憑依した先はCGS一軍の隊員でした。   作:ホアキン

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原作の流れをBlu-ray3巻で確認して修正しました。



赤い空の向こう

 宇宙に行く準備を進めて数日、何とか僕のMWの改造が間に合った。

 

「にしてもオメエ・・・随分と無茶な改造したもんだなあ」

 

 おやっさんが呆れたような声を上げる。確かにおやっさんみたいなまともな整備士はこんな改造考えないよなあ・・・これ魔改造の括りに入ってしまうかも。

 

「こんなにゴテゴテくっ付けてよお、制御が複雑になっちまうし、オメエの脳への負荷だってMS程じゃねえにしても今までとは大違いだろ」

「でもこれくらいしないとMS相手じゃ気をそらす事すら出来ない、ぶっちゃけ棺桶同然ですからね。無茶は承知の上ですよ」

 

 出来る限りの事はしないと。絶対に明かせない、原作知識なんて秘密を抱えている僕を、オルガは信じてくれたんだ。それに応える為なら少しくらい無茶したって足りないくらいだ。それに先の事を考えても、低軌道ステーションでの戦いには出て行きたい。

 

「ま、コイツを使わずに済む事を祈るぜ」

 

 そう言うおやっさんだけど、残念ながらそうはならないと、僕は確信している。

 

 

 オルガとビスケットがオルクス商会の契約は無事済み(とはいってもオルクスが裏切ってギャラルホルンに情報を売るのはわかっているのだが)、出発を明日に控えた日の朝の事。

 

「トウガさん!俺が居残りってどういう事っすか!?」

 

 整備場でMWの制御系の調整をしているとダンジが怒鳴り込んで来た。確かにオルガにダンジを残留組にするように言ったのは僕だけど・・・。

 

「オルガの説明は聞いた?」

「俺を居残りに指命したのはトウガさんだって言うからここに来たんすよ!タカキやライドは宇宙に連れて行くのに何で俺だけ!?」

 

 う~む、ダンジを残留に指命したのは、ダンジが手柄を気にするタイプだから功を焦って無茶しそうで危なっかしいってのが主な理由なんだけど、そんな事言ったら余計納得しないだろうしな・・・。

 

「ダンジ、宇宙行きのメンバーは年齢が上の者から、実力のある人間を優先的に選抜されている。その基準でいけば君は確かに宇宙行きだ。けど考えてくれ。実力のある、頼れるメンバーが皆宇宙に行ってしまったらこの鉄華団本部の守りはどうなる?ダンジ、君を男と見込んでここの守りを任せたいと思ったんだ」

 

 詭弁もいいとこだが、面倒くさがりの怠惰な人間でなければ重要な仕事を任せると言われれば少しは嬉しいものだろう。

 

「お、俺を男と見込んで・・・?」

「うん、本部の守りという大事な役目、是非君に任せたい。引き受けてくれるかな?」

「そ、そこまで言われちゃ、断れないっすよ!わかりました、本部の守り、引き受けます!」

 

胸を叩いて承諾の意を示すダンジ。

 

「そうかい、それはありがたい、頼りにしてるよ!」

「うっす!」

「それじゃあもう1つ大事な仕事があるんだ」

「お任せ・・・え?」

 

 フフフ、かかったなダンジ。

 

「んじゃ、あと詳しいやり方は端末に纏めてデクスターさんに預けてあるから、わからない事があったらその都度デクスターさんに聞いてね。大丈夫、そんな難しい事は無いし、必要な経費もデクスターさんに頼んであるから」

「はあ・・・」

 

 修復したビニールハウスの中で、植えてあるカボチャとトマトの世話の仕方、道具や肥料の置き場所等を簡単に説明している。種類についてはライドに手伝ってもらっの絵を描いた札を立ててあるし、トマトの苗はまだ小さいから判りやすい筈だ。

 

「皆の食生活を守るのも大事な仕事だよ。僕達がここに帰ってくるまでしっかりやれてたらボーナス出してくれるようにオルガに頼んであるから、頑張ってね」

 

「ボーナス・・・すか?」

「今のままじゃ無理だけどさ、お嬢さんの護衛が成功すればきっと鉄華団の名前は広まって、そしたら仕事も入ってその分君達の給料も増えるかもしれない。だからオルガ達がここの心配しなくても良いように、よろしく頼むよダンジ」

「り、了解っす!」

 

 よし、これで畑の方もとりあえず大丈夫だろう。

 

 そして深夜、ビニールハウスの中で、鉄板を継ぎ接ぎして作った簡易式の薪ストーブとその煙突周りの点検をしてから見張りの交代に向かうと、その途中でクーデリアに出会った。

 

「あれ、クーデリアさん、こんな夜遅くにどうしたんですか?」

「あ・・・その、眠れなくて・・・あ、ええっと・・・」

「ああ、そう言えば名乗ってませんでしたね。トウガ・サイトーと言います」

「あ、はい、トウガさんは、何を?」

「見張りの交代ですよ、ほらあそこ、今は三日月がやってます」

 

 そう言って監視塔を指差す。その監視塔の窓から光が見える。

 

「三日月が・・・?」

「でもちょっと早かったですね。ああ、三日月に話したい事があるなら行ってみたらどうですか?」

「えっ?」

「いえね、なんとなく、そんな感じに見えまして。違ってたら失礼しました」

「い、いえ、では・・・」

 

 そう言ってクーデリアは監視塔に向かって歩いて行った。

危ない危ない、うっかりフラグ折っちゃう所だった。もう少し時間潰して来よう。

 寒さを紛らわす為、基地内を軽く走って体を暖めてから再び見張りの交代に行った。

 

  ~翌日~

 

「私を!!炊事係として鉄華団で雇ってください!!女将さんには事情を話して、お店は辞めて来ました!!」

 

 皆で食事中にアトラが荷物背負ってやって来た。いや僕は原作知識で知ってたけどね。

 

「良いんじゃねえの?なあ?」

 

 三日月の傍に居たいのだろうアトラの動機を察してか、オルガが三日月に声を掛ける。

 

「アトラのご飯は美味しいからね」

 

 対する三日月は肯定の答えを返したけど、アトラの動機には気付いてないっぽいな。単純に美味しいご飯を食べられるからって感じだ。

 

「あ・・・ありがとうございます!!一生懸命頑張ります!!」

 

アトラは体を震わせてから、頭を下げて礼を言う。多分雇ってもらえるかどうか、もし断られたらという不安もあったのだろう。

 

「よーしお前ら!地球行きは鉄華団初の大仕事だ!気い引き締めて行くぞお!!」

「「「おーー!!」」」

 

オルガの言葉に皆盛り上がる。そんな中ユージンは不満げな顔をしている。

 

「ったく、浮かれやがって。俺達はギャラルホルンを敵に回してるんだぞ」

 

 まあユージンの考えもわかるけどね。と、少し離れた所で悪い笑みを浮かべているトドの背後に回って声を掛ける。

 

「最後の晩餐って、夜に食べるから晩餐っていうんで、今食べてるのを晩餐って言うのはおかしいと思うんですけどねえ、トドさん?」

「いいっ!、な、何だよいきなりよお?」

「いえ、トドさんが最後の晩餐がどうとか言ってたもんで」

「い、いい言ってねえよそんなこたあよお・・・」

「あれ、そうですか?じゃあ空耳かなあ・・・」

「そ、そうそれよ、空耳に決まってるってえ、へへへ・・・」

「ところでトドさん、最後の晩餐って言葉の由来になった昔の話だと、裏切り者はその裏切りを事前に見抜かれていたそうですよ」

「そ、それが何だってんだよ?」

「さて、何なんでしょうねえ・・・」

 

 狼狽えるトドの様子にほくそ笑む。まあ、今更揺さぶりをかけたってトドも裏切りをやめるなんて出来っこないし、これはただの嫌がらせだ。コイツ僕が参番組の子の代わりに殴られた時にニヤケ面でバカ呼ばわりしてくれやがったし、これくらいしたって罰は当たるまい。

トドがシノ達にボコボコにされる時は居合わせる事が出来ないだろうし、仕返しするなら今しか出来ないからな。

 

 その後僕達鉄華団地球行き組他3名は、クリュセ共同宇宙港から低軌道ステーションまでのシャトルに乗って出発した。

 

「まさか荷物扱いされるとはな」

 

 取り扱い注意と大きく記載され、ワイヤーで固定されたコンテナの中で、クランクさんが苦笑する。

 

「ギャラルホルンの士官を手錠掛けた格好で連れ歩いて乗り込むのは流石に無理ですからね。当面はここが独房代わりって事で。中は改装しましたから、そんなに悪いもんじゃ無いでしょう?」

 

コンテナの中は壁、床、天井に衝撃吸収材を貼ってあるし気密も保てるようにしてある。毛布もあるし非常用にノーマルスーツも置いてあるし。

 

「積込みの時は揺れたがな。いや、別に贅沢を言うつもりは無いんだが」

「落ち着いたら部屋を用意して貰える筈ですんで、もう少し我慢してください。それじゃあ僕はやる事があるんで」

 

 そう言って僕はコンテナを出て扉をロックすると、阿頼耶識対応型のノーマルスーツを着て自分のMWへ向かった。

 その後、予想通りオルクスからの情報で待ち構えていたギャラルホルンのアーレス所属のグレイズがシャトルに取り付きクーデリアの引き渡しを要求して来た。当然オルガが従う訳もなく。

 

「行くよ三日月、トウガさんもお願いします!」

 

 ビスケットからの通信の直後、シャトルの後部貨物室のハッチが開き、目眩ましの煙幕が吹き出して一瞬、グレイズの視界を奪う。

その隙を突いて三日月のバルバトス(第2形態)が滑腔砲の砲口をコックピットに突き付け発砲、グレイズを撃破するとそのグレイズのバトルアックスでワイヤーを切断して外に飛び出す。

 僕は三日月が撃破したグレイズをMWでシャトルの貨物室に押し込んでから三日月を追う形で宇宙に出ていく。

 敵機をシャトルから引き離すため牽制射撃する三日月、僕も機体後部に増設したテールに固定したグレイズのライフルを発射する。っと、狙いが少しずれたし、機体が軋んでいるのがわかる。

 

「っと、予想以上の反動だ。これは連射は無理だな」

 

 敵のMS隊はシャトルより先にこっちを潰す事にしたらしい、こっちに向かってくる。

 

「よし、こっちに来い。トウガは無理しないで、それじゃ当たったら一発で終わりだ」

「わかってる。無理はしないよ」

 

気遣いありがと三日月。無理はしないよ、無茶は現在進行形でしてるけど。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方オルガ達は迎えに来た昭弘達が乗る強襲装甲艦イサリビに回収され、ブリッジに到着していた。ここに至って自分の裏切りが見透かされていた、最初から信用されてなかったと悟ったトドが喚くがシノに殴られ、ブリッジの外へと連れ出された。オルクスの艦が攻撃して来た為オルガの指揮の下、迎撃にかかる。

 

「あっ、三日月が!」

 

 ビスケットの席のモニターに映る、戦闘中のバルバトスを見つけたアトラが声を上げた。

 

「三日月なら遠距離で射ち合っている間は大丈夫、MSのナノラミネートアーマーは撃ち抜けない」

「でも・・・」

「むしろ危ないのはトウガさんの方だよ。MWの装甲なんてMS相手じゃ無いのと同じ、一発でも当たればお仕舞いだ。・・・おまけにあんな派手な色じゃ・・・」

「そこはアイツなりの意地ってやつだろ・・・ヤマギにあれを準備させろ!」

「あれって・・・売り物を使う気?」

 

オルガの指示に、「あれ」の意味が解ったビスケットが戸惑いの声を上げる。

 

「ここで死んだら商売どころじゃねえ。昭弘、頼めるか?」

 

オルガの問い掛けに昭弘は無言で頷いた。

 

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 危ない危ない、ギャラルホルンのMS隊は三日月に狙いを絞っているみたいだけど、時々こっちにも射って来る。まあ相変わらずの青と黄の目立つカラーリングだし、こっちは紙装甲のMW、一発当たればそれで終わりだけど、そう簡単にやられるものか。

 

「この色はCGSの時に何度も囮に使われて、仲間達を亡くしてそれでも生き延びてきた、壱番組最後の1人としての意地と誇りの色でね。弱いものいじめしか出来ないような奴らに落とされてたまるか!」

 

 それにこのMWの増設部分に取り付けてあるのはグレイズのライフルだけじゃない、鹵穫したグレイズの腰に装備されていたブースターユニットを二基、修理して取り付けてあるのだ。機動性もアップしているんだよ!制御が難しくなって脳の負担増してるけど。

 

 指揮官(コーラル)機のグレイズがバトルアックスを手にバルバトスに迫る。

僕の位置、おまけに狙いの怪しいこの機体じゃバルバトスに当たりそうだから援護出来ない。こんな時に!

と思った瞬間、別方向から指揮官機に着弾。間に合ったか・・・ナイスなタイミングだ昭弘!

 

「三日月ぃ!」

 

 昭弘の乗るグレイズ改が、三日月のバルバトスにメイスを投げ渡す。

グレイズ改に気をとられた隙を突いてバルバトスのメイスからのパイルバンカーがコーラル機のコックピットを撃ち貫く。

 賄賂目当てにクーデリアの命を狙い、この戦いの発端になった男の最期にしては呆気ないものだ。

 

「足の止まったのからやろう。援護頼む」

 

 そう言って三日月が昭弘に滑腔砲を渡すと敵機に向かっていく。

 

「待てよ!俺はまだこれに慣れてねえのに・・・」

 

 昭弘が戸惑うのも聞いてないようだ。突出してきた陸戦カラーのグレイズの攻撃を紙一重で回避して他の機体に向かって行く。 あの緑のグレイズはアインだな。クランクさんの仇討ちのつもりだろうけど、クランクさんが生きているとは知らないからな。

 

「三日月の野郎!こっちは阿頼耶識がねえんだぞ!」

 

 文句を言いながらも援護射撃する昭弘。何だかんだ言っても仕事はきっちりやってくれるんだから、良い子だ。僕も敵機の足を止めようと牽制の射撃をする。

 敵はバルバトスの動きに翻弄され、更にこちらの射撃で動きの鈍った所をバルバトスに叩き落とされて行く・・・あ、5機撃墜。原作の撃墜数超えたよ。そのまま6機目、と思った所でバルバトスに着弾。新手か・・・あ、やっぱりランス装備した紫のシュヴァルベ・グレイズ。ガエリオ・ボードウィンか。

 マクギリスも出てくるし、こりゃ近づいたら死ぬな。三日月はガエリオを相手取りながらもう1機グレイズを落としてるしこっちはもう僕の援護無くても良いだろう。よし、今回のお目当ての回収に行くか。

 

「昭弘、あの紫のは三日月に任せて、君は残りの敵機の足止めお願い。僕はちょっと別行動とるから頃合いを見てこっちに合流してね!」

 

 昭弘にそう言って後退する。

 

「ああ!?この状況で・・・っておい!・・・ちぃっ、どいつもこいつも!!」

 

ゴメン昭弘、でも残りの敵機少ないし、何とか出来るよね。

今回無茶して出た一番の目的を果たすチャンスは今しか無いんだ。

 

 その後合流した昭弘と一緒に、オルクスの艦を振り切って来たイサリビに回収された。戦果は上々、コーラルの指揮官用グレイズともう1機、シャトルに載せておいた1機を合わせて3機のグレイズと武器や装備を幾つか回収出来た。

 三日月も無事というか、原作通りにバルバトスの左腕部装甲とガントレットを無くした代わりに、というわけでも無いだろうがガエリオ機のワイヤークローを機体に巻き付けたままでユニットごと奪って来た。

 格納庫はオルクスの艦を振り切る時に無茶したユージンのMWの方に掛かりきりだが、これは仕方がない事だろう。今回は彼がMVPってやつかな。

 

「疲れた・・・」

「本当にねえ・・・」

 

 昭弘の呟きに同意する。あー、脳に結構負担かかったから甘いものが欲しい。三日月に火星ヤシ分けてもらおうかな・・・。

 

 その後オルガに聞いた話によると、トドは原作通りパンツ一枚でカプセルに入れて宇宙に放り出して来たという。

 あと、拾ってきたグレイズのせいで格納庫が狭くなったとおやっさんに文句言われた。一機残して後はパーツ取ったら売却するから問題無いでしょ。これ、名付けるならGジェネ式戦力増強&資金稼ぎって所か。海賊とかハイエナっぽい手口だけど、ケンカ売ってきたのはあっちだし。

 

 さて、回収したグレイズで一番状態が良いのは最初にシャトルに取り付いたやつと・・・コーラルの指揮官機か。コックピット回りを修理すれば使えるな。次の戦闘に何とか間に合うようにしよう。




 今回登場した魔改造MW、イメージ的にはガンダムSEEDのメビウス(ゼロじゃない方)が近い感じでしょうか。なお、出番は多分今回で終わりです。

10/16、畑関係の記述を修正しました。

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