こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
妙な沈黙があった。
僕も長谷部も、互いに睨み合っているだけで、動くうとはしない。
人工の海であるためか波は無く、船上に居るのにも関わらず揺れは感じられない。
あるのは時折吹く潮風だけだ。
先に動いたのは長谷部だった。
長谷部は壁に空いた穴を指でなぞり、匂いを嗅ぐ。
そして、理解した。
「これは……血液か?」
「ご名答」
僕は長谷部に自分の両手を見せる。
普段と変わらない手。
しかし、
指先には血液が集まりできた、弾丸があった。
数は左手に5発、右手に人差し指と中指を除いた3発、両手の指先に合わせて計8発。
「『血の弾丸』をお前に撃ったのさ」
『血の弾丸』、これが『僕の武器』だ。
そして同時に『化け物の武器』。
傷口から流れ出た血液が指先に集め、弾丸の形に形成し、発砲する。
理屈では理解できないが、経験の上に出来た技。
人はそれを能力の開花と言うだろうが、それは違う。
そんなわけがない、この技は僕の『化け物』の到着点の筈がない。
この技は通過点なのだ。
同時に僕が人間だと自分に言い訳できる最後の防衛線。
「初めてにしちゃぁ妥協点って感じだな」
僕はそんな心情を悟られない様にあえて軽い口調で話す。
「そうだな、『血の弾丸』……『Blood Bullet』……よし」
僕はこれからこの技で戦うのだ。
せめて名前を付けなくてはいけない。
「これからは『BB』と名付ける!!」
『BB』、これが僕の『武器』だ!!
「そうか、お前も能力者だったか」
長谷部は僕を睨み先程とは違う視線を僕に送る。
憎悪の眼差しを。
「相手が能力者だとわかってしまったら手加減はできないぞ」
その声は明らかに殺意が込められており、それだけで僕の戦闘意欲を引かせる。
だが、僕にはBBがある。
長谷部のペットボトルボムを基準に置いた戦闘スタイルはこの技で封じているのだら怖がる事はない。
長谷部が動いた。
ペットボトルボムを僕に投げつける。
「それはもう意味無いぜ!!」
僕は左手の親指のBBを放った。〈残り7発〉
BBはペットボトルボムに命中し、ペットボトルボムは空中で爆発、黒い煙だけを残す。
しかし
「なぁ!?」
その爆煙の中から大きな物体が飛び出て来た。
長谷部だ!!
ペットボトルボムを投げると同時に自分も僕に向かい走り出していたのか!?
爆発の中、自分が傷付く事を恐れないで来たのか!?
僕はとっさに右手の薬指のBBを放つ。〈残り6発〉
「お前が奇襲に驚き、発砲する事はわかっていた!」
しかし、長谷部は体を軽く曲げるだけでBBを回避し、そのままのモーションで僕を殴り付ける!!
顎に走る衝撃に僕の体は後ろに飛ばされる。
「ほらっ!!」
長谷部は再びペットボトルを投げつける。
今度は引っ掛からない!!
爆発した瞬間に爆煙にBBを叩き込んでやる!!
右手の小指からBBを発射し、ペットボトルを撃ち抜く〈残り5発〉
しかし、
「爆発しない!?」
ペットボトルは破裂はしたが爆発はしなかった。
代わりに液体が僕の体や回りに降り注ぎ、辺りを濡らした。
「ペットボトルボムじゃない!?」
この液体は何だ!?
水では無い、若干の滑りがある。
それにこの匂い……!?
「気付いたか?洗剤だよ」
そう言う長谷部の手には火の付いたマッチ棒がある。
「よく聞くだろ?『混ぜ合わせてはいけません』って注意書き……その意味を体で理解しろ!!」
長谷部はマッチ棒を投げつけた。
「う、うおぉぉぉぉぉぉ!!」
僕は長谷部に背を向け全力で走り出した。
後ろでは、何種類の洗剤が混ざり合った液体が目には見えない有毒ガスを作り出している。
それだけでも脅威なのに、マッチ棒の火が引火したら……
ペットボトルボムとは比べ物にならない程の爆発の音と衝撃が僕を襲う。
火は僕の服にまで引火し、体を焦がす。
「があぁぁぁぁぁぁ!!」
服を破り捨て上半身を裸にし、体を転がし、皮膚に引火している炎を消す。
長谷部はその行為を、予想していた!!
まだ消えない炎の中、僕の向かう長谷部の手には銀色に輝くナイフが握られている!
「くそっ!」
右手の親指、左手の中指、薬指、小指のBBを連続して放つ!!〈残り1発〉
「もはやそれは理解している!!」
長谷部は懐から何かを取り出し振るった。
たったそれだけで3発のBBが弾かれる!
「嘘だろ!?」
よく見ればそれは布だ。
だがキラキラと銀色に輝いている。
距離が近づくに連れその正体がわかった。
銀色に輝く正体は針だ。
針が無数に布に仕込まれている!
BBは針に被弾し、進行方向を強引に変えられたのだ。
だが、それでも布自体は3発のBBによりボロボロになっており、もはや意味をなさない。
それは製作した長谷部自身も理解しているのだろう、針の布を簡単に捨てる長谷部。
「銃を相手にする事を想定していない訳が無いだろが!!」
長谷部はナイフを突き刺しながら叫ぶ!!
ナイフは真っ直ぐ僕の顔に向かって来る!!
「う、うわあぁぁぁぁ!!」
反射的、
そう言うしかなかった。
僕はケンカは慣れているが、戦闘には慣れていない。
だから、戦闘時においても、反射的に日常で顔に向かう物を扱う動きをしてしまった。
つまり、両手で顔をガードしてしまったのだ。
この時、心の中で僕はしまったと後悔している。
BBはまだ1発残っていた。
左手の人差し指にだ。
もしもし左手だけでも動かさなければ、逆転出来たのかもしれない。
しかし、それは後の祭りだ。
結果、僕は左手、右手の両手を重ねてしまった。
ナイフは両手を貫き、そのまま顔に向かって来る。
僕はできるだけ体を反らしたが、ナイフは僕の両手ごと右の肩に刺さるのだった。
両手、右肩の激痛が僕を襲う。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
ナイフは両手と肩を縫い合わせる形で僕の動きを、左手の人差し指のBBを放つ行動を遮断した。
僅か3分間程の戦闘であったが、僕、小野町仁とスキルアウト『フロッグ』リーダー長谷部差鉄との戦いは、僕の敗北で幕を下ろした。
能力の覚醒回にもかかわらず負ける主人公は主人公では無いと思います。
ここで簡単に『BB』について説明します。
詳しい説明はあとがきで話しますが、BBは血の弾丸を精製し、発砲する能力だと考えて下さい。
拳銃を使う感じです。
逆にまだ付属効果はありますが『血を弾丸の形に形成し、発射する』それだけの能力なんですけどね。
次回は決着回をやる予定ですのでお楽しみに!!
ご意見、ご感想、等々ありましたら下さい。いやマジで!!