憑依した先はCGS一軍の隊員でした。   作:ホアキン

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 お待たせしました。久しぶりの戦闘回ですが、トウガ用グレイズは今回は太刀を使いません。クタン頼りの戦いになってます。
おかしい所ありましたら御指摘お願い致します。


ブルワーズ編
ヒューマン・デブリ


 昭弘のグレイズ改にチョッパーを振り上げたマン・ロディはバルバトスにコックピットに太刀を突き込まれ、機能を停止した。しかし残った2機のマン・ロディの内1機がバルバトスに向かって接近しながら発砲、三日月は撃破した敵機を盾に銃撃を防ぐと太刀を抜いて敵機を蹴り飛ばす。銃撃してきた方の機体がこれに激突し、もう1機の方が激昂する仲間を諌めようと接触する。

 その隙に僕達は昭弘のグレイズを僕のクタンにしがみつかせて、敵から距離を取りつつ昭弘達の状態を確認していた。

 

「昭弘、大丈夫?」

「おう」

「三日月さん!」

「え?何でタカキが」

「昭弘さんと哨戒に出てたんです」

「そしたらあの丸っこいのに襲われたわけだね」

「そっちはトウガか?とにかく助かったぜ三日月」

 

 追撃に備え僕はクタン参型を展開して右手にグレイズのライフル、左手にテイワズから貰った散弾砲を装備する。更に防御の為両肩のシールドを前面に展開するとクタンを背部に接続する。

 

「昭弘とタカキは一度イサリビに戻って、殿(しんがり)は僕がする。三日月は伏兵に備えて昭弘達のガードを頼める?」

「俺が殿の方が良くない?」

「いや、僕が敵の指揮官なら伏兵に強い奴を入れる。三日月はそっちに対応してくれ、昭弘はあまり激しい機動が出来ないし」

 

タカキのMWには慣性制御が働かないから、昭弘が激しく動くとタカキがダメージを受けてしまう危険がある。

 

「あれはどうする?」

「あれ?」

「あ、おやっさん・・・」

 

おやっさんの乗るクタン参型は制御ができてないようで、通信を繋ぐとうめき声が聴こえてくる。

 

『ぐうおお~~た、助けろ~~・・・』

「ああ、まあ敵からは離れてるし、回収は後でも良いでしょ」

「鬼かよ・・・」

 

 頑張れおやっさん。とりあえず命の危険は無さそうだし、耐えてください。

 と、さっきの2機が追ってきた。

 

「来たよ!昭弘行って!三日月、昭弘とタカキを頼むよ!」

「ああ、頼む!」

「わかった」

 

バルバトスとグレイズ改がイサリビに向かう。そして僕は向かって来る2機のマン・ロディに向かう。

1機がチョッパーを手に持って下方に移動し、もう1機が手榴弾を手に取る。が、しかし。

 

「その戦法は知ってる」

 

僕はシールド裏の90ミリガトリングとクタンの機関砲を発砲、手から離れた直後の手榴弾に着弾し、煙幕が発生、敵機は自分の手榴弾の煙にまかれる。そしてもう1機は・・・

 

「煙幕で視界を封じて、その隙に回り込んで後ろからチョッパー、のつもりだったんだろ?」

 

クタンのアームのスラスターとシールド裏のブースターを吹かして反転、こちらに突っ込んでくるマン・ロディにライフル、散弾砲、ガトリング、機関砲を向ける。相手は機動修正を図るが、加速して勢いが付いているから反応は出来ても・・・。

 

「もう遅い」

 

 全火力による一斉射撃。装甲は耐えられても構造的に比較的脆い部分は無事ではあるまい、そしてクタンのアームで上方にカチ上げる。そしてライフルと機関砲をさっき手榴弾を投げた方のマン・ロディに発砲。けど距離があるので当たったのは僅か、しかもろくに効いちゃいない。

まあ、こっちは相手を仕留めるつもりも無し、足止め出来れば充分だろう。こっちに阿頼耶識が無くても、手の内が解っていればそれくらいはやれるさ。

 歳星を出てから機体のチェックだけしていたわけじゃない。この戦闘に備えて相手の取る戦法を記憶の中の原作知識を基に脳内でシミュレートしていた。特に今相手している二人、アストンとビトーの連携攻撃はよく覚えている。初見で避けられるのは三日月くらいだろうが、そう来ると知っていれば阿頼耶識が無くても対応出来る。

 

「阿頼耶識の有無が戦力の決定的な差では無い事を、君達にも教えてあげよう!!」

 

 スラスターを吹かして接近し、散弾砲とライフルで牽制、あちらが接近してくればチョッパーの間合いに入られる前にクタンのアームで叩き、としながら時間を稼ぐ。

 あっちには三日月がいるし、直にラフタさんとアジーさんも来るから、相手にグシオンがいても何とかなるだろう。そう考えて目の前の2機の相手に専念する。ついさっき偉そうな独り言を言ったが、阿頼耶識がある分あちらの動きが良いのは確かだし油断は出来ない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時間稼ぎ自体は失敗したわけでは無かった筈だが・・・予想が楽観的に過ぎた、という事だろうか。推進剤の残量が切れそうになった頃にブルワーズが撤退して、イサリビの格納庫に帰艦した僕はその事を理解せずにいられなかった。そこには先に帰艦したグレイズ改と装甲のひしゃげたMW、その中から降ろされたタカキの、内側が血まみれのヘルメットと、ダンテがインナースーツのファスナーを開くなり溢れだす血液。ライドが何度もタカキの名を叫ぶ・・・出来れば避けたかった、しかし起きてしまった惨状に一瞬目の前が真っ白になる。

 

 (バカ!パニクってどうする!!今やるべき事を思い出せ!!こうなる事も予測していただろう!!)

 

そう自分を叱咤して原作知識を基に考えていた対応を思い出す。メディカルキットはクーデリアが持ってくる、応急処置はメリビットがやってくれる筈、その先だ!

 

「手空いてる者は医務室の電源入れに行け!!ナノマシンベッドの用意!!それに消毒液と輸血パックも準備するんだ!!」

「「「え・・・?」」」

「急げ!!応急処置は出来る人間を待つしか無いだろ!!他の出来る事をやるんだ!!」

「は・・・はい!」

「あとタカキを運ぶ用意もだ!ストレッチャーも持って来い!!」

 

 僕が唐突に出した指示に皆は最初戸惑っていたが、理解すると慌ただしく動き始めた。ちょうどそこにメディカルキットを持ってきたクーデリアと、メリビットが入って来た。目の前に浮かぶ血に動きを止めてしまったクーデリアの手からメディカルキットを取り上げたメリビットが応急処置をして、タカキは医務室のナノマシンベッドに入れられた。

 それから暫くして、タカキの容態が何とか安定した頃にはずっとタカキのそばを離れずにいたライドもタカキの入ったベッドの脇で眠ってしまっていた。

 僕もオルガと一緒に付き添っている。タカキの怪我は僕にも責任あるし・・・。

 

「もう大丈夫ですよ、団長さん」

「う、ああ、その、今日は・・・助かりまし・・・」

「船医も乗せず惑星間航行をするなんて判断、団長さん失格じゃない?」

「!・・・」

 

メリビットの厳しい指摘にオルガは言葉に詰まる。言い訳しようと思えば出来るだろうが、オルガは立場と責任感からそれを良しとしないのだろう。空気が重い・・・。

 

「兄貴の所に行って来る。これからの事相談しねえと」

「ああ、うん、行ってらっしゃい」

 

 結局メリビットに対しては反論しないまま、オルガは医務室を出て行った。メリビットの言った事は至極正論だしな・・・けど。

 

「どうすれば良かったっていうんですか?」

「え?」

「まっとうな医者なんてろくに知らない、そもそもこの仕事の為にギャラルホルンを敵に回している僕達に、どうやって医者を連れて来れたっていうんですか?最初に地球までの案内を頼んだ業者だって僕達をギャラルホルンに売ろうとしたんですよ。僕達が知っている医者なんて、阿頼耶識の手術に失敗して働けなくなった子や戦闘や訓練中の事故で死んだ子の後始末しかしない闇医者くらいですよ。阿頼耶識の手術だって医者じゃ無くて1軍のロクデナシどもに力ずくで押さえ付けられて、麻酔も無しで有機デバイス埋め込まれるんですよ。そもそもまっとうな医者が、クリュセにどれだけいるか」

「それは・・・」

「CGSの時は今回のタカキ程の怪我なら、治療なんて受けられずにそのまま宇宙に放り出されてたかもしれない」

「そんな事・・・」

「このナノマシンベッドだって、僕達の為には使わせてくれやしなかったでしょう。そういう待遇が何年も当たり前で、その間に何人も仲間が見殺しにされて来た。オルガのお陰でやっとマシになったのは本当に最近なんです。確かにオルガはまだ至らない所があるんでしょう。でも僕達が今こうしていられるのはオルガが皆を引っ張って来たからなんです。アイツ以外に団長をやれる奴なんていない・・・オルガの至らない所を指摘してくれるのはありがたいですけど、アイツが団長失格なんて事、二度と言わないでください」

 

「随分と団長さんの事を信じてるんですね」

「CGSにいた大人の誰よりも責任感が強くて、優秀な指揮官でしたから。それに努力もしている」

「そう。でも大人ってね、努力しているからってミスしても許されるようなものじゃ無いのよ?結果を出さないと認めてもらえないの」

「オルガが今まで出してきた結果があるから僕達はオルガを信じているんですよ。至らない所があるのは承知の上でね。ここに来て何日かしか経ってない貴女にはまだ解らなくても仕方ないですけど・・・あー、いえ、別に言い争いがしたいわけじゃ無いんですよ?船医がいないのは確かに問題で、でも船医を乗せてくるなんて事考えられないような環境だったわけで、そういう事を解って欲しいというか」

「・・・ふう、わかりました。私も少し、言葉が過ぎたかもしれませんね」

「まあオルガも意地っ張りですし、メリビットさんの言う事を素直には聞けないかもしれませんが・・・宜しくお願いします」

 

 その後様子を見に来た三日月と一緒に医務室を出た。

 三日月から、戦闘中僕と別れてから何があったか聞くと、やはりあの後敵の攻撃を受けたという。三日月が他より一回り大きい機体(グシオン)の相手をしている内に他の敵の攻撃でタカキが捕まり、昭弘がそれを奪い返した所でラフタとアジーが駆けつけたのを見てか、敵は撤退したのだという。

 原作での三日月は殿を務めつつ、グシオン率いる部隊の襲撃にも対応していた。結局はグシオンに苦戦して残りの2機がタカキを負傷させてしまったわけだが、今回も結局は同じ事になってしまった。僕の行動は、過程を僅かに変えただけで結果を変える事には繋がらなかったわけか。

 考えてみればそういう事は今までもあったのだ。主にテイワズ関係の事は、僕が多少なりとも関与していながら大筋は原作通りに進んでいた。テイワズ関係の出来事は変わらない事を望んでいたしそれで都合の悪い事は無かったので気にしていなかったが、今回は同じようにタカキの負傷という部分がそこに至る過程は変化していながら結果は原作通りになってしまったわけだ。

 なら僕が目指す原作改変は無駄なのか?そんな筈は無い。間違いなく変わった事もある。ダンジは火星で元気にやってるというし、原作ではとっくに火星で死んでいるクランクさんは今も生きて捕虜扱いでイサリビにいる。鉄華団の戦力だって原作より少しは増している。確かに原作と違う事も起きているのだ。ならば僕の行動次第で未来を変える事は不可能では無い筈だ・・・。

 頭に浮かんでしまった不安を振り払いながら、タカキの様子を見ようと再び医務室に向かうと、途中でオルガと三日月に会った。

「オルガ、相手が何者か判った?」

「ああ、ブルワーズとかいう、海賊だってよ。クーデリアを渡せと言って来やがった」

「海賊・・・そういう事か」

「何がそういう事なんだ?」

「昭弘達を襲ってきたMS、反応が良くてさ、多分阿頼耶識使ってると思う」

「阿頼耶識だと?」

「それと連中のMS、スラスター推力と装甲の硬さ、いわば強襲に偏った性能だったけど海賊ならまあ納得出来る運用だな、と」

「成る程な。襲う相手の攻撃を装甲で防ぎながら突っ込んで仕留める、船相手ならブリッジを速攻で制圧しちまうわけか。確かに海賊らしいやり口だ」

「いやに硬いと思ったら、そういう使い方の為か」

「もしかしたら僕達がCGSでそうだったように、使い捨ての駒として無理矢理ヒゲを付けられてるのかもしれない」

「・・・そうか・・・」

 

 医務室に入ると昭弘がいた。

 

「バチが当たったのかもしれねえな・・・」

「バチがどうしたって?」

「お前ら・・・」

「昭弘、タカキの事を自分のせいだって思ってるなら、そりゃ違うぞ。あれは俺が指示を出したんだ」

「僕にだって責任がある。最初の2機に気を取られて後から来た敵に対応出来なかったのは僕の落ち度だ」

「あっ・・・あ、いや・・・」

「何からしくないな、昭弘」

「・・・・・・そうだな。らしくねえんだよ俺は。ヒューマン・デブリらしくねえ」

「何だそりゃ?」

 

 自嘲的、あるいは自虐的な昭弘の言葉にオルガが反応する。そして昭弘は襲ってきた敵に生き別れた弟がいた事を明かした。

 そして鉄華団を立ち上げてから今まで楽しかったという心情も吐露する。

 

「楽しかったから、俺がゴミだって事を忘れてた。ヒューマン・デブリが楽しくって良いわけがねえ。だからバチが当たったんだ」

「そっか、俺達のせいで昭弘にバチが当たっちゃったんだ」

「ん?・・・ああいや、そういうわけじゃ・・・」

「鉄華団が楽しかったのが原因て事は、団長の俺に責任があるな」

 

 昭弘割と重い話してたのに、さらりとこういう言葉が出るあたり、三日月もオルガも気が回るというか、勘が良いというか。

 

「いや、違う。俺が言いてえのは・・・」

「責任は全部俺が取ってやるよ。その昌弘って弟の事もな」

「何を言って・・・」

「お前の弟は、別に望んで俺達の敵に回った訳じゃねえんだろ?」

「それは、判らねえ」

「どのみち、お前の兄弟だってんなら、俺達鉄華団の兄弟も同然だ。なあ、そうだろお前ら?」

 

 オルガの言葉に昭弘が振り向くと、ユージンにビスケット、シノやライド、ヤマギにおやっさん、ダンテとチャドも・・・主要メンバーが勢揃いしている。

 

「あったりめえだろ!?」

「何の話かと思えばよお」

「水くせえにも程があんだろ!」

「だね」

「んじゃ、責任の取り方を皆で考えようか」

 

 オルガと三日月と僕には来たの見えてたけど、今まで昭弘に気付かれず会話にも割り込まず、揃いも揃って空気読め過ぎじゃない?

 

「お前ら・・・」

「ったく何をごちゃごちゃ言ってるかと思えば!」

 

 医務室内がにわかに賑やかになる。

 

「あ、あの~、煩くて寝てらんないんですけど・・・」

 

 あ、タカキの意識が戻った。真っ先に反応したのは昭弘と、ライドや年少の子達だ。

 

「タ・・・」

「タカキ!」

「「タカキさん!」」

「え?あれ?」

 

 自分の状態を把握出来て無いようで戸惑いの声を上げるタカキ。

 

「お~、気い付いたか!」

「良かった・・・」

「心配かけやがって!」

 

 皆が次々に安堵と歓びの声を上げる。さすがに騒ぎすぎと感じたのかメリビットさんが注意しようとしたが、野暮と思ったのか苦笑しながら言葉を打ち切った。

 その後僕はクタン参型に積んであった荷物から剣術の訓練用の道具を昭弘に手伝ってもらってトレーニングルームに運んでいる。

 

「ねえ昭弘」

「何だ?」

「さっき自分の事ゴミだって言ってたよね。多分さ、君の弟もそんな風に自分の事を思っているんじゃないかな」

「あ・・・?」

「ヒューマン・デブリって皆買われた先で虐げられて、そういう風に思うようになってしまうんだと思う。でもね、昭弘やダンテ、チャドが売られた時の値段が幾らだろうが、オルガや僕や三日月にとっては大事な、家族なんだからさ、自分の事ゴミだなんて言って欲しく無いよ」

「・・・けどよ・・・」

「皆の為にも、もう自分の事ゴミとか屑とか言わないでよ。皆で鉄華団をそんな事言わなくて良い場所にしていこうよ」

「皆の為に、か・・・」

「昭弘の弟もその皆の内に入れるように、僕も手伝うからさ」

「・・・ああ」

 そんな風に話しながら、トレーニングルームの中に道具の入ったコンテナを下ろす。

 

「よし、ありがとう昭弘。おかげで早く済んだ」

「おう、じゃあな」

 

 そう言って昭弘が出ていくのを見送ってから、コンテナの中から木刀を取り出す。

 

「さて、それじゃあやりますか」

 

 まずは素振りを二千回、慣れたら少しずつ回数増やしていこう。もっと強くならないといけないからな。これから先は厳しい戦いばかりだし。




 一応今回の戦闘について補足しますと、阿頼耶識使ってるマン・ロディ2機相手に渡り合えてるのは原作知識とクタン参型の推力と火力でのごり押しで何とかした、という感じです。楽な戦いではありませんでしたが、トウガが軽口叩いていたせいで伝わりにくいかも。
 あれです、NYで活動している某蜘蛛男がやたらおしゃべりなのは軽口叩いてないと精神的にキツいから。というのと似たようなものと思っていただければ。

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