今回からオリジナル要素が前より多くなっていくと思います。
そして皆様お待ちかね?トウガ叱られ回でございます。
ところで4月1日の小川Pの呟きはどう解釈すれば良いのでしょう?エイプリルフールネタだとするとまだ何か企画しているという事?期待して良いのだろうか・・・?
まだ、止まれない
頭で考えてたイメージだとオルガ達のMWの前に着地して、カルタを押さえつつ後退するようにオルガに呼び掛ける筈だったのに、カルタが突っ込んで来るのが思ったより速かった。
咄嗟にカルタの機体を掴みスラスターを横に向けて噴かしてオルガ達の方に行かないようにした結果、互いにバランスを崩し木々に突っ込んだ。
格好のつかない自分に苛立ちながら機体の状態を確認すると、カルタ機を押し退け機体を立ち上がらせた。
「ああもう、何でこうなるかなあ、もーー!!」
『かっ、カルタ様あ!?』
『カルタ機!ご無事ですか!?カルタ様!?』
カルタに呼び掛ける声が接触通信でこちらにも聴こえる。まあ生きてはいるでしょうよ、僕が口の中切った程度なんだし・・・あ。
「オルガ!!ビスケット!!無事!?生きてる!?」
あわててオルガ達に呼び掛ける。カルタの攻撃自体は阻止出来たけど・・・。
オルガの姿は確認出来た。ビスケットはMWの操縦席だから姿が見えないけど、車体に目立った破損は無いみたいだから・・・。
『トウガさん・・・生きてたんですか!?何で・・・?』
「ああ、良かった。そこにいるね?良し、一旦退がってて・・・と」
その時、傍らに倒れていたグレイズリッターが動き始めた。地面に両手をついて起き上がろうとしている。
「させるか!」
肘関節を狙って蹴りを入れると地面に倒れこむ。足下に落ちていたナイトブレードを拾い上げるとグレイズリッターの背中に突き付ける。
「動くな。動くよりこっちが剣を突き立てる方が速い」
『ううっ、下郎が、よくも私に恥を・・・』
「恥、ね。命よりそっちが大事?」
『カルタ様!!』
『おのれ卑怯な!』
「自分たちから仕掛けておいて何言ってんだか・・・。自分達は何をしても良いとでも思ってるの?」
『何を・・・ぐお!!』
グレイズリッター二機の内一機が吹っ飛んだ。その背後にいたのはレンチメイスを振り抜いた格好のバルバトス。
『いきなり出てきたと思ったら・・・さっさと殺っちゃえば済むのに何してんの?』
「あ~・・・三日月、こっちの指揮官機は僕に任せてよ。必要な手順っていうかさ。他は任せるから」
『貴様・・・私の部下を!!』
「あいつらは抵抗するも逃げるも自由にして良いんだけど?あいつらを死なせるのはアンタだ。それが指揮官の責任ってものだろう」
『戯けた事を!!私のかわいい部下達を・・・』
「アンタが仕掛けて来なければ死なずに済んだ。それとも、1人も部下を死なせずに勝てる、とでも思っていたか?羨ましいなあ、そんな甘い夢を現実と思い込めるその精神が、さ」
いやまあ皮肉だけど、割と本気でそう思える部分もある。それくらい楽観的に生きていけたらどんなに良いか。
『私は・・・私に、我がイシュー家に、こんな不様はあってはならない!こんな・・・』
「これが現実だ。勝負はついた。今投降すればアンタの命は保証するけど?」
『この私が!賊に投降するなどあり得ない!!』
怒りと屈辱のこもった声。まあ拒否すると思ってたしその方がマクギリスには都合が良い。もし投降するならその時はマクギリスには内緒で拘束しといて後で蒔苗氏に扱いを丸投げするつもりだったけど・・・。
「ああそう、じゃあ部下もろとも死にたいって事ね。勧告はしたし、恨まれる筋合いは無いって事で」
下から掬い上げるように蹴って転がし胸部にナイトブレードを突き立てる・・・少し浅い、か。指揮官仕様のリッターの胸部に追加されている装甲のせい、いやそれでも一撃でコックピットを潰しきれなかったのは僕の腕の問題か。ひしゃげたコックピットに挟まれて死にきれず苦しかろう。
「悪い、楽に死なせてやれなかった。僕の未熟さ故、そこは恨んで良いよ」
ナイトブレードを太刀に持ち替えて改めてコックピットに突き刺す。剣のせいにするわけではないけどこちらの方がやはり使いやすい。今度は上手く出来た。
周囲を見渡すとレンチメイスを下ろし、こちらを向いて立つバルバトスと、その足下に二機のグレイズリッターが倒れているのが確認出来た。
「オルガ、全体の状況はどうなってる?・・・・・オルガ!?」
『あ・・・ああ、海岸の方の敵は片付いたみてえだ。念のためラフタさん達はまだ警戒してるが艦からの攻撃も無いな。反対側の上陸部隊も制圧済みだ』
「艦の方も攻撃は出来ないみたいだね、じゃあ敵のMSから装備やパーツを回収しよう。特にグレイズの陸戦用装備は手に入れておいた方が良い」
『・・・解った。あまり時間は無えが、出来るだけやっとくか。昭弘とシノはラフタさん達と警戒を続けてくれ。ミカはトウガと回収作業だ。敵がまだ来たら出てもらうぞ』
『解った』
「さて、こっちもやりますか」
太刀を使ってカルタのグレイズリッターの腕や脚の根元のジョイント部を壊して外すと左腕ワイヤークローのワイヤーで縛って担ぐ。
エイハブリアクターは惜しい気もするが、欲張って船の積載量を超過しては元も子も無いし、エドモントンではMSよりMWの方が数が必要だしなあ・・・カルタの死体を持っていくのも何かマズイ気がするし置いて行こう。
この先の戦いに思考を巡らせながら、空いている右手でグレイズリッターのナイトブレードを拾って回った。
ギャラルホルンの艦隊は一時は海岸のラフタ達とにらみ合いの様相を呈したが、しばらくすると艦を回頭、撤退した。クーデリアや蒔苗を連れてオルガ達はギャラルホルンの上陸部隊から奪った揚陸艇に乗り込み、僕がシュヴァルベ・グレイズで先導する形モンターク商会の大型タンカー船に合流、移乗した。
船倉にシュヴァルベ・グレイズを駐機して機体から降りると、オルガとビスケット、昭弘にシノ、タカキにライド・・・おやっさん含め主なメンバーが集まっていた。全員こっちを見ている、というより睨んでる・・・?
「えっと、何この雰囲気・・・?」
何だか剣呑というか・・・う~ん、僕何かやらかしたっけ?
「あー・・・オルガ、ビスケット、これからの行動について相談したい。時間をもらえるかな?色々と計画を立てないといけないことがっ!?」
話している途中でパン、という乾いた音と頬に熱い感覚が走る。叩かれた?誰に?
「アナタという人は!!」
声を荒げたのはフミタンだった。フミタンに叩かれた?何で?
「無事だったのなら連絡ぐらいはするべきでしょう!!ここにいる全員が、アナタは死んでしまったものと・・・昨日一日どんな思いでいたか・・・!!」
そう言ってフミタンは踵を返し、足早に立ち去ってしまう。
「え?・・・あ・・・!」
言われてやっとこの雰囲気の理由がわかった。僕は軌道上の戦闘の後皆に連絡をとろうともしていなかった。早く合流しないと、と逸るあまり忘れていたのだ。戦場で別れた相手から音沙汰が無い、それはその相手が死んだ可能性が高いと考えるべき状況だろう。
その当人が何食わぬ顔で戻ってきたら・・・そりゃ怒りますよね!
「ごめんなさ-い!!本っ当にすいませんでしたー!!」
オルガ達に頭を下げる。これはもう、謝るしかない・・・!!
はーーっ、と溜め息を吐いたのはオルガとビスケットか。
「言いたい事先に言われちまったな・・・。まあ、そういう事だよ。このバカ!」
とオルガが。
「本当、アドモスさんの言う通り連絡はしてくださいよ・・・」
安堵したような呆れたような口調でビスケットが。
「ユージンだってちゃんと連絡寄越して来たんだぜ~?」
軽めの口調でシノが。
「報告、連絡は基本だろー?らしくねえなー」
「でも無事で良かったです」
ライド、タカキが。
「まあ・・・今まで何やってたのか、ちゃんと説明しろよ。あのMSの事も含めてよお」
最後におやっさんが締めるように言う。
「はい・・・皆、本当にごめん」
そして軌道上で皆と別れてからミレニアム島に来るまでの経緯を説明する事になった。
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~一方、オルガ達から少し離れた所で~
「三日月は、トウガさんに何か言わなくて良いの?」
「ん・・・良いや。後で合流するっていう、別れる前の約束は守ったし、さっきオルガ達を助けてくれたし」
「・・・そっか」
「それよりアトラ、腹減った」
「あ!すぐ準備するね!」
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「フミタン!待ってフミタン!」
船倉を出て通路を足早に歩くフミタンに、追ってきたクーデリアが声を掛ける。フミタンは足を止めると、溜め息を吐いてからクーデリアに向き直った。
「申し訳ありませんお嬢様、取り乱してしまって・・・」
「いえ・・・でも驚いたわ。貴女があんなに怒るなんて、初めてじゃ無いかしら」
「それは・・・何なのでしょう、あの人は。あの人に手を上げたのも怒鳴ったのも、私自身の感情からでした・・・それを皆さんを代弁したような言い方をした私は狡いですね」
「フミタンのそういう所、私知らなかったわ。それとも、貴女が変わったのかしら?」
「それは・・・」
「フミタンには色んな事を教えてもらったけど、フミタン自身の事は、私知らない事の方が多いのかもしれない」
「きっと私は変わったのでしょうね。お嬢様と・・・きっとあの人のせいです」
そう言って手を見る。思い出すのはドルトで、1人クーデリアの元を去ろうとしていた自分の手を引いて、またクーデリアの側にいられるようにしてくれたトウガの手。
「フミタン・・・?」
「本当に何なのでしょう?あの人に対するこの気持ちは・・・自分で自分の気持ちがわからない、こんな事が二度も・・・」
一度目はクーデリアに対する感情で、それはドルトの一件を経て整理が出来たが今はトウガに対する自分の感情をもて余している。
「ですが、今はそれよりも考えなければいけない事があります。そうですねお嬢様?」
「あ・・・そうね。今は目の前の事を考えないと。フミタン、私の戦いはここから。貴女の力を貸してちょうだい」
「はい、勿論です」
結局フミタンは、今は考えない事にした。今優先すべき事は他にあるという理由付けが出来たのは都合が良かった。
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合流するまでの経緯を皆に話した後、オルガとビスケットと三人で今後の事について話し合う為、オルガの部屋に集まった。
「にしても、アンタを助けてここまでの移動を手配してその上MSまで・・・モンタークには随分と借りが出来ちまったな・・・」
「いや、僕が言うのも変な話だけど気にする必要は無いよ。アイツはアイツの打算で動いてるんだから。それよりこれからの事だ。僕達はクーデリアの交渉相手の蒔苗さんをエドモントンまで送り届ける。それで良いのかな?」
「ああ、そう請け負った」
「ビスケットは?それで納得してるの?」
「それは・・・正直不安はあります。ギャラルホルンとまともにぶつかるのは危険過ぎると思いますし・・・」
「そうだよね、少なくとも数では圧倒的不利だし。僕も分の悪い賭けは好きじゃない」
「アンタも反対って事か?けど今の状況じゃ他に道は無え。俺はこれが最善だと思ってる」
「そうだね、今のままじゃ蒔苗さんの件を断ってもギャラルホルンに追われ続けてジリ貧だ。蒔苗さんをエドモントンの議事堂に届けて、上手く蒔苗さんが代表に返り咲けばそれもチャラに出来る」
「結局どっちなんだよ?」
「まあ聞いてよ。ビスケットの心配はもっともだし、かといって他の道も無い。でもこういう博打みたいな仕事はこれっきりにしよう。この仕事の後は地道に堅実な方法でやっていく事を第一に考えてよ。ビスケットの意見もちゃんと聞いてあげなよ。参番組の頃から皆を引っ張って来た、相棒だろ?」
「・・・相棒、か。そうだな、そうする。ビスケットにも文句を聞かねえって言われたしな。今回の仕事をやり遂げて、俺達の状況を一気に変えられるようなデカい上がりを掴めれば、その後は地道にやっていくさ」
とは言うものの・・・多分上昇志向自体は変わらないよな、皆の為を思えばこそ、だろうし。そこは僕やビスケットがフォローしないといけないな。
「うん、それじゃあ念のため確認、これからの戦闘は今まで以上に危険で難しいものになる。誰が死んでもおかしくない。鉄華団の全員がその覚悟で臨まなければならない・・・その上で、今更だろうけど問う。死を覚悟しての戦いを命じる、その重荷を背負えるか?」
「本当に今更だな。歳星に行く途中にも名瀬の兄貴とそんな話したよな」
オルガは苦笑しながら僕の問いに返す。
「鉄華団の誰一人死なせたくない。それは君も僕も同じだろ。なのに皆を今まで以上に危険な・・・死人が出ない筈が無い戦いに向かわせようっていうんだからさ、今更でも何でも、確認したくもなるよ」
「わかってんだろ?前に名瀬の兄貴に言った、あの時と答えは変わらねえ」
「ビスケットは?あの時と気持ちは同じかな?」
「・・・はい。色々あって、少し弱気になってましたけど・・・これからもオルガを信じます」
「そう。でも言いたい事は言った方が良いよ。それもビスケットの役目の内だから。作戦考えるのと同じくらい大事な、ね」
うまくまとまった、かな。それじゃあ次だ。
「この仕事に成功した先の話もしておこうか」
「いやそれは気が早いだろ。目の前の事に集中しようぜ」
「言ったろ?誰が死んでもおかしくないって。今の内に僕の考えを君達には伝えておきたいんだよ」
軌道上でも死にそうになったし、エドモントンで僕が死なない保証なんて無いし・・・死にたくは無いけど。
「この仕事が上手くいけば鉄華団の名を上げる事が出来て、アーブラウ政府にも繋がりが出来る。火星ハーフメタルの取引公平化が成れば火星の景気も良くなる。それは良い。問題は・・・ギャラルホルンって大した事無いじゃないか。って調子に乗る海賊とかが増える。昔のCGSみたいな質の悪い民兵組織も増えるかもしれない。でヒューマンデブリや少年兵も増えて結果治安は悪くなる・・・僕達のせいでね」
最後に付け足した言葉にビスケットが表情を変えた。
「そんな!?俺達はただ・・・」
「ただ仕事をしただけ。でもギャラルホルンの面子を潰すってことはそれだけ大事なんだよ。ドルトの件一つとってもあれが切っ掛けで労働者の企業への反発を増長させてるって、月のアバランチコロニーを仕切ってる組織の幹部に言われたよ」
まあ労働者を酷使して反感を育ててきた企業は自業自得だし、タントテンポの新頭目は自分の能力を示す機会と前向きに考えてるみたいだから、ものは考えようだけど。
「今回はギャラルホルンが経済圏の政治に干渉しないというルールを破っている。僕達はそれを暴きたてる格好になるからその影響もドルトとは比べ物にならないくらい大きくなる。そういう状勢の変化には僕達も無関係じゃいられないから、その辺を踏まえて組織の舵取りをしていく必要があるってことを、頭に入れておいて欲しいわけだよ」
世界の状勢に目を向ける事が出来ないとそうと気付かぬまま破滅に向かってしまう危険があるから。
「そう、ですね。わかりました」
「あとテイワズ内部の事もかなー?。一枚岩じゃ無いのは解っているし、名瀬さんを良く思ってない人も少なからずいそうだから、そういう人達はきっと僕達の事も目障りに思うだろうし・・・」
「いや、やっぱその辺はこの仕事をやり遂げてから考える事だろ」
「あっ・・・、そうだね。まだ終わってない仕事の先の事を今あれこれ考えるのは皮算用が過ぎるか。でも忘れないで。この仕事で終わりじゃない。まだ先があるって事をさ。CGSの時はその日その日を生き抜く事しか考えられなかった。でももう少し先の事を考えて生きていく事が出来るように変わっていかなきゃいけない。まっとうに生きるっていうのはそういう事だと思う」
「ああ・・・覚えとくよ」
そう、エドモントンで終わりじゃない。前世で僕は観る事が出来なかったけど鉄華団の物語はまだ先がある。今度こそその先を見たい。もう原作とは違うかもしれないけれど、ビスケットやダンジ、昌弘が今も生きているこの世界で、エドモントンの戦いのその先を。
でもその前にケジメをつけないといけない事がある。オルガ達と別れると、ビスケットから聞いた部屋に向かう。
「失礼します、サヴァランさん」
「君は・・・」
「ドルトでは失礼しました。貴方の立場や心情について考えず一方的に非難した事を謝罪します」
「い、いやそれは・・・君の言った事は間違っていない、と思う。ビスケットからクッキーとクラッカの事も聞いているし・・・」
「それでも、思い詰めて余裕の無い状態の人を責め立てるような事はしてはいけなかったと思います。苦しい状況で道を1つしか見出だせない、他にどうしようも無い、それは僕もビスケットも同じだったんですから」
あの時は冷静じゃなかった、と言うと言い訳になるけど、落ち着いて考えるとサヴァランも余裕が無かったのだろう。確認もせずアトラをクーデリアだと思い込むくらいだし。世界は綺麗事や正論ではどうにもならない事ばかりだって、わかっていたのに。
「あの時はどちらが正しいとか間違ってるとか、そういう問題じゃ無かった。お互いの立場とか大事な者の為にぶつかってしまったんだと思います。だったら僕が貴方を一方的に責めるのはフェアじゃありませんでした」
「いや・・・俺も君の言葉で思い出したよ。両親が死んでビスケット達を、家族を護ろうと働いていた時の事を。幸せだったわけじゃない、苦しくて辛かったけど、今思い返すと少し誇らしかったような気もする。あの頃は本当に、家族の事だけを考えていられたんだ」
「そんな貴方の背中を見て今のビスケットがいる訳ですね・・・貴方の今後の事ですが、今僕達はアーブラウの前代表の蒔苗氏を代表指名選挙が行われるエドモントンに送り届ける依頼を受けて行動しています。これが終わったら、貴方について便宜を図ってもらえるよう蒔苗氏に頼む予定です。アーブラウに亡命、という事になるのではと考えていますが・・・出来る限りの事はさせてもらいますので。では失礼します」
サヴァランの部屋を出るとその隣の部屋の前に立つ。
サヴァランの時よりも気が重いが避けるわけにもいかない。
船室の扉の鍵を外して開くと、クランクさんが床に座っていた。
「ああ、お前かトウガ。死んだと聞いていたが・・・良く戻ったな」
クランクさんの言葉は穏やかで、けどその言葉が僕の胸に痛い。
「貴方に伝えなくてはいけない事があります」
「どうした?」
深呼吸する。逃げる訳にはいかない。クランクさんの正面に正座して顔を上げる。
「地球降下時の戦闘で・・・アインを殺しました」
「っ!?・・・・そう、か・・・・」
「貴方には僕を討つ理由があります」
「・・・馬鹿を言うな、討たれて死んでくれる気などあるまいに。大体それを言うならお前達こそ俺を殺すには充分な理由がある。CGSへの攻撃を指揮したオーリスは俺の教え子だ。オーリスだけじゃない、あの作戦に参加した兵の多くはオーリスやアインと同じ俺の教え子だった。コーラルの命令とはいえお前達の仲間を殺めた罪は俺も負わねばならん」
「アインと少しですが、言葉を交わしました。彼は貴方の仇討ちの為と思いその一念で僕達を追ってきた、つまりそれだけ貴方を慕っていたという事です」
「仇討ち、か・・・」
アインに対しては然して思い入れがある訳ではない。下手をして原作通りにグレイズアインになって暴れられるよりはあそこで殺した方がマシだという考えにも変わりはない。でもクランクさんは違う。この人をここまで同行させたのは僕だしドルトでは協力してもらった。この人には不義理は出来ない。
「貴方の教え子で、貴方の事を心から慕っていた。それを知ってそれでも、殺す以外のやり方を選べせませんでした・・・」
「戦場で敵として対したのだ。どちらかが死に、どちらかは生き残る。当たり前の、事だ。恨むなど・・・筋違いな事はせん」
そう言いながらもクランクさんは拳を強く握りしめている。口で言うほど割り切れていないのがわかる。
口から出そうな謝罪の言葉を飲み込む。口にしたら今堪えているクランクさんの意志を汚すように思えるし、謝罪は自分の罪悪感を誤魔化す事にしかならないだろう。さっきサヴァランに謝ったのとは別の話だ。
ポケットからアインの持っていた徽章を取り出しクランクさんに差し出す。
「これは・・・」
「アインが乗っていたMSを回収した人物から受けとりました。貴方が持つべきだと思いまして」
「これは火星で俺が出撃前にアインに渡した物だ。あれから持ち続けてくれていたか・・・何故、こうなってしまったのか・・・」
クランクさんの顔が苦渋に歪む。
「あの時俺はCGSの少年達を手に掛ける事は出来ない、アイン達にもさせたくない。そう思って1人で出撃した。全てを自分で終わらせるつもりだった。なのにアインは俺の為にと思い詰めてお前達を追い、そして死んだ・・・こんな結果を望んでいた訳では無かったのに・・・!」
「クランクさん・・・」
「すまんが、1人にしてくれないか」
「・・・わかりました。失礼します」
部屋を出て鍵を掛ける。僕達には敵であり邪魔者でも、死ねば悲しむ人がいる。当たり前だけど、いつしか考えなくなっていた事実を目の当たりにしてしまい、どうにもやりきれない。
「とっくの昔に、割り切った筈だったのになあ・・・」
クランクさんに絆され、フミタンに肩入れし、サヴァランには謝罪して。こんな筈では無かったのに。もっと打算的に立ち回り鉄華団に利益をもたらす事で団内の立場を確立する。最初はそう考えていたのにこの様か。
「アインの事もなあ・・・」
こっちが気に病む必要など無いだろうという考えも湧いてくる。アインが仇討ちなんて考えなければ、否、アインの仇討ちをガエリオが後押しして地球圏まで連れて来なければアインは火星に留まらざるを得ず、エドモントンの件の後にでも火星でクランクと再会する事も出来たのでは無いか。
「あのガリガリにも責任あるんじゃ無いか。ていうかカルタにしてもガリガリが声かけなきゃああはならなかったんじゃないのか?直接殺したのは僕だけどさ・・・」
ああ、いけない。これは責任転嫁だ。僕だけが悪いわけじゃ無いという思いが膨らんで来る。
あー駄目だ。悪い方に思考が働いてるな・・・。
「おやっさん達の手伝いにでも行こう」
余計な事は考えるな、やるべき事に集中するんだ。
今は立ち止まって良い時では無い。だからそれで良いだろう。
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~アーブラウ領内、アンカレッジ某所~
「では蒔苗先生はこのアンカレッジに来られると?」
「ええ、そちらにも連絡がある筈です」
「ああ、それならご挨拶に伺わなければ!」
「そう仰ると思いまして、つきましてはアレジ先生にお願いがあります」
「何ですかな?」
「その蒔苗先生へのご挨拶に、私共も同道させていただきたいのです」
「それは・・・また、何の為に?」
「蒔苗先生の護衛に就いている組織・・・鉄華団。彼等の支援の為に医者を付けたいと考えた次第で、その引率という所です。アンリ・フリュウと癒着しているファリド公率いるギャラルホルンとの衝突は避けられませんから」
「成る程・・・・蒔苗先生のお体も心配ですし、それは必要な事でしょうな。良いでしょう。蒔苗先生から連絡がありましたら貴方にも伝えますので」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。ではまた」
「はい。失礼します」
「・・・ふう。これで渡りは付けた。医者の方も何とか二人は都合がついた。Lも何とか間に合いそうだ。後はイレギュラーを特定する方法だが・・・ふむ、アイツらを使ってみるか。原作知識ありの転生者なら他とは違う反応を示すだろう」
前回(幕間は除く)までは原作の1話分ずつで区切ってましたが、今回は少し手前の所で区切りました。オルガの演説?の内容が纏まらなくて・・・次回で入れる予定です。