こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー   作:夜遊

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小野町仁編、初春は少し考えて、紅茶を啜る。

「……ってごめんごめん。驚かせちゃったかな?」

 

街乃木は笑いながら床に転がったルービックキューブのピースを拾う。

 

「い、いえ……はい、ちょっとは」

 

だよな、と街乃木は全てのピースを拾うと再び席に着き、まるでパズルの様にルービックキューブを組み立て始めた。

 

「ちなみに、オレの解答は『バラバラにして作り直す』だ。ほらっ」

 

街乃木は初春にルービックキューブを見せる。

 

そこには6面全てが揃っていた。

 

「オレの『BB-G』は被弾したモノを『調整する』能力なんだけど、この場合はルービックキューブを『分解しやすい物質に調整した』んだ」

 

「ズルいとか思わないでくれよ?これはあくまで遊びなんだからね」

 

笑う街乃木に初春は少しだけ恐怖を覚えた。

 

何がとはハッキリとはわからないが、街乃木と言う人間の奥底には何か自分では踏み込んではいけない『何か』があるように思えてしまう。

 

「でも何で急に能力を見せてくれたんです?」

 

「んー?そうだな。まずはオレ達の関係性についてハッキリとしよか」

 

「関係性?……ですか」

 

「そうだ。君はこの場合『初対面の先輩』って感じだろ?」

 

「はぁ…」

 

初春は間違っていないので生返事をするしかなかった。

 

「じゃぁ今度はオレの場合の話だ」

 

「それは……『初対面の後輩』じゃないんですか?」

 

「……『頼れる仲間』」

 

「はい?」

 

街乃木は少し間を置くと呟くように言うのだ。

 

仲間と。

 

初春は疑問に思う。

 

「君のプロフィールは見させてもらった、君にはオレに必要な能力を持っている」

 

「えーと……?」

 

初春はまた疑問に思う。

 

確かに自分にも能力はあるが、ここ学園都市では取るに足らない能力だ。

 

だとしたら、残るはパソコンのスキルの能力だろうか?

 

「正解だ。オレには君のネットワーク解析の能力が必要なんだ」

 

「でもそれで何で能力を?」

 

「これから君にお願いするのは君の仕事の範囲外になるからだ、そこからはただの上下関係ではカバーできない領域になっている。だから『仲間』としてお願いするんだ、だから『一歩近付く』為、関係を一度バラバラに壊す為、『信頼』を見せた」

 

初春は三度疑問に思う。

 

何故、ここまで言い切れるのだろうか?

 

一体何をお願いされるのだろうか?

 

「別に断ってくれると助かる、もしも『上下関係から断るのは無理』と言う思いで引き受けると互いに後悔するからな、今この時は『対等』で答えてくれ」

 

初春は少し考えて、紅茶を啜る。

 

そして、砂糖とミルクを入れ忘れた事を思い出し少しだけ後悔しながら、顔をしかめる。

 

砂糖とミルクを入れ忘れた紅茶はそれ本来の味わいがした。

 

少しだけ苦味があり、それでいて微かな甘味を含んだ紅茶は目の前の街乃木の様に思えた。

 

違う。

 

街乃木がこの紅茶の様な人物なのだ。

 

見た目や態度、そして自信に満ちたオーラは苦味があるが、こちらの心情や思いを考慮する甘味を僅かに匂わせる。

 

それが初春から見た街乃木の人物像だ。

 

「わかりました、引き受けます」

 

街乃木は悪い人では無い。

 

少なくとも初春を対等に見てくれている。

 

初春は思うのだ。

 

こんな人の手伝いが出来るのは嬉しい事なのだと。

 

そして、街乃木礼子はその答えに嬉しそうに、本当に心底嬉しそうに、ありきたりだが、それでいてシンプルに伝わりやすい言葉でこう言った。

 

「ありがとう」

 

と。

 

 

 

 

 

あれから一時間後、初春は自分が所属している一七七支部の自分のデスクに座りパソコンを操っていた。

 

もちろん、街乃木礼子の頼みの為である。

 

『君は昨日あるハッキングを阻止したと思う。実はお願いとはそのハッキングを仕掛けた連中あるいは人物を探して欲しいんだ』

 

初春飾利の仕事は基本的にデータの保守だ。

 

そこから犯人を特定するのは自分等ジャッジメントではなく、アンチスキルの仕事になる。

 

確かに自分の仕事の範囲外に及ぶのだが、たまにアンチスキルと共同して犯人を検挙する事があった初春にとってはあまり珍しく無い仕事だった。

 

昨夜見た画面がデスクトップに表示され、そこからハッキングを仕掛けたパソコンをリンクを辿り見付けて行く。

 

五分後にはハッキングを仕掛けたパソコンを見付けてしまっていた。

 

あまりにも簡単で、いつもと同じ事だったので初春は少し落胆してしまった。

 

あんな正々堂々と対等だの何なのと初春を持ち上げておいて仕事はいつもと変わらないのだ。

 

初春は溜め息を吐く。

 

もしかしたら街乃木礼子とは物事を大袈裟に言う人物だったのでは無いのか?

 

そうも思えてしまった。

 

ハッキングを仕掛けたパソコンを突き止めた以上、初春は街乃木に連絡を取る手筈になっていた。

 

初春はパソコンの画面を最初の、ハッキングを仕掛けられた時の画面に戻し携帯を手に持つ。

 

そして疑問に思うのだ。

 

(あれ?住民表のプロフィール画面?)

 

そこには学園都市に住んでいるありとあらゆる人物のプロフィールが事細かに保存されているページだった。

 

初春が疑問に思ったのはそこに記載されている人物。

 

それだけではあまり疑問に思わないだろう。

 

問題はその人物が『場違い』なカテゴリにあったからだ。

 

特Aクラス。

 

役員や政治家、有名企業の社長など学園都市での重要な役割を任されている人物が多く居るカテゴリだ。

 

その人物は学生であるのにもかかわらず、そこの更に上位に組み込まれていたのだ。

 

確かに珍しいが決して無い話ではない。

 

これまで初春は探ろうとは思わなかったが、自分とそう歳が変わらない年代の学生がセキュリティレベル上位の保護を受けているのは知っていた。

 

しかし、彼等はそれ相応の知名度を持っていたりしているのだ。

 

例えば、初春の友人に御坂美琴と言う人物がいる。

 

彼女は学園都市で8人も居ないレベル5の電気系能力者だ。

 

彼女自身は気にも止めていないが、プロフィール管理の厳重度はそこにあった。

 

そんな重要人物の中に、ただの学生である筈のその人物がいるのだ。

 

高校も普通。

 

レベルも0。

 

本当に普通の学生である。

 

普通が故に異常なのだ。

 

初春は興味本意で、ほんの少しだけなら、と言う思いで詳細のボタンをクリックした。

 

その人物の係わりのある資料が幾つか表示される。

 

初春は呟く。

 

何も考えていないが、自然と口から発せられた言葉だ。

 

「小野町……『小野町仁』?」

 

 

 

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