【bar chamomile】
孝雄「子どもの考えることは、よくわからん」
華蓮「大杉さんにもあったでしょう、彼女達くらいの年頃が」
孝雄「・・・・・・あった、が、そんな昔のこと、もう忘れた」
華蓮「それは、忘れたかったのかしら、それとも、忘れたくなかったのに忘れてしまったのかしら」
孝雄「今となっては、忘れたことは、もう忘れちまったことでしかないさ」
華蓮「荒い言い方をなさるのね。今日は、そんなに荒れたくなることがあったのかしら」
孝雄「いつものことさ。・・・・・・前にも言ったか、俺に子どもが二人いるって」
華蓮「ええ。とってもかわいい双子の姉弟ちゃんね。確かお名前は、澪ちゃんと湊くん」
孝雄「ああ。二人とも、今年で15歳になる。・・・・・・あいつらと、同い年でな。だからこそ、俺も親父のような気持ちになっちまうというか、距離が近い気がしてしまってな。別に俺は、あいつらの実の父というわけでも無い」
華蓮「でも、似たようなものでしょう」
孝雄「あいつらの多感な時期に、俺達が家族という大切な社会から引き離してしまったんだ」
華蓮「大杉さんがそうしたくてそうなったのではないでしょう。アミスタ病に罹って、一番身近な人から感染していくことを防ぐために、BUSが全国の全受診記録を管理して、報告を受けたら即隔離しちゃうんですもの」
孝雄「俺もそのBUSの職員なんだけどな」
華蓮「でも、あの子達より隔離されたのは後でしょう、だから、大杉さんはこの件において何も背負わなくていいの」
孝雄「・・・・・・本当に、ママはうちのかみさんに似てるよ。かみさんにはとんとかなわんよ」
華蓮「会ってみたいわ、いつも話に聞く奥さまに。とても素敵な方。おなじ女性として、学べることが多そうですもの」
孝雄「だが、かみさんは、粗雑なところがあるからなぁ~、そこはママから学んでもらいたいもんだよ。まあ、次会えるのは、いつになるんだろうな・・・・・・」
華蓮「いつか必ず、会えます。大杉さんも私も、奥様と共に過ごせる時が、必ず」
孝雄「・・・・・・だと、いいな。高木たち研究員たちが日夜励んでくれているんだからな、そうだな、必ずその日は来る」
華蓮「やっぱり、弱気なところもそそりますけれども、そんなふうにどんと構えて豪快にしている大杉さんのほうが似合ってるわ」
孝雄「ここに来ると、ちょうどいい息抜きになるからな。いつも美味しい酒と肴を用意してくれて、すまんな」
華蓮「あら、それがこの世界での私の務めですもの。大杉さんのためなら、いいものを見繕うことは容易いのよ」
孝雄「ママは、時々冗談を言うから油断ならんなぁ」
華蓮「そうかしら、私はいつでも本気なんですけれどね」
孝雄「続きは今度に取っておくさ。ママ、また来るよ」
華蓮「あまり彼女達に意地悪しちゃいけませんよ、ほどほどにね」
孝雄「善処するが、奴ら次第だろうな」
華蓮「大杉さん、ご家族に会えなくなってから4年も経つのに、お子さんの歳をしっかり言えるのは、それだけ日々お辛いのね・・・・・・」