こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
僕はこの状況が理解できていなかった。
部屋には犯人らしき人物達が倒れている。
怪我も無ければ、争った形跡も無い。
しかし、現に彼らは倒れているのだ。
異様。
この言葉が頭から離れない。
その原因の塊であるかのように、室内で立っている男はいったい誰だ?
男は少しくたびれたスーツを着ており、口には煙草をくわえている。
その男は僕に気が付くと、まるで友人に会ったかのような軽い、しかし異様に重い言葉を掛けて来たのだった。
「少年自分の身体はもっと大事に使わなくてはいかんぞ」
男が近づいてくる。
「だが、無謀、無作法、無茶は、若者の特権だ、その点は若いというのは、羨ましい」
暗がりの中、一歩一歩こちらにづくにつれ男の容姿がハッキリしてきた。
背丈は高く恐らくは二メートル近い、しかし、体格は痩せており細身だ。
「だが羨ましいと言っても、そんなクスリを使ってここを探すやり方は、愚か、と言える」
男の纏う空気、雰囲気は、本当に人間なのか疑いたくなるような気持ちにさせる。
「しかし川でも思ったのだが、少年は、人間なのか?いや、この場合、普通の人間なのか、と聞いた方が正しいのか、まぁどうでもよいことか」
この感じ、まるであの時会ったアイツに似ている。
化け物と似ているのだ。
「しかし、その様な犠牲を払ってまでここまで来た褒美を与えよう」
目の前に男が立つ。
「少年、名はなんと言う?」
男の問いに僕は自分の名を言った。
いや答えてしまった。
いや、答えさせられてしまった。
「………小野町仁」
「小野町仁、良い名だ、大切にしたまえ」
僕と男の間に奇妙な空気が漂っている。
まるで自分が知らないうちに別世界に飛ばされたと勘違いする位に。
しかしここがまだ自分が知っている世界と辛うじてわかっているのは、気が付いたのは遠くからサイレンが聞こえたからだ。。
「ん?あぁ、少年が呼んだのか、ではそろそろ終わりにするか」
男が僕の肩に手を置く。
「少年、感謝したまえ、
『目が覚めれば少年は自宅にいて体からクスリの悪徳は消えている』
のだから」
男がそんな意味が解らない事を言った直後。
僕に異変が起きた。
急な睡魔が僕を襲ったのだ。
何をされた?
睡魔は僕の身体を蝕み、それに僕は抵抗ができない。
まるで授業中の居眠りに近い感覚だ。
しかし、今は授業中でなければ、ましてや教室でもない。
目の前には先生ではなく、正体不明の謎の化け物がいるのだ。
「あんたは………誰……だ……?」
消え行く意識の中ようやく絞り出した言葉がそれだった。
その問いに男は一瞬眉を動かし、こう答えたのだ。
「我輩か?我輩の名は夜遊」
消え行く意識の中で男の声は何故かはっきり聞こえた。
「夜遊我世だ」
僕の意識はここで消え去った。
目が覚めると自宅のベットの上にいた。
「夢?」
いや違う、確かに僕はさっきまで謎の男と一緒にいた。
体が軽い、クスリは体から完全に抜けているようだ。
それがあの男のお蔭なのかただ単に時間が解決したのかはわからないが。
回りを見渡すと机の上に書き置きが置かれている。
『ありがとうね、お兄さん』
誰が書いたか見当がついた。
「何がありがとうだよ……」
その言葉は僕には受けとる資格はない。
この事件、僕は最初から最後まで何もしていない。
誰も救えなかった。
全て夜遊我世と言う男が終わらせたのだから。
初めから僕はいらなかったのだ。
無駄足だった。
悔しい、僕は何もできない自分が情けない。
やはり僕は正義の味方になれないのか。
「ちくしょう……!」
今回僕は自分の無力を実感した。
それでも僕は正義の味方になりたかった。
正義の味方の親友と肩を並びたかった。
夜遊我世、これからいくども会合する男との出会いは後悔と悔しさから始まったのだ。
鞠亜編、完。
まぁ納得できない終わりかただと思いますが、今回で鞠亜編終了です。
詳しい話は、次回の番外編で話しますのでそれまでご勘弁を。
では!