黒き英雄達のレコンギスタ(ガンダム Gのレコンギスタ×最弱無敗の神装機竜) 作:okura1986
第一話「大地に立つ巨人」
ベルリ・ゼナムとルクスとの出会いから数日後、アティスマータ新王国の住民が暮らす繁華街、そこでルクスはいつものように街の人達から依頼された雑用である、建物の清掃を行っていた。
「ようルクス! 精が出るな! 明日は俺のところも頼んだぞ!」
「この次は私の畑だからねー」
「はい! ちゃんと伺います!」
道行く人に声をかけられながらも、ルクスは与えられた雑用を真剣にこなしていく。すると彼の元に、木製のバケツに沢山の水を汲んだ黒髪の少年……ベルリがやってきた。
「ルクスー、水を汲んできたよー」
「ありがとうベル、これなら昼過ぎには終わりそうだね」
そしてルクスの言う通り作業は昼過ぎに終わり、二人は依頼主から日給をもらい、広場の出店でパンと牛乳を買い遅めの昼食をとった。
「いやー、仕事が終わった後の食事はうまい!」
「そうだね……」
おいしそうに昼食にかじりつくベルリを見ながら、ルクスは少し申し訳なさそうに彼に問いかけた。
「ねえベル……本当によかったのかい? 僕の雑用を手伝うなんて……給金もそんなにないし、大変だよ」
「気にしなくていいよ、ルクスには助けてくれた上に、この世界の事を色々教えてくれた恩があるし、何より……」
ベルリはすくっと立ち上がり、町中を見回しながらにかっと笑って見せた。
「こんな小説みたいな世界に来れて、働きながら見て回れるなんてラッキーじゃないか。それに……君のような友達もできたしね」
「あはは……その、君の世界には友達はいなかったのかい?」
「いたにはいたけど……口うるさいのとか、そうじゃないのは年上だったり……まあ、いろいろとね」
ベルリが“光の雪”と呼ばれる現象が起こった日に現れたとき、その場にいたルクスはすぐさま彼を助け、彼からリギルド・センチュリーと呼ばれる年号が使われている、星の世界へ行きそこに人が長年住めるような、高度な科学技術を有する世界からやってきたと説明を受けていた。無論ルクス自信その話には半信半疑だったが、彼の傍に落ちていた奇妙な二足歩行の乗り物(ベルリはシャンクと呼んでいた)をこの国の軍に渡し調べたところ、少なくともこの世界の科学技術を数百年分飛びこしてしまうほどのものだということが分かり、ベルリの処遇が決まるまで、“とあるお偉い”より命を受けてしばらくの間監視を兼ねてともに行動していた。
無論、ベルリ自身にも過去に色々あったようだが、ルクスは自分を鑑みて深入りはしないように心掛けていた。
ふと、ベルリは周囲の人間が自分達……というよりルクスのほうを見て何かひそひそと話をしていた。その視線には恨みや殺意すらも籠っており、それを察知したベルリはルクスの手を取った。
「ルクス、最近三丁目においしいクレープ屋ができたんだって、ちょっと行ってみよう」
「え、いや……」
「腹が減っては戦は出来ぬ! 思い立ったが吉日! これ、日本を旅していた時に農家のお爺さんが教えてくれたんだ!」
おどおどするルクスを、ベルリは強引にその場から連れ出す。実は彼は数日前、ルクスの事を知る宿屋のおばさんから、彼の生い立ちを聞かされていた。
ルクスはかつてこの国を支配していたアーカディア帝国の第七皇子であり、帝国が王国の現女王の弟であるアティスマータ伯の反乱と、“黒き英雄”と呼ばれる者による活躍で滅んだあと、ルクスと現在離れて暮らしている彼の妹は、王国から課せられた多額の借金を返すため、日々朝水垂らして働いていた。
かつて旧帝国は極端な男尊女卑の体制の元、軍事拡大のため人々に重税を課し、貧しい市民をとある兵器の実験材料にしていた。故に未だに旧帝国の王子であったルクスを憎悪する市民は沢山おり、彼自身そのはけ口として辛い思いを沢山してきた。
その話をしてくれたおばさんも、かつて帝国の横暴により旦那と娘を失っていたそうだが、ルクスの祖父が帝国の間違いを正そうと行動を起こし、そのまま排斥されたことを知っており、ルクスを恨むのは筋違いと考えていた。
「できることなら……ルクス君と仲良くしてあげてね」
話を終えたおばさんが最後にベルリに言った言葉だった。ベルリもまたルクスにそう言った差別意識はまったくなく、むしろ自分自身が経験してきた事柄を思い出し、彼にある種のシンパシーを感じていた。
故に今、ルクスとベルリはこの短い期間で、気のいい友達関係を築いていた。
事件はそんな彼らがクレープ屋に行くため、人気のない路地裏に入った時の事だった。
「ま、待ってー! ドロボー!」
ルクスとベルリが声がしたほうを見ると、そこにはポシェットを咥えた黒猫と、それを追いかける顔見知りの少女がいた。
「ルクス!」
「うん! 僕たちに任せて!」
「ルクス君!? でも中身は……」
少女が何か言う前に、ルクスとベルリはポシェットを咥えた黒猫を追いかけていった。
☆ ☆ ☆
数時間後、辺りがすっかり夕焼けで茜色に染まった頃、ルクスとベルリはすばしっこく逃げ回る猫を追いかけ、とある大きな建物の屋根の上に登っていた。
「ルクス! こっちで注意を引き付けるから君は反対側から猫を!」
「わかった!」
二人は息を切らしながらも黒猫を追い詰め、じりじりとその距離を詰めていた。
「よーしいい子だ……」
「さあ……ポシェットを返せ!」
ルクスはベルリのほうに気を取られている黒猫に飛びつく。すると黒猫は驚いてポシェットを離し、屋根の下に逃げていった。ルクスはポシェットが屋根からずり落ちる前にそれをヘッドスライディングでキャッチすることに成功する。
「やったぁルクス!」
「うん、これで……」
ふと、ルクスの足元が突然ひび割れを起こす。そしてべきべきと音を立てて崩れ、彼はそのまま下に落下し、ドボンという水音がした。
「ルクス!!?」
ベルリはすぐさまルクスが落ちた穴の中を覗き込もうとする。しかしすぐに屋根の残骸が崩れ、それを事前に察知したベルリは間一髪で落下を回避した。
「ルクス―! 大丈夫かー!?」
そして改めて大きく開いた穴を覗き込むベルリ、しかし穴の中はなぜか湯気で覆われており、下からは女の子の声が複数聞こえてくるだけだった。
「大丈夫なのか……!?」
そして湯気が穴から抜けて晴れていくと、そこには金髪の全裸の少女を押し倒している形になっているルクスと、それを取り囲む形になっているバスタオル一枚で体を隠している女の子が数十人立っていた。どうやらルクスが落ちた場所はどこかの女湯だったようである。
「うわわわ!!」
ベルリは恥ずかしさからすぐさま身を隠し、女子たちの姿を見ないようにする。そして次の瞬間女子達の悲鳴とルクスの叫び声が聞こえてくる。
「あ! 天井にもう一人いるわよ!」
「痴漢の仲間よ! 誰か捕まえてー!」
「こ、これは逃げなきゃダメか……ルクスごめん! 後で必ず助けるから!!」
そしてすぐにベルリ自身も見つかり、彼はすぐさまその場から逃げ出した。
数分後、ベルリは制服らしきものを着た女の子たちから逃げながら、どこかに逃げているであろうルクスの姿を探していた。
「ルクスー! どこに行ったの!? というかここはなんなの!? まさか学校!?」
「もう一人の痴漢がこっちに逃げたわよー!」
校庭らしきに逃げ込んだベルリは、追ってくる女の子を振り切ろうとどこかに隠れる場所がないか辺りを見回す。その時上空からベルリを吹き飛ばしそうなぐらいの強烈な風が吹き、それと共に機械の手足を付けたポニーテールの少女が舞い降りてきた。
「見つけたよ痴漢くん! さあおとなしくお縄に付きなさい!」
「アレ……MSじゃない!? そうか、あれがルクスの言っていた“装甲機竜(ドラグライド)”か!」
装甲機竜……この世界で“遺跡(ルイン)”と呼ばれる場所で発見された古代兵器であり、“機攻殻剣(ソードデバイス)”を抜剣することにより発動する機械仕掛けの兵器である。
「もしかしてここ……今度仕事が入っているってルクスが言っていた……!?」
ベルリはにじり寄る相手のドラグライドを相手に、この状況を打破するにはどうすればいいのか、思案を巡らせる。そして……あることを思い出し、ゆっくりと地面に膝を付けながら両手を上げた。
「わ、わかりました……降伏します。その代りこっちの言い分をしっかり聞いてください」
「へー? やけに素直だね。何かの罠?」
ドラグライドを操る少女の質問に対し、ベルリは少し暗い顔をしながら答える。
「誤解やすれ違いや意地の張り合いが重なると……命の取り合いになっちゃうんですよ」
それはかつて自分が手にかけてしまった。姉の想い人と、自分の恩師を思い出しての行動だった。その気持ちを察してか、ドラグライドを操る少女も武装を解除し、他の生徒たちにベルリを捕縛させる。
「……安心して、疑わしきは罰せずがこの国の方針だからさ」
☆ ☆ ☆
その後、ベルリはこの施設にある牢屋に、すでに捕まって昏倒しているルクスと共に入れられる。そしてすぐに目を覚ましたルクスに、この施設が数日後に仕事で来るはずだったドラグライドの操者を育成する施設……アカデミーだということを教えてもらう。
「どうしよう……せっかく決まった仕事先だったのに……」
「大丈夫だよ、とにかく本当のことを話して信じてもらうしかない」
「そうするしかないよね……」
そして夜が明け朝が来ると、二人が入れられている老の前に、長い金髪をツインテールでまとめた小柄な少女が現れる。
「二人とも出ろ、学園長がお呼びだ」
「は、はい……」
なぜか怒気を超えて殺気を浴びせてくる少女に、ルクスは何か気付いたのか顔をさーっと青ざめさせる。
「き、君はまさかあの時浴場で会った……」
「浴場……? ああ! あの子か!」
ベルリもまた、目の前の少女が先日ベルリが押し倒していた全裸の少女だということに気付く。
少女は二人を睨みつけながら、彼らを学園長室に案内するため前をつかつかと歩き続ける。
「お前ら……特にそこの旧帝国の第七皇子には言いたいことが沢山あるが……まあ先日はありがとう。覗き魔にして私を押し倒した暴漢にしては立派な口説き文句だった。私の裸を“幼い感じなのに胸は結構あるからエロい”などと……思わず惚れてしまいそうになったぞ」
「そんなこと言ったのかルクス……」
「あ、あの時は混乱していて……!」
あの時の状況を知り、ベルリも思わず渋い顔でルクスを見る。一方目の前を歩く少女は怒気を隠そうともせずルクスたちに名乗りを上げた。
「まあいい……貴様ら痴れ者共にはこのアティスマータ新王国の第一王女、リーズシャルテ・アティスマータが、相応しい罰を下してやるから覚悟しろ」
「王女様? ということは……」
ベルリは目の前の少女……リーズシャルテが、ルクスの国を滅ぼしたアティスマータの一族だということを知り、思わずルクスのほうを向く。ルクスは顔をさらに青ざめながら滝のような汗を流していた。
そうこうしているうちに一行は学園長室に着き、そこで学園長であるレリィ・アイングラムから取り調べを受けていた。
「じゃあ今回の騒動は不幸な事故……ということでいいのよね? 二人とも」
「「はい……」」
学園長という役職についている割には年若く見えるレリィのにこやかな顔を見ながら、ベルリとルクスはこれから下る罰則がどんなものか心臓をバクバク鳴らしていた。
そして学園長はにこやかに笑いながら手をポンと叩いた。
「それじゃ今回の件は水に流すということで」
「「え!?」」
「が、学園長!?」
意外な裁定に面食らうルクスとベルリ、そしてすぐそばで話を聞いていたリーズシャルテは不服そうに学園長に異議を唱えようとしていた。
「なぜですか学園長! こいつらは……!」
「“疑わしきは罰せず”、それが新王国の方針ではなかったかしら? それを王女であるあなたが率先して破るのはどうなの? それにルクス君は昔から親交があってね、彼が故意にそのようなことをする人間ではないことは知っているわ」
「むう……ですが!!」
尚も文句を言いたげなリーズシャルテに対し、ベルリはとにかく我関せずといった様子で、オロオロした様子のルクスと共に黙り込んでいた。
(初めて会った時の姉さんと一緒だな……余計なことは言わないでおこう)
しかしそうはいかず、リーズシャルテは標的をルクスとベルリに定めてきた。
「おまけに学園長、聞けばこいつらをドラグライドの整備員として雇うとか!? いくらこいつが“最弱無敗”とかいうドラグライドの使い手とはいえ、元は旧帝国の王子な上に覗き魔だ! それに何なのだこっちのベルリとかいう男は!? 聞けば数日前に光の雪と共に現れた得体のしれない奴を放置しておくなど伯母上は何を考えて……!」
(……女の子って口喧嘩が上手い子ばっかりなのかな)
ベルリは自分の姉やガールフレンドの事を思い出し、思わずリーズシャルテから顔をそらして苦笑する。
するとその態度にリーズシャルテは頭に来たのか、学園長にとんでもない提案をしてくる。
「学園長! こうなったら私にこいつらの気概を図らせてくれ! こいつらがここで働くのにふさわしいのかどうかを!」
「な、なにをするんです?」
恐る恐るルクスが質問するとリーズシャルテは自分のソードデバイスを彼に向けた。
「決闘だ……! 互いのドラグライドを用いてな! 私が勝てばお前とそこのお友達は牢獄行、お前たちが勝てば約束通りここで働けばいい! それでいいな学園長!」
「うーん……まあ二年の首席で本件の最大の被害者であるリーズシャルテさんがそれでいいならいいんじゃない?」
「「そんないい加減な!!?」」
リーズシャルテのむちゃくちゃな要求と、それを飲むレリィに思わずルクスとベルリは声をそろえて突っ込みを入れる。
リーズシャルテはそれを無視し、つかつかと学園長室の扉の前に立ち、勢いよくそれを開け放った。
「野次馬共もそれでいいな!!」
扉の向こうには盗み聞きをしていたのか、大勢の学園の生徒たちが学園長室前の廊下に立っていた。
「学園の皆に伝えろ、新王国の姫が旧帝国の王子を叩きのめす見世物だと!」
そう言ってリーズシャルテは学園長室から去っていき、ルクスはそれを深くため息をつきながら見送った。
「ああ……なんでこんなことに。ごめんベル。こんなことに巻き込んじゃって」
「気にしなくていいよ。面倒ごとに巻き込まれるのは慣れているからさ」
慰めになっているかどうかわからない慰めを言うベルリ、するとそこに、ルクスと同じきれいな銀髪を持った、学生服姿の少女が、同じく制服姿の黒髪の少女と共に歩み寄ってきた。
「まったく……とんでもないことになりましたね兄さん」
「アイリ! 来てくれたの!?」
「アイリ? もしかしてこの子は……」
するとルクスにアイリと呼ばれた少女は、ベルリに向かってぺこりと頭を下げた。
「初めましてベルリ・ゼナムさん……私はルクス・アーカディアの妹のアイリ・アーカディアです。あなたの事は色々と聞いています。この度は不肖の兄がご迷惑をおかけしました」
「手厳しいなぁ……」
アイリの容赦ない言葉にルクスは思わず落ち込む。彼女はそんなルクスを放ってベルリと話を続ける。
「とりあえず……決闘までの間貴方の身柄は私たちが預かります。技術者志望として……貴方からは色々と話を伺いたいですから」
「は、はあ……」
☆ ☆ ☆
決闘当日、学園敷地内にあるドラグライドの演習場周辺、そこでベルリとアイリ、そして彼女の従者である黒髪の少女……ノクト・リーフレットの三人は、ルクスとリーズシャルテの試合を見に試合会場に向かっていた。
「ルクス……勝ってほしいけどなぁ、あのリーズシャルテって子、“朱の戦姫”って呼ばれるぐらいこの学園でもトップクラスの実力を持っているんでしょ?」
「ええ、ですが兄さんも王国主催のドラグライトのトーナメントでは無敗を誇っています。引けは取りません」
そんなアイリを見て、ルクスは思わず微笑ましくて笑ってしまう。
「アイリはお兄さんが大好きなんだね」
「Yes、私との会話でもよくルクスさんの事は出てきます。その時のアイリはとても幸せそうです」
「……からかうのはやめてもらえますか? ノクトも……」
アイリはそう言って顔を赤らめながら子供っぽく頬を膨らませる。
「ごめんごめん、なんだか姐さんや友達の事を思い出してね」
「貴方がいたという世界の事ですか。あなたが持ち出した乗り物といい、MSやキャピタルタワーという技術といい、信じがたいですが興味をそそられる話です。この一件が終わったらあなたがこの世界に来た原因も含めてじっくり調べたいですね」
「それは私も同感ね」
するとベルリ達の元にルクスたちのより少し青が混じった銀の長髪に、細身の体に端正な顔立ち、そしてどこか冷たさのある青の瞳を持った女子学生が現れた。
「貴方は確か2年生の……」
「クルルシファー・エインフォルクよ。初めましてベルリ・ゼナム君」
そう言ってクルルシファーと名乗った少女は、ベルリの横に並び、共に演習場に向かった。
「貴方の事は色々聞いているわ。変わった乗り物と共に、光の雪と共に現れた少年……ぜひお話を聞かせてもらいたいわ」
「ならルクスの応援をしてあげてください。彼が負けると僕まで牢屋行らしいので」
「うふふ……そうするわ」
そして一行は演習場に到着する。演習場には任務で遠出していて不在の3年生以外の学園の生徒ほぼ全員が集まっており、これから始まるルクスとリーズシャルテの仕合を心待ちにしていた。
「私たちも座りましょう。ちょうどあそこに四人分の席が空いています」
ノクトの案内で四人は観客席の空いている席に腰を下ろす。
そして数分後、歓声とともにソードデバイスを腰に備えたパイロットスーツらしき姿のルクスとリーズシャルテが現れ、会場にアナウンスが流れる。
『それではこれより新王国第一王女リーズシャルテ対旧帝国第七皇子ルクスの、機竜対抗試合を行う!』
同時に巻き起こる地が割れんばかりの歓声。それにルクスが圧倒されているのが、観客席にいるベルリ達にも感じ取れた。
「大丈夫かな、ルクス……」
「大丈夫です。兄さんは強いですから」
そして試合開始直前、二人は互いのソードデバイスを起動させる。
「「コネクト・オン!!」」
そしてリーズシャルテは新王国の王族専用機……神装機竜ティアマトを、ルクスは凡用機であるワイバーンを召喚する。赤と青、まるで両者の立場を象徴するような対になる機体のカラーリングである。
『模擬戦開始!』
そして戦いの火ぶたが切って落とされ、リーズシャルテのティアマトが一気に飛び上がり、ルクスのワイバーンに向かってビームの砲撃を浴びせていく。対してワイバーンもその砲撃の雨を次々と回避していく。
そのリーズシャルテの戦い方に、ベルリは既視感と違和感を感じていた
(……なんだろう。あの姫様は本気で当てようとしていない? あ!)
その時、ベルリはワイバーンの背後に、砂塵に紛れて赤い浮遊物が浮いていることに気付いた。
「ルクス後ろ! 狙われている!」
「!?」
ルクスはすぐさま横に加速する。すると彼のいた場所に赤い浮遊物が飛んできた。それに直撃、もしくは防御していても、あらかじめティアマトが撃っていた砲撃が直撃していただろう。
「あ、ありがとうベル!」
「こら外野! これは決闘だぞ! 余計な口出しはするな!」
「はい! もう言いません!」
リーズシャルテに怒鳴られたベルリはあくびれる様子もなく、すっと席に座りなおした。
そんな彼にアイリは興味深く質問する。
「あの兵器……ティアマトの特殊武装“空挺要塞(レギオン)は事前に兄さんにも伝えていましたが、あんなに素早く反応できるとは……何者ですかルクスさん?」
「少なくとも戦闘の素人ではないわよねえ?」
クルルシファーも興味を持ったのか、二人で挟むようにベルリを見る。対してベルリははぐらかすことなく、笑顔で二人の疑問に答えた。
「まあ、いろいろとトラブルに巻き込まれやすい体質だったからね」
そうこうしているうちに、リーズシャルテは怒り心頭といった様子でルクスに攻撃を加える。
「この……大バカ者が!!」
「あらあら、目を離した隙にルクス君、お姫様を怒らせたみたいね」
「兄さんは正直者ですからね。そのおかげでいつも余計なトラブルに巻き込まれるんです」
(ますます親近感がわくなあ)
そうこうしているうちに決闘もいよいよ終盤に向かっていった。
☆ ☆ ☆
演習場からかなり離れた森林に建てられた簡易テント、そこでルクス達の決闘の様子を、この世界にはないはずのモニターで眺めている人物がいた。その人物は長い長髪を後ろで留めオールバックにした、この世界にもリギルド・センチュリーでも見かけない青のスーツ姿をしていた。
「成程、あれがドラグライドと、“フギル”の言っていた“黒き英雄”か……本気を出さないのは何か理由があるのか?」
「どうしますか“常務”? 素材の回収は予定通り行うのですか?」
ふと、青年の後ろにいた白いウェーブのかかった髪に真っ白なスーツを着た赤目の少女が彼に問いかけてくる。
「勿論だ、客であるベルベットからも催促されている。他の世界での素材回収が上手くいっていない以上、挽回しなければ俺や親父たちは降格だ。それに……回収した“アレ”を早く使ってみたい」
そして青年はモニターの前から立ち去った。
場所は戻って演習場、ルクスとリーズシャルテの決闘も終盤に差し掛かり観客のボルテージも最高潮に達したころ、異変は起こった。突然轟音が鳴り響き、演習場の結界を張っていたドラグライドが一機、大破した状態でルクス達のいるフィールドに落下してきたのだ。
「え!?」
「何が……!?」
ルクスとリーズシャルテは何が起こったか解らず、結界用のドラグライドが落ちてきた方角を見る。そして彼らは信じられないものを目撃する。
それは全長18mはある空飛ぶ巨人であり、右手には鋼の筒、左手には赤い盾を持っていた。背中には赤い翼を背負っており、演習場にいるルクスや学園の生徒たちを見下ろしていた。
「え……なにアレ?」
「まさか“幻神獣(アビス)”」
観客の一人がそう叫んだ瞬間、波打つように学園の生徒たちがパニックになり、傍にいた教官たちが落ち着くように指示を飛ばす
「落ち着け! 抜剣はまだするな! 防御と退避を優先……!」
「教官! 上から!」
その時、その教官の後ろに赤いビームが降り注ぎ、教官は前方に吹き飛ばされ昏倒する。
次の瞬間、パニックは爆発的に広がり、女子生徒たちは我先にと入り口に殺到する。
そのパニックを一部冷静な生徒たちや残りの教官たちが抑えようとするが、中々収まらない。
無論その光景は反対側の観客席にいたベルリ達も見ていた。
「な、なんですかアレ……アビスなのですか!?」
「とりあえずここから逃げたほうがよさそうね……ベルリ君?」
ふと、クルルシファーとアイリは、ベルリが突然現れた空飛ぶ白い巨人を信じられないといった様子で見据えていた。
「どうしたんですかベルリさん! 早く逃げ……」
「なんで……」
「え?」
「なんで……なんでGセルフがここにあるんだ!!」
一方、闘技場にいたルクスとリーズシャルテも観客席の騒ぎを見ており、すぐさまあの白い巨人が敵だと判断した。
「おのれー!! よくも教官たちを!!」
すぐさまリーズシャルテが白い巨人より高度を上げて、ソードデバイスを巨人に向ける。次の瞬間強烈な衝撃波が巨人に圧し掛かった。
「神の名のもとにひれ伏せ! “天声(スプレッシャー)”!!」
ティアマトの神装と呼ばれる奥義の一つを使い、リーズシャルテは巨人の破壊を試みた。だが突然、ティアマトはガタガタと動きが鈍くなり、技を強制的に中断し、急激に高度を下げた。
「暴走前兆!? エネルギーを使いすぎて……!」
その時、白い巨人は高度を下げたティアマトの足を掴み、操縦者であるリーズシャルテを空いたほうの手で無理やり引き剥がそうとした。
「や、やめろ! い、痛い……!」
リーズシャルテは両脇をとてつもない力で挟まれ激痛にさいなまれ、死の恐怖を感じとった。
(わ、私はどうなるのだ!? まさか……殺されるのか!? こいつに……!?)
そう考えているうちに、巨人がリーズシャルテを掴む力が強くなっていき、ティアマトがメキメキと音を立てる。
「だ、誰か……助けて……!」
リーズシャルテはあまりの恐怖に目をぎゅっと瞑り涙を溢れさせる。
「わあああああああ!!!」
その時、ルクスのワイバーンがリーズシャルテを掴む巨人の手に切りつける。するとその拍子に巨人は彼女から手を放した。
「姫様! 今助けます!」
「お前……!」
その時、巨人はまるでハエを叩き落すかのように、右手でルクスとリーズシャルテを叩き落した。
「あああああ!!」
「くっ!」
地面に激突する瞬間、ルクスは自分の身を盾にしてリーズシャルテを落下の衝撃から守る。そして自分はそのまま気を失った。
「お、おいお前! しっかりしろ!」
リーズシャルテがルクスを起こそうとしている間にも、白い巨人はリーズシャルテに迫ってくる。その時……巨人とルクス達の間に、一機のドラグライドが割って入ってきた。
「お前……クルルシファー!? それにベルリ・ゼナム!?」
彼らの間に割って入ったもの、それは銀色のドラグライド“ファフニール”を駆るクルルシファーと、それにお姫様抱っこされている状態のベルリだった。
「リーズシャルテさん……貴女は早くルクス君を連れて退避を」
「お、お前たちどうするつもりだ!?」
「決まってるでしょ! Gセルフを止めるんですよ!」
そしてクルルシファーの駆るファフニールは、白い巨人……Gセルフの攻撃を避けていった。
「大丈夫なのベルリ君!? 思わず君の提案に乗っちゃったけど……増援が来るまで待っていたほうが……!」
「なんでGセルフがここにあるかわかりませんけど! あれと戦うなんて無茶は推奨できませんよ! 僕が直接乗り込んで止めさせます!」
するとGセルフの背後から、さらにドラグライド三機が増援に現れる。
「Yesベルリさん、何を考えているかわかりませんがこの“三和音(トライアド)”が援護します」
「助かりますノクトさん! 僕がコックピットハッチに取りつけるようGセルフの周りを飛び回ってください!」
ベルリの言われた通り、ノクトらトライアドの三人はGセルフの周りを飛び回る。そしてファフニールはGセルフの頭上に移動した。
「本当の本当に大丈夫なの!?」
「しつこいなあ! Gセルフに万が一パイロットが出れなくなった時に外側にハッチの緊急開閉装置が付いているのはハッパさんから聞いてますから!」
「随分詳しいのね!?」
クルルシファーの質問に、ベルリはGセルフに飛び乗りながら答えた。
「だってこれ……元々僕のものですから!」
そしてベルリは動き回るGセルフに振り回されながらも、外部に取り付けられている開閉装置を操作し、胸部にあるコックピットハッチを開いた。そしてコックピットに乗り込もうとして驚愕する。
「ええ!? 誰も乗っていない!?」
人が乗っているはずのコックピットは無人であり、ベルリは困惑しながらもシートに座り計器を操作していく。
「なんだコレ? 自動操縦になっているのか? “MDシステム”……!?」
ベルリは必死にGセルフのデータを書き換え、あるはずのないシステムを排除していく。そして……Gセルフをマニュアル操作に戻すことに成功する。
「よし! これなら……!」
Gセルフはそのまま腕をだらんと伸ばし、持っていたビームライフルとシールドから手を放した。
「お? お?」
「ベルリさんがやったの……?」
ノクトらトライアドもベルリがGセルフを制御することに成功したことを察知し、ほっとした様子で地上に降りて行った。
そしてベルリもゆっくりとGセルフを地上に下ろした。
「はぁ、もう……いろいろありすぎて頭がごちゃごちゃだ」
そして久しぶりに乗ったGセルフのコックピットを見渡し、深くため息をつきながらもふふっと笑った。
「またこいつの世話になるのか」
そしてベルリは初めてGセルフに乗った時のように、Gセルフの手を、まるでこの世界を抱きしめるかのようにゆっくり広げた。
その光景を見た学園の生徒たちは、先ほどまで自分達を襲っていたGセルフが神々しく見え、その姿に思わず見惚れていた。
この日、黒き英雄がいる世界に、異世界の白き英雄が大地にしっかりと足を踏み入れた。
というわけで第一話はここまで、この作品ではルクスとベルリの“友情”を重きにおいて話を進めていくつもりです。
Gのレコンキスタの他の主要人物も今後出していく予定ですが、他にも描いている作品があるので続きは最弱無敗のアニメが終わった前後に投下するつもりです。