ダンジョンで限界を超えるのは間違っているだろうか   作:らぐいん

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皆さんこんにちわ

第一話です。どうぞ


第一話

「ここは・・・異世界なのか?」

 

 そうつぶやきそれを確信したとき、僕はとてつもない吐き気に襲われた。僕がとっさに口を押えうずくまるとヘスティア様が慌てたように声をかけてきた。

 

「だ、大丈夫かい?!ちょっと待ってておくれ」

 

 彼女がそう言い椅子から立ち上がると急いで何かを取りに行った。すぐに帰ってきた彼女は手に持ったバケツを僕に渡してきた。

 

「きついなら、無理せず全部ここに出すといい」

 

「うっ・・・ありがとうございます。おえっ、おええええ!」

 

 そう言いながら、彼女は優しく背中を撫でてくれた。僕のだしたものは、ほとんど胃液のみだった。まるで何日も何も食べていないかのように。このことがまた僕の考えを確かなものにする。そう、すべては無駄だったのだ。医学部に入るためにやってきたあの勉強は。時間は。覚悟は。すべて無駄だったのだ。僕は、僕を馬鹿にしたあいつらに、何の報復をすることなく死んでしまったのだから。そう思うとまた吐き気がしたが、もう何も出てくる気はしなかった。

 

「落ち着いたかい?落ち着いたのなら、まずは君の名前をボクに教えてくれないかい?」

 

 そう彼女は僕に問いかけてきた。

 そういえばそうだった。僕はまだ自分の名前すら言っていないのだ。そのことを疑問に思わないほどに、僕は混乱していたということだろう。

 

「僕の名前は・・・」

 

 とっさに名前を言おうとした僕だったが、あることに気付いて思わず口を閉じていた。それは、罪悪感だ。何の恩返しも出来ず、早々に死んでしまった僕が、家族の名を名乗ってもよいのだろうか、と。考え出すと止まらなくなるのは僕の悪い癖だ。でも、やはり。考えれば考えるほどに、今の僕に名乗る資格はないように思えた。

 

「僕の名前はミノルです。苗字はありません。好きに呼んで下さい」

 

 僕の嘘がわかったのだろうか。それとも、僕が苦悩していることに感づいたのか。ヘスティア様もが一瞬つらそうな顔をしたが、すぐに笑顔になって僕に話しかけてきた。

 

「ミノル君か、いい名前だね。ではミノル君。今度はゆっくりでいい、君のことを僕に話してくれないか。今の君はひどい顔をしているからね。話せば楽になることもあると思うよ」

 

 そう言い笑う彼女は、僕の目には紛れもない女神に映った。その後、ゆっくりと自分のことを語った。自分の世界に神がいないこと。ダンジョンがないこと。自分が極々平凡な家庭に生まれ、これまで生活してきたこと。挫折し、それでもあきらめずに頑張り、夢が叶ったところであっさり死んでしまったこと。

 僕の話を真剣に聞いてくれていたヘスティア様は、最初僕の話に驚きつつも、納得ができたという表情で僕に話しかけてきた。

 

「なるほどね。やっと今までの会話で謎だったことがわかったよ。君は異世界から来た、というんだね?ただ、君の話を聞いていて、少しおかしいと思ったことがあるのだけれど、いいかい?」

 

「はい。なんでしょうか」

 

「君は今、何歳なんだい?」

 

「?21歳ですが、それがどうかしましたか?」

 

「いや、ボクにはどうしても君が13、14歳ぐらいにしか見えないのだけれど・・・君は物凄く童顔なのかい?」

 

「そんなはずは・・・すみません、手鏡を貸してもらえますか?」

 

 ヘスティア様の質問に疑問を抱きつつも、彼女が持ってきた手鏡を受け取り、自分の顔を確認する。そして僕は驚きのあまり、身体を硬直させてしまった。本当だった。丁度中学生くらいの時の自分がそこには映っていた。顔に手を当てて確認してみても、まだ比較的やわらかい髭が指をかすめた。そうか、声変りが比較的早かったから、今まで違和感を抱けなかったのか。僕は、少し声を震わせながら言った。

 

「どうやら、本当に若返っているようです。間違えありません」

 

 僕の言葉に、ヘスティア様もかなり驚いているようだ。当たり前だ、過ぎ去った時間が戻らない、それはこの世界でも変わることのない確かなものだろう。14歳の頃ということは、身長もかなり低くなっているだろうな、等とどこか現実逃避のような思考に僕は陥っていたが、次のヘスティア様の言葉により、現実に引き戻されることになった。

 

「死んだはずのミノル君が何故、この世界に飛ばされたのか。何故若返っているのか。疑問は多々あるけれど、今は君のこれからのことを考えようか。君はこれから一体どうするつもりだい?」

 

 その通りだった。ここが異世界というならば、僕にとってここは完全にアウェーだと言える。養ってくれる家族もいなければ、帰るべき家もない。先立つものが何もない状態で、働いたこともないガキがどうやって生活をしていけばよいのだろうか。働かなければならないということはわかるが、そうするためには、僕はこの世界のことを知らなさすぎる。だが、ヘスティア様が神というのであれば・・・

 

「無理を承知でヘスティア様にお願いがあります。僕に神の恩恵(ファルナ)を授けてはもらえないでしょか」

 

 僕の言葉を聞いてヘスティア様は押し黙ってしまった。当たり前だ、神の恩恵を授けることにどのような意味があるのかはわからないが、僕のような見ず知らずの他人に与える義理はないだろう。だが、僕の予想に反して彼女は少し悲しそうな顔をしてつぶやいた。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でもボクのファミリアには眷属が一人もいないんだ。ああ、ファミリアというのは神の恩恵を受けたものが入る組織のことだよ。だから、君がボクのファミリアに入ってくれてもかなりの苦労を掛けることになると思う」

 

 と、悲しげに言った。ただ、僕は眷属が一人もいないということよりも、彼女が僕のことを考えてくれていること方に驚きを隠せなかった。そして、この女神の眷属になりたいという思いが僕の口を動かしていた。

 

「お願いします。この世界で僕の事情を知っているのはあなただけです。それに僕は、見ず知らずの人間にここまで優しくしてくれたあなたの眷属になりたいと思いました。何もない僕ではありますが、どうかあなたのファミリアに加えてください」

 

 僕の話しながら頭を下げていた。ヘスティア様の眷属になりたいと思ったのは事実だ。だが、それと同時にここで断られたら本当に路頭に迷ってしまうという恐怖が僕の心に渦巻いていた。

 僕の話を聞き、とても嬉しそうな顔をしたかと思ったら、次いでハッとした顔をした。その顔を眺めながら、本当に表情豊かな神だな。なんてことを思った。

 

「うん、わかったよ。君をボクのファミリアに加え、君を眷属(かぞく)として迎え入れよう。改めまして、ボクはこのヘスティア・ファミリアの主神のヘスティアだよ。これからよろしくね」

 

 その僕を受け入れてくれた言葉に、感謝と安堵の混ざったような気持ちがあふれてきた。

 

「ありがとうございます。僕はミノルです。これからよろしくお願いします」

 

 ヘスティア様は嬉しそうにうんうんと頷くと、すぐに真剣な顔を作った。

 

「いいかい?ミノル君。これからは君の素性は誰にも言ってはいけないよ。ボクは異世界なんて聞いたことがなかった。他の神もおそらく同様だろう。この世界の神達は娯楽に飢えているからね。バレタとたん君は神達の玩具にされてしまうだろうさ。まあもっとも、ボクはそんなことはさせる気はもうとうないがね!」

 

「はい、わかりました。これは二人だけの秘密、ということですね」

 

 僕が嬉しそうに笑って言うと、ヘスティア様は少し顔を赤くしながら頷いた。どうやら照れているようだ。かわいい。

 ヘスティア様は赤くなった顔をごまかすように、早口でまくし立てた。

 

「じゃあ、さっさと神の恩恵を刻んでしまおう!善は急げというからね!服を脱いでうつ伏せになってくれたまえ!」

 

 どうやら神の恩恵は背中側に刻むもののようだ。でも刻むってどうゆうことだろうか。痛いのは勘弁してほしいところだが。そう思いながらもシャツを脱ぎ、ズボンを脱ごうとしたところで待ったがかかった。

 

「下は大丈夫だよ!シャツだけでいい!」

 

 ヘスティア様はさっき以上に顔を真っ赤にしていた。

 

「それじゃあ始めるよ。楽にしててくれ。」

 

 そう言うと、彼女は僕の背中に指を這わせてきた。何かを書いているような感覚だ。少しの間その感覚に身を任せていると彼女の指が離れていく。どうやら終わったようだ。思っていたよりもかなりあっけなかった。身体に変化があるようにも思えない。

 僕の背中を見ながら、ヘスティア様は何かを紙に書き写している。書いている途中一瞬手が止まるが、すぐに再開してまた書き始めた。というか、あの紙は僕に見せるんだろうけど、文字を読むことができるだろうか。

 

「終わったよ。これで君はボクの眷属だ。これは君のステイタスだよ」

 

 そう言いつつ先ほどの紙を渡してきた。その紙にはこう書いてあった。

 

ミノル

Lv.1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

《魔法》

【ブースト】

・詠唱式【上昇せよ】

《スキル》

努力よ実れ(エボリューション・セオリー)

・経験値取得効率の上昇

・器を超えた成長を可能とする

 

 よかった、なぜか知らないが日本語だ。しかしステイタスとは・・・。本当にゲームの世界のようだ。意味はなんとなくわかるので上から見ていく。自分に魔法があるのには驚いたが、それ以上にスキルを見て僕は顔をしかめた。器を超えた成長を可能とする。つまり、自分には限界がある、ということの証明に他ならない。いや、正確にはあった、か。すべてを失った今、自分が最も欲しかったものを手に入れるとは、なんて皮肉なことだろうか。

 感慨にふけっていると、ヘスティア様が話しかけてきた。

 

「見て分かる通り、君には魔法とスキルがある。君にはよくわからないだろうが、これはもの凄いことなんだ。しかも魔法は超短文詠唱。スキルは見たことも聞いたこともないレアスキルときている。ボクは今日君に驚かされっぱなしだよ」

 

 呆れたように彼女は言った。しかしこれはすごいことなのか。他を全く知らないせいで実感はない。

 

「異世界人、というのが関係してるんでしょうか」

 

「可能性はあると思う。だけど前例がないことだからね、はっきりしたことは言えない。ただ一つ言えるのは、このスキルに関しては誰にも言ってはいけないということだ。これも二人だけの秘密だ。それを約束して欲しい」

 

 今度は赤くならずに、真剣な顔で言ってきた。ヘスティア様の言葉は間違いなく僕を思ってのことだろう。そう思うとどうしよもなくうれしくなってしまう。

 

「はい。約束は必ず守ります」

 

 と力強く言った。そのすぐ後、安心してしまったせいだろうか、大きなお腹の音が部屋に響いた。今度は僕が真っ赤になってうつむいた。

 ヘスティア様は心底可笑しそうに笑いながら、

 

「今日は君に出会って、君が眷属になった記念日だ。少し贅沢をしてご馳走をいっぱい食べよう。今夜は寝かさないぜ?」

 

 と悪戯っぽく微笑むのだった。

 

 




読んでいただきありがとうございました。

少し設定の話をします。

今回の本文で出てきたスキルについてですが、九州圏で猛威を振るっている予備校が元ネタです。わかりますかね?
実は医学部っていうのも、この予備校から来ています。つまり特に深い意味はないということです。

ヘスティア様すごいかわいいですね。もうこのままヘスティア様といちゃいちゃするとこだけ書こうかと思ってしまうくらいです。

次回も読んで下さるとうれしいです。ではでは。
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