主人公とその仲間の結末です。
それでは~どうぞっ!ww
終わりたくないという願いの果てに ~俺達とヤツと~
リビングに戻ったヤツの手にはみかんが居ない。ここの机、つまり俺の隣にはもうみかんが帰ってこない。
この事実を理解するのに俺は数秒要した。
玄関かもしくは他の部屋にみかんが置かれていたとしても、この後俺が食べられたり、みかんが捨てられたりすれば完全な生き別れになる。
―だが、それでも俺は動けない。
皮肉だった。みかんがどこか遠くの土地に連れ去られてしまった訳ではない。未だにこの同じ屋根の下に居て、
ドアを開けてほんの少し移動すればすぐに顔を見れる距離だ。
…それなのに!
果物の、いや。植物の性質上、どんなに強い気持ちがあっても、どこかへ向かうことはおろか歩くことも走ることも何かを自分で行うことすらできない。
俺は自分の身ではなく、自分が“りんご”という植物であることを生まれて初めて、そして心の底から憎んだ。
これも食べられたり捨てられたりする運命と同様の、決定付けられた運命だとしても、ただ悔しがる事しかできないことがあまりに不甲斐ないと思った。
もちろん、玄関に飾ったらどうだとか提案した従妹とやらにも、玄関にみかんを持っていったヤツにも多少の恨みはある。
だが、その人間の悪意ではない「自然な行動」に俺がケチをつけるわけにはいかない。りんごやみかんにも悪意がなくても他の生物に絶望をもたらしてしまうことだってきっとあると思うから。
この間の修羅場だらけの夜中の時も思ったが、俺はみかんに少なからず仲間意識を抱いていた。育ちは全く違うが畑からここに連れてこられ、死ぬだけの運命しかなくなったという意味での“同志”。会話は交わすことはできないがお互いの様子を伺ったり、修羅場を体験したりと、人間にとっては短いが俺たちにとってはかけがえのない共に過ごした“時間”。
冷静さを失っていて心の整理もつかないのでわけがわからないが、みかんが居なくなることだけはどうしても嫌だった。
しかし心のどこかで恐れていたことが、ついに今日という日に起きてしまった。
後にも先にも間違いなく今この瞬間が俺、「りんご」の生命の中で最も辛い瞬間であろう。ヤツはまたリビングを出ていったが、どうでもいい。
俺はもはやよくわからない感情に支配され、打ち震えた。そして1つの願いが生まれた。
―――『みかんと生き別れたまま終わりたくない』
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みかんside
まだ微妙に眠気は残るけど、これ以上眠りまくっても生物としてどうかと思うので目を覚ます。起きて辺りを見ると、そこはいつもリビングを見渡せる机、ではなく。
「(ここは…?)」
今僕は知らない場所にいる。とりあえずここがどこなのか頭をフル回転して思い出す……思い出した!
ここは一度だけ見た事があった。
主人の家の玄関だ!
思い出せたことにより僕は自分の記憶力の良さに若干優越感に浸りニヤけていたが、すぐ表情は戻った。
どうして僕は玄関に居る?
再び頭をフル回転させる。確かずっと寝てて、起きたら主人と従妹?だっけ。がリビングに居て、けど退屈だからまた昼寝を…そっか。僕はなんらかの理由でここに移動されられたんだ。たぶん大晦日か、それとも大晦日の近くにある何かが原因で。
自分の足場に狭さを感じるので下を見ると、茶色の土台に白い物体が大中小と3段重なっていて、その上に僕がいた。
何かを祝う目的…?あるいは飾り?
そこまで推測できた自分に称賛を送りたい。
しかし、僕は今更ながらここでハッと気が付いた。
りんご君と…バラバラになってしまった。
僕は青ざめた。
やや明るいさっきの気持ちはブッ飛んで、どんどん絶望の気持ちが込み上げてきた。僕が眠っている間に大変な事になってしまった。
もしかしたらもう二度と生きているうちにお互い会えないかもしれない。そんな見えているようで見えない恐怖が僕を襲った。
りんご君はどうか知らないが、実のところ僕はりんご君を友達だと思っていた。
僕はりんご君より1日先にこの家に連れてこられた。
畑に住んでいた頃は四方八方にいた僕の家族や親戚はどこにもいなくて。
僕は途方もなく寂しくなった。
そんな時、彼はあらわれた。
正しくは連れてこられた、だけだけどね。
彼はここにきておどおどしていたのとはまるで対照的だった。落ち着いているような、何かを悟っているようなあの感じ。僕は彼に憧れた。
そして、偶然主人が僕の隣に彼を置いた。
彼は最初に僕を見たとき、おどおどしてる僕に哀れな視線を向けたのではなく、ただ純粋に、自分意外の果物に出会ったことを衝撃して僕をじっと観察したんだ。
予想外の彼の視線に、僕は思わず笑っちゃった。
彼はけっ、という感じで愛想笑いを浮かべた。
それから僕と彼は徐々にお互いを見たり見合ったりするようになっていった。
―それが、僕とりんご君との出逢いだった。
僕は食べられるのが嫌で嫌で、いつもそれを恐れていた。だって痛いの嫌だもん。だからいつも危機に瀕するたびに震えていた。
でも、あの夜中に、ミキサーで木っ端微塵にされようとした時、彼は最後まで諦めなかった。死んだら死んだで仕方ないと腹をくくって。最後まで生きる希望を捨てていないように僕は見えた。何より僕は彼に勇気を貰った。
だからさ。
もしも、近いようであまりにも遠い目の前に見える扉の先にあるリビングで、君がもう希望をほとんど失って諦めかけているのなら。今度は、僕が。
君に勇気をあげたい。
今は辛い。生き別れになるかもしれない事実の中にいるけど、僕は諦めないことを信じる。
困ったときはお互い様だよね!
僕の願いは一つ。痛みも、腐っても、食べられても、そんな事はどうでもいい。
―――『りんご君と別れたまま終わりたくない』
向こうの扉が開いた。
主人がやってきて、僕を掴んで―――
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あれから俺はただぼーっとしていた。何も考えず。
もう考えたり様子を伺うのも嫌になった。
あとは死ぬまで、ただ俺は待つ。
…淡い期待を抱いて。
さっきリビングを出たヤツがまた戻ってきた。
何をしにいったかは知らないが、別に関係のないことだ。俺はこの沈んだ気持ちを和らげるために一眠りすることにした。
ゆっくりと目を閉じる。
コトン。
何かがすぐ近くに置かれた音がした。
俺は即座に目を開ける。
そして横を、隣を見る。
そんな…まさか。
「(みか……ん………?)」
まるで世界が大きな音を立てて崩れていくような感覚が俺を貫いた。
幻覚でなければ、俺の隣にみかんが居る。
みかんは俺をまじまじと観察するように見つめていた。
俺はなんとなく吹き出してしまった。感動というより、あれだけ追い込まれたのにここまであっさり願いが叶ってしまって逆に笑えた。みかんは顔見知りのくせして俺と初めて会ったようなきょとんとした顔してるし。
みかんもつられて笑った。
「飾ろうと思ったけど、この前食べ損ねたしこのままみかんが腐ったらなんか悔しいから食べる!ついでにりんごも!」
えぇぇ…それが再びリビングにみかんを持ってきた理由?そしてそれが俺とみかんが再会できた理由かよ。
これには俺もみかんももう大爆笑。
笑いが止まらなかった。
奇跡の(?)再会に昇天確定のダブルパンチ!
これはやられましたわ。
ヤツが食器を準備し終えて、俺とみかんをキッチンへ持ってった。1つ違うのは、あの夜中のように焦りと恐怖の空気が漂っているのではなく、俺、みかん両方が全く後悔も苦痛もないということだ。
まだまだ生き続けたいのは当然だが、願いも晴れて叶ったし、ただ果物として来るべき時が来たってだけの話だ。
俺はみかんをもう一度見る。
みかんも俺をもう一度見た。
みかんは真剣で決意を固めた表情だったが、どこか満足げだった。
奴が包丁を構えた。
今までのことが俺の頭を駆け巡った。
農園(畑)で生まれ育ったこと。
ある日突然ヤツが来て故郷を離れたこと。
みかんと出逢ったこと。
深夜の様々な修羅場を乗り越えたこと。
一度は全てを諦めかけたこと。
で…
生きている時間の中で、考え事を繰り広げたこと。
ははっ。走馬灯ってホントにあるのね。
これが俺の最後の考え事!しがないりんごの、長くも短い短くも長い、すなわち普通の、生命記録でした。
包丁があの夜中と同じように近付いてくる。
俺の皮が抉れる。薄れゆく意識の中で、最期は俺らしく、1つ。ちょいとした考え事が起こった。
「(生まれ変わったら人間でも面白そう)」
ってね。
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従妹との年末を過ごした日から3年。
4年だっけ?んーと、5年だったかな?
スーパーに買い物にやって来ていた。
安売りの日のおばちゃんが強い。俺は戦線に立つのをやめた。
そういや最近果物食べてないな。
ふと、あのりんごとみかんを思い出した。
思えばあのりんごとみかん、いつも一緒に隣どうしだったなぁ。たまたま俺がああいう置き方してただけなんだけどね。
ありふれたどこにでもあるものでも、記憶の片隅に残ってることってあるんだな。
食べたくなってきた。果物畑の親戚のおじさんに久々にりんごとみかん、貰ってこようかな♪
はい。最終回でした。まあ、ハッピーエンドとバッドエンドの中間、といった感じにいたしましたw
一度でも読んでくれた方、途中まで読んでくれた方、あるいは最後まで温かく見守ってくれた方、本当にありがとうございました!また次回の作品でお会いすることがあれば。ではでは~!