こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
やっと。
佐天編、終了!
夢を見た。
悲しい夢だ。
卒業式。
「………ごめん」
アイツはそう一言だけ言って去っていった。
僕はただその背中を見ていた。
舞い散る桜の花びらを背に受けたそいつの背中はどこか悲しそうだ。
ごめん。
その一言にどんな意味が込められていたのかこの時の僕は、いや、今でさえわからない。
でも、その一言にどれだけ救われたのかはあの時も今もわかっていた。
そいつは初めて能力を開花した僕のクラスメイト。
大切で、嫌いになって、大切な大事な友達だった。
目が覚めると、つい二日前まで見ていた天井があった。
病院だ。
時刻はすでに深夜を過ぎているのだろうか、窓から差し込む光は月明かりだ。
「……うっ」
体の自由が重い。
この感覚は包帯が巻かれている為か。
状況がいまいち飲み込めないがはっきりとしている事がある。
つまるところ僕は、
「……生きている」
「元気そうで何よりもだせ、コミヤン」
呟きに返答が来て驚き、辺りを見渡すと。
「土御門!!」
僕のクラスメイトの悪友、土御門元春がいた。
こちらは目立った外傷は無く僕よりもピンピンしているようだ。
「どうなったんだ?」
「それはどれを聞きたいんだ?」
「全部だ」
「全部と言うとながくなるにゃー」
「いいから」
僕に促され土御門があの後の事を話してくれた。
「取り合えず、テロを目論んでいたフロッグのメンバーは全員逮捕されたぜ」
「長谷部は?」
「フロッグのリーダー、長谷部差鉄は逮捕当初は病院に搬送されたが、今は意識が回復してアンチスキルに連れて行かれたぜ」
「そもそも、何が起きたんだ?」
これから先は土御門が話してくれた事を簡潔にまとめたものだ。
土御門は涙子ちゃん含む人質にされていた少女達はすぐに見つかり、解放された。
その際にフロッグの残党数人と戦う事になったが、難なく撃退。
「気になる事があるんだけど」
「なんだ?」
「フロッグの奴ら、『簡易的な兵器』を作っていたのに何でそれを使わなかったんだ?」
あの意表を突いた兵器を使えば多少は僕らと渡り合えたのではなかったのだろうか?
「それは推測だが、あの兵器はまだ未完成だったからじゃないかにゃー」
「未完成?」
「そもそも、あれは言うならば小学生の工作ぜよ、それに安全性とかまだまだ曖昧な部分もあった」
「……長谷部か」
「恐らく長谷部差鉄は自ら実験体として敢えてあの兵器を使っていたんだろう」
仲間に危険な事をさせない為に自らを犠牲にしていたのか?
つくつぐ、正義の味方の様な男だ。
「……続けるぞ」
土御門は彼女達を解放してすぐに僕の元へ駆けつけたらしい。
そこで目にしたのが僕が落下中の時らしい。
「じゃあ……見ていたのか?」
「まぁ……な」
「……そうか」
「……」
あの時の僕は果たして人間だったのだろうか?
化け物ではなかっただろうか?
そんな化け物の部分をクラスメイトに見られてしまった。
怖がられてしまうかも知らない、避けられてしまうかも知らない。
一瞬そんな恐怖を考える。
「コミヤン……コミヤンは化け物だぜ」
「っ!?」
「コミヤンは科学ではない、俺の知らない能力を使っていた。それに気が付いていないのかも知れないがあの時のコミヤンの眼は、人間ではなかったぜ」
嫌な汗が出てくる。
そして土御門は……
「なぁーんてなっ!!」
急に口元を緩めいつも通りに笑って見せたのだ。
「………へぇ?」
「やーい!!引っ掛かってやんのー!!コミヤンって以外と寂しがり屋さん?」
僕を指差しゲラゲラ笑う土御門。
状況が理解できない僕に、ようやく目元の涙を拭いた土御門が言う。
「コミヤンは確かに化け物だぜ、だけどなコミヤン……ここはどこだと思ってる?」
「……ここ?」
「ここは学園都市だぜ?化け物はゴロゴロそこらじゅうにいる。それに俺っちはスパイだからコミヤンの想像出来ない化け物を沢山知っているんだぜ」
「…………」
「コミヤンは化け物だ、だけどそれがどうしたんだ?」
「…………」
「コミヤン自身がどう思っていようと、コミヤンはコミヤンだ。俺はそんなヤツと友達で幸せだぜぇ」
「土御門……」
「なんだ、コミヤン?」
こいつはこいつなりに僕を励ましてくれている。
そんなやつに言える事は一つしかないじゃないか。
「ありがとう」
「……いいって事よ」
僕はこんなやつを友達に持てて幸せ者だ。
「だけど、僕は自分勝手な人間だ」
「正義の味方側の悪役か?」
「何で知ってんだよ!?恥ずかしいだろうが!!」
「だから裏にいると色々入って来るの」
「なにそれ、怖い」
心の中までわかるって恐怖だろ?
「それは置いておいて、多分そっち大丈夫ぜよ」
「はぁ?」
「これだけはいっておくぜ、正義の味方って言うのは自分と他人が決めるんだぜ。後半分頑張れよコミヤン」
謎の問題を残し、土御門が帰ってしまった。
その意味を理解したのはもう一度寝て、起きた時にわかる。
土御門が帰り、一人になった僕はベットで寝ていた。
そんな僕が目を覚ましたのは何と次の日の夕方だった。
自然に目覚めたのではない、何かが僕の上に落ちてきた衝撃からだった。
「グフッ!?」
何だ!?
訳がわからない!
僕の上に乗っているモノは何だ!?
それは確かな重さを持っているがそれぼど苦に鳴らない程度の重さだ。
大きさはデカイ、僕の身長よりも若干小さい程度だろうか?
それに微かに動いている。
生き物か!?
こわっ!!
目が覚めたら、自分の上にデカイ生き物が乗っている状況は寝起きには怖すぎる!!
つーか!!
これ人間じゃね!?
あ、人間か!
よかった~……
じゃねーよ!!
人間だったら、だったで余計に怖いわ!!
そんな事を考えて恐る恐るその人間を見ると……
「涙子ちゃん?」
見覚えのある背中。
それはまさしく佐天涙子のそれだった。
涙子ちゃんは布団越しに僕の腹部に顔を埋めているだけだ。
そして突然顔を上げる涙子ちゃん。
「仁ちゃーん!!」
彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「え!?ちょっ!!おわっ!?」
そしてうろたえる僕に抱きついて来たのだ。
「よかった……よかったよぉ……」
何だ!?
何が起きてる!?
何で女子中学生に抱きつかれているんだ!?
この状況を誰かに見られたら誤解さらるだろうが!!
あ
「……」
カエル顔の医者あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
何?!
今の!!
なんか暇ができたから顔でも見に行こうかなって感じで病室に入ったら、いけないタイミングだったかな的な感じで去っていく感じ!!
違う!!
説明出来ないけど!!
これは違うんだ!!
そんな事を考えていた僕を余所に、涙子ちゃんはひたすら泣き続け、落ち着いたのは数十分後だった。
「落ち着いた?」
「はい……」
目もとが真っ赤に腫れている事を差し引いても、彼女の顔は真っ赤だった。
どうやら今になって羞恥心が芽生えたのだろう。
しかし、何とも気まずい雰囲気になってしまった。
よしここはベターな話題で、年上らしく振る舞うか。
「さっきはオドロイタヨ」
……どうやら僕も羞恥心が出てテンパっているようだ。
「私……心配しました」
「ん?」
「私が捕まって……仁ちゃんが助けに来てくれて……だけど……火がついて……助かった後で聞いたら入院しているって聞いて……全部………私のせいなのに……ごめんなさい……」
そうか、確か彼女が知っているのは牢屋で僕が燃え出した所までだったけ?
「いやいや、悪いのは向さんだろ?そんな泣くなよ、それに僕は結局何も出来なかったし……」
そして僕は最後には君を助ける事を諦めた人間だ。
そもそも、僕があの場所に行ったのは違う目的が有ったんだから。
そんな最低な人間にその言葉を受けとる資格はない。
「それでも!仁ちゃんは私の正義の味方です!!」
「!!」
彼女の言葉を受け、ハッとした自分がいた。
僕が正義の味方?
ありえない。
僕は悪役だ。
自分の事しか考えていない人間だ。
そんな僕が正義の味方だって?
一瞬、否定しようと口を開けたが、不意に土御門の言葉が蘇る。
『正義の味方って言うのは自分と他人が決めるんだぜ』
つまりこういう事なのか?
僕がどう思っていたとしても、目線を変えたらまったく違う事に変わるのか?
僕、小野町仁は正義の味方側の悪役だ。
しかし、
佐天涙子にとって僕は正真正銘の正義の味方だったのか?
そんなこと考えた事はなかった。
「……ありがとう」
「こちらこそ」
涙子ちゃんの笑顔は明るかった。
この笑顔は僕が守ったもの。
今回、僕は正義の味方になっていたのか。
しかし
(それでも僕は正真正銘の悪役だ)
今はまだ。
(いつか必ず、自分と他人が認める、正義の味方になってやる!!)
涙子ちゃんの笑顔を見ながら、そう決意する僕がそこにいた。
この物語は僕、小野町仁が正義の味方になる為の物語だ。
そう言えば青髪ピアスから借りた件のエロ本はどこにいったのだろう?
「これが……仁ちゃんの趣味……ふむふむ……長髪の黒髪……巨乳……かぁ」
佐天涙子がこの日から髪を伸ばし始めた理由は余り知られていない。
佐天編、完。
少ししたらあとがきを投稿しまーす。