【研究室の前廊下】
紗貴「ちょっと、待ってよ奈都」
百合子「紗貴も、待て」
紗貴「百合子、なんで止めるのよ。あんなに揺らいでいる奈都を、一人にしろっていうの」
百合子「紗貴が感情的になって、どうしてやることができるんだ。・・・・・・、ああいうときの奈都は、時間はかかるが、いずれひとりで立ち上がれる。これまで、そうだったろう?」
紗貴「そう、だったけど。でも、その間、私たちは今までみたいに、ただそれをじっと待つ事しかできないの? 5年間も一緒にいる仲間なのに・・・・・・」
百合子「その5年間で、いろいろ考え、みな成長した。もちろん、奈都もだ。そっとしておこう」
紗貴「・・・・・・そんなこと言われたら、なにも言い返せないじゃない」
百合子「なにも、成長したのは、奈都だけではないだろう」
紗貴「?」
百合子「その間に、研究員にガツンと物申したり、班長に物申して奈都への何物をも私たちが引き受けることくらい、造作ないだろう?」
紗貴「・・・・・・、清々しいまでに、大人たちを馬鹿にした言い方よね、それって」
百合子「だが、これが事実だ。私たち後続のアミスタ患者は後を絶たないがそのすべてがβ型だ。初めの一人である奈都、そのただ一人がα型だというのは、神のいたずらだろう。だが、研究員たちがあれだけ雁首揃えておきながら、ちっともα型の研究が進んでいないとはどういうことなんだ。そのせいで、任務に就くときに奈都はいつも苦しい思いをしているんだ。班長も班長だ。その状況を一番理解しておきながら、奈都にも私たちβ型と平等に評価しようとする。私はいつもそれを見聞きするのが不愉快でならないんだ」
紗貴「いうじゃない。百合子って、もっと斜に構えてクールに日本男児風女子を気取ってるんだと思っていたのに、あら、熱いじゃない」
百合子「そんな風に思っていたのか。・・・・・・5年目の衝撃だな」
紗貴「まあ、そうなっていても仕方がない環境だったんですものね。私だって似たようなものだったけれど」
百合子「紗貴は、アミスタにかかって、・・・・・・ここに隔離されて、よかったと、いえる側の人間か」
紗貴「半分くらいは、そうといえるわ。でも、無念なこともいくつかある。だんだんね、隔離され続けて、親にも会えないと、私の居場所が分からなくなってくることって、百合子、ない?」
百合子「・・・・・・私は、隔離されて、よかったといえる側でしかありえないんだ。班長に日々怒られていても、紗貴や奈都と喧嘩をして誰とも口を利かないような1日があっても」
紗貴「でも、そんな班長にも、ご家族がいる。研究員たちだって、お子さんにいつ会えるかわからないもんだから、夫婦で決めて父はいないことにしたって人もいるっていうじゃない。そこまでしないといけない、一生モノの難病、なのよね、アミスタ病は」
百合子「それに関して、一番悩んでいるのは、今は奈都だろうな。私たちがこんなところでとやかく言ったってしょうがない、風邪をひくだけだ」
紗貴「そうねー。班長達の背中でもたたきに行きますかっ。でもきっと、逆にまた私たち怒られちゃうわね、あんな無防備なところでおしゃべりを続けたら、体が弱い私たちはすぐに風邪を引くと、考えればわかるだろうってね」
百合子「甘んじて受け入れよう。その価値のある話ができただろう」
紗貴「あとで、奈都の好きなもの買って行ってあげようね」
百合子「当然だ」