あの時はテンション上がってて「明日には更新いけるんじゃね?」などと思ってしまっていましたがそんな簡単じゃありませんでした。
待っていてくれた皆様にはお詫びと感謝を。
クーデリアとフミタンがホテルからいなくなった。今オルガやビスケット達はホテルの従業員に尋ねる等状況確認に動いている。
「チェックアウトはしていないらしいけど、別々に出て行くのを見たってホテルの人が・・・」
「勘弁しろよ・・・早いとこイサリビに戻んなきゃいけねえってのに」
「俺やっぱり捜してくる」
「ミカ!」
「私付いて行きます!」
「ああ、頼む!」
「おい良いのかよオルガ!?」
三日月が飛び出す後を追ってアトラも駆け出す。
「本当に良いのかよオルガ?勝手に行かせてよお?」
「どっちにしろ捜さなきゃいけねえんだ」
「だね。こっちも手分けして・・・」
「ん?」
その時、ドルト2の組合のデモの声が聞こえて来た。
「我々の子供から未来を奪うな~!!」
「我々の子供から未来を奪うな~!!」
僕達はホテルを出ると道を行くデモ隊の姿を見る。
荷台に数名乗せたトラックを先頭に明るめの緑色のジャケットを着た集団が歩きながら声を上げている。アサルトライフルを持つ者、プラカードを掲げている者、更に戦闘用のMWも随伴している。
「あれって・・・」
「始めちまったか」
「組合の連中の言っていたやつか」
「ああ、急がねえと」
「ヤマギは残って部屋に転がしてあるサヴァランを見張ってくれるかな?逃げないように、あと万が一にも自殺とかもさせないように。」
「えっ?」
「結構追い詰められてるみたいって言うか、僕も追い詰めちゃったからさ、頼むよ。訳あって対立しているとはいっても、ビスケットの兄さんだからね」
「はあ・・・わかりました」
「オルガ、あの人達は最終的にはドルト本社に向かうんだろう?多分そこが一番危険な場所になるから、クーデリアがそこに行ってしまう前に見つけないと」
「ああ、わかってる。行くぞお前ら、手分けして捜すんだ」
「うん」
「おう!」
「僕達も行きましょうクランクさん。先ずは宇宙港行きのエレベーター発着場に行ってみましょう」
「あ、ああ」
走り出した僕の後を追ってクランクさんも走ってくる。
しばらく独房暮らしだったのに体力を維持しているのは流石というべきか。
とにかく先ずはフミタンを確保しないと。そう思いながらエレベーター発着場へ向かう。
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ホテルに現れた仮面の男によって、ノブリスとの繋がりをクーデリアに暴露され彼女のもとを去ったフミタン。追ってきたクーデリアを撒いて宇宙港直通のエレベーターに乗り込んだが、宇宙港はデモの影響でギャラルホルンの要請を受け一時封鎖、エレベーターは地表階へ逆戻りする事がアナウンスされていた。
ドルト3の宇宙港閉鎖はタービンズも把握していた。更にコロニー周辺にギャラルホルンが、それもドルト駐留の部隊だけで無くアリアンロッド本隊の艦隊まで集まって来ている状況にきな臭いものを感じていた名瀬はMSの出撃準備をアミダを介してラフタとアジーに指示しており、グシオンの改修が終わった昭弘にも準備するよう声が掛かっていた。
そして完成したグシオンの姿を見ながらタービンズのメカニック達は思う所を話し合っていた。
「それにしてもあのずんぐりMSが本当にこんなになるなんてね」
「おかげで早くロールアウト出来たけどさあ、最初からこういう形が現状での最適解になるって、最初から知っていたみたいな改修案が作業始める前からあったのはメカニックとしては・・・ねえ?」
「いっそ楽出来てラッキーって思えたらって感じだけど、あの見た目からこの形がイメージ出来てたって何かおかしいよねえ・・・バルバトスのパーツの流用といい、連携も考えての仕様といい」
「まあ、100%そのまま仕上げた訳じゃ無いって事で、善しとしましょ」
イサリビでもまたパイロット不在のまま出撃準備に取り掛かっていた。格納庫にはバルバトスと、阿頼揶識システムの移植だけで無く、百錬のパーツを使った改修とブルワーズから接収したナノラミネート塗料を使ってのリペイントを終えた2機のグレイズ改があった。
地表階に戻ったエレベーターを降りた所で、フミタンはノブリスの部下の男二人組に捕まっていた。
「何故一人でいる?ターゲットはどうした?」
「ぐっ・・・」
二人組の内の白人系の男に襟首を掴まれて通路の壁に身体を押し付けられた状態のフミタン。もう一人の黒人系の男は人が来ないか通路を見張っている。
「貴様が何を考えてるか知らんが、ボスがそれほど気の長い性格じゃ無い事は知っている筈だ」
「・・・」
「こっちの準備は整っている。お前はお前の・・・「おい、人が来るぞ」ちっ、いいか、仕事を果たせ。逃げられるなんて思・・・「ぐあっ!!」何!?」
フミタンを脅し付けていた男が相棒の声に後ろを振り向くと見張りをしていた相棒が倒れ込んでいた。
そしてその場にいるコートを着込んだ若い男、相棒をやったのはコイツかと男が理解したのと、右腕に鈍い痛みが走ったのはほぼ同時だった。
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一人目は不意打ちで上手い具合に倒せた。もう一人の方はフミタンの襟首掴んでる腕に特殊警棒を叩き付けて手を離させたは良いが・・・・。
「貴様あっ!」
「っ!」
コイツ見かけ倒しじゃないな。腕にしっかり当てた、骨にヒビくらい入った筈なのに痛みで怯んだのは一瞬、すぐに反撃して来た。CGS一軍の奴らともさっきサヴァランが呼んだ奴らとも違う。けど!
「ふっ!」
「がっ!」
相手は片手が使えず、リーチもこっちが勝っている。腰を落として脛を警棒で打つと、この痛みは耐え難いらしく動きが鈍った所に返す刀で顎を打ち上げる。
「くぁっ・・・」
脳震盪を起こしてよろけた所にだめ押しで頭に警棒を横殴りに叩き付け、やっと倒れた。
「ふーーっ・・・フミタン、見付かって良かった。皆心配していますよ」
特殊警棒をしまってフミタンに声を掛ける。そこに少し遅れていたクランクさんが追い付いた。っと、そうだ。
「ここにいたか。クーデリアはどうした?」
「クーデリアはいません。クランクさん、フミタンをお願いします。ちょっとやっておかないといけない事があるので」
「ん?・・・わかった」
「私は・・・」
「話は後です。コイツらがクーデリアに手出し出来ないようにしておきたいので」
倒れている男二人の手足を結束バンドで拘束し、目と口をダクトテープで塞ぐ。そして・・・。
「まずは右から・・・ふんっ!」
「ーーーーーー!!」
右手の人差し指と中指の骨を折る。べきり、という音と同時に男が声を上げるが、口は塞がっている。
「次は・・・ま、そりゃそうするよね」
左手は強く握り締めている。右手の指を折られた痛み故か左手の指を守ろうとしてか判らないが、それならそれで。
「ふんっ!」
「ーーーーー!!!!」
左腕の骨を折る。
「クーデリアを殺される訳にはいかない。物理的に手出し出来なくさせてもらう」
もう一人の方も両腕を折っておく。今さらだけどこういう事を割と落ち着いて出来てしまっているあたり、僕も大分まっとうな感覚というものから外れて来ている。
「さて、行きましょうフミタン。早くこのコロニーを離れないといけないので」
「私は・・・もう貴方達と、いえお嬢様の傍にはいられません」
「貴女がノブリスと繋がっている事をクーデリアさんに知られたから、ですか?」
「!何故・・・?」
「その辺の話は移動しながら話しましょう。貴女がいないと、クーデリアさんの事だけじゃなくて色々困るんです」
ここでフミタンにいなくなられたら、クーデリアを見付けてもコロニーを離れずフミタンを捜そうとするだろう。僕自身のフミタンに対する気持ちの整理が付かなくなる、という個人的理由もあるし。
僕が先頭、その後ろにフミタン、更にその後ろにクランクさん、という形で大通りへ向かって歩く。
「最初から違和感は感じていました。CGSがギャラルホルンに攻撃を受けた時貴女は様子を見てくると言ってクーデリアさんの傍を離れ、戦闘が終わった後に戻ったそうですね。別におかしいと言う程でも無いですけど、何か引っ掛かる物を感じてはいました」
フミタンとノブリスの繋がりを知っていた理由(でっち上げ)を話すがフミタンから返事は無い。
「その後、イサリビに乗り込んでからも違和感は感じていましたけど、確証はありませんでした。テイワズの依頼でドルト2に運んだ荷物の中身と送り主の名前でそれがノブリスの差し金だと気付いて、そこから貴女がノブリスにクーデリアさんの動向を伝えていたと考えれば、まあ納得出来ます」
後ろを向いてフミタンに顔を向ける。
「で、僕達が貴方達がいる筈のホテルに行くと二人ともいなくなっていた。ホテルの人に聞いたら別々に、フミタンが先に、それを追うようにクーデリアさんが出て行ったという。これは何かあったな、と」
「では・・・」
「ええと、ごめんなさい。ただのハッタリ、鎌かけです。でも的中だったみたいですね」
「っ!」
「っとお!逃げないでください!」
駆け出そうとするフミタンの腕を掴む。
「離してください!私は・・・」
「貴女がそれで良くても・・・クーデリアは良くない筈でしょう!」
「それは・・・それでも・・・」
「僕だって困るんですよ!貴女にいなくなられたら!」
「!?何を・・・?」
あれ?
「ノブリスにはこれ以上手出しはさせません!鉄華団の仕事としてクーデリアを地球に着くまで護るのは最後までやり通す!で、仕事とか関係無しに貴女も護りますから傍にいてください!!離れられたら護れないでしょう!!」
ちょっ、僕は何を・・・何を言っている??いやフミタンを護る、それは良い・・・良いのか?何かエライ事を言ってしまったような気がする・・・。
「一体何を言っているのです?貴方は・・・」
「ああ・・・とにかく行きましょう!話はイサリビに戻って落ち着いてからです。それまでは・・・離しませんから」
もう何が何やら。頭が上手く働いてないみたいだ。とにかくクーデリアを見つけて・・・確か大通りのドルト本社ビルの前だったか・・・急がないと。
速足でドルト本社に向かう。
本社の社屋近くに着くと、そこではデモ隊とギャラルホルンがにらみ合いの様相を呈していた。いや実際の所ギャラルホルンはこの後の暴徒鎮圧という名の虐殺を実行する為に待機しているに過ぎない。武装しているといってもデモ隊の労働者達は戦闘は素人、脅威ではないだろう。
「おい、あれは・・・」
クランクさんが指し示す方を見ると、大通りの向かい側に、こちらに手を振っているクーデリアの姿。おそらくフミタンを見つけたのだろう。こちらに来ようとしてデモ隊の人に止められている。・・・てヤバッ!!
「クランクさん、フミタンをお願いします!!」
「あ、おい!?」
くそっ!解っていた筈なのに!ノブリスの手下を無力化して気が弛んでたのか!?ノブリスの手下がクーデリアを狙撃したのはギャラルホルンの機銃掃射が運良くクーデリアを外れていたからで、狙撃を阻止すればそれで良い訳じゃ無かったのに!!
クーデリアの事に気付いたらしく、デモ隊の人達の一部はクーデリアの周りに笑顔で集まって来ている。一方フミタンの所に行きたいクーデリアは戸惑っている。そこに駆け寄ろうとするが、僕にもデモ隊の1人が止めに来た。
駆け寄ろうとするが、僕にもデモ隊の1人が止めに来た。
「ちょっとアンタ、ここは危ないから下がって」
「そこにウチの護衛対象がいるんです。危ないってなら避難させないといけないでしょう!」
「護衛対象って・・?」
「あそこにいるでしょうが!僕は鉄華団の団員です!」
「鉄華団?アンタが?」
「ああもう、時間が無いんです!」
「あっちょっと!」
僕の前に立つ男を押し退け無理矢理中に入りクーデリアの近くまで行く。クーデリアに壮年の男が話し掛けているのが聞こえる。
「鉄華団の皆さんは大丈夫ですか?お仲間が何かに巻き込まれたとか・・・」
「?彼らに何が・・・」
「クーデリアさん!」
「トウガさん!フミタンが・・・」
「ええ、フミタンは保護しました。後はクーデリアさんだけです、皆捜してますよ」
「ちょっと何なんですかアナタ!?」
「クーデリアさん、何か一言お願いしますよ!」
「ええ、お願いします、皆の力になるような・・・」
クーデリアに声を掛けるが組合員達が割り込んできて話がすすまない。ああもう、この人達は・・・!
「ナボナさんってのは誰です!?今すぐここから」
離れてください、と言おうとした時、ドルト本社の正面出入口で爆発が起こった。ああ、始まってしまった!!
「攻撃は待てと言った筈です!」
「いえ、こっちでは・・・」
「待て、俺達じゃない!」
「俺達は爆弾なんて持って無い!」
組合員達は爆発は自分たちの攻撃では無いと訴えているが、武装している状態では端から見れば彼らの仕業と思われてしまうのも無理は無い。
ドルト本社前に展開しているギャラルホルンのMWが発砲、労働者達のMWが次々に破壊されていく。
「くっそーっ!!」
「撃って来た!撃って来たぞ!」
「なっ、何なんですか!?」
「下がります!こっちへ!」
「ちょっ・・・」
ギャラルホルンの攻撃に銃を持った組合員は反撃を始めた。
状況が理解できず戸惑うクーデリアを女性の組合員が後ろに下がらせようとする。周りは混乱していて近づけない。くそ、このままじゃ・・・。
「駄目です!撃つのを止めてください!これでは相手の思うつぼです!」
ナボナが声を上げるがもう状況は収まらない。そこにギャラルホルンのMWから煙幕弾が発射された。
「うっ、ガスか!?」
「いやこれは・・・」
「ただの煙?うわっ!」
「全員伏せろーっ!!」
近くにいたナボナを押し倒し、伏せるように呼び掛ける。数秒後、ギャラルホルンの機銃掃射が始まった。
「うわぁーーっ!」
「ぐあっ!」
「痛い!」
「死にたくないよーっ!」
銃弾の音に混じって組合員達の悲鳴が聞こえてくる。僕は自分の下にいるナボナを地面に押さえ付けてじっとしているしか出来なかった。
銃撃が止んだ。煙幕も徐々に晴れて来ている。
「うっ・・・一体何が・・・?」
「静かに、まだ動かないでください」
ナボナに動かないように言って、クーデリアのいた方向に匍匐前進で近付いていく。
「だ、大丈夫ですか!?しっかり!」
クーデリアの声が聞こえる。良かった、とりあえず生きてる!
クーデリアは地面に座り込んだ体勢で、その腕には組合員の若い女性が抱かれていた。被弾したらしく息も絶え絶え、もう助からないだろう。
「うれ・・・しい、私・・・革命の乙女の・・・手の中で・・・まるで・・・物語・・・みた・・・」
「しっかり!あっ・・・」
クーデリアの腕に抱かれた女性は息絶えた。クーデリアにも自分の腕の中で一つの生命が消えるのが感じ取れたのだろう。
「私・・・私は・・・!そんな・・・そんな・・・!」
煙幕は殆ど晴れて、クーデリアと僕の周囲、煙に隠された死屍累々の惨状が露になる。
「どうして・・・どうしてこんな事になるんですか!?なんで・・・」
クーデリアの叫び、しかし応える者は、応えられる者はいない。僕もどんな言葉を掛ければ良いのか判りかねていた。これだけの犠牲が、クーデリアさんの器を試す為に必要だったのか?マクマード・バリストン!?
「あああ・・・皆さん・・・こんな、こんな事になるなんて・・・私達は・・・私達の望みは・・・こんな仕打ちを受けなければならない程の事だというのか・・・!」
後ろからの声に振り向くとナボナが立ち尽くしていた。
確かに酷い話だ。けどこの人はまだ生きてる。生きてるということは、やらなければいけない事があるという事だ。
「ナボナさん、貴方は逃げてください。ギャラルホルンはここ以外でも武装蜂起した組合の人達を鎮圧と称して虐殺していくでしょう。それに力で対抗しても勝ち目はありません。今はとにかく逃げて逃げて、生き延びる事を考えてください」
「し・・・しかし、私には責任が・・・」
「死んでしまったら責任を果たす事すら出来ないでしょう!生き延びてこそ、出来る事がある筈です!」
「う・・・わ、わかりました・・・」
ナボナはその場を立ち去って行った。僕はクーデリアに声を掛ける。
「クーデリアさん、行きましょう」
「トウガさん・・・ですが・・・」
「今ここで座り込んでいて、何が出来るんですか?今はここを離れないと」
「それは・・・」
「トウガ、クーデリア」
「三日月・・・」
三日月がここにたどり着いていたか。ちょうど良いかな。
「三日月、クーデリアさんを頼む。僕はフミタンを連れて行くから」
「フミタンもここに?」
「ああ、近くにいる。クーデリアさんの方、よろしく!」
三日月にそう言い残してクランクさんとフミタンの所に向かうと、途中で街を移動するギャラルホルンをやり過ごしながらホテルに向かった。
今回のトウガの台詞にもついて補足。
周りに合わせて言葉を選んでいるとき、演技している時はクーデリアをさん付けで呼んでいますが今回のフミタンとの会話では、感情的になっているせいで地が出てクーデリアと呼び捨てになっている部分と、取り繕ってさん付けの部分が混在しています。
ですのでさん付けの所とそうでない所は意図的に書き分けている・・・筈です。