ダンジョンで限界を超えるのは間違っているだろうか 作:らぐいん
どうぞ。
無事エイナさんの講義を終えダンジョン1階層に降りている最中、これから戦うモンスターのことを考えながら、昨日の夜のヘスティア様との会話を思い出していた。
ヘスティア様との買い物から帰り、晩御飯を食べ終えた後のことだ。
「明日はさっそくダンジョンに行くわけだけど、その前に君の魔法を実際に使ってみておこうか」
「魔法を・・・ですか?僕も使ってみたいですけど、こんなところで使っていいんですかね」
「確かに初めての魔法をここで使うのは危ない気もするけど・・・君の魔法は明らかに攻撃系ではないしね。恐らくはステイタスアップ系だろう。ダンジョンに潜る前に、自分の魔法の発動条件や発動タイミングを知っておくのは重要さ。ダンジョンでは少しの隙が命取りになるからね」
言われてみれば確かにそうだ。僕の中では詠唱を唱えて魔法を発動すれば、勝手に効果が現れるものだというイメージだった。だが、使うのに魔力とかをコントロールしなくてはならないかもしれないし、物凄く集中しなくはいけないのかもしれない。そういうことを知らずにダンジョンに行き、初めての戦闘で魔法の発動が失敗してしまったら、おそらく僕はパニックになってしまうだろう。その隙は致命的とさえいえる。
「まあ、色々考えるのは後にして、とにかく一度使ってみよう。話はそれからさ」
ヘスティア様の言葉にうなずきで返し、頭の中に詠唱式と魔法を思い浮かべる。
「【上昇せよ】【ブースト】」
初めて使ってた魔法の感想としては・・・すごい地味だということだ。身体の外側に変わったところは何もない。内側に意識を向けてみると、少し身体が火照っているような感じだろうか、力が溢れてくるような感覚だ。
「無事発動したみたいです」
「え?!もう発動してるのかい?!もっと全身がピカー!って光ったりとかしないのかい?!」
ヘスティア様は物凄く残念そうな表情を浮かべていた。僕だって残念だ。初めて使う魔法はもっと派手なのがよかった。もっとこう・・・魔法陣とか出したかった。
「出ないものはしょうがないでしょう。僕のほうが悲しいんですからね・・・。じゃあ、少し身体を動かしてから解除してみますね」
そう言い、僕はその場でジャンプをしてみたり、腕立て伏せをしてみたりした。【ブースト】の効果は思ったよりもすごく、軽く力を入れただけで、その辺のバスケットボールの選手より高く跳ぶことが出来た。また、腕立て伏せを30回しても全然疲れなかった。前ならありえなかったことだ。心の中で【解除】と強く思うと魔法が解ける感覚に襲われる。これは別に声に出さなくてもいいようだ。最初の【解除】という単語で成功したことから、おそらく、【魔法を解く】というイメージさえあれば、言葉はなんでもいいのだと思われる。
僕の様子から、魔法が解けたことをを察したのだろうヘスティア様が話しかけてくる。
「どうやら上手くいったようだね。なら次は、そうだね。足踏みでもしながら、魔法を使ってみてくれるかい?」
足踏み?それをすることに何か意味があるのだろうか?少し疑問に思いつつも言われたとおりにやってみる。
「【上昇せよ】【ブースト】」
詠唱を終えると魔法が発動・・・してない?なんでだ。
「どうやら発動しなかったみたいだね。魔法というのは高い集中力を必要とするらしいんだ。動きながら、戦闘しながらの詠唱は【平行詠唱】と言われる高等技術になるんだ」
「なるほど・・・動きながら詠唱できないのは一人の僕には少し厳しいですね」
深刻そうに言う僕に対して、ヘスティア様はいう。
「まあでも、それは一般的な魔法の場合の話さ。普通魔法っていうのは、もっともっと詠唱の長いものなんだ。その詠唱を最後まで言う間集中しなきゃいけないからこそ難しいのさ。でも、君の【ブースト】は詠唱がとても短い。多分だけど、慣れさえすれば普通にできるようになると思うよ」
その言葉に多少の安堵を覚える。少し練習すれば身につくのであればやらないてない。まあ、1日2日で身につくものでもないだろうが。
「あと注意する点は・・・ああ、そうだった。魔法の使い過ぎには注意するんだよ。魔法を使用しすぎると
「それは怖いですね・・・。ありがとうございました。明日は今できる精一杯をしてみます」
僕がそういうと、ヘスティア様は嬉しそうにした。
「うん。ちゃんとわかってくれたようだね。大事なのは明日、それをわかった上でダンジョンに潜ることだ。今自分にできる最善を尽くして、生きて帰ってくることが何より重要だ。そのことをちゃんとわかっておいてくれよ」
ダンジョン1階層に降り、探索を開始する。さすがに迷宮、というだけはある。少し広めの洞窟が続き、少し進むと広場のようなところに出るようだ。ダンジョン内は真っ暗・・・ということはなく、間を開けて松明が灯っている。ありがたいことだ。そしてこのダンジョンの壁、ここからモンスターが生まれるということだが・・・
集中しながらダンジョンの中を進んでいく。手にはすでにナイフを持っており万全だ。すると突然、前方10m先位から、ピキピキ、という音が聞こえた。
・・・来た!モンスターが生まれる音だ。その音を聞くと同時に僕は行動を起こす。
「【上昇せよ】【ブースト】!」
よし!無事魔法の発動を感じる。出だしは好調だ。少し効率は悪いが、今の僕にはこれが一番安全だ。生まれてきたモンスターを見る。あれはおそらく、エイナさんから教わった、コボルト、ゴブリンと言われているモンスターだろう。習った姿と一致する。大きさはそこまででもない。だが、その姿を見て身体が少しこわばる。地球上じゃ絶対見ない生き物だ。まさしく宇宙人に合ったような感覚である。最初のモンスターが少しとはいえ、人型とは嫌なものだ。
そんな僕のためらいを知ってか知らずか、ゴブリンがこちらに向かって動き出した。
―――しまった!先手を許してしまった!本当はこちらから動かなければならなかったのに!
ゴブリンは奇妙な叫び声をあげながらこちらに襲い掛かってくる。
「ひぃ!」
その恐ろしい姿に僕の足はすくんでしまい、ゴブリンから顔を守るように手を持っていく。その腕にゴブリンは待っていたと言わんばかりに噛みついてきた。
「痛いぃいぃ!この!死ね!死ね!!!」
痛みでパニックになりながらも、噛まれていない方の手で持ったナイフでゴブリンの頭を刺す。ナイフから嫌な感覚が伝わってくるが無視する。
三回刺したところでようやくゴブリンは光となって消え、そこには小さな一つの魔石が残っていた。
「はぁ、はぁ。じょ、冗談じゃないぞ。何だこれ。くそ恐いし、くそ痛い」
思わず悪態をついてしまう。乱れた息がなかなか整わない。鞄からハンカチを取り出し、腕に巻いて止血する。
恐らくダンジョン内で一番弱いであろうモンスターにこの体たらく。最高に情けない。周りに誰もいなくてよかった。誰かいたらこのまま帰っていたことろだろう。魔石を拾い鞄の中に入れ、先ほどの反省をする。
「殺らなきゃ、殺られる」
つまりそういうことだ。先ほどのナイフで刺す感覚が手に残っているが、噛まれた腕に比べれば些細な感覚だ。必要なのは、躊躇わないことだ。相手からの攻撃を許す前にこちらから攻撃する。それが出来なければ、僕は殺される。
エイナさんは、1階層のモンスターなら一般人でも戦えると言っていた。なら、ステイタスを持ち、かつ【ブースト】を使っている僕が負ける道理はない。
平常心を保つために、自分の心にそう言い聞かせながら、僕は迷宮の奥へと足を進めていった。
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