こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
7月12日。
この日、学園都市は稀に見る豪雨に見舞われていた。
交通機関の一部は完全にストップし、その為か通学に電車やバスを使う学生が多く居る学校の中では休校になった所も少なくない。
それ以外、つまり歩きで登校できる学生は傘を差し、強風に持っていかれながら通学しなくてはならない苦行を強いたげられていた。
初春飾利もその一人だ。
彼女は横風から吹き抜けた雨によりビショビショになりながら下駄箱でため息を吐く。
その目の下には少し隈が出来ていた。
昨夜、彼女は徹夜である仕事をしていたのだ。
学生の治安を監視する組織『ジャッジメント』、初春飾利もその組織に属していたが昨日夜遅くに彼女でなければ片付けられない事件が発生しそれをなんとか解決した為である。
豪雨と徹夜での仕事、この二つは初春飾利の気持ちを下げるのには十分すぎる要因だった。
「うーいーはーるー……おはよう……」
後ろから声をかけられた。
親友の声だ。
初春は咄嗟に自分のスカートを押さえる。
この親友は、とても良い人物なのだが、挨拶の代わりに自分のスカートを捲るという、大変迷惑な人物だ。
別に同性にスカートを捲られるのは百歩譲っていいとしても、周りの目がある。
流石に同年代の男子に毎回自分の下着を見られるのはキツいものがあるのだ。
しかし、今回は違った。
聞こえが悪くなってしまうが、いつまで経っても親友のスカート捲りが行われない。
不思議に思い、初春は振り向くと、そこには親友の佐天涙子の姿があった。
だが、驚くことに佐天の姿は初春以上に雨に濡れ彼女から滴る雨水が床に小さな水溜まりを作っていたのだ。
「佐天さん!?どうしたんですか!?」
よく見ると佐天の手には傘が無い。
佐天はこの豪雨の中傘を差さずにここまで来たようだ。
「……途中で傘、持っていかれちゃった」
「とにかく!!これで拭いてください!!透けてます!!透けてます!!」
初春は自分のポケットからハンカチを取りだし佐天に渡す。
初春達の学校は先日から衣替えで夏服に代わっており、薄いシャツは雨を含み白い色に、うっすらと肌の色が見えてしまっている。
もっと言うならば、男子は必要ない胸部にある淡い水色の下着まで見えてしまっているのだ。
更に言うならば、スカートも水分を含み皮膚に張り付いているので足や臀部と言った部分もハッキリと見えてしまう。
流石に親友の恥ずかしい姿をそそまま去らすのは何故か罪悪感を拭えない。
自分は常日頃から下着を周囲に見られているのにも関わらず、その犯人の恥ずかしい姿を隠そうとする辺、初春飾理のお人好し加減がわかってしまう。
しかし、ハンカチと言う小さな布切れでは彼女の惨状をなんとか出来るわけないのであまり意味がなかった。
どうするか迷っていると、またしても後ろから声が掛かる。
「オース!!二人とも!!」
そこに居たのはクラスメイトの男子だ。
「アッハッハ!!今日ヤバイな!!この雨!!」
「ま、円君!!見ないでください!こっち見ないでください!」
彼の名前は円順。
クラスのムードメーカーで、巻き毛の癖っ毛で、背の高いいつも笑っている男子だ。
「どうした……おわっ!?佐天お前……」
「見ちゃダメです!!忘れて下さい!軽蔑しますよ!!」
「アッハッハ!!なんかお化けみたいだな!!」
「へぇ?お化け?」
円の言葉にキョトンとしてしまう。
確かに、佐天の髪は長くこちらも当然の事ながら、雨に濡れ身体に張り付いており、主に顔とか表情も見えにくい程に隠れている。
おまけに自分の現状に落ち込んでいる為、少し俯いているので、確かに幽霊みたいに見えなくもなかった。
「アッハッハ!!傘無いの?え?壊れた?アッハッハ!!ヤベーじゃん!!アッハッハ!!」
「笑いすぎだ!!」
朝の下駄箱には円の笑い声が響く。
笑われている佐天はついにキレて円に掴み掛かった。
「アッハッハ!!痛え!!アッハッハ!!悪かった!!アッハッハ!!ごめんごめん……プッ!!」
「笑うな!!」
「アハハ、ごめんごめん。じゃぁこれは詫びの印に、ホイッ」
円は鞄から大きめのタオルを取り出すと佐天の頭に被せる。
「か、勘違いするなよ!!べ、別にお前の為に持ってきた訳じゃないんだからな!!俺が使うと思って持ってきたんだからな!!……ぷっ!!アッハッハ!!どうよこれ?ツンデレキャラ?アッハッハ!!」
「自分で言わなかったならポイント高いですね」
「アッハッハ!!だよな!!アッハッハ!!じゃお二人さんまた教室で!!佐天早くジャージに着替えろよ!!他の男子が見たら鼻血もんだから!!アッハッハ!!」
円は笑いながら先に教室に向かってしまった。
そんな円の後ろ姿を見ながら初春はタオルで身体を拭く佐天に言う。
「佐天さんもスミにおけませんねぇー」
「え?何が?」
キョトンとする佐天に更に言う。
「今の円君ですよ!!絶対佐天さんに気があるみたいじゃないですか!!」
「そう?円って誰に対してもあんな感じじゃない?」
初春は少し考える。
そして答えた。
「確かに……」
円順は不思議なクラスメイトだった。
彼は女子の間では『警戒しないで済む男子』と言う評価を下されているのだ。
これは別に円順が特別モテていると言う訳ではなく、ただ単に『気軽に接する事が出来る』と言うだけである。
そんなことはどうでもいいので、二人も円順の後を追うような形で教室に向かったのだった。