こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
作者自身、展開についていけてません。
「吹寄!!」
僕の呼び掛けに答えず、吹寄は出て行ってしまった。
そして、愚かにも自分の失敗に気が付いた。
あの時の事件は、最早僕にとって悲しむ出来事ではない。
過ぎた事を引きずる暇も無く、新たな事件に遭遇してしまった事もあるが、基本的には終わった事を深く考える程僕は頭が良くないからだ。
しかし、
吹寄は違った。
吹寄制理にとってあの時の事件は未だに解決できていなかったのだろう。
だから、あんな質問をしてきたのかも知れない。
あの質問で、何かはわからないが、彼女は何らかの形で救いを見付けたかったのかもしれない。
それなのに僕は
「クソッ!!」
何にも考えずにふざけた答えを出してしまった。
僕は枕を殴り付ける。
そして、
吹寄を追いかける為にベットから出て、ドアに向かった。
しかし、
僕がドアを開ける前に、ドアが開いたのだ。
そこに立っていたのは
「吹寄?」
今さっき出ていったばかりの吹寄だった。
「なんだ?」
「え?あぁ…いや、その…え?」
「あなたは、一応怪我人なんだから、寝てなさい」
「あ、あぁ」
なんだ?
女心は変わりやすいって話があるけれど、こんな急に変われるものなのか?
「全く、ほら、林檎剥いてあげるから大人しくしていなさい」
吹寄は先程の涙が嘘だったと思える程きびきびしている。
僕は頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、彼女の言葉に従いベットへと向かった。
急に話は変わるが、奇跡ってあるんだな。
偶然の事が時に人命を助ける事になるとは、驚きだ。
この時ほど僕は奇跡に感謝したことはない。
奇妙な跡には幸運がある。
もしもこの時、奇としてやはり吹寄の様子がおかしいと思わなかったら。
もしもこの時、奇としてその事を口に出していなかったら。
もしもこの時、奇として振り向かなかったら?
そんな色々な奇の跡をたどり、僕は幸運にも命が助かった。
振り向いた僕が見たのは
果物用ナイフを僕に向け突進してきている吹寄だった。
「うおぉぉぉ?!」
反射的に僕は両手で、吹寄のナイフを持つ手を握りしめ、彼女の進撃を止めようとした。
しかし
いくら、女の子と言っても、勢いの付いた衝撃を止められず、僕はベットへと押し倒される。
倒れた拍子に彼女を掴む手を離さなかった事に自分を誉めたい。
けれども、いくら誉めても事状況、吹寄に殺されかけている状況が変わる事はないので、気は抜けないのだが。
「吹寄さーん!?こんな寝起きどっきりは求めていませんよ!?」
ギリギリと今度は全身の体重を乗せて倒す力をかけ、ナイフを僕に刺そうとする吹寄、驚いた事に、彼女はこれから人を殺害するのにも関わらず笑っていた。
「やめろ!!吹寄!これは洒落にならない!!」
そんな僕の言葉に吹寄は笑顔のまま答える。
「あらあら?この程度でもう降参なのかしらぁ?」
その言葉に僕は冷や汗と共に眉を潜める。
僕が知るかぎり、吹寄はこんな言葉使いをしたことが無い。
彼女は真面目で、優しくて、人を間違っても小馬鹿にする用な事は言わない。
では、目の前で僕を殺そうとしているのは誰なのだ?
いや、殺そうとしているのは吹寄だ。
しかし現在、目の前にいるのは彼女であって彼女ではない。
まるで、意識だけを誰かに乗っ取られみたいに。
「能力による……支配!?」
「それはわかっちゃう?うふふ、流石は『化け物』さんね」
こいつ……、僕の事を知っている。
こいつは敵だ。
何らかの能力で吹寄を操り、僕を殺そうとしている!!
しかし、なぜだ!?
僕はあくまでも人の道に外れた事はしていない。
そもそも人に殺意を抱かれる理由は無い筈だ。
「あらあら?意外そうな顔ね?」
「誰だ!?てめぇ!?」
「おーしーえーなーい☆」
ググッ…
吹寄(を操る何者か)が体重を更に乗せてナイフを押し込む。
ポタポタとナイフに触れている手から血が垂れてくる。
「くっ!!あ……あぁ!!」
僕はあえて血塗れの右手を放し、ベットの端に手を伸ばした。
支えている手の片方が無くなった事により、ナイフが下がり、首に触れた。
「くっ…ちくしょう……」
僕は必死にベットの上辺りを右手をばたつかせて、探す。
「あらあらぁ?何かお探しぃ?もしかしてナースコール?」
そう、僕は必死にナースコールを探している。
しかし、いくら探しても見付からない。
首を動かしたくてもナイフが触れているので下手に動くと刺さってしまう。
「でも残念ねぇ、あと少し届かないわよぉ?」
吹寄(を操る何者か)はニヤニヤ笑いながら更に力を加える。
もう限界だ。
「……だったら、プランBだ!!」
「……は?」
バシュッ!!
発砲音に似た何かが病室に轟き、吹寄(を操る何者か)が持っていたナイフを弾く。
ナイフは音を立てて床に落ち、不意を突かれた吹寄(を操る何者か)に隙が出来た。
「オラッ!!」
その隙を見逃さずに、僕は無防備になった彼女の身体を押し退け、死のラインから脱出した。
そして倒れた彼女の喉元を左手で押さえ、右手の中指を突きつける。
右手の中指、その先には……
「あぁ…それが噂の『血の弾丸』ってやつかしら?」
右手から出血していた血液から精製された弾丸が彼女の眉間に狙いを定めいた。
「ナースコールを探すフリをしてそれを発射する準備をしていたなんて貴方意外に役者ね」
「うるせぇ、お前には聞きたいことがあるんだ、黙ってろ!!さもないと……」
「撃ち込むぞっ☆でもそれは不味いんじゃない?」
「……」
吹寄(を操る何者か)は状況が逆転しているのにも関わらず変わらずに笑っている。
「そもそもこの身体は私の身体じゃない、貴方の知り合いのモノよ?この身体を壊しても私には何の損害も無いことはわかっているでしょ?」
確かにそうだ、吹寄はただ操られた哀れな被害者なのだ。
しかし
「……それで?」
「え?」
「確かにこの身体は吹寄のモノだ、それを壊してもあんたには関係ない……で?それがなに?」
「な、何を言って?」
初めて吹寄(を操る何者か)が動揺し始めた。
確かに今、吹寄(を操る何者か)を攻撃したところで何の解決にもならない。
しかし
「それでも少しばかり僕の気は紛れるって言っているんだよ」
実の所今の僕は理不尽で一方的な展開に巻き込まれた事に、かなり苛立ちを覚えている。
「……本気なの!?」
「あぁ本気だ」
当然嘘である。
確かに苛立ちはあるが、それとこれは別の話だ。
僕は正義の味方側の悪役であるが、これがもし僕の知らない、関わりの無い、例えば看護師さんとかだったのなら躊躇はするがBBを撃ち込んでいただろう。
しかし、
残念な事に、吹寄は僕の大切なただのクラスメイトだ。
ただのクラスメイトであるが故に、僕は彼女をどんな理由があるにしても傷付ける事は無い。
しかし、馬鹿正直に生きていられる程、正直者ではないので、むしろひねくれている方なので、その事は言わないし、気が付かれたくない。
大切なのは目の前に居る、吹寄を操って居る何者かの正体を知り、この攻撃にどんな理由があるのか突き止める事だ。
そんなことを考えていたら、吹寄(を操る何者か)は溜め息をついた。
まるで、予想していた展開で、正直つまらない、と言う様に。
「あぁあ、やっぱり貴方はそう言う性格の持ち主なのね」
「なんだよ?」
「どれだけ人を助けても、所詮は悪役なんだなぁって思っただけ」
「……」
「ま☆どうでもいいわ☆こっちはもうお役御免だしぃ」
「お役御免?」
「そ☆私の仕事は今の状況を作り上げること」
「……は?」
「簡単に言うと『吹寄制理を小野町仁が攻撃しようとしている状況』を作る事が私の仕事」
「何を言って?」
「あらあら?忘れたの?つい最近の出来事なのにぃ?」
僕の中で何かの警告音が鳴り出した。
何を言っているんだ!?
この状況?
僕が吹寄を襲う状況?
つい最近の出来事?
バラバラの言葉のパズルが繋がっていく。
僕の中で次第に嫌な予測がたてられていく。
僕は知っている。
吹寄を誰よりも大切に思っている人間を。
僕は知っている。
そいつは吹寄を助けることに異常なこだわりを持っている事を。
僕は知っている。
僕がそいつから吹寄を助け出した事を。
「……まさか」
僕が予想を口に出すことはなかった。
理由は簡単だ。
そいつが現れたのだから。
「何をしているんだ!!??貴様!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫び声と、ガラスが割れる音、それに気が付いた時には僕の身体は何かにぶつかり、病室の壁に叩きつけられていた。
「小野町仁……貴様!」
病室の窓を割り、中へ浸入してきた人物は、明らかに僕に向かって敵意の眼差しを送っている。
そこにいたのは
「……齋藤誠!?」
異常性の恋愛者だった。
とある研究会機関のレポート1
『精神面による能力の変化実験』
学園都市に在学する学生の殆どに行われている『能力開発』。
現在、そのカテゴリーはlevel0からlevel5の6つに別けられている。
学生達の能力は今後の科学時代の進歩に必要不可欠なものだ。
しかし、残念ながら、現在の学園都市と言えど、高レベルの能力者の数は限られており、殆どの学生は微弱な能力しか持ち合わせていない。
高レベルの能力者の増幅。
この課題が今後の科学の発展の最要事項になるだろう。
そこで我々が着目したのは、精神面に置ける能力使用時の性能の変化だ。
空間能力者を例に挙げると解りやすいが、高能力の使用時は複雑な演算が必要になる。
集中力が著しく低下している際、いくら高能力者であっても能力の性能が低下することはよくある話だ。
しかし、逆にもしも何らかの理由で意識が著しく向上していたらどうなるのか?
これは仮説の域だが、低レベルの能力者でも一時的に高レベルの能力者の領域に到達するのではないのか?
そこで我々はある実験を行うことにした。
齋藤誠が小野町仁を襲撃したのと同時刻。
彼等は小野町仁が入院している病院の正面にそびえ立つビルの屋上にいた。
「おうおう、始まった!!始まった!!」
少年は手すりに乗り出しながら、笑っている。
「いやいや、楽しみだ、楽しみだ!!」
少年はニタニタ笑いながら別に誰に返答を求める訳でもなく言葉を発する。
しかし、その答えを求める訳でもない言葉に返答する少女がいた。
「そろそろ実験の開始時刻です。とミサカははしゃぐ貴方に若干引きながら報告します」
「わーてる!!わーてる!!俺が進化する大切な実験の始まり始まりー!」
少年は笑う。
その姿はまるでどこかの正義の味方側の悪役によく似ているのは気のせいでは無い。
この瞬間、学園都市全体を巻き込む大騒動が静かに、そして激しく、動き出した。
病院編、完。
言いたいことはわかります。
今はなにも言わずに、そっとしておいて下さい。
明後日にあとがきを投稿する予定です。