こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
時間は少し前後入れ替わるが、これは小野町仁が襲撃者、歩夢に倒されたすぐあとの出来事である。
小野町仁が床に倒れる音を聞きながら斎藤誠の視線は襲撃者に向けられていた。
「さてさて、あんたはどうスッかな?」
歩夢と名乗った男は斎藤誠を見て聞いてきた。
しかし、本当に、見れば見るほど、似ている。
忌々しい程に歩夢は小野町仁と似ている。
しかし、そんなことは斎藤誠にとって2の次だった。
問題はこの吐き気を催す悪が、吹寄制理に何か危害を加えないかどうかだ。
よって、
「『W.A.L.3』!」
「あ?!」
斎藤誠は周囲の風を板状に凝縮し、歩夢を上から下へ、押し潰した。
しかし、
バシュ……
「……あ?」
「?!」
無惨にも、風の壁は霧散に散ってしまう。
歩夢が何かしたわけではない。
その証拠に歩夢はなぜ攻撃が止んだかわからないようだ。
一方斎藤誠は
(クソッ!!『時間切れ』か!?)
悔しがっていた。
本来、彼の能力は扱いが難しく、大村義による『能力調整』が必要不可欠なものになっている。
調整の手段は、彼女に肉体的接触が必要であり、しかもその調整には制限時間が儲けられているのだ。
それを過ぎてしまうと、斎藤誠の能力はただ風を吹かせるだけという、お粗末なものになってしまう。
それが原因なのは明らかだった。
だが、風を吹かせるといっても最大でlevel3程度の威力を出せるので、下手にそれを受けてしまうと、無傷ではすまないのだが、斎藤誠はそれを行うことはないだろう。
理由は簡単だ。
先にもあるように斎藤誠の能力は現在扱いが難しいものになっている。
もしも彼が調整無しに能力を使用した攻撃を行ったとしたら、確実に目の前にいる全ての人物に被害が及ぶだろう。
つまり、歩夢の他に、倒れている小野町仁や成り行きを見ているだけの吹寄制理(を操る何者か)にもその被害が及ぶのだ。
斎藤誠にとって小野町仁がどうなろうと、どうでもいいのだが、問題は吹寄制理に被害が及ぶ事、その一点に限る。
数分前、彼は吹寄制理の体を攻撃していたが、それは仕方のないこと(少なくとも斎藤誠個人にとって)だった。
そもそも斎藤誠の中で吹寄制理の存在は大きい、いや、全てと言ってもいいだろう。
好きで好きで好き過ぎて、吹寄制理の為ならば、斎藤誠は手段を選ばず、殺人も異問わない、そんな覚悟がある。
それと同時にもしも、吹寄制理が生死の危機に遭遇し、そしてどうしようもなく、死に向かうのならば、斎藤誠自身が彼女の生命を終わらせる覚悟を勝手に持ち合わせている危険人物だ。
よって、現在、彼が残された最後の手段である、『能力の暴走による突風』を使わないのは、厳密には『吹寄制理に被害が及ぶ』事に躊躇しているのではなく『本当に吹寄制理の命に危険が及んでいるのか』と考えているからである。
(コイツの、コイツらの目的はなんだ?)
斎藤誠自身、本来実験の下準備の為にこの病院を訪れ、偶然に小野町仁が吹寄制理 を脅している場面を目撃し、小野町仁の病室に襲撃しただけなのだ。
そして、小野町仁と同じく斎藤誠にもこの現実を理解出来ていなかった。
だが、現実は待ってくれない。
「なんだなんだ?ひょっとしてそちらさんも『制限持ち』なんですかぁ?」
歩夢はニヤニヤと笑いながら斎藤誠に近づく。
「えーとえーと、まぁ、あれだ。理由はどうあれあんたは俺を『攻撃した』つまりはつまりはあんたは俺に攻撃される理由を作っちゃったって事でいいんだよね?」
瞬間、歩夢の体からバチバチと火花が散る。
斎藤誠は壁に叩き付けられた際のダメージに耐えながら、戦闘体制を取ると……。
「なーんてな」
不意に歩夢はまるでイタズラが成功した子供の様な笑顔を浮かべ、先程まで迸っていた火花を止めたのだ。
「……?」
「いやいや、俺は別に戦い血生臭い殺人者じゃないわけだし、無意味に人を傷付け対訳じゃないわけでさ、あんたがそのままなんにもしなければ、俺もあんたに何かしないよ」
歩夢は少し考えてこう付け加えた。
「そこにそこに転がっている『オリジナル』の『本質』に救われたね」
その瞬間、斎藤誠の脳裏にある可能性が浮かび上がった。
それは突拍子のない、有り得ない可能性だが、その可能性で歩夢と小野町仁を結び付けると、なんとなく『納得』した。
しかし、それを深く考えている時間は彼等にはなかった。
彼等には。
つまり、斎藤誠はもちろんの事、歩夢にもなかったのだ。
「……GUr」
声。
いや、声と言ってよいのか、唸り声なのか、判断に迷うのだが、その音を2人(正確には3人)は確かに聞いた。
その音の発生源に目を向けると、その視線の先は
「おいおい!?マジかよ!?マジかよ!?」
倒れていた筈の小野町仁が起き上がろうとしているだった。
だが、それ事態はそれほど驚く事ではないのだ。
小野町仁と戦った経験がある斎藤誠は以前にも似たような状況を知っている。
小野町仁は普通の人間なら起き上がる事が出来ない様な負傷を負っていたのにも関わらず、2度も立ち上がった事があるのだ。
よって、立ち上がったからといってそれほど重要な事ではない。
問題は別の事にある。
(あれは……誰……なんなんだ?!)
斎藤誠が『誰』ではなく『なに』と考え直したには理由がある。
そもそもその2つは迷う筈がないのだが、それでも彼は迷ってしまった。
それほどまでに今の小野町仁は異様だったのだ。
まず、目についたのは小野町仁の目。
小野町仁の目は真っ赤に染まり、真っ直ぐに斎藤誠と歩夢の2人の敵を睨み付けており、
次に口元。
口元からは歯を覗かせる程に歪み、その奥の喉からは先程のうねり声が漏れていた。
そしてなにより、小野町仁から漂う、オーラというか、雰囲気というか、つまりそれに類するモノが違った。
まるで、見た目は小野町仁、人間ではあるが、内側にいるのは全くの別物であるかの様な、そんな言い知れない恐怖が有ったのだ。
何も知らない斎藤誠と違い、恐らくある程度は知っているであろう歩夢は違った反応を示していた。
だから何か知っている分、歩夢はこう呟くのだ。
「こんなにも早く『外れる』のかよ………」
その呟きが引き金になったかの様に、小野町仁は叫んだ。
「GRIRRRRRRRRRRRRR!!!!!!」
小野町仁は、叫び声と共に2人に向かい飛び掛かって来た!!
「チッ!!」
歩夢は舌打ちと共に先程、小野町仁に放った攻撃を再び行った。
歩夢の右手から何かが放出し、小野町仁に命中する。
「GAF!?」
しかし、今度は驚く声を上げたが、先程のようなダメージは入っていないようだ。
そして、その攻撃により小野町仁はターゲットを歩夢に絞る。
小野町仁は体制を低くし、歩夢を睨み付ける。
その姿はまさに獣のそれだった。
「おいおい……なんだその姿は?情報じゃあまだそんな酷くなかったぞ?」
「SIeee……」
「ふーん、意識が無くなってそっちが『目覚めたか』。この『化け物』め」
歩夢は軽い口調で話してはいるが、汗のかきぐわいから見ても、動揺、緊張しているのはわかる。
「たくっ、本来なら『化け物』との戦闘は予定されていないのによ」
そう呟く歩夢の右手が輝き出した。
この段階で、斎藤誠は歩夢の能力にある程度の予測を立てていた。
歩夢の能力、それは
(発電系の能力者、そして特性は『放電』か)
そう、歩夢は体内に電気を精製(斎藤誠は知らないが正しくは充電)し、それを
外へと放電するのだ。
歩夢の放電は自然界で言う雷に近い動きをしている。
つまりは速い、、積雷雨が地面に雷を落とすかの様に、まさに光速の攻撃速度を誇っているのだろう。
言わば歩夢は人間型の雲、それも電力を秘めた雷雲なのだ。
そんな歩夢の右手が輝き出しているのは恐らく、高密度の電流が流れている証拠だろう。
明らかに先程まで持っていた優越な立ち振舞いからは逸脱している。
それほどまでに今の小野町仁は危険な存在なのだろう。
病室内には言い知れない緊張感が支配していた。
本来なら襲撃者二人の内どちらかが支配している筈の恐怖感は、襲われた筈の住人によって略奪されてしまったのだ。
しかし、そんな緊張感はすぐに終わった。
「ちょっと!もう時間よ!!」
こちらも本来なら助ける筈のヒロイン的な立ち居ちでありながら。明らかに敵側にいる吹寄制理(を操る何者か)言葉で状況は大きく動く。
「……へぇへぇ。わかりましたよ」
歩夢は高電圧の右手を下ろし、吹寄制理に向かい動き出した。
そして、
彼女を抱き抱えたのだ。
瞬間。
プチッ!!
斎藤誠の何かが切れた。
彼は今まで迷っていた事や、状況を理解しようと考えていた事、その他もろもろを全て『後回しにして』、『取り合えず』、制御できない能力であるlevel3程度の威力を誇っている突風を歩夢、小野町仁、そして吹寄制理の3人に向かい放ったのだ!!
その時の彼の思考を考えるのは容易い、彼はこう考えていた。
(彼女に触るな!!)
その為のだけに斎藤誠は守りたい筈の吹寄制理を傷付ける事も異問わずに、攻撃を行ったのだ。
「よっと!!」
暴風の驚異から逸速く離脱したのは歩夢と、そして、幸いの事に彼に守られていた吹寄制理だ。
歩夢は窓に足を駆けギリギリ射程範囲から免れる。
一方、小野町仁は突風に体を押され壁に叩き付けられた。
「『オリジナル』もぶっ飛んでるけど、あんたも同じくらい、いや、それ以上にブッ飛んでるねぇ」
「……チッ!!」
「まぁまぁ落ち着きなよ、コイツはまだ生かしておくよ、『まだ』ね」
「さっき言っていた『ルール』はまだ適用しているから頑張ってね☆」
睨み付けら斎藤誠に対して2人はそんなことを言う。
そして、窓から飛び降りた。
「まて!!」
慌てて窓の外を見た斎藤誠が目撃したのは、華麗に地面に着地した歩夢と
依然として彼に抱き抱えられたままの吹寄制理(を操る何者か)がそのまま走り去っていく姿だった。
(一体何が起きているんだ?)
そんな事を考える余裕はなかった。
「・・・jireee」
そのうねり声を聞き、恐る恐る斎藤誠が振り向くと、そこには彼を睨み付ける赤い目が2つ。
斎藤誠にターゲットを変えた(正確には彼しか居なくなったが為に)小野町仁の姿だ。
「……マジかよ?」
瞬間、斎藤誠の意識は小野町仁の攻撃により削り取られたのだった。
彼にとって幸いだったのは、命があった事だろう。
書いていて思いましたが、斎藤誠はどこかズレていて、そこが彼の危険性とか気持ち悪さとかその他のマイナス面を引き立てているんだなぁ~と思いました。