさにエリートの中のエリートになっているのだ。
……って、あれ?良く考えたら俺って他人と殆どデュエルした事なくね?
エリートの根拠とか無くね?
もしかしたらこの世界でも俺ってカースト底辺なんじゃね?
ふ、不安になってきた……。
どうだろう、果たして俺はこの新しい世界に本当に適応する事が出来るのか……。
ちなみに、この世界線の千葉……というか日本は、前までの世界とゼアルの世界観を混ぜたみたいな感じである。
文明は殆ど変わりはないが、ソリッドビジョンシステムが非常に進化しており、Dゲイザーはスマホに並ぶ若者の必需品だ。
また、ARC-Vみたくリアルソリッドビジョンは流石に開発されていないらしい。アクションデュエルは無理なようだが、ペンデュラムカードはあった。
良くわからん世界である。
まあとにかくそんなわけで、俺は今までかつてない程の量のデッキをカバンに詰め、自転車を漕いでいる。
今度は車に轢かれる事なく学校に到着した。
少し胸がドキドキする。
実は世界線の移動に慣れるまで数日間、俺は学校を休んでいたのだ。
なので、この学校の連中がどう変わったのかまるでわからない。
由比ヶ浜とかもデッキ持ってんのかな……。雪ノ下が真顔で「おい、デュエルしろよ」みたいな事言ってきたら多分笑い堪えられないなぁ……。とか益体も無い事を考えながら階段を登り、教室に入る。
いつもの通り誰も俺の方を一瞬チラっと見てからすぐ逸らす。
ふむ。この辺の立場はこの世界線でも変わってはいないようだ。何だよこの世界線の俺。この世界でも友達いなかったのかよ。
また、由比ヶ浜からのメールなどで奉仕部がある事は確認済みである。
なので友達云々の前に俺の居場所がなくなっているなんて事は無い。
俺は静かに席に座ると、机に突っ伏して寝たフリをする。
実は今日早く学校に来すぎてしまっていたのだ。
HRが始まるまでずっと寝ていよう……。この時間が嫌だからいつもギリギリに来ているというのに、今日に限って世界が変わり浮ついていたのだろうか。
とにかく時間を潰すためと意識を異次元に飛ばそうと集中するが、その意識は喧しい叫び声でかき消されてしまった。
「かー!はーやと君マジ鬼強だわー!!もう無敵過ぎてやべーっしょ!!」
「お前が弱すぎるだけだよ。ほら、デッキ見せてみろ。……何だこれ?殆どモンスターだけじゃないか」
「いやー、強そうなモンスター片っ端から詰め込んだ感じ?やっぱモンスターあってこそのデュエルっしょー!」
「……ぷっ!」
教室の後ろから聞こえてくる戸部の声に、俺はつい噴き出してしまった。
おいおい、マジかよこいつ。リアル城之内かよ。いや、【フルモンスター】を否定する訳ではないが、どうせこいつの組んだデッキである。
【フルモンスター】じゃなく【紙束】だろう。俺も小学生の時良く組んでた。エースは怒れる類人猿。
「……ん?あれ?今誰か笑った?噴き出したっしょ!?……マジ勘弁だわー。これでも一生懸命作ったんだぜー?」
俺の声が聞こえてしまったのか、周りに悲壮な声を散らす戸部。
まあ、声は聞こえていたようだが俺である事はバレていないようで良かった。
そこまでバレていたら、俺の学校生活は終わっていた所だ。
「……ていうか今の、笑ったのヒキオっしょ。めっちゃ肩跳ねたの見てたし」
はい終わりました俺の学校生活終了しました詰みました。
「ちょ、ちょっと優美子!?」
「ヒキオ、起きてんでしょ?あーしさぁ、そういう影でコソコソ笑うみたいなんが一番嫌いなんだし!」
炎の女王様はお友達を馬鹿にされて大変お怒りのご様子。かなり苛烈な声色だ。
……まあ、馬鹿にしたのは事実だし、事項自得という奴だろうか。
それに良く考えたら、あのグループには葉山がいる。輪を乱す事を嫌うあいつならば、この状況を何とかしてくれるかもしれない。
俺は席を立ち、葉山グループの場所まで移動する。
クラスメイトのヒソヒソ話が耳に届いた。内容までは聞こえないが、聞こえなくたって何を話しているのかは予想がつく。
「あ、あー?ヒキタニ君だったん?マジ勘弁だわー。俺も親父とかからもっとデュエルの腕磨けって言われてんだけどさー、中々上手くなんなくて……」
「戸部は黙ってて!」
「あ、……はいぃ……」
場を和まそうと俺に自分から話しかけてきた戸部は、身内の女王の煉獄の熱にビビり逃げ去っていってしまった。
三浦がギロっと俺を睨みつける。
……ほう、これが蛇に睨まれた蛙ならぬ、ヴェノミナーガに睨まれたデスガエル……。
割とどうでも良い事を考えてしまった。現実逃避である。
「あんさー、あんた戸部のこと馬鹿にしてたけど、あんたは自分のこと言えんの?あんたが誰かとデュエルしてるとこ見たこと無いんだけど。もし弱いくせにウチらのこと馬鹿にしてんなら……」
「まあまあ優美子、ヒキタニ君もそんな悪気があった訳じゃ無いから……!」
三浦が俺を問い詰めるが、良いタイミングで葉山が間に入ってくれる。
流石ザ・ゾーンの持ち主。このまま上手いこと取り持ってくれれば……。
ってあれ、何で葉山さんこっちを申し訳なさそうに見るんです?
何でちょっとウインクしてくるんです?海老名さん鼻血出してますよ?
俺の不安を他所に、葉山が三浦に対してある提案をしだす。
……それは、とても正気を疑う物だった。
「つまりさ、優美子はこう言いたいんだろ?ヒキタニ君が弱いんだとしたら、戸部を馬鹿にする資格はないって」
「う、うん……」
「だったら、ここでヒキタニ君の強さを計れば良いんだよ。……俺と戦ってね」
「……はい?」
「ヒキタニ君。簡単な話だ。君の実力を見せてみてくれ。俺に勝ったら今回の事は水に流すし、負けたら謝れ。……それで良いだろ?優美子」
「え、えっと……うん?」
怒涛の勢いで話し出す葉山に押されたのか、三浦が葉山の提案に頷く。
しかし俺は全く頷く気になれなかった。
何だ、いきなりデュエルって。これがデュエル脳って奴か。リアルになるとこんなドン引きな思考回路してんのか。
というか、デュエルするのは良いけど、果たして俺に勝てるのか?もしこの勝負で俺が負けたら、クラス内での立場はかなり面倒な事になるし……。
迷っている時、ポケットの中に入れていたスマホが震えだす。
葉山に断りをいれ確認すると、小町からのメールが来ていた。
『これから初めて他人とデュエルするかもしれないお兄ちゃんへ。大丈夫だよお兄ちゃん!小町この世界に来てから遊戯王始めたんだけど、始めてみてわかったんだ!お兄ちゃんは強い!小町が保証する!!だから誰かとデュエルする時も、怖がらなくて大丈夫!負けても、小町が慰めてあげるよ!!……愛しの妹より』
「……はっ」
つい、笑い声が溢れた。
そうだ、俺は何を恐れていたんだろう。
せっかくこんな世界に来たんだ。楽しまなきゃ損じゃないか。
せっかく慰めてくれる妹がいるんだ。当たって砕けて、むしろ得かもな……!
「その勝負乗った!」
俺はそう言うとバックの中のデュエルディスクとDゲイザーを装着する。
葉山もそれに習い準備完了。
俺達は数メートルの距離を開け教室の中心にたった。
《ARヴィジョン、展開》
Dゲイザーからナビの声が聞こえると、ポリゴンの海が現実を侵食する。
……そしてそこには、子供の頃現実になったら良いなと思い続けた場所があった。
モンスターが三次元に飛び出し暴れ回る、理想の遊戯王世界が!!
「「決闘(デュエル)!!」」カーン‼︎