こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー   作:夜遊

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吹寄編も中盤に差し掛かって来ました。


吹寄編、僕はお前を守りたい。

浅い川の上にかかる橋の上で吹寄に追い付いた。

 

「吹寄!」

 

彼女は走る足を止めたがこちらを振り向かない。

 

「来ないで……これ以上あなたに迷惑はかけたくない……だから――」

 

「だから見過ごせってか?」

 

まだ肌寒い季節の風が僕らを包む。

 

彼女は振り向きこちらを見た。

 

その瞳には涙が溜まり今にも零れそうだ。

 

「そうよ……貴方に、いえ誰かに相談したのがそもそもの原因だった……私一人で解決しなくちゃいけなかった…貴方に甘えたのがいけなかった!!」

 

正直、その言葉を否定する気はなかった。

 

僕は正義の味方側の人間であるが正義の味方と言うわけではない。

 

白状するがこの話をされた時確かに僕はこう思っていた。

 

心の奥底で確かに迷惑だと感じていた。

 

あの日下駄箱でこんな面倒事を相談されて、正直嫌だった。

 

僕を巻き込むなと言ってやりたかった。

 

そんな感情が確かに小野町仁という人間にはあったのだ。

 

だがそれがどうした!!

 

「馬鹿か、僕はもう巻き込まれているよ、だからこれはお前だけの問題じゃない」

 

確かにそんな考えはあったが僕は自分の意思で厄介事に巻き込まれたんだ、

 

吹寄が学校を休んだ日、彼女の部屋に行ったのは僕自身の意思だ、

 

彼女を自分の部屋に招いたのは僕がそう望んだからだ。

 

確かに嫌がっていた想いもあった。

 

しかしそれと同じくらいに別の想いも確かにあったのだ。

 

それは次第に大きくなり、いつしかそれが本心に変わっていた。

 

だからあえて言わせてもらう。

 

胸を張って言わせてもらう。

 

胸を張って言える。

 

こんなとき親友のツンツン頭なら、あの紛れもない正義の味方ならこんなひねくれた感情なしに手を差し伸べる言葉を言うだろが、生憎そんな芸当は逆立ちしたって僕にはできない。

 

僕は僕の意思を言葉にした。

 

「僕はお前を守りたい、そう願ったから巻き込まれたんだ」

 

「っ!?」

 

そうこれは他人を守る正義ではない、クラスメイトという僕の世界の日常が最悪な形での変質するのを恐れた

 

自分を守る、悪そのものだ。

 

 

 

 

 

吹寄は涙を溜めながら言った。

 

「小野町仁、貴様は間違っている……」

 

「だろうな、自覚してるよ」

 

「……馬鹿だ」

 

「それは否定する、お前のお陰で次の小テストは満点を取れる自信がある」

 

「………ありがとう」

 

「お礼に何かしてもらうがな」

 

「何でもしてやる」

 

「んじゃー楽しみに考えておくよ」

 

「この数日でわかった、私はお前を――」

 

次の言葉は僕の耳には入って来なかった。

 

何故ならば僕の体は突然の想像を絶する強風により空を舞い、空中で身体中の皮膚が引き裂かれたからだ……

 

 

 

 

 

空中を待った僕の体は橋から落ち、浅川に叩きつけられた。

 

皮膚が裂け、血が川の水を赤く濁らせる。

 

落下の衝撃で身体中の骨が軋みをあげ内臓が悲鳴をもらした。

 

それでもなんとか状況を確認できた。

 

「ぼ、僕の制理に近づくなと警告したはずだ」

 

橋の上には吹寄の他に眼鏡をかけた僕らと同じ高校の制服を着た男子生徒が立っていた。

 

「ぐっ……」

 

体のダメージが大きく声がうまく出ない。

 

「お前が悪いんだ!!お前が制理に近づいたから!!」

 

「小野町!!」

 

「制理は僕が守る!!さぁ行こう制理…」

 

男子生徒は吹寄の口にハンカチを押し当てる。

 

そのハンカチには何らかの薬品が染み込まされていたのだろう、暫く抵抗を続けたが急に吹寄は倒れた、まるで眠るように。

 

「テメェ……!」

 

「う、うわぁ!?」

 

まだ僕は動けないだろうと思っていたのか、ゆっくりと立ち上がった僕に驚いている。

 

正直立つのがやっとで口を開くのは遠慮したいのだが、僕は自身の体に鞭を打って男に向け吼えた。

 

「へ!!守る?ふざけんな…!テメェに怯える奴をどうやって守るんだよ……?」

 

「う、うるさい!!」

 

「つーか…手紙やら何やらでねちねちねちねち、怖がらせて…このストーカー野郎!!」

 

「黙れ!!」

 

男子生徒は右手をつき出す。

 

すると先程僕を襲った突風が右手から噴出された!!

 

風は僕の体に容赦なく降り注ぎ体や服を引き裂いていく。

 

血が川の水に落ち、赤い濁りを広めていく。

 

(なんだ!?この力…なんでこんなやつが!?)

 

僕の通う高校はどこにでもある普通の高校だ、能力のレベルも0の無能力者がほとんどでよくてもレベル2止まりのはずだ。

 

なのにこのストーカーの力はそんな下位の威力では無い、たぶんレベル4クラスの物だ。

 

「ぐぅ!!なんだその力?」

 

「僕の能力『空間加速』、回りの空気を凝縮して爆発させるものさ」

 

ストーカーの手のひらに空気が集まっていく。

 

(なるほど、空気を集める時一緒に小石やら砂やらを混ぜ合わせ、それが刃物の役割を担って体を引き裂いていくのか)

 

言わば鎌鼬を人工的に再現したものだろう。

 

風は目に見えないから避けにくく、もとより先のダメージが体を動かせない、立っているのがやっとだ。

 

「僕のレベルはもう4!力無いやつが制理を守れるか!!死ねぇ!!」

 

ストーカーが限界まで凝縮させた風を放って来る。

 

豪音を立て向かってくるそれは、周りの壁や、橋の部品を削り、更にその削られた破片が風により威力を引きあげている。

 

そんな凶悪な攻撃に僕は瞬時に悟り、意外に冷静な感想を頭の中で呟いた。

 

(あ、無理だ)

 

瞬間。

 

僕は鎌鼬をもろに受け身体中の皮膚が引き裂かれる、血が少なくなったのか、意識が薄れていくのがわかる。

 

確かに僕は人より回復が早い、しかしそれには限度があり、時間がかかるのだ。

 

普通の人間が一週間かけて治す傷を僕の場合は三日ほどしかかからないそんな程度。

 

だから僕の体は浅川の上で撃沈した。

 

薄れいく意識の中でストーカーが眠った吹寄をどこかに連れていくのが見えた。

 

助けに行きたいのに体が動かない、

 

彼女の名前を叫びたくても声が出ない、

 

あのストーカーを睨み付けたくともまぶたが重い。

 

(………ちくしょう………)

 

自分の無力感を改めて実感した。

 

ここで僕の意識は完全に沈黙するのだった。

 

 

 

 

 

 




正義と悪の定義は人それぞれだと思います、小野町仁にとって正義とは他人を守る事で悪とは自分を守る事と彼は考えています。

吹寄編もあと3話ぐらいで終わります。

もう少しご辛抱して下さい。

感想、ご意見、その他等々お待ちしていますのでよろしくお願いします!!
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