ダンジョンで限界を超えるのは間違っているだろうか 作:らぐいん
細かいことは気にしない方向でよろしくです。
「やった・・・!やっとだ」
思わずそう声が漏れてしまっていた。国立医学部を目指し、浪人生になり早3年が経過していた。別にどうしても医者になりたかったわけじゃない。ただ証明したかっただけだ、自分を馬鹿にしたやつらに、自分に不可能などないということを。
「うん、うん。受かったよ。・・・ありがとう、母さん」
ずっとあきらめろと言い、文句を言いつつも予備校に通わせてくれていた親に感謝を述べながらも、心はこれまでない解放感と充実感に満たされている。ついにやってやったんだという優越感に浸り、これからのキャンパスライフに思いを馳せていた。
だからだろうか、その帰り道に猛スピードで迫りくる車に気付くことが出来なかったのは。気付いた時にはもう手遅れだった。目の前に迫る車に声を挙げる暇もなく、僕の身体は吹き飛ばされていた。
目を覚ました僕がまず見たものは、薄汚い天井だった。寝起きだからだろうか、頭の中がはっきりしない。自分に掛かっている布団を確認し、ベッドに寝ているのだと分かった。辺りを見回してみると一人の女の子が椅子に座りこちらを眺めていた。
「どうやら目が覚めたようだね、気分はどうだい?」
女の子は笑いながら話しかけてきた。年は14歳くらいだろうか。少女からは今まで感じたことのないような不思議な気配を感じる。顔立ちから見るに外国人のようだが、幸い日本語は流暢のようだ。英語はある程度読むことはできるが、話すことはできないので助かった。
「えっと・・・ここはどこで、君は誰だい?僕は確か、合格発表を見に行って、それから・・・」
そこで僕はとっさに自分の身体に手を這わした。ない、ない。どこにも怪我がなかった。あれだけの速度で撥ねられたにもかかわらず。あれだけ身体が吹き飛んだにもかかわらず、だ。自分の身体に感覚を向けてみても特にこれといった痛みを感じることはなかった。まさかあれは夢だったのだろうか、なら一体どこからが夢だったんだ?あの合格自体が夢だったのか?
「ここは昔教会だったところだよ。今はボクが住まわせてもらってるんだ。ボクの名前はヘスティア。教会の前で倒れてる君をわざわざ運んできて、寝かせてあげたのはボクなんだぜ?感謝してくれよ」
と、女の子は得意げに言った。倒れていたとはどういうことだろうか。もし倒れていたのだとしても、救急車を呼ばなかったことには何か理由があるのだろうか。それに、ヘスティアという名前には聞き覚えがあった。だが、考えるのは後にして、兎に角今はお礼を言うことが先決か。
「どうやら危ないところを助けてもらったみたいで、どうもありがとう。ここは○○市のどこ辺りだろうか。少し記憶が曖昧でうまく思い出せないんだ」
僕がそう言うと、女の子は不思議な顔をしてつぶやいた。
「○○市?聞いたことのない地名だね。ここは迷宮都市オラリオだよ」
・・・迷宮都市?オラリオ?この子は一体何を言っているんだろうか。日本、いや現実世界に迷宮なんてあるわけがないし、オラリオなんて町の名前も僕は聞いたことがない。そこで僕はあることに気が付いた。ああ、何だ。そういうことか。
「くくっ。悪いが君の冗談ではなく本当のことを教えてほしい。君のヘスティアという名前も確か、ギリシャ神話かどっかの女神の名前だったよね?昔したゲームで見たことがあるよ。良ければ本当の名前も教えてくれないかな」
「冗談なんて何一つ言ってないさ。間違いなくここは迷宮都市オラリオであり、ボクは君の知っている女神のヘスティアだよ。君も感じているはずだ、ボクが普通の人間でないことは」
・・・は?このお子様は一体何を言っているのだろうか。いや、待てよ。この子の言っているのは、さっき僕の感じた不思議な気配のことだろうか。なら本当にこの子は神ということになるのだろうか。いや、決めつけるのはまだ早い。何か決定的な証拠がないと。
「君から不思議な気配を感じたことは確かに認める。だが、どうしても君が神だということを信じることが出来ない。何か神である証拠のようなものはないだろうか」
「不思議なことを言うね、君は。神なんてここじゃ珍しくもなんともないだろうに。だが、そうだな。どうしてもというなら一つ証明する手段があるよ。ボクたち神に嘘をつくことはできないんだ。それで確かめてみてはどうだい?」
神が珍しくない?ここには神が何十人もいたりするのだろうか。悪い冗談だ。しかし嘘が通じない、か。単純だがわかりやすくはある。
「わかった。今からいくつか自分のことを話す。それが嘘かどうか当ててみてくれ。すべて当てたのならとりあえず君のことを信じてみるよ」
「どんとこいだよ!」
何故か胸を張っていう少女。というか胸でかいな。こんな体型見たことないぞ。
「僕の生まれはアメリカだ」
「嘘だね」
即答された。まあ、普通にわかることだろうが、少し位悩んでもいい気もする。続けていってみるか。
「僕の父親は弁護士だ」
「嘘だね」
「僕は昔野球部に入っていた」
「嘘だね」
「僕はアルバイトをしたことがある」
「嘘だね」
「・・・僕はまだ童貞だ」
「本当だよ」
「・・・」
「って!君はなんてことを言ってるんだい!これは立派なセクハラだよ!」
彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。それはともかく、質問に関しては全問正解だった。実際僕のことを知らなければ当てれない問題のはずだ。最後の質問にいたってはおそらく意味を理解する前に、それが嘘か本当かを見抜いたような反応だった。いやいや、童貞ちゃうわ!・・・・童貞だけど。
だが、それならば彼女が本当に神ということになる。もし、そうだとすると、一つの考えが頭の中に浮かんでくる。それは先ほど夢と決めつけ、必死に考えないようにしていたこと。聞くのが怖い、怖いが、聞かなければ自分の現状を正しく認識することはできないだろう。
「全問正解だ。いったん君のことは信じるとこにするよ。いや、あなたが神だというならば、この話し方は失礼ですね。これからは敬語で話すことにします。これまでの無礼をお許しください」
「話し方についてはあまり気を使うことはないけど、君の好きなようにするといいよ。それで、ボクのことを信じたうえで何か聞きたいことはあるかな?」
「はい。僕から聞きたいことはただ一つです。・・・ここは死後の世界でしょうか」
「はい?」
彼女はきょとんとした顔でこちらを見ている。何かおかしなことを言っただろうか。現実世界でないとするならば、僕は車に轢かれて死にそのまま死後の世界にきたとしか考えられないのだが。そう思っていると、彼女はこれまでにない真剣な表情で口を開いた。
「どうやら君は大きな勘違いをしているようだ。いや、違うな。ボクと君との間の常識が大きく食い違っていると言ったほうがいいか。いいかい?これからボクは、この世界とこの街についてのことを話す。何か聞きたいことがあってもとりあえず最後まで聞いて欲しい。そのうえで、今の君が何者なのかを考えてみてくれ」
・・・話はこうだった。今から1000年前、暇を持て余した神が天界より降り立った。そして、下界の住人に「
ちょっと待ってくれよ。一体何のゲーム世界だよ、ここは。だが今の言葉を信じ、僕が車に轢かれて死んだのだと仮定するなら。導かれる答えはただ一つ。
「ここは・・・異世界なのか?」