憑依した先はCGS一軍の隊員でした。   作:ホアキン

3 / 29
うーむ、三日月の台詞とか色々と不安でありますが・・・どうぞご覧ください。
 


雌伏編
初めは小さな事から


 今日は1軍は休み、参番組は半数は休み(但し外出禁止の待機)で残りは基地の警備についている。

 今は亡き壱番組と弐番組の隊舎の近くの広場を耕し、街で買ってきた土壌改良剤と肥料、生ごみを発酵させてつくった堆肥を撒いて耕してビニールを張って、ようやく作物が育つ環境が整った。

 社長のマルバに直談判してここに畑を作る許可を得て、道具や資材を少しずつ買い揃えて(全部僕の自腹である)準備して早半年。

 長かったけどその間に良い事もあった。参番組のエースである三日月・オーガスと参番組の参謀格のビスケット・グリフォン。

 この二人、前に堆肥の材料の生ごみを運ぶのを手伝ってくれてから、時々様子を見に来て手伝ってくれるようになった。

 ビスケットの祖母の桜さんは農場を経営していて、三日月は桜さんみたいな農場やるのが夢だから、僕が野菜を作ろうとしていると聞いて興味を持ったらしい。原作主要キャラと接点が出来るのは非常に好都合で、喜ばしい。

 

「それにしてもよくあの社長が許可してくれましたよねえ」

「なんか、意外だね」

 

 ビスケットと三日月は社長がこの菜園作りを許可した事が意外だと言う。

無理も無いか、今のマルバ社長は自分の利益の事しか考えないもんな。

 

「あの人も昔はもうちょっとマシだったんだけどね、まあ僕は1軍の中では一番働いてるし、自分の懐が痛まないなら話を聞いてくれる事もあるってことだと思うよ。こうやって生ゴミを利用すれば業者に回収してもらうゴミの量を減らせて少しだけど経費が浮く、金銭的にマイナスどころかむしろプラスになるって、経理のデクスターさんが口添えしてくれたしね」

 

 この畑で作る作物はCGSで消費するものとして説明してあるが、実際は参番組の食事の改善が目的(更に先の事も考えているが)であり、そのあたりをごまかしてマルバから許可をとる事が出来たのはデクスターさんのおかげである。

 あの人も、マルバに逆らえない立場ではあるが、参番組の待遇の悪さには思うところがあったようで、金銭面での利点を楯にマルバを説得し、結果マルバはCGSの予算からは1ギャラーも出さないという条件つきでの許可をくれたわけである。

 

「これで後は苗を植えつけて水をやれば今日の作業は終わりだ」

「何を植えるの?」

「カボチャだね。結構生命力の強い作物だし、収穫出来たら長く保存出来て栄養も豊富だからね」

 

 因みに苗の元の種はこの身体に憑依した時何故かポケットに入っていた、生前買った物である。

「なるほど、それで、その苗はどこです?」

 

ビスケットにきかれてはっ、と気が付く。

 

「苗は別の所で育ててるんだよ、取ってくるからちょっと待ってて」

 

二人にそう言って走り出す。最初に持って来ておけば良かった・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 走っていくトウガの後ろ姿を見ながらビスケットは思う。

数ヶ月ここでの作業を手伝っているが、トウガはいつも一番キツい作業は自ら担当して自分達にはそれよりは楽な作業をあてがっていた。

 そもそも最初に手伝った時からして、こちらから申し出た事である。自分からすれば手が空いてる時に1軍の人間が働いてるのを見たら、手伝わないといけないと考えるのが習慣化している。そうしないと怒鳴られ、暴力を受けるのが当たり前なのがこのCGSでの自分達の立場だ。

 だが、自分達を虐げるのが当たり前の1軍にあってトウガだけは自分達に理不尽な暴力を奮う事は1度も無かったはずだ。

 1度、年少の隊員に対する躾だのと言って、ササイからタカキやライドを殴るように強要されていたが、差し出された警棒を突っ返して、結果自分が殴られていたのを覚えている。

 普段は他の1軍隊員に従順に振る舞っているが、参番組に対する理不尽な行いにトウガが加わっているのを、ビスケットは見た記憶が無かった。

 

「ねえ三日月、トウガさんが僕らの誰かを殴ったりしたのを見た事、ある?」

「見た事は無いけど、殴られた事はあるな」

「え?いつ?何で?」

「つい最近MWで1対1の模擬戦した時に。あの人負けるといつも殴られてたから、その時はわざと負けたんだけど、それで怒られた。負けて殴られるのが嫌なら模擬戦の相手なんか最初からしない、自分が模擬戦の相手するのは俺達を死なせない為だってさ。あと殴られたって言っても平手だったし、全然痛く無かった」

 

そう言ってポケットから取り出した火星ヤシの実を口に入れて、咀嚼しながら、でも、と三日月は思う。

痛くも何とも無かったのに、何でこんな何でもないような事が妙に記憶に残っているんだろ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「でさー、とうとう三日月に手加減されちゃったんだよ」

「何でそんな事俺に話してんですかアンタは」

「・・・何となく?」

 

 育苗ポットの入った箱を取りに動力室(バルバトス置いてる所、暖かくて光も入るので丁度良かった)に来たら参番組のリーダーのオルガ・イツカが昼寝してた。で、何となく最近の参番組隊員との模擬戦の話をしている。

 主に模擬戦で三日月に負ける事が増えて来た事とか。

 

「いや偶然会ったのも何かの縁ていうかさ、こういう事話せる相手って貴重だから」

「アンタ1軍だろ?だったらそっちに・・・ああそうか」

「わかる?所詮は僕もヒゲ付きの宇宙ネズミってことだよ。正規隊員って言っても書類上はって程度、壱番組の頃と変わりゃしない」

「俺達参番組より前にいた非正規部隊か」

「元々は身寄りの無い子供達に食い扶持を与えようって仏心もあったんだろうけどね、企業である以上利益を出さなきゃいけないし、学の無い子供達を働けるようにするにはまっとうなやりかたじゃ時間も金も掛かりすぎてそんな余裕も無くて、苦肉の策で阿頼耶識に手を出して、でも施術の失敗で大勢死んで、後戻りも出来なくなって、段々人が変わっていったんじゃないかな」

「あのオッサンに仏心ねえ・・・」

「善人が悪人に変わるのは切っ掛け1つあれば簡単なんだよ多分。まあ、元が善人でもああなっちゃったら駄目だよね」

「1軍の連中もそうなのか?」

「いやあいつらはハナっからロクデナシ揃いだったね」

「・・・そういやアンタ、何か用があってここに来たんじゃ無いのか?」

「あ、そうだった」

 

 いけないいけない、三日月とビスケットを待たせてるんだ。

急いで戻らないと。箱の中の育苗ポットの内半分をトレイに載せると、外に向かって歩き出す。

 

「んじゃねオルガ、隠れて休憩は構わないけど、ハエダとかに見つからないように気を付けてね」

 

 最後にそうオルガに言い、畑に戻った。三日月とビスケットに遅くなった事を謝った後、三人で苗を植えつけた。

 畑の面積に対し植えた苗は少ないが、後日追加する予定だからこれでいいだろう。

今度の外出で透明のビニールシートその他の資材を調達出来たらビニールハウスを作ってその中でも育ててみよう。

 

「二人とも、今日は助かったよ。ありがとう。お礼に何も出せなくて悪いけど・・・」

 

この畑を作る為に金は殆んど使ってしまったので、小遣いも出せない。手伝ってもらっておいてこの体たらく。情けないなあ。

 

「お礼なんて、こっちから手伝いに来てるんですから」

「俺達が好きでやってる事だし、最初から期待してないから」

「うーん、でもそれじゃあこっちの筋ってものが・・・それじゃあ、このカボチャが収穫出来たら、最初に二人に食べてもらえるかな?」

「えっと・・・それじゃあ、そうさせてもらいます」

「そっちがそれでいいなら」

「うん、それじゃあ、今日は本当にありがとう、じゃあね!」

 

手伝ってくれた事への感謝を伝えたかったのだけど、気持ちが先走って感謝の押しつけになってしまったような気がして恥ずかしい。慌ててその場を走り去った僕は、三日月が

 

「やっぱ変わってるな、あの人」

 

とビスケットに言っていた事に気付いていなかった。

 

P.D.320。ギャラルホルン襲来まで、あと約2年半。




トウガは元々参番組に同情的で自分から彼らに暴力を振るう事はありませんでしたが、憑依後は参番組からの心象アップを目指して彼らをハエダやササイから庇う方向で動いているので、参番組の面々からは、1軍の他の連中とは違うな、くらいには思われています。その分ハエダ達に殴られる頻度も増しています。

10/16、トマトをカボチャに変更他加筆修正しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。