こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
御坂妹編、彼女がいることも要らない……。
欲しいのは愛だけだった……。
ただそれだけだった……。
彼女を愛すればそれだけでよかった……。
「君に『力』を与えよう」
だからあの人に願ったんだ……。
「君は
『愛する人を守れる力を持っている』
のだから」
そうだ……。
俺は……。
彼女を守る……守れる!!
空間加速。
何度も言うが斎藤誠の能力である空間加速は空気を回転させる事により質量を持たせる能力だ。
そして質量を持っている空気は空気抵抗により電撃を拡散させる性質を持っている。
歩夢の雷を放電する拳が斎藤誠にぶつかった際、斎藤誠の回りの空気玉は電気分解で霧散していた。
しかし。
それはあくまで前方の話である。
つまり、後方の空気玉はまだまだ健全しており、一瞬だが後ろに飛ばされた斎藤誠はその空気玉に触れていた。
一瞬、この一瞬が奇跡だった。
斎藤誠の身体に触れたいくつかの空気玉は彼の身体に入り込んだ雷を吸出し、そのまま拡散していたのだ。
斎藤誠の身体に入り込んだ雷は瞬間的ではあるがいくらか彼の身体から抜け出していた。
何が言いたいのか言えば、
つまり、
即ち
斎藤誠はまだ生きていた。
「…………ガバッ!!」
目の前で血ヘドを吐き、うずくまる斎藤誠を歩夢は驚きの眼差しで見た。
「うわ!?は!?え!?マジで!!マジかよ!?」
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
斎藤誠が命を取り止めたのは、本当に偶然だ。
歩夢と斎藤誠はなぜ助かったのか、その訳がわからないでいた。
だが、
「くそ……」
「あらら?」
いくら命が助かっても、斎藤誠にはもはや戦うほどの体力は残ってはいない。
彼は今、全身の内臓が焼かれているのだ。
呼吸をするのも辛いはずだ。
そして、戦えないのは歩夢も同じこと。
正確には、これ以上の戦闘は避けたいのが歩夢の本心だった。
彼は始めて行った電気分解で体内に充電されていた電力の約7割を消費している事に気が付いていた。
(こいつはもう戦えない……。だが何をするかわかったもんじゃない)
この短い間で歩夢は斎藤誠と言う人間を理解する。
この男は危険だ。
もし、この場を逃したら次は歩夢が痛い目を見ることは明らかだった。
歩夢は身体に残った僅かな電力を削り右手に溜める。
今度は確実に、
皮膚を焼くとか、
内臓を焦がすとか、
そんなあまっちょろい事はしない。
確実に、確定に、確信に、この男を殺す。
「1つ聞きたいんだけどさ」
「なんだ?」
「あんたの事は余り知らないだけどさ、何があんたをそこまで掻き立てるんだ?」
「決まっている。制理が生きているからだ」
「制理?……あぁあの巨乳ちゃんね。……え!?それだけ!?それだけであんた死にそうになっているの!?」
「当たり前だ。俺は彼女が生きていればそれでいい。生きているだけでいい」
「馬鹿なのか?」
「そうかもな、自分勝手だと理解しているし、間違っているなんて百も承知だ。だがそれでも、俺は彼女が好きだ」
「好きで好きで好きで好き過ぎて、こんな力を持ったのかもな!!」
斎藤誠は最後の力を振り絞って能力を発現させる!!
風が不規則にあり得ない動きをする!
だが!!
電気分解できる歩夢には効かない!!
歩夢は身体から雷を放電し、電気分解を開始させながら前に出る!!
違う事と言えば先とは比べられない程の電力を右手に溜めている事だ!!
触れれば、容赦なく殺せる右手を!
しかし!!
だが!!
(!!……なんだ!?この風の動きは!!)
風の動きは止まらない!!
歩夢には斎藤誠が何をするつもりかわからない!!
この風の動きは今までのW.A.L.1、W.A.L.2、W.A.L.3、どれとも違っていた!!
風は、溜まる!!
それは指先ではない!!
それは身体の周りではない!!
それはガラス状ではない!!
溜まるのは!!
斎藤誠の右手の掌だ!!
「彼女が居ること!!それが俺の正義だ!!」
「『W.A.L.4』!!」
斎藤誠の掛け声により脳内のパーソナルリアリティがある1つの事柄に固まる!!
掛け声に反応し、右手の掌から風が噴出した!
それはただの風では無い!!
周りに転がる破片を巻き込み、刃に変える!!
電力分解できる範囲を越えた攻撃!!
そもそも分解でどうにかなる事では無い!!
(新たな能力の開花!?違う!こいつレベル4になりやがった!?)
歩夢は焦る!!
しかし、この場に小野町仁がいれば別の意味で焦って居ただろう。
それは過去に小野町仁が受けた攻撃方法。
人工的に鎌鼬を作り上げる能力。
過去の斎藤誠が戻って来た。
狂って狂って狂って!!
狂い通して、一周りして戻って来た人格異常者の斎藤誠が!!
鎌鼬は勢いを無くすこと無く、容赦なく、歩夢の身体を引き裂いた!!
斎藤誠は最後の力を振り絞って出したW.A.L.4が歩夢の皮膚や肉を切り裂きながら飛ばすのを確認すると、その場に倒れこんだ。
(……終わった)
斎藤誠はそう確信したが、
驚く事が起きた。
「ぐぅ……ま、まだ安心は早いんだなぁ……」
「……な!?」
歩夢は全身の皮膚や肉を切り裂かれ、激しく出血しているが確実に着々と、しっかりとその両足で立ち上がった。
「ヤバかった……本当にヤバかった……辛いし……痛いし……苦しい。だがそれでもいい。もう容赦なんてしない」
W.A.L.4は強力な能力だ。
鎌鼬は常人なら死の可能性も視野に入れなければならない。
しかし
歩夢はかけ離れていても、過去に小野町仁がそうであったかのように、その遺伝子を模作した化け物なのだから、無事ではすまなくとも、そこから死に繋がる事はなかった。
ともあれ歩夢は生きている。
「殺す……、俺の正義の為に、お前の正義を殺す。諦めろ!!ストーカー野郎!!」
歩夢は雷を放電する右手を前に出しもはや戦う事が出来ない斎藤誠に向かい走り出した!!
この瞬間、斎藤誠は死を覚悟した。
(………あぁ、ちくしょう……)
斎藤誠に残っているのは激しい後悔の思いのみだったのだが。
それは
突然、
やって来た。
「まだ諦めるのは早いぜ!!このストーカー野郎!!」
そんな声と共に、歩夢と斎藤誠の間に大きな何かが空から落下し、土煙を挙げ彼らの視界を奪う!
土煙の中には大きな何かのシルエットが浮かび上がっており、更にその上に何者かが立っているシルエットも確認できた。
その何者かは斎藤誠に語りかける。
「別に、僕はお前の事を許さないし、殺したいし、理解するつもりもない。お前らの勝手な正義を押し付けるな!!僕は僕のしたいことをする。だから助ける。だから助けろ!!」
土埃は次第に晴れていき、何者かの姿が確認できた。
しかし、歩夢も斎藤誠も驚く事はなかった。
彼らが思ったのは、あぁやっぱりな、的な事を考えていたのだから。
その何者かは今度は歩夢に語りかける。
ただ簡潔に、一言だけ語った。
「よう……『偽者』」
その返しに歩夢も一言だけ語る。
「よう……『オリジナル』」
ようやく、
この戦場に、
正義の味方側の悪役が。
小野町仁が参上した。
ようやく主人公(笑)登場。
次回、小野町仁の卑怯な戦いを見下げて下さい。
では!