こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
「佐天さんって最近運が無いですよね」
昼休みの教室で、初春が言った言葉である。
まだ外はバケツをひっくり返した様な豪雨が続 き、普段なら外で食べるなり、遊ぶなりしてい るクラスメイト達も大人しく教室に残っている ので、昼休みの教室は普段に比べて人が多く居 る印象があった。
そんな中、初春飾理の話題にも満たない、不意 な思い付きの様な言葉である。
その言葉で佐天涙子は口に運ぶ途中だったサンドイッチを止め、初春をマジマジと見た。
表情は少しムッとしている。
誰でもツイていないと言われたら多少思うとこ ろがあるだろう。
「失礼だな初春は、そんなこと無いよ」
「そうですか?だって佐天さんここ最近事件に 巻き込まれすぎじゃないです?」
ここで確認しておかなければならないのは、佐天涙子は中学一年である。
そんな彼女達の会話から『事件に巻き込まれ過 ぎ』と、まるで『テスト当日に勉強したか』の レベルで出て来るのは少し異様な事なのだ。
しかし、実際佐天涙子は先日学園都市を揺るが す『とある事件』に係わり昏睡状態になると言 う穏やかでは無い経験をしていた。
「その後は春上さんの事件とかありましたし、 今日もこんな雨の中で傘を壊しましたね」
「た、確かに……」
「あれ?確か佐天さん1ヶ月位前に誘拐されそ うになったて言ってませんでしたっけ?」
「あ、あれはいいの!!あれは損なんじゃないか ら!!トータル的にはプラスになったからいい の!!」
「プラスになった?」
佐天の言葉に初春は少しニヤついてしまう。
最近の事件でバタバタして忘れそうになってい たがそれらの事件が起きる少し前に初春は佐天 から気になる事を聞いていた。
『どうしよう初春……王子さま見付けちゃっ た』
少し興奮した様子でニヤニヤしながらそう言っ た佐天の言葉はとても印象的だったのを覚えて いる。
その時は詳しく聞けなかったが、佐天涙子に とって『その事件』で誰か大切な人でも出来た のだろうか?
佐天涙子は明るい性格で恐らく彼女に想いを寄 せる男子も少なくない筈だ。
逆に、佐天からはそんな話は聞いたことはな かった。
初春自身も現在、想いを寄せる男子は居ないの だが、やはり彼女は女子で、女子はその類いの 話題は興味深々なのだ。
よって話題は『佐天涙子の運が悪い』から『佐 天涙子の恋話』に速やかに変動した。
「佐天さんの王子さまってどんな人なんです か?」
「ムグゥ!?ど、どうしたの初春?!な、なんの ことかな?アハハ」
初春の問にサンドイッチを喉に詰まらせながら 狼狽する佐天。
その姿に初春は内心ニヤけてしまう。
「ほら、前に話してましたよね!!王子さまを見 付けたって。あれって結局誰のことなんで す?」
「教えない」
プイッと頬を若干紅く染めながらそっぽを向く 佐天。
否定は無い。
これはつまり、『自分には好きな人が居ます』 と言った様なモノなのだ。
初春は控えめな性格だが、恋話、それも親友の 恋話であれば本能的に前に出てしまう。
「教えて下さいよ、せめて名前だけでも!!」
「い・や・だ!!」
頑なに想い人の名前を明かさない佐天。
これは手強そうだと、内心舌打ちをする初春。
名前だけでも判れば後はジャッジメント経由で 『書庫』にアクセスして調べられるのに、それ が出来そうにない。
その後は「教えて」「教えない」の攻防が続き 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってし まったのだった。
結局、佐天涙子の想い人の情報は手には入らな かったが、そんな話題を続けていくうちに佐天 の顔はまるで茹でたタコのように真っ赤に染ま り、挙動がモジモジと動き、そんな親友の姿を 終始ニヤニヤしながら観察出来ただけで初春は 満足だった。
放課後、初春は再び溜め息を吐く。
今日はジャッジメントの仕事も無く、自宅でゴロゴロしようと思っていた矢先、携帯に着信があり、ここファミレスに呼ばれたのだ。
初春は傘をビニールに入れながら店内に入ると周りを見渡した。
初春を呼んだのはジャッジメントの先輩隊員。
と、言っても面識は無く、どんな人物なのかは見当も付かなかった。
「ん?オーイこっちこっち!!」
その時、奥の席で初春を呼ぶ女性が一人。
近付くとその女性の全身が見えてくる。
美人な人だなぁ。
と、初春は正直に思った。
可愛いとか綺麗だとか、そんな一般的に言われる女性の評価ではなく、『美人』とストレートに思ったのは仕方ないのかもしれない。
それほど目の前の女性は同性の初春からみても美人だった。
整った顔に鋭い眼差し、短めの髪は後で縛られている。
スカートではなくパンツ姿でスラリとした脚線が服の上からでもわかる。
そして何より印象的なのは彼女から漂う自信に満ちたオーラだ。
失敗をしたことの無いような、何事も結果は成功になるような、そんな自信に満ちたオーラを初春は感じていた。
「座ったらどうだい?」
「え!?あ、はい!!」
女性に声をかけられ初春は女性と反対の席に座る。
女性は初春の為に紅茶を注文してくれ、それが運ばれるまでニコニコと優しい眼差して初春を見ていた。
初春にはそれが自分を観察されているような気持ちになり、身体を固くした。
「さてとそろそろ自己紹介しなくちゃな。オレの名前は礼子。街乃木礼子だ。よろしく。初春飾利ちゃん」
街乃木礼子と名乗った女性はにこやかに手を差し出す。
そして自己紹介をしてくれた。
「歳は19才で、常磐台大学に籍がある。好きなモノは『美しいモノ』で、特技は速読術、苦手なモノは料理だ、胸は無いが脚には自信がある」
「う、初春飾利です……」
「そう緊張しないでよ、喋りすぎたオレが恥ずかしいじゃないか……そうだな。本題の前にちょっと遊びをしないか?」
「遊び……ですか?」
そうだ、と街乃木が取り出したのはルービックキューブだ。
それを初春に渡すと街乃木はこう言った。
「見ての通り面がバラバラだ。今からそれを揃えてみてよ。ただし制限時間は3分」
「3分?!無理ですよ!!そんなの!!」
「はーいスタート!!」
初春の声を無視して街乃木は開始を宣言した。
仕方ないので初春は言われるがままルービックキューブをカチャカチャと動かすが当然上手く面が揃わない。
その慌てふためく姿を満足そうに見守る街乃木。
3分後、そこにはいまだに面がバラバラのルービックキューブがあった。
「はい、残念。難しかったかな?」
「当たり前ですよ」
「じゃぁ今度はオレだ」
街乃木はルービックキューブを取るとおもむろにこう切り出した。
「実はこれオレ独特の心理テストなんだよ」
「心理テスト?」
「そうだ、『困難な状況になった時の対処法』ってね。飾理ちゃんは『決められた手段で解決するタイプ』みたいだ」
それを聞き初春は少しムッとしてしまった。
「ん?あぁ……ごめんごめん。別に君を否定する訳じゃない、それが『正解』だ。多分他の人がやっても君と同じことをするだろう、だから恥じることなんて無いんだ」
「それじゃまるで貴女は違うって聞こえますけど?」
「そうだね、オレの場合はこうするかな」
そう言った街乃木は片手を初春に見せる。
そこにはどこにでもあるような針が1本。
そして。
「えいっ!!」
もう片方の指先に針を刺したのだ。
「……痛いね」
「あ、当たり前です!!なにやってんですか!?」
突然の行動に狼狽する初春だが、街乃木はそれほど気に止めない。
「まぁ見てなって」
街乃木は血が流れる指先を下向きにして、少し待つ。
当然血は指差に溜まり、そしてとうとう重力に逆らえずに指先から離れ落ちた。
筈だった。
「……え?」
初春は驚きの声をあげる。
街乃木の指先から離れ落ちた血は下に落ちること無く指先から少しだけ離れた場所で停滞していた。
それだけでなく、僅かだが電気を帯びていたのだ。
そして、街乃木は手をまるで拳銃のような形にし、ルービックキューブに狙いを定めた。
そして
パンッ!!
拳銃の発砲音に似た音を轟かせ、血液を発砲したのだ。
血液は当然ルービックキューブに被弾しルービックキューブをテーブルから弾く。
カラカラと音を鳴らしながら床に転がったルービックキューブはピース一つ一つがバラバラに分解されたのだった。
突然の事に言葉を失う初春に街乃木は言った。
「これがオレの能力。Blood Bullet……正式名称は『補助結晶(パワーストーン)』。Blood Bullet Gemstones……略して『BB-G』だ。」