事は動き始めた模様である
朝日が差し込んでくる……ような気がしたが気のせいだった。
んー。だいたい今は早朝どころか深夜だったわ。
ただの幻覚だったようだ。まあ無理もない、かれこれ日の光も浴びていないし外にも出れてない。
監禁?いえいえ、違います。監禁ではごさいませぬ。
監禁ではないけど出られないのです。
まあある意味監禁に近いのかな。ここは何処かもわからないし、いきなり連れてこられてここに居るわけだし。
あ。俺言っとくけど人間じゃないからね?
だからといって天使でも悪魔でも動物でもない、
しがないりんごです。
よって動きたくても動けないのだ。できるなら農園に帰って安心した毎日を過ごしたいね。最もここは農園ではないからどうしようもないけど。
―――お。足音が聞こえてきた。ガチャリと音をたてて入ってきたのは、他でもない俺を連れ出したヤツだ。
農園までやってきて俺を連れ出し、俺の今ある状況を作り出した張本人。
それなりに幸せに過ごしていたいうのに…こいつときたら…どんだけ腹立たしい事だろうか。
恨んでも仕方ないか。
「そろそろ食べよっかな」
ヤツがぽつりと言った。ふむ、『食べる』か。
いいぜ。りんごである以上いずれは腐るか食われるかの運命。腹はもうくくってる。
そんなことを思う折、ヤツの手が伸びる。
ふっ。いよいよジ・エンドっとてわけですな。
もうすぐ皮を引き裂かれ、身をズタズタに切られ、そしてヤツの口でスクラップ!あ…待てよ。身を切られたあと串で刺されてからスクラップのパターンかもな。うん。ちょっと怖くなってきた、考えるのはよそう。
手は順調にこちらに近づき、そろそろこちらまで到着しそうである。
あばよ俺の生命《いのち》。あばよ農園の同僚と育ての親。
ところが。
手は俺をするりとかわし、違う方向へ
そしてその手が取ったモノ。
それは
「(みかん…だと…!?)」
やられた。まさか狙いは俺ではなかったとは。俺の決めた覚悟と心の遺言を返せ。しかし今はそれどころじゃない。なんせ俺ではなく俺の隣のみかんがやられようとしている!
みかんと俺は種族こそ違うが、ここにきてからいつも隣にいた。正確には俺がたまたまみかんの隣に置かれただけだがね。別に俺とみかんが何か話したわけでも、友達になったわけでも、恋人関係になったわけでもない。ただ“隣にいた”だけ。でも、なぜかこいつが今から居なくなることに、俺は激しく動揺していた。
少なからず、俺がこいつに仲間意識をもっていたのかもしれないな。それが定かなのか否かはともかくとして。
俺はこいつをなんとかして助けたかった。
動け…俺っ……!!
動けなかった。知ってた。りんごだから動けない。ヤツとは違い俺は動くことは出来ない。くそっ。当たり前の事実が俺の胸をやけに強く締め付ける。頼むから別の物を食ってくれ。
無情にも、ヤツはみかんを手に取り、もう片方の手で皮を剥こうとしていた。
運命には逆らえない…か。俺はなんともいえない思いに駆られるのだった。
我ながらなぜこの話採用したし。
たぶん次回も超短めになるかと思われます。主人公の運命やいかに。