死の支配者と虚無の申し子   作:むじな

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第1話:祝福 ~はじまり

2138年、一つのオンラインゲームが終わりを告げる。

 

DMMO-RPG《YGGDRASIL》

 

日本国内において爆発的な人気を誇った作品も、12年という歳月による時間の移ろいには逆らえず、そのサービスに幕を閉じようとしていた。

 

 

 

 

 

 

ユグドラシルに存在するナザリック地下大墳墓。

そこは難攻不落と悪名名高く、総勢1500人からなる討伐隊をも跳ね除けたユグドラシルでも屈指の難易度を誇るダンジョンだ。

そのナザリック地下大墳墓第九階層その一画、《円卓》と名付けられた部屋、中央に黒曜石の輝きを放つ巨大な円卓があり、その円卓を囲うように41の豪華な席が並んでいた。

ただ、そのうち40の椅子は空席となっていたが・・・

 

 

「またどこかでお会いしましょうね・・・か」

 

40の空席を眺めながらギルド長モモンガは、先ほどまでログインしていたギルドメンバーが残した言葉を復唱する。

 

「どこで、何時会うのだろうね・・・」

 

41人いたギルドメンバーも37人が引退し、同じような言葉を残して離れていった。

 

「ふざけるな!」

 

怒号と共に噴出した怒りがテーブルに叩きつけられる。

皆で築き上げた大切な思い出を容易に切り捨てられているように思えて、叫ばずにはいられなかった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

円卓の間に自分以外の声が聞こえたことで、モモンガは驚きながら顔を上げる。

そこにいたのは茶色がかった頭髪を腰の辺りで束ねた左目に傷跡がある青年だった。

 

「に、ニヒトさん!」

 

モモンガが慌てて姿勢を正しながら突然の来訪者を迎え入れる。

 

「せっかくメールを頂いたのにインするのが遅れてすみません・・・」

 

自分に割り振られた席から立ち上がり近づいてきたニヒトはモモンガの近くまで来ると深々と頭を下げた。

 

「いえいえ!いいんですよ、来て頂いただけで嬉しいんですから!」

 

モモンガは笑顔アイコンを出しながらニヒトに頭を上げるよう声をかける。

アインズ・ウール・ゴウンは異形種の社会人のみで形成されたギルドである。

故にリアルを優先する事はギルドの基本方針であり、離れていったギルメン達も生活を優先したが故であることも、モモンガは重々承知だった。

今目の前で頭を下げているニヒトも生活を優先したが為に今の時間までログインできなかったのだから。

来てくれただけでも嬉しいというのは本心だった。

 

「ありがとうございますモモンガさん・・・」

 

ニヒトが申し訳なさそうに頭を上げる。

 

「それより、お仕事の方は大丈夫なんですか?」

 

モモンガはニヒトに尋ねる。

というのもニヒトの職業はアニメーターでまだまだ駆け出しだ。

2100年代の今でもアニメーターの低賃金がネット上で話題になる事は珍しくない。

昔よりは改善されているらしいが、それでも夢を叶えてアニメーターになったはいいが、安い賃金では生きていけず辞めていく者は多い。

 

「はっはっは!明日の自分に頑張ってもらいますよ!」

 

「うわぁ・・・」

 

どこか遠くを眺めるような素振りをしながら笑顔アイコンを連打し乾いた笑いをするニヒトを見てモモンガは申し訳ない気持ちに苛まれた。

 

「気にしないでください、もともとログインするつもりでしたから」

 

そんな気持ちに気付いたのかニヒトは声をかける。

 

「それよりこれからどうするんですか?サービス終了まであと少しですけど」

 

「玉座の間で強制ログアウトまで居ようと思います。最後を飾るならあそこがいいかなぁ・・・と」

 

「いいですね。ご一緒しますよ!」

 

円卓の間から出ようと扉の前まで移動したニヒトが席を立ったまま静止するモモンガに気付き声をかける。

 

「モモンガさん?」

 

モモンガの視線の先には

『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』

41人皆で作り上げたギルド武器があった。

その一つの武器を作るのにも数多くの思い出が詰まったそれは、まさしくアインズ・ウール・ゴウンの思い出の結晶といっても過言ではなかった。

 

それを前に固まるギルド長

ニヒトは思いを汲み取り声をかけた。

 

「持って行ったらどうですか?」

 

「いや、しかし・・・」

 

モモンガは和を重んじる人間だ。

ギルドに対し深い愛着を持っており、皆で作り上げた思い出の結晶を自分の我儘で持ち出したくはないのだろう。

 

「一度も使われないんじゃ可哀想ですし最後ぐらい我儘になってもいいんですよ?」

 

ニヒトの言葉に意を決したのかモモンガは頷きスタッフを手に取る。

 

「おぉ!似合ってますよ!魔王って感じで!」

 

「ありがとうございます。って魔王ってなんですか!ニヒトさんも魔王って呼ばれてたじゃないですか!」

 

「あー・・・ありましたねぇそんな時期も」

 

最後だからか思い出話に花が咲く、共に遊んだ日々の思い出を共有出来る喜びを噛み締めながら円卓を出て玉座の間を目指す。

 

荘厳な白亜の城を彷彿とさせる第九階層を抜け十階層に降りたところでモモンガは再び足を止める。

 

そこにはギルドのメンバーが作り出したNPCであるセバス・チャンと戦闘メイドプレアデスの6名が支配者を迎え入れる形で礼を行っていた。

 

「ふむ・・・最後ですし彼らにも働いてもらいますか」

 

「ええ、いいと思いますよ」

 

モモンガの提案をニヒトが了解したのを受けてセバスたちに付き従うよう指示を出し玉座の間を目指す。

 

 

サービス終了前に無事玉座の間にたどり着き従えたセバスとプレアデスに対し待機の指示を出して玉座へと続く数段の階段を上り玉座へと腰掛ける。

 

「間に合いましたね」

 

「何事もなく無事にたどり着きましたね」

 

二人の頭の中にはギルメン1の問題児が浮かんでいる。

サービス最終日に彼の仕掛けた悪戯という名の即死トラップを踏まされたらたまったものではない。

まぁ今回は杞憂に終わったが・・・

 

そんな風にニヒトが思い出に耽っていると、モモンガさんが玉座の間で玉座の横に控えていたNPCの守護者統括アルベドの設定を流し読みしているのに気付いた。

そしてニヒトが覗き込むと同時にある一文が目に飛び込んでくる

 

 

『ちなみにビッチである。』

 

 

「えぇ・・・」

「いや、タブラさん・・・これは・・・」

 

ニヒトとモモンガはギャップ萌えが何たるかを真面目に説明するギルメンの姿を幻視しながら若干引いていた。

 

「流石に女の子にコレは・・・」

 

「最後ですしその一文は消してあげてもいいんじゃないですか?たしかギルド武器があればコンソールは必要なかったですよね?」

 

「う~ん・・・そうですね」

 

モモンガは最後だからという言葉に寂しさを感じながらもその言葉を免罪符にアルベドの設定から最後の一文を消し去る。

 

「何か入れたほうがいいですかね?」

 

「文字数制限ちょうどだったんですよね?だったらちょうど埋めておきたい感じはしますね」

 

骸骨と青年が「う~ん・・・」と頭を捻りながら考えている姿はなかなかにシュールな絵でだったことだろう。

 

「モモンガさん『ギルメンを愛している。』っていうのはどうです?」

 

「あぁいいですね!」

 

この無難な一文なら設定に無理は起きないだろうと思い、空いたスペースに文字を打ち込んでいく。

 

 

アルベドの設定を書き換えることも終わり、NPCに『ひれ伏せ』と指示を出した後いよいよサービス終了を待つだけとなった。

 

「モモンガさん?」

 

「どうしました?ニヒトさん」

 

モモンガとニヒトは玉座の間に飾られた41人のシンボルを象った旗を眺めながら話す。

 

「このユグドラシルでモモンガさんやギルドのみんなと出会うことが出来て本当に良かった・・・」

 

「それは自分も同じですよ・・・」

 

「モモンガさんには本当にお世話になりました。辛い事や嫌な事もあったでしょうに何一つ文句を言わずみんなの和と保つ事に専念してくださった事には感謝し切れません。このギルドだからこそ・・・モモンガさんが居てくれたからこそユグドラシルに熱中する事ができたんです!本当にありがとうございました。そしてお疲れ様でした・・・」

 

「ニヒトさん・・・」

 

「ユグドラシルが終わっても連絡を取りましょう!何か美味しいもの食べに行きましょう!」

 

「ははっいいですね!」

 

ニヒトは最後だからと全力でモモンガに対し感謝の言葉を述べた。

モモンガが異様なまでにユグドラシルやナザリックに固執していた事は知っていたし、このまま最後を迎えればもう会えないような気がしてならなかった。

時計を見れば終了まで30秒も無かった。

 

 

23:59:40、41、42・・・

 

 

「じゃあモモンガさん、お疲れ様でした」

 

「ええ、ニヒトさんもお疲れ様でした」

 

モモンガもニヒトも静かに目を閉じた。

 

 

23:59:57、58、59・・・

 

 

 

 

 

そして物語は終わりを告げ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0:0;1、2、3・・・

 

新たな物語が幕を開けた・・・

 

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