ダンジョンで限界を超えるのは間違っているだろうか 作:らぐいん
旧名 不可能などありはしない
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新名 ダンジョンで限界を超えるのは間違っているだろうか
それでは、第三話です。どうぞ
「ちゃんとナイフは持ったかい?忘れ物は無いかい?」
「はい、大丈夫ですよ」
その姿に僕は思わず苦笑してしまう。まるで始めてお遣いに行く子供のような扱いである。
・・・そういえば受験の朝は、母親も毎回こんな感じだったと思い出す。
「ど、どうかしたのかい!?もしかしてお腹を壊してしまったんじゃ?!」
気持ちが表情に出てしまっていたのだろうか、ヘスティア様が心配そうな顔で聞いてくる。
「いえ、少し母親のことを思い出してしまいまして」
それを聞くと、ヘスティア様はつらそうな表情をする。本当に優しい神様だ。
「・・・ミノル君は、自分の世界に帰りたいと思わないのかい?」
ヘスティア様の言葉に僕は声を詰まらせた。それは、とても聞きづらいことだっただろう。この神様は、
「はい、とても帰りたいです」
「・・・」
「でも、帰る気はこれっぽっちもありません」
「え?どういうことだい?」
ヘスティア様は僕の言葉に困惑している。そりゃそうだ、僕だってこんなことを言われたら混乱するだろう。
「僕は向こうの世界で死にました。僕の中でこれは確かな事実なんです。今更帰っても向こう人たちに合わす顔がありません。僕がいても迷惑をかけるだけでしょうし。」
それに、今はこんな姿ですしね、と冗談っぽく笑って言う。だが、ヘスティア様はあまり納得がいっていないようだ。怒ったように言ってくる。
「例えそうだとしても!ここには君の家族も!友達も!恋人もいないんだよ!君のことを知っている人は誰一人いないんだ!そんな場所で君は笑って生きていけるのかい!」
いつの間にかヘスティア様は泣いていた。泣きながら、叫んでいた。きっとこれはヘスティア様の本心で、本気で僕のことを心配してくれているのだろう。本当に・・・敵わない。
「それでも!・・・それでも、僕にはこの世界で家族が出来ました。僕のために、こんなに泣いてくれる家族が出来ました」
彼女は、ぽろぽろ泣きながら驚いた顔をしている。その顔を真っすぐに見つめながら言う。
「友達も恋人もこれからいくらでも作れます。あなたがいれば笑っていられます。それになにより・・・」
「なにより・・・?」
彼女の手を取り、にっこり笑いながら僕は言う。
「僕は今、生きてますから」
ヘスティア様はぷるぷる震えている。どうしたのだろう。まだ怒っているのだろうか。手を放したほうがいいだろうか。そう思っていると、ヘスティア様は急に飛びついてきて、僕はそのまま押し倒された。
「君はぁ!君ってやつはぁ!そんなことを言ってボクを泣かすとは。この、悪い奴め!」
「ちょっ!ヘスティア様!やわらかい!それに重い!」
その後ヘスティア様が落ち着いた時には、かなりの時間が経過していた。なんだか朝からすごく疲れてしまった。そういえば僕、これからダンジョンに行くんだよな・・・
先ほど泣いたのがよっぽど恥ずかしかったのか、ヘスティア様はさっきから顔を赤くして下を向いていた。だが、急に顔をバっと上げると、食い気味に言ってきた。
「ミノル君、ちょっといいかい!」
「はい、何ですか」
「さっきはああ言ったけどね。友達を作るのはいいけど、恋人を作るのはボクはどぉかと思うよ」
「はあ・・・え?急にどうしたんですか」
「と・に・か・く!勝手に恋人なんか作っちゃダメだからね!君はボクの、たった一人のファミリアなんだから」
と最後は嬉しそうに言ってくる。その顔を見ていると、多少の疑問も「まあ、いいか」と思う僕であった。
「それじゃあ、今度こそ行ってきます」
「うん。気を付けてね」
そう言って、手を振って送り出してくれたヘスティア様を背に、僕は満を持してダンジョンへと向かった。ダンジョンへは前にも見たあの高い塔、バベルへと向かって歩いていく。ちゃんと道を確認しながら歩いていく。もし道に迷ってしまったら、帰還はかなり困難なものとなってしまうだろう。
前街を歩いているときも思ったが、バベルに向かうにつれて人も店も増えてくる。迷宮都市というだけあって、ダンジョンを中心に栄えているようだ。獣人?というのだろうか。動物の耳や尻尾を生やしている人も何人か見かけた。やはり、ファンタジーの世界なのだと改めて思う。
「ふう、やっと着いた」
近くで見るとやはりでかい。最上階は50階層で、そこに人が住んでいるというのだから驚きだ。僕だったら絶対そんなとこ住みたくない。こんな高い塔、いつ倒壊してもおかくないと思ってしまう。いや、ここは地震が少ないのかもしれないな、と適当なことを考える。
ここからの手順はヘスティア様から聞いている。まず、ギルドに行って登録をしないといけない。そこでは、ファミリアに属しているかどうかの確認と、ダンジョンに入るうえでのアドバイスをしてくれるそうだ。アドバイスは助かる、正直今も不安でいっぱいだ。
ギルドにきてまず思ったことは、意外と人が少ない。ギルドは魔石の買い取りなどが主な仕事だとヘスティア様は言っていた。朝方はいつもこんなものなのかも知れない。受付を見ると、いつくか空いているところがあるのでそこに入っていく。やはり、どこの世界に行っても、受付は女性が多いようだ。
「おはようございます。ダンジョンに入りたいので、登録をお願いしたいんですが」
「はい、おはようございます。まずはお名前と所属ファミリアを伺ってよろしいですか」
きれいな人だ。耳がとがっているからエルフだろうか。神、獣人ときてエルフだ。ファンタジーの世界は凄い。
「私の名前はミノルと申します。所属ファミリアはヘスティア・ファミリアです」
「ミノル君に、ヘスティア・ファミリアですね。確かに、登録完了しました」
そう言うと彼女は真面目な顔を崩して言う。
「改めまして、ようこそダンジョンへ。これからあなたの担当アドバイザーをするエイナ・チュールです。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ミノルです。わからないことだらけなので、質問等が多くなってしまったらすいません」
「いえ、わからないことがあったらどんどん聞いてください。それが私の仕事ですし、死なないために一番重要なことですから」
と、何事もないように言ってくる。わかってはいたが、この仕事が死と隣合わせであることを実感する。不安になる心を何とか奮い立たせる。
「まず初めにダンジョンにおける注意点や、モンスターと対峙したときどのように対処すればよいかなどを教えていきます。どれも大切なことばかりですから。しっかり聞いて覚えてくださいね」
「はい、覚えるのは得意なんです。よろしくお願いします」
その後、彼女の講義をトイレ休憩など挟んでみっちり3時間ほど聞いた。終わった後、彼女は驚いていた。普段は1時間もすれば皆根をあげて逃げていくそうだ。そりゃそうだろうと思う。僕だって3時間も集中するのはつらいのだ。自分から冒険者になるような奴らが、そんな時間集中していられるとは、僕にはとても思えなかった。ただ、彼女なりに冒険者に死んで欲しくないという思いは伝わってきた。でなければ、あんな長い講義をすることはできないだろう。
彼女は最後にこう言って締めくくった。
「冒険者にとって一番大事なのは、冒険しないことです。それをしっかり覚えておいてください」
「はい、長々とありがとうございました」
冒険者は冒険しちゃいけない、か。言いたいことはわかるけど・・・それってもう冒険する者とは言わないんじゃないかな・・・なんてことを僕は思った。
読んで下さりありがとございます。
ヘスティア様は僕の中でかなりチョロイ印象だったので、相当チョロクなってしまっています。
不愉快に映っていないといいのですが。
感想評価など待ってます。ではでは。