こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
人差し指に残っているのは偶然では無い。
あえて、人差し指に残しているのだ。
理由は簡単。
『命中率』だ。
BBの発砲した際の進行通路は指先の向き限定である。
発砲の際には指先を相手に向けなければならない。
手にある、5本の指の中で、肩から一直線に伸びているのは中指と、そして人差し指。
この2本の指でのBB発砲の際の命中率は他の3本と格段に違う。
そして、中指と人差し指では個人的には人差し指が命中率が上だ。
だから、人差し指のBBを残した。
確実な勝利の為に。
しかし
現在、僕の両手は右肩に重ねる形でナイフで止められている。
同時にたった1発左手の人差し指に残っている、血の弾丸、BBの発砲も封じられた。
だが、
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
なにも僕の武器はBBだけでは無い!!
「!脚蹴り!?」
確かに僕は両手の動きを封じられている。
しかしそれは、言い換えれば押さえ込んでいる長谷部も動きを制限されていると言う事だ。
加えて、押さえ込んでいる為に長谷部と僕の距離は近い。
その場に居れば十分に僕の脚蹴りの射程距離範囲だ。
更に僕の体は常人よりも僅かだが強くなっている。
その蹴りは当たればコンクリートだろうと、破壊する凶悪な凶器になる。
しかし、だが、やはり。
「いくらか、恐れなければならない脚蹴りだが、動きは素人の領域を出ないな」
当たらなければ意味がない。
長谷部はただ後ろに下がるだけで僕の攻撃を回避した。
これが僕と長谷部との戦力の差だ。
スポーツと同じだ。
プロの選手は途方の無い練習を積み重ねその地位にいる。
そんなプロに素人が勝てる筈がない。
それは『喧嘩』と言うジャンルのスポーツでも同じだ。
練習は経験とも言い換える事ができる。
圧倒的な経験の差で、僕と長谷部には大きな差がある。
よって喧嘩のプロである長谷部には素人の僕の動きが手に取る様に知られてしまうのだ。
しかしそれでも、突破口はある。
長谷部の常に一手先をみる能力は経験からくる物だ。
逆にその範囲外、予想外の展開には反応出来ない。
事実、僕のBBの初の攻撃や先程の蹴りは視界・思考の外、両方からの死角からの攻撃には長谷部は読めていなかった。
つまり、長谷部の意表をついた攻撃のみ僕の攻撃が通じるかもしれないのだ。
(プランは出来ている、後は覚悟のみだ!!)
覚悟は出来ている。
プラン、現在それは僕の思惑通りに進行している。
後は長谷部の動き次第。
「怖いか?」
「何?」
「僕の攻撃、確かに当たらないと意味がない。だけどそれはあんたも同じだ」
僕らの距離は2メートル弱。
僕の足蹴りによる射程距離範囲ではない。
それは長谷部も同じ。
長谷部も僕に止めを刺すために近寄らなければならない。
つまり、距離を縮めなければならないのだ。
確かに長谷部には一手先をみる能力を持っているが、それは確かな事ではない。
僕の体はボロボロで足を一歩でも動かせば倒れてしまうだろう。
そんな僕を仕留めるには渾身の拳を叩き込まなければならない。
渾身の拳を叩き込むのなら回避によるカウンターは力が足らない。
一瞬だが筋力を貯める必要がある。
その一瞬を僕が見逃すはずがない、長谷部が動きを止めた瞬間、今度は僕の文字通り死力の足蹴りを食らわせてやる。
いくら先を読んでも回避できなければ意味がない。
だがそれは
「悲しいな」
長谷部は落胆にも似た哀れみの視線を送ってくる。
僕の考えは長谷部にもわかっているのだ。
長谷部は全然不利ではない。
彼には近接戦闘以外にも攻撃法を持っているのだ。
「お前の攻撃を食らうつもりはない、そしてその可能性を僅でもかける義理はない」
長谷部は腰に取り付けてあるバックからペットボトルボムを取り出す。
そして導火線に火を点火し、笑うのだ。
このペットボトルボムが長谷部の最後の攻撃。
そして長谷部の戦闘の基礎戦術。
長谷部は戦いに生き甲斐を感じる男ではない。
このスキルアウトのリーダーが求めているのは確実な勝利だ。
怖いのはペットボトルボムではない。
確かにペットボトルボムは脅威ではあるが、ペットボトルボムを回避する瞬間に来る長谷部の攻撃だ。
この方法なら回避に気を使ってしまう僕が攻撃を出す事はない。
よって長谷部は僕の攻撃を気にする事なく、止めを刺せるのだ。
僕には2つの選択肢があった。
ペットボトルボムを回避し、長谷部に敗北する選択肢。
ペットボトルボムを回避せずに長谷部に敗北する選択肢。
残念な事にどちらも敗北の選択肢だ。
これが悪役の末路。
長谷部がペットボトルボムを投げ走り出した。
「終わりだ!!」
しかし、
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
ペットボトルボムに対し僕が取っ選択肢。
それは!!
「!!なに?!」
僕はペットボトルボムに向かい飛び込んだ!!
(どうせ負けるなら!!派手に負けてやる!!)
空中で僕の体とペットボトルボムは打つかる。
そして
ドォォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォン!!
ペットボトルボムは本来の威力で爆発し、僕の身体を吹き飛ばした!!
痛みは感じない。
赤い閃光が視界を覆い、意識を壊す。
散り行く肉片。
断面的な意識。
僕の戦いは敗北した。
悪役の末路はこんなものだ。
そして……
ここからは……悪足掻きだ!!
「Guooooooooooooooo!」
消え行く意識を掴み、強引に引き戻す!!
空中!!
落下中の体からは爆発による煙が上がっている。
下は船の外、つまり海の上だ。
暗がりで漆黒の海が僕を咀嚼しようと真っ黒の口を開けているように思えた。
「Shaaaaaa!!!」
身体を捻り長谷部を探す。
いた!!
船の上で立ち尽くすだけの長谷部。
長谷部は頭を使う男だ。
そして計算外の出来事には、僕が自ら爆発に巻き込まれる行動力にとっさに動けない!
一瞬。
この一瞬が僕が狙っていた一瞬だ!!
右肩に止められた左手の指を伸ばす。
人差し指だ!!
地上では、脚が船についている状態では不可能な動きを、空中という自由空間で行っただけなのだが。
ようやく!!
指先のBBの照準がようやく!長谷部を捉えた!!
「HAaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
発砲音によく似た、音を轟かせながら僕の最後の武器、人差し指のBBを発砲した!
血でできた弾丸は引き込まれるように長谷部の体に向かいそして。
「ぐあっ!?」
長谷部に被弾した!
ようやくだ。
ようやく当たった。
BBは通常の弾丸とは違う、
そもそも化け物の武器が普通の武器と同じ功績の筈がないではないか、
BBは長谷部の左胸に被弾し、
皮を破り
脂肪を裂き、
筋肉の繊維を押し退け、
内蔵を破壊する。
そして
「!!があっ!?」
長谷部は被弾の際の力で若干後ろに下がったが、次の瞬間、倒れ込んだ。
拳銃による狙撃ではあり得ない現象。
何度も言うがBBは『血』でできた弾丸である。
血には当然血液型が存在し、他の血液を受けると、拒絶反応が起こるのだ。
それに僕の血液は人間の物ではない化け物の血液なのだ。
人間が化け物の血液に適合する筈がない。
今、長谷部の体内では、化け物の血液が暴れ回っているのだ。
化け物は他の血液を攻撃し、内蔵を攻撃し、骨を攻撃し、神経を攻撃する。
まるで毒の様な作用をBBは持っているのだ!
戦いの幕は降りた。
長谷部がピクピクと痙攣しているのを見ながら満足そうに僕は落下していた。
そして
海に引きず込まれるように深い海に着水していったのだ。
ゴボゴボと口に海水が入り込み、呼吸を無くす。
虚ろな僕の視界には、僕の血で濁った海水が見えていたが、それもぼやけてしまう。
死ぬかも知れない。
しかし、
そんな恐怖よりも先に僕が思ったのは
(ざ……まぁみ……ろ……)
そして僕の意識は
完全になくなった。
わかったていたのは深い深海に僕の体が落ちていく感覚だけだった。
少し強引に終わらせて頂きました。
次回、エピローグです。