ブルワーズと戦い、昭弘の弟、昌弘を奪還する。口で言うのは簡単だが、数の上では敵の方が上、質の面でもマン・ロディは阿頼耶識を使っている分手強いし、グシオンは阿頼耶識無しでも充分脅威だ。故にこちらは相応の策と下準備が必要なわけで・・・。
「トウガ兄ちゃん、LCSの受信機取り付け出来たよ!」
「どれ・・・うん、じゃあこれはヤマギに渡して、同じ様に他のも頼むよ」
「ハーイ!」
「トウガさん、弾頭の交換、とりあえず30発分出来ました!」
「うん、じゃああと20頼むよ。全部出来たら抽出してテストするから」
「はい!」
「ミサイルの弾頭、中身詰め替え全部出来ました!」
「それじゃあ、ヤマギの手伝いに回って」
「了解」
僕はヤマギと年少組の子達数名の手を借りて今回の戦闘に使う武装の準備をしている。
「トウガさーん!MSの方、追加ケーブルの確認とFCSの調整お願いしまーす」
「えーと、10分待って!もうちょっとで切り上げるから!」
「はーい」
僕を呼びに来た子に返事して、ワイヤーを網状に編み込む作業の手を早める。
そしてその作業を切り上げると格納庫のグレイズへ向かう。
グレイズの両肩には前回と同じくシールドブースターが取り付けてあるが、シールドの接続基部からバイパスする形でケーブルが繋がっている。肩のラックには通常シールドとバズーカのどちらかしか装備出来ないが、今回の作戦の為にシールドブースターを付けたままバズーカを使えるように改造を頼んでいたのである。
ケーブルをバズーカのコネクタに接続して機体のFCS(火器管制システム)もバイパスした状態に合わせて調整する。
それにクタン参型とドッキング時の火器管制の方もだ。今回僕が使うクタンはウェポンプラットホームとして火器を多く搭載するので、その辺りは見直しが必要になる。
今回の対ブルワーズ戦で僕は基本的には自由に動かせてもらえるように頼んである。まあ実際はオルガやアミダさんから必要に応じて指示が来るだろうが、僕の役目はブルワーズのロディフレーム機を可能な限り殺さずに無力化する事。これは僕から進言した事である。
今回の作戦目的はブルワーズの制圧と昌弘の奪還、しかしブルワーズで不本意に使役されている子供は昌弘だけでは無い筈だと主張したのだ。結果、僕が無力化した敵機には三日月やタービンズの姐さん達は手出ししないかわりに、無力化されていない敵機を三日月達が撃破しても文句は言わないという約束事を決めている。戦闘が複雑化するため、本来ならこんなややこしい取り決めは良くないのだが、オルガと一緒に名瀬さんに頼み込んで呑んでもらった。
大まかな作戦は原作通り、ブルワーズが仕掛けて来ると予想されるデブリ帯へクタン参型に格納状態のバルバトスと百里が先行。イサリビとハンマーヘッドが三日月とラフタさんの後ろから来ると考えるであろうブルワーズに側面から奇襲を掛けるというもの。この作戦自体は原作でも成功しているし、異論は無いが、ブルワーズ側のヒューマンデブリの子供達は出来れば死なせずにこちらで保護したい。無論こちらの犠牲を出さない事が優先ではあるが。
グレイズの調整を終えてクタン参型の方に向かう途中、グレイズ改のコックピットで調整作業中の昭弘に声を掛ける。
「そっちの調子はどう?昭弘」
「ああ、問題無い、前に壊した所の修理も済んでるしな」
「うん、それは良かった。次の作戦、君が弟に接触出来るように僕達が他の敵MSは抑えるから。で、1つ忠告しておく。弟と話すときにね、新しい家族が出来たとか、そういう感じの事は言わない方が良い、特に家族って言葉は口にしないように」
「・・・何でだよ?」
「僕達はCGSを乗っ取って鉄華団を立ち上げて、タービンズに倣って組織内の仲間を家族だって言えるようになった。けど、君の弟は?海賊に使い捨ての駒扱いされている所に生き別れた兄貴が突然現れて、新しい家族が出来たって聞いたら・・・裏切られたと感じるかもしれない」
「な・・・何でそうなるんだよ!?俺は・・・」
僕の言葉に動揺してか、コックピットのシートから跳ねるように立ち上がる昭弘。
「ここで問題なのは今の昭弘の気持ちよりも、弟、昌弘がどう思うか。そうだな・・・少し前、CGSの時の事を思い出してみて。まともな人間扱いされず、理不尽に殴られたりして、自分はゴミ屑同然だと思っていただろう?今の昌弘もそうだとしたら?何処に行こうがどうにもならない、何処かで惨めに野垂れ死にするのがオチだって、昭弘の迎えに行くって言葉も諦めてしまっていたら?」
「それは・・・」
「そこに突然昭弘が迎えに来たって言っても、何を今更、と思うかもしれない。昭弘に新しい家族が出来たと知ったら、自分が辛い目にあっている時に、昭弘は良い目を見ていたのかって・・・」
「違う!俺は・・・俺は!」
激昂した昭弘にジャケットの襟首を掴まれる。追い込んでしまったかな。けど言うだけ言っておかないと。
「落ち着いて昭弘。わかってる。君だって辛い目に遭ってきた。それは僕もわかってる。けど、今まで何年も離れ離れだった昌弘が解ってくれるかどうかは別の話だ。腹が立つのはもっともだけど、それでもそういう可能性があると、理解して欲しい。言葉1つで誤解を招く事もある。言葉を尽くしても解ってもらえない事もある。たとえ兄弟でもそういう事があるから難しいんだよ」
「じゃあ、どう話せば良いってんだよ・・・?」
「ん~・・・ごめん、僕も正解は解らない。ただ家族って言葉は危ないかもってことしか言えないんだよ。その事は頭に入れておいて」
そう言うと僕は敵艦に突入するMWの準備をしているシノ達陸戦隊の方に向かう。こっちにも忠告しておく事がある。
「シノ!ダンテ!」
「おーうトウガ!どしたー?」
「敵艦に突入するんだろう?ちょっと気になる事があってね。多分艦内にはヒューマンデブリの子供達がいるはずだ。その子達には・・・」
「手を出すなってんだろ?解ってるよ、心配すんなって」
「無闇にガキを殺すような事しねえって、なあ?」
僕の言葉を途中で遮って皆まで言うなと言う風に他のメンバーを見るシノとダンテ。周りにいる陸戦隊のメンバーも無言で頷く。
「あ、うん、それは勿論だけど、それだけじゃ無いんだ。その子達に対しても武器を持っていないか確かめて、持っていたら武装解除させる事。ただ敵じゃ無い、大丈夫って言葉だけじゃ恐怖心や警戒心は拭えないと思う」
「考え過ぎだろ?」
「そうかもしれない、けど用心するに越した事は無いだろ?向こうからすればこっちは船を攻撃している側で、しかも武装しているんだから。中には昭弘みたいに親を殺されてヒューマンデブリにされた子もいるだろうし。そう言う過去の記憶とダブってパニックを起こす子だっているかもしれない。もしその子が銃を持っていたら乱射する可能性もある。避けられる危険は避ける努力をしないと。自分の為にも、仲間の為にも」
「お、おう・・・」
「頭には入れとくわ」
「頼むよ、全員無事に戻って来てくれるって信じてるから。それじゃ」
「アンタも気いつけろよー」
シノの言葉に手を振って応え、グレイズのコックピットに戻るとハッチを閉める。調整が残ってるとかではなく、1人になりたいからだ。
シノ達に言った最後の言葉は、多分嘘だ。本当は全員無事に、なんて無理だと思って、いや、知っているのだ。
戦いは非情だ。敵にも味方にも犠牲を、痛みを強いる。犠牲が出るのは敵側だけで、味方は全員生還なんて都合の良い事がある訳無い。実際原作ではブルワーズ母艦内の戦闘で、ヒューマンデブリの子供達に油断して撃たれた以外にも戦死者が出ている。
僕の忠告が効を奏したとしても死者ゼロという事はあり得ないと解っていても、ああ言わずにはいられなかった。全員の生還を信じてなんかいない、ただの願望を、信じるという綺麗な言葉で飾っただけだ。
「嘘、隠し事、腹芸・・・鉄華団に、僕程不誠実な人間はいないだろうな・・・」
少なくとも、鉄華団のメンバーには嘘が無い。見栄を張る事や、秘めた想いはあっても、仲間を欺いたりする者は1人もいないだろう。僕だけが、仲間に嘘をついている。隠し事をしながら、自分の思惑の為に皆を誘導するような事をしている。
「でもなあ・・・傍観者を気取って何もしないって事も出来ないし」
もう僕は物語の視聴者じゃ無い。P.D世界に生きる1人の人間であり、鉄華団の団員の1人だ。そして三日月もオルガもビスケットもユージンもシノも昭弘も、一緒に戦い、生きてきた仲間、家族だ。家族を守るのに手段を選んではいられない。
「もう決めたんだ。皆が血を、涙を流すのを少しでも減らす。その為に出来る限りの事をする。独り善がりでも、卑怯でも、汚くても・・・いつか報いは受けるだろうけど、やる事をやり尽くすまでは絶対に折れない」
気を取り直して、作業に戻る。やるべき事は多い、多分ギリギリまで掛かるだろう。
結果、先に出撃する三日月を見送る暇も無く、準備も頭で考えていたように万全というわけにもいかなかった。
『これよりデブリの密集宙域に入ります。艦が大きく揺れる危険があるので、各員充分注意して下さい』
「おおっとまずい、急がないと」
ノーマルスーツに着替えて格納庫に戻る途中で艦内アナウンスに少し焦る。本当はもうコックピットで待機していなければいけなかったのに。急いで格納庫に入ると機体の傍におやっさんが待っていた。
「おやっさん!」
「おう!急げトウガ!!お前が出られねえと後がつっかえちまうからよお!!」
「了解!!」
グレイズのコックピットに飛び込むとハッチを閉じて機体を起動する。
「機体各部異常なし、武装確認よし・・・間に合った、何時でも出られる」
その数分後、ハンマーヘッド、続いてイサリビが敵艦の側面を突いての奇襲に成功、シノ達陸戦隊がMWで突入した。直後、モニタにオルガの顔が映る。
「よし、トウガ!先に出て昭弘の露払い、頼むぜ!」
「了解!トウガ・サイトー、グレイズ改、行きます‼」
昭弘に先駆けて発進すると艦外に固定されていたクタン参型とドッキングする。
「ドッキング完了。火器管制システムのマッチング、異常なし・・・っと、もう来た!」
アームに取り付けた本来はMW用の(対MSとしては)小型のミサイルランチャーを起動、両手にバズーカを保持すると接近する2機のマン・ロディに照準ををロックして発射する。
発射された弾頭はマン・ロディに着弾する手前で弾けてワイヤーネットを展開、それぞれマン・ロディの脚部と腕部に絡み付く。
「ち、ど真ん中とはいかなかったか。でも動きは鈍った!」
続けてアームの小型ミサイルランチャーを発射、ミサイルはネット弾の基部の発信器を追尾して着弾、内部に充填していた硬化ガスが着弾点を中心にマン・ロディの機体表面に固着して動きを封じる。
ちょうど後方から昭弘のグレイズ改が来た。そしてアミダさんとアジーさんの百錬も前に出て来る。
「昭弘、露払いは僕とアミダさん達に任せて!」
「急げ!昭弘!」
「ああ!!」
昭弘は昌弘の機体の反応を追って行く。僕はさっき動きを封じたマン・ロディのまだ動ける手足にだめ押しで散弾砲の小型ネット弾を撃って完全に無力化出来たのを確認すると2機を背中合わせの形でワイヤーで縛った上で露出している頭部に手を当てて接触通信を図る。
「くそっ!何なんだよこれ!?動け、動けよおっ!!」
聴こえてくる声はやはり子供の物だ。僕は出来るだけ穏やかに声を掛ける。
「大丈夫だ、僕達は君達を殺したいわけじゃ無いんだ。しばらく大人しくしていてくれ。後で迎えに来るから」
「っ!・・・何を・・・」
相手の戸惑いを含んだ声が聞き取れるが長々と話してはいられない。イサリビにグシオンと5機のマン・ロディが向かっている。
「あいつら、艦に!」
「俺が行く」
「僕も行きます、すぐ戻りますんで!」
「アタシはハンマーヘッドの直掩に付く。ラフタ、アジー、昭弘を頼んだよ!」
「ラジャー」
「まっかせて!」
本当は僕は昭弘のフォローに専念するべきだが、三日月に任せると容赦無くマン・ロディのパイロット達を殺してしまう。三日月は昌弘は殺さないようにするが他のパイロットは気にしてないからな・・・。
グシオンがイサリビに接近してバスターアンカーを撃ち込む。装甲の厚い正面だから深刻なダメージは無い筈だが。グシオンを追う三日月のバルバトスに接近するマン・ロディにクタンに装着している2門の滑腔砲を撃ち込み、体勢を崩した所にネット弾と硬化ガスミサイルを発射、マン・ロディはイサリビの装甲に張り付け状態になった。
その後もう1機のマン・ロディを無力化すると、昭弘の方に急ぐ。
昭弘の所へ着くと、昭弘のグレイズ改がマン・ロディに組み付いた状態で動きを止めていた。やはり昌弘の説得に難航しているのか・・・。
そこにグシオンがハンマーを手に接近する。狙いはやはり昭弘か!装備している火器を一斉に発射する。だが止まらない。ネットを受けても意に介さない。
「くそっ・・・こうなったら、一か八か・・・!!」
クタンのブースターを全開にして昭弘達とグシオンの間に割り込む。グシオンを舐めていた。あの程度の小細工で止まる相手じゃ無かった。見た目はアレでもガンダムなのだ。
迫るグシオンにクタンのアームを突き出す。
直後、激しい衝撃が僕とグレイズを襲った。
一応補足しますと、トウガがイサリビに張り付け状態にしたマン・ロディは原作で三日月のバルバトスにメイスで潰されたおかっぱ頭の少年兵の機体です。それとビトーは原作通りに死んでます。南無。
硬化ガスとはなんぞや?と思われる方いると思いますので簡単に説明しますと、密封したタンクから放出されるとガス状から硬化する・・・という感じの物です。元ネタはクロスボーンガンダムに登場するトトゥガという敵MSの武装というか装備でして、本作では似たような代物があったという事にしています。
もうすぐオルフェンズ二期が始まりますね。本当は二期が始まる前に一期最終話まで行きたかったですが・・・今回がかなり遅くなってしまいました。しかしアルスラーンと七つの大罪は放送期間短すぎなんじゃ・・・。
あと外伝の月鋼に、鉄華団が鹵獲して売却したグレイズの改造機が登場していてちょっと驚きました。