「ヒッキー、《バスターモード》って『/バスター』のモンスターを呼び出すってかいてあるけどさ、このカードの英語版の《assaut mode》で『/バスター』が呼出せたりするの?」
「……無理だな。カードが違うから」
「え?じゃあ、《assalut mode》と《バスターモード》で合計6枚デッキに入れられたりしちゃうんじゃないの?」
「いや、それは……」
「……」
「……」
※現在は裁定が変わっています。
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『葉山隼人が比企谷八幡に敗北した』という噂は、瞬く間に学校中に広まった。
広まった、広まったが……。
皆あまり信じていなかった。
それはそうだろう。今までこの学校トップクラスの実力を持つと言われてきた男が、全く名の知られていない、ヒキタニだかヒキガエルだか言う名前の者に負けるはずがない。そう思うのが普通だからだ。
事実、それをその目で目撃したF組生徒でさえ半信半疑なのだから、それを見ていない他の生徒は何を言わんや、である。
× × ×
放課後。
奉仕部の扉を開くと、いつものように雪ノ下雪乃が読書をしている。
カラフルで明るい色の表紙に、何かの漫画のキャラが書いてある漫画雑記だ。
……ん?なんかこの状況違和感あるな。
どうしてだろう、雪ノ下雪乃が本を読んでいるなどありふれた状況の筈なのに、どこかおかしいと思ってしまう俺がいる。
何か変だ。どこか……確実にいつもと違うような……?
……あ!こいつVジャン読んでやがる!!
「……なんでお前Vジャンなんて読んでんだよ。そんな趣味だったか?お前」
「……そうね、確かに私としてもこういう雑誌は趣味ではないけれど、家に五冊ほどあるから、無駄にするのもどうかと思ってね……。一応、遊戯王の漫画のページだけは読んでいるのだけれど、駄目ね。『このカードはOCG化するのか』っていうことばかり考えてしまって、まるで内容に集中できないわ……」
顔をしかめながらそう話す雪ノ下だが、俺は顔を逸らし笑いを堪えるのに精一杯だった。
何故なら、あの雪ノ下雪乃が、あの堅物の雪ノ下雪乃が、遊戯王をやっているのだ。それも割とガチ方面で。
しかも、彼女の家にVジャンプが五冊あるということは付録目当てで数冊買ったということであり、それほどカードに金をかけているという事になる。
その上内容がカードがOCGになるか気になって集中できないなんて……。笑うなという方が無理だ。
「……何か?」
「ああいや、なんでもねえよ」
俺の不穏な空気を感じ取ったのか、雪ノ下がこちらを睨みつけてくる。
こちらの攻撃力を下げられては困るので、適当に誤魔化す。
「……そう、なんでもいいけれど。比企谷君、由比ヶ浜さんについては何か知らない?今日は、やけに遅いから……」
「由比ヶ浜ならクラスの連中になんか捕まってたぞ。まあ、ああいうのはリア充には良くある事だろ。少ししたら来るんじゃねえの」
「そう……」
雪ノ下は会話を打ち切ると、神妙な顔をしてまたVジャンのページをめくる。
……駄目だこの絵面すげえ面白い。
「……ん、ぷっ、……んぐ、ぐふっ、……んん!!」
「……比企谷君、あの、とても気持ち悪い……いえ、表現を濁すけれど、吐き気がするわ。どうしてそんなに笑いを堪えているの?」
「いや、お前のそれ何も濁してないからな。むしろ純度上がって果汁100%だからな。……別に、なんでもねえよ。ちょっと思い出し笑いしてただけだ」
「では、少々私が本を読み終わるまで息を止めていて貰えるかしら。できるだけじっくり読書に集中したいから」
「おいお前それ完全に俺の事殺す気じゃねえか。明らかに故意的な遅延行為だろうがよ」
「気のせいよ比企谷君。……ところで、人間って五分間は息を止める事ができるって話があるわよね。本当かどうか気にならない?」
「お前が気になってようがなかろうが俺は絶対息止め選手権なんてやらんからな。やるならお前だけ勝手にやってろ」
「あら?何を勘違いしているの?あなただけがやるに決まってるじゃない」
「決まってねえよ!」
……と、話題が一段枠した所で、教室の壁の向こうからペタペタと少し大きめの足音が聞こえてくる。
どうやら、遅刻者のご帰還のようだ。
足音が一旦止むと、扉が何故かかなりの勢いでガッと開かれる。
そしてその前に立っていた由比ヶ浜が、開口一番こう叫んだ。
「ヒッキーーーー!!なんで先に言っちゃうの!?あたしヒッキーの事で色々聞かれて大変だったんだからね!?」
由比ヶ浜の顔は怒りに染まっており、ぷりぷりと効果音が出そうなほど身振りも激しい。
しっかしこいつ、小学生みたいな怒り方するなぁ。
恐らく俺の事とは今日のデュエルについての事だろうが、それを知らない雪ノ下は不思議そうな顔をしながら由比ヶ浜に問う。
「由比ヶ浜さん、比企谷君について聞かれたとは、どういう事かしら?……まさか、とうとう指名手配を?」
「おい、なんでお前はそう俺を犯罪者にしたがるんだよ」
こいつがいると、いつの間にか本当に犯罪者扱いされかねない。
「……って!そんな事話してる場合じゃないし!ヒッキー、あんなにデュエル強いんだったら言ってくれれば良かったのに!!」
「いや、なんと言うかだな……」
なんで言わなかったって言われても、RSが発動する前の俺……つまり、世界が書き換わり人格も書き換わる前の俺にしかわからない事だ。当然俺も知らん。
持っているデッキなんかは元の世界の時とまるで変わっていなかったので俺と同じように一人デュエルを極めていたのは予想できるが、この決闘者が溢れまくっている世界で高い確率で決闘者であろう雪ノ下や由比ヶ浜とデュエルしていないというのは、ちょっと何故か予想がつかない。
もしかしたら、この世界では異性とデュエルは特別な意味がある行為だったりするのだろうか。
「ていうか、葉山君より強いんだったら、去年のデュエル大会とか出れば良かったのに!」
「いや、そのな……」
そもそもデュエル大会ってなんだよ、学校でそんなの開催してんのかよ。
……と危うく言いかけ、俺は慌てて口を押さえた。
その時できた会話の隙間に、ぽそっと小さな声が入り込んでくる。
「……は?」
雪ノ下雪乃の声だ。
振り向いて見ると、困惑の極みといったような表情をしている雪ノ下と目が合う。
その目は見開かれ、眉間には皺が寄せられている。口は間抜けにもぽかんと半開きになっていた。
「……由比ヶ浜さん、もう一度、詳しく話を聞かせてもらえるかしら」
「え?うん……」
雪ノ下の真剣な表情に少し驚いたのか、おどおどしながらも由比ヶ浜が今日の顛末を話す。
葉山が俺にデュエルを申し込んだ事。
俺がそれを受けた事。
そして、俺が勝ってしまった事。
それを聞いた雪ノ下は。
「……………………は?」
と、もう一度困惑の表情を浮かべた。
傾げた首は直角へと達そうとしている。
「なんだよ雪ノ下。俺が他人とデュエルするのがそんなに意外か。……いや意外だわ。これ以上ないくらい意外だわ」
「自分で認めちゃうんだ!?」
確かに俺が雪ノ下の立場だとして、俺があのリア充ならぬリア王とデュエルしたなんて聞いたらこんな反応をしてしまうかもしれない。
が、俺の声に対する雪ノ下の反応は少し予想と違うものだった。
「その、違うの……。そこが意外だったわけではなくて……。いえ、そこも当然意外ではあったのだけれど……」
「なんだよ歯切れ悪いな、珍しい。言いたい事があるならハッキリ言えよ」
俺がそう言うと、雪ノ下は困ったように眉を寄せながら問うてくる。
「……あなた、姉さん以外とデュエルしたの?」
…………は?
× × ×
雪ノ下によれば。
俺は陽乃さんとデュエル友達だったらしい。
…………なんだその恐ろしい関係!!この世界の俺何やってんだよ!?死にたいの!?
これには由比ヶ浜も驚いようで、目を丸にしながら呆然としている。
「姉さんがね、よく自慢してきたのよ。『比企谷君は私とだけデュエルしてくれるんだ』って。……別に、それが羨ましかったわけではないけれど、……本当に違うけれど、確かにあなたは私がデュエルを申し込んでも何かにつけて断っていたものね。……姉さんの事は上手く誤魔化していたつもりのようだけれど、私が何も知らないと思った?」
俺も何も知らないです。むしろ俺が教えて欲しいです。
が、当然そんな事を言うわけにも行かず。
「へ、へぇー……。バレちまったら仕方ねえなぁー……。うん、本当にー……」
「……声が白々しいのだけれど」
正直、衝撃的過ぎて演技がしづらい。
あまりの俺の動揺ぶりに雪ノ下が顔をじっと覗き込んできた時……。
「失礼します!!」
野太い声と共に、ガラッと部室の扉が開かれた。
× × ×
「自分らは総武高校柔道部の者っす!先週の依頼の件についてお話をお伺いに来ました!」
現れたのは、柔道着を身に纏った線の太い男子生徒。
見れば、その後ろに二人ほど柔道部部員と見られる奴らもいた。
ところで。
「……先週の依頼?」
「ほら、先週ゆきのんを柔道部に勧誘したいって依頼、来たじゃん」
「……それ、奉仕部とまるで関係ねえじゃねえか。とっとと断われよ」
「ゆきのんも先週そうしたんだけど、食い下がってくるからデュエルで決着をつけようって話になったじゃん」
「いやその理屈はおかしい」
本当この世界の奴らどいつもこいつもデュエル脳で困る。まあ、遊戯王世界に変わったような物だからそれが当たり前なのかも知れないが。前の世界のじゃんけんみたいな扱いなのかな?
「デュエル場の使用許可が下りたので、雪ノ下さん!あなたにデュエルを申し込みます!」
「……そう。では、その勝負受けましょう。……二人とも、行くわよ」
「うん、わかった」
「……おう」
雪ノ下が立ち上がり柔道部員達についてく。俺達もその後に習った。
……て言うか、デュエル場ってなんだよ。
× × ×
俺の知らない間に、総武高校に新しい施設ができていた。
円形の会場に、それをドーム状に囲うように観客席のような物がある。体育館より全然広かった。
……まあ、GXのデュエル場をイメージしてもらえると分かりやすい。ほぼあのままだ。
俺と由比ヶ浜、そして柔道部員達は観客席の一番前に並び、雪ノ下と部長らしき人物は会場の中心に少し距離を離してたっている。
「……では、この勝負に俺が勝てば、柔道部に入って貰えるという事で良いですね」
「違うわ。さりげなく契約内容を捻じ曲げないで頂戴。私は『この勝負でもし私が負ければ入部を考えてあげる』と言ったのよ。勝手に都合の良いように解釈しないで」
「うっ……。と、とにかく!俺が勝てば考えてくれるんですね」
「そうね。考えるわ。まあ、どうせ私が勝つのだから、大して関係ない話なのだけれどね」
「……っ!」
雪ノ下の徴発にカッとなったのか、柔道部長の顔が赤く染まる。
おいおい、そんな頭に血が上りやすいタイプにカードゲームは向いてねえぞ。
「……何にせよ!自分は勝ちます!!D・ゲイザー、セット!」
「……D・ゲイザー、セット」
《ARヴィジョン、展開》
「「決闘(デュエル)!!」」カーン‼︎