こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
今回は長谷部差鉄の犯行理由を書きます。
僕が小学生の時の話だ。
友達だったクラスメイトが能力を開花した事があった。
彼は自慢げに他のクラスメイトに能力を見せていた。
この時僕はただ興奮して彼の能力を見ていた。
だが
彼だけでは無い、彼が切っ掛けであるかの様にクラスメイトの何人かが能力を開花する様になった。
次第に数が増えていき、クラス替え間近の時期には能力者はクラスの3分の1は能力者になっていた。
その時からだ。
明らかに無能力者と能力者達との間に壁ができ初めていた。
そしてこの時からだ。
能力者達の僕ら無能力者達に向ける視線が変わっていったのは。
正体がわからない視線に僕は小学生でありなが恐怖を抱いた。
この時からだ。
つい昨日まで仲がよかった筈のクラスメイトが嫌いになったのは。
長谷部差鉄は勝利を確信していた。
岩のような顔面の口元が僅につり上がっている。
BBを使用した戦闘はこれが初めてだった。
使い方がわからなかった。と言い訳をするつもりは無い。
むしろ出来ないと言った方が正確だろう。
僕はこの能力を初めて使ったがこの能力の全てを理解していたのだ。
まるで呼吸をするかのように。
BBのメリット、デメリット全てを理解した上でこの結果が起きたのだ。
そう、長谷部差鉄が勝利を確信したように、逆に僕、小野町仁も敗北を確信していた。
灼熱の痛み、と言う表現を小説でよく目にする。
実際は比喩表現の1つなのだが、あえてこの状況にはこの表現が一番適しているのだろう。
し、灼熱の様に痛ェェェェェェェェェェェェェ!!
何!?何これ!?どうなってんだ!?痛い!!とにかく痛い!!手が!!両手が!変な方向に関節とか割と無視して右肩にくっついてる!!右肩も痛い!!ヤバい!!痛い!!肩に両手がナイフで縫われている!?痛い!!痛い!!痛い!!見ても痛いし!!感覚的にも痛い!!あれ?痛く無い?やっぱ痛い!!だって両手の掌貫通しているんだよ!?貫通しちゃいけない部分だよ!?漫画じゃ痛みを通り越して感覚が無くなるって書いてあったじゃん!?普通に痛い!!普通以上に痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!見ても痛い!!なんかもうとにかく痛い!!
多くの言葉が脳内でスパークし、現状を理解しようとしている。
しかし、言葉を発する口から出たのは単純で明白な叫び声だった。
「が、があぁぁぁぁぁ!!」
貨物のコンテナに背を預ける形で僕は長谷部に抑えつけられていた。
正確には長谷部はナイフ1本で僕の両手と右肩を貫き、一ヶ所に止めているのだ。
「動かない方がいい。このナイフも兵器の1つだ。当然一般に出回る様な安全な物ではない」
そう言うのなら、グリグリ押し付けないでくれませんかね!?
「ち、くしょう……強すぎだろあんた…」
「……お前達能力者を相手取るんだ、これでは足りない位だな」
「何で……あんたそんなに能力者を目の敵にしてんだよ?」
正直に言ってこの男ならそこら辺にいる能力者よりも強いだろ。
それはこの男自身にもわかっているはずだ。
正直ここまで能力者に恨みを持っているのは異常では無いのだろうか?
「……お前は知らないのだな」
「何が?」
勝者の余韻なのか、僕の何気ない質問に長谷部は答えた。
「今能力者による…無能力者狩りと言う遊びが流行っていることを」
「無能力者狩り……?」
「学園都市はレベルと言う差別がある。弱者は強者には勝てないと言う決まりがある」
「……」
何を言い出すのだ?
「そして今、そんな差別を利用した悪遊が密かに流行っているのだ」
「……」
能力者のレベルは人格的思想は考慮されない。
たまたま歪んだ性格の持ち主がたまたま高レベルの能力を手にしたらどうなるのか?
その答えが無能力者狩りと言う遊びなのだろう。
「それがこんな事と何の関係があるんだ?」
「関係か……あえて言うなら正義の為だ」
心臓が一瞬止まった。
こいつ今何て言った?
正義の為だと?
「学園都市は力が全てを仕切る。弱者は強者に虐げられる……刈られる。そんな事があっていいのか?ただ運だけで、運がいいだけで力を手に入れた幸運な連中が、運が悪いだけで力を手に入れられなかった不幸な者達を傷付けていいはずが無い!!そんなのは悪だ!!なら弱者は武器にすがり力を欲する事が正義ではないのか!?」
「……」
長谷部の言葉を聞き、無様にも同感している僕がいた。
否定できない。
正論だ。
僕自身、こんな化け物の能力を手に入れるまで何の力も無いレベル0だった。
不意に小学生だった頃の記憶が蘇る。
初めて能力を間近に見た時感情。
僕は興奮して見ていた。
同時に
羨ましいと思った。
クラスメイトの何人かが能力者なった。
妬みがあった。
クラス替えの間近、彼らから送られる視線。
あの頃は正体がわからず戸惑ったが、今ならその正体がわかる。
哀れみ、優越感、至福感、それら全てが混ざりあった視線だったのだ。
それはまるで、こう物語っているようだった。
羨ましいだろう?可哀想な負け組め。
学園都市独特の残酷な選別が小学生の時から僕を攻撃していたのだ。
僕は長谷部差鉄の思想がわかってしまった。
この貨物船の中にある大量のコンテナの中身がわかってしまった。
恐らくコンテナの中身は、全て先程から僕を苦しめている、武器だ。
そしてこの男がやろうとしている事は、革命だ。
長谷部はこの残酷な選別による現実を無くす為に戦っているのだ。
今までの長谷部が使っていた、武器を思い返す。
ペットボトルに火薬を詰め込んだ、ペットボトルボム。
毛糸の静電気と、ライターオイルの引火を利用したトラップ。
針を重しの力でダルマのように上に向かせる、ダルマバリ。
混ぜ合わせると有毒な引火性のガスをだす、洗剤入りペットボトル。
このナイフもあえて釣り針の様に抜けにくく加工した包丁だ。
どれも、特別な物は使っていない。
下手したらコンビニやスーパーで簡単に手にはいる物ばかりだ。
そして、そんな身近な物で簡単にできる武器で僕は敗北した。
長谷部はこの戦闘で証明したかったのだ。
能力者程度、こんなガラクタでも簡単に勝てる事を。
長谷部は能力者に怯える無能力者達にこう言いたかったのだ。
俺らは能力が無くとも、能力者に勝てるんだ、と。
長谷部は無能力者を虐げる能力者にこう言いたかったのだ。
俺らはお前らの下じゃない、と。
ただこの弱肉強食の世界を平等にしたかったのだ。
彼は、僕の親友とは違うタイプの、ただの正義の味方だったのだ。
そんな彼に対決している僕は、正しく悪だ。
「は、はははっ……」
「……ぬぅ?」
「はっはっはっはははっはははははははは!!」
僕は笑っていた。
今までのダメージや損失した血液、そして何より自分の無様な悪役っぷりを知ってしまったからだ。
この男の主張は間違っていない。
認めるさ、確かにあんたは正義の味方だよ。
僕の正義の定義、『他人の為に戦うのが正義』をあんたはやっているだけじゃないか。
そんなあんたは紛れもない正義の味方だよ。
それに比べて僕は悪だ。
正義の味方を相手にしている僕は悪そのものだ。
正義の味方と悪が戦ったら正義の味方が勝つに決まっているじゃないか。
そんなの子供でも知っている。
…………だけど、
何よりもおかしいのは、
不格好にも悪である僕が、
悪で覆われた真実の中から、
自分は正義だと言い訳できる理由を探していることだ。
だが、悲しい事に
探しても、探しても、僕を正義にする理由が見つからない。
佐天涙子の救出。
無駄な争いの回避。
土御門との約束。
等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々等々………
いくつもの言い訳はどんどん出てくる。
だげど、正義の革命を起こそうとする、長谷部差鉄の屈強な正義の前では取るに足らない下らない物ばかりだ。
だから僕は
開き直った。
「はっはははは!!はっはははははははは」
僕は悪だ!!
それでもいい!
だが!!
「それでも僕は……お前に勝ちたい!!」
無様でもいい!
カッコ悪くたっていい!
僕は自分の目的の為なら、それがちっぽけな目的の為だとしても!!
弱肉強食のバランスを均一にする、何て大層な正義を
悪で壊したい!!
気が付けば自分でも知らないうちに僕は笑うのをやめていた。
「………それでもいい……」
「何?」
「僕はそれでも、あんたは間違っているって言う!!」
「……ほう」
僕は無様に、まるで子供の我が儘の様に言葉を吐き出していく。
「確かにあんたは間違っていない!!だけど間違っている!」
無茶苦茶な事を言いながら僕は肩や両手の痛みを隠しもせずに前に進む。
ナイフが掌の肉を破り、肩の骨を削る。
「あんたの主張はガキの妄言だ!!」
違う、ガキは僕だ。
「そんなのは小学生で卒業する考えだろ!!」
違う、僕は逃げたんだ。残酷な差別に気が付かないフリをしていたんだ!!
「それでこんな事をやるなんて、カッコ悪いぜ!!」
違う、そんな現実に苦しむ無能力者達を助けようとする、この男は無茶苦茶カッコいい。
「僕は」
僕は
「あんたを倒す!!」
正義の味方側の悪役として、戦う事で正義と向き合いたい!!
敗者の最後の抵抗とも取れる第2ラウンドが幕を開けた!!
しかし、幕引きはすぐに訪れるだろう。
いかがでしたか?
お復習と補足として、長谷部差鉄の正義は『平等』。正確には『弱者が力を求める事は正義、逆に強者が存在するのは悪』となっております。
学園都市独特のレベル分けによる差別、それに納得できない長谷部は身近な物でできた簡単な武器で無能力者達でも能力者達同等の能力があると、知らしめる為に無能力者達による戦いの準備をしていました。
彼等は貨物船の中で大量の武器を製作し、それをばら撒く計画をしていました、しかし、いくら簡単に手に入る物でも大量に必要となれば金額は膨大になってしまいます。その資金を集める為に長谷部は様々な犯罪を犯し金銭を集めていたのです。
作者の中では、能力の開花は精神的成長期でもある小学生から始まると思っています。
小野町仁はそんな正義に共感してしまいますが、同時に心のどこかで間違っていると考えていたのかもしれません。間違っていないのに間違っている、そんな矛盾を解決、または否定する為に最後の抵抗を起こしたのかも知れないです。
では、この辺で!
ご意見、ご感想、ご質問等々ありましたら、下さい。